OKWAVE Stars Vol.639はイタリアで空前の大ヒットとなった映画『おとなの事情』(2017年3月18日公開)のパオロ・ジェノヴェーゼ監督へのインタビューをお送りします。
Q 本作を作る上で大事にしたことをお聞かせください。
Aパオロ・ジェノヴェーゼ今回スマートフォンを題材に現代社会の一面を切り取ってみようと思いました。スマホを題材に描けるテーマはたくさんあります。スマホの中に隠された秘密と言ってもいろいろありますし、その中から観客が一番面白がることができて、かつテーマを象徴的に描けるものにしようと思いました。そのテーマが何かを見出すのは大変でした。
Q 演出について、ディナーテーブルを囲んだ会話、という限定的なシチュエーションからストーリーが語られていきますが、演出面ではどのような考えでしたか。
Aパオロ・ジェノヴェーゼどういうフレームで撮るか、ということよりも、監督として気にかけたのはやはり演技です。とくに、セリフを話す人だけではなく、それに対しての反応の演技に一番気を使いました。これらはアドリブ無しで、全部台本通りに演じてもらっています。
Q 脚本作りでは監督を含め5人でディスカッションをされたとのことですが、どのように進められたのでしょう。
Aパオロ・ジェノヴェーゼ5人で書いてはいますが、あまり紛糾することはなく、最終的には監督である私が決めるというやり方で進めました。
Q リアルな会話劇で、まるで隠し撮りを観ているような感覚にもなります。
Aパオロ・ジェノヴェーゼリハーサルはたくさんしましたが、リアルに見える要因としては、カメラを長回ししている効果だと思います。会話と会話の間も止めずにずっと回していることもありました。演技をしていない時の役者の姿もカメラに収めていて、後からシーンに合った表情を抜き出して使ったりもしています。
Q 次に誰の秘密が分かってしまうのかというドキドキする部分と、所々に和ませるコメディ要素もあります。
Aパオロ・ジェノヴェーゼコメディの本質という話にもなりますが、コメディは実際の生活を語ることだと思います。その中にはドラマチックなものもありますが、それをアイロニーたっぷりに描きます。それにたくさんの方が共感してくれる、それがコメディというものだと思います。
Q キャストの方々に期待した部分と、キャストの方々の監督の演出への反応はいかがでしたか。
Aパオロ・ジェノヴェーゼ脚本を書いている段階から、誰に演じてもらうかを想定して当て書きしていました。もちろん、役柄の解釈は私と異なるところもありましたが、彼らは私が予想した通りに演じてくれました。ですので、彼らの演技には大満足しています。
Q 監督ご自身は本作で描かれている夫婦間の秘密、というものに対してどのようなお考えでしょうか。
Aパオロ・ジェノヴェーゼケース・バイ・ケースなので、人によって意見は違うと思いますが、私は相手のプライバシーを尊重するタイプです。現実にはこの映画のように秘密が次々と明らかになってしまうわけではなく、みんな秘密を抱えながら人生を送っていくのが一般的なんだろうなと思います。そんなところを考えながら作りました。
Q 本国イタリアでの28週ロングランをはじめ、各国で好評を博していますが、どのように受け止めていらっしゃいますか。
Aパオロ・ジェノヴェーゼテーマが国を違わず共感を呼んだのではと思います。みんなこのテーマについて考えたくなったのでしょう。
イタリア映画は平均すると上映期間が3週間程度で、入れ替わりが早いです。正直、こんなに長く上映されるとは思いませんでした。みんなこのテーマを話したかったのでしょう。この映画には心理分析的なところがあって、みんながSNSで話題にしたり、僕らはTV番組に呼ばれてこの映画のテーマについて話す機会もありました。みんな、スマホの中の秘密というこの映画のテーマが気になっていたのでしょう。
Q 最近のイタリアの映画業界事情についてお聞かせください。
Aパオロ・ジェノヴェーゼイタリアではこの映画のようにオリジナルのアイデアで作る作品もありますが、小説が原作の作品も多いです。それと今増えてきているのが外国映画のリメイクです。ジャンルはコメディが数としては多いです。
Q 監督はCMを数多く演出されてきたそうですが、イタリアのCMの傾向についてもお聞かせください。
Aパオロ・ジェノヴェーゼイタリアのCMにも日本のCMのように小さなストーリーがあって、次にどうなるのか観ている人が楽しみにしてくれるようなシリーズCMもあります。自動車と携帯電話のCMではストーリー性のあるCMが多いですよ。
Q 映像制作を志している人たちにアドバイスをお願いします。
Aパオロ・ジェノヴェーゼ私はストーリーを語ることが好きでこの業界に入りました。これからこういった世界に入ってくる方々に助言をするなら、今は誰でもスマートフォンで撮影、編集をして作品を作ることができてしまいます。だから、何が大切かというとアイデアです。技術は後からついてきますので、いいアイデアを生み出すことが重要です。
■Information
『おとなの事情』
2017年3月18日(土)新宿シネマカリテほか全国順次ロードショー
「今では携帯はプライベートの詰まったブラックボックス。ゲームをしない?食事中、かかってきた電話、メッセージをみんなにオープンにするのよ」。友人夫婦7人が集う夕食の場で、エヴァはいきなりそう提案した。新婚のコジモとビアンカ、反抗期の娘に悩むロッコとエヴァ、倦怠期を迎えたレレとカルロッタ、恋人に卿のディナーをキャンセルされたペッペ。「何かやましいことがあるの?」と詰め寄る女性陣に、男性陣も渋々ポケットを探り、テーブルには7台のスマートフォンが出揃った。メールが来たら全員の目の前で開くこと、かかってきた電話にはスピーカーに切り替えて話すことをルールに、究極の信頼度確認ゲームが始まる!
監督:パオロ・ジェノヴェーゼ
出演:ジュゼッペ・バッティストン、アルバ・ロルヴァケル、ヴァレリオ・マスタンドレア、カシア・スムトゥニアク、アンナ・フォッリエッタ、マルコ・ジャリーニ、エドアルド・レオ
配給:アンプラグド
©Medusa Film 2015
■Profile
パオロ・ジェノヴェーゼ
1966年イタリア、ローマ生まれ。
大学卒業後、広告分野の仕事に就き、300以上のCMを監督して数々の賞を受賞。その後、映画製作に取り組みはじめ、るか・ミニエロと共同監督した短編映画『Neapolitan Spell』(98)がロカルノ映画祭で上映されて脚光を浴びる。以後、2人の共同監督作品として短編のリメイクである『Neapolitan Spell』(02)で長編デビューを飾り、ダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞を受賞。『La banda dei Babbi Natale』(10)で初単独監督デビューし、イタリアで大ヒットを記録。『おとなの事情』(16)はイタリア国内で20億円を超えるヒット作となり、世界からリメイクのオファーも殺到している。