Vol.641 映画監督 マイウェン(『モン・ロワ 愛を巡るそれぞれの理由』インタビュー)

OKWAVE Stars Vol.641は映画『モン・ロワ 愛を巡るそれぞれの理由』(2017年3月25日公開)のマイウェン監督へのインタビューをお送りします。

Q 男女の関係性が興味深い本作ですが、本作を作る上で大切にしたところは何でしょうか。

Aマイウェン考え方をはじめ何もかもが正反対の、普通なら出会うことのない男女が出会ってしまって、情熱的な恋愛をしてしまう。それは現実にもあることだということを伝えたかったです。

Q ヴァンサン・カッセルとエマニュエル・ベルコの2人のキャスティングは当初からあったのでしょうか。

Aマイウェンこの2人の起用を同時に考えたわけではありませんが、かなり早い段階でこの2人にしようと思いました。
ジョルジオはヴァンサン・カッセル本人ととても近い人物像です。ジョルジオの誘惑的なところや自分を中心に考えがちなところはヴァンサン本人に近いですね。ですので、ヴァンサンには自由に演じてと伝えました。
トニーを演じたエマニュエル・ベルコへの演出の方が大変でした。彼女自身、「なぜ私をトニー役に起用したのだろう」と思いながら役作りをしていました。シーンによってはどう考えたらいいか分からずに自信を失いかけていましたので、「私があなたを選んだのだから自信を持って」と何回も言わなければなりませんでした。「あなたが主役なんだから、そんなに控え目にしないで」と声をかけて、シーンの中で自分の居場所を見つけてもらうようにしました。

Q では、トニーとジョルジオの言い争いのような場面の演出は大変でしたか。

Aマイウェンそうですね、エマニュエルは口喧嘩の場面でも大人しかったので、時には私が強い口調で「もっと激しくやって」と言うことで、彼女の気持ちをけしかけたこともありました。

Q ジョルジオと向き合うトニーの様々な表情が印象的ですが、その点についてはいかがだったでしょうか。

Aマイウェン檻に入れるように細かな指示を与えてはかえってうまくいきませんので、トニーのその時の気持ちを伝えてエマニュエルに委ねました。うまく演じてくれたと思います。

Q ジョルジオは身勝手な男というだけではない多面性のある人物ですが、モデルになった人物などはいるのでしょうか。

Aマイウェンいろいろと考えながらこの男性像を造形していったので、特定のモデルはいないです。

Q トニーが膝を怪我してリハビリセンターで回復していく過程として、ジョルジオとの回想が交互に描かれる構成ですが、そのねらいは。

Aマイウェン怪我をしたトニーが身体のケアをして回復していくということも、ストーリーの大事な側面です。単純に恋愛映画として平坦に2人のことを描くよりも、身体の回復ということを通して描くことで、より立体的に見せられると思いました。すごく大胆な構成だとは思いますが、うまくできたと思います。

Q リハビリセンターを退院した後の、トニーとジョルジオのことも描かれています。

Aマイウェン2人が違う道を歩んでいるということを息子シンドバットの学校での面談のシーンで象徴的に描きました。トニーはジョルジオとのことを穏やかに感じているけれど、ジョルジオの方はまだそうなっていないという、そんな男女を対照的に見せました。

Q もしマイウェン監督の親友がトニーのような恋愛の渦中にいるとしたら何を伝えますか。

Aマイウェンもしそんな親友がいたら本音では「彼はあなたには合わないわ」と言ってあげたいけれど、それを言ってしまうとおそらく女性の友情も壊れてしまうんじゃないかと思います。人間は分かっていても聞きたくないことがありますよね。もしアドバイスするとしたら、人間は努力しすぎるとかえってダメになってしまうこともあると伝えたいです。フランスには「ワイングラスに水を注ぎすぎるとワインの味がなくなる」という言い回しがあって、何事もやり過ぎはダメよ、と言ってあげたいです。
こういう情熱的な恋愛をしてしまうと、脅迫神経症のようになってしまいがちです。多分、トニーもジョルジオと再会した時に「この人と付き合うとまずいかも」と内心思ったと思います。うまくいかないだろうなと思っても行かずにはいられない、そんな火花のようなものに惹かれていってしまったように思います。そんな形で夫婦が長く一緒に生活していると、そこには理性よりも脅迫神経的な構造が伴うと思います。私は「愛は最も危険なドラッグね」とよく思います(笑)。

Q 鑑賞した男女で感想も異なるかと思いますが、監督は反響をどう受け止めていますか。

Aマイウェン男性はこの映画の結末に納得している様子です。女性には非常に共感されています。でも中には女性の方がジョルジオに共感する人もいます(笑)。

Q この映画を通して、マイウェン監督が新たに気づいたことあるいは再発見したことは。

Aマイウェン映画を観た方から「共感した」「自分に通じる部分がある」という感想を聞くと、自分の独りよがりで作ったものではなかったんだと改めて嬉しくなりました。人生の真理として、個人的な体験ほど人類共通の体験だという考え方があります。なぜなら全ての体験は個人的なものだからです。この映画には私自身が体験したり見聞きしたことも映画の中に含まれていますので、とても大切な作品です。しかも3年に1本くらいしか撮らないので思い入れも強いです。アーティストとしては怖がらないで自分が感じたことを基に映画を作っていいんだと改めて気づきました。それぞれ個人が抱えている問題や体験を映画にしているので、それを自伝的だとか自分のことを語り過ぎだと批判されるのは少し違うなと思います。みんながこれは自分に思い当たると思ってくれるので、実話を基にした話、創作どちらであっても、自分のことのように共感してもらえることが大事だと思いました。

Q マイウェン監督からOKWAVEユーザーにメッセージをお願いします。

Aマイウェン私自身は観客の皆さんは100%自由な気持ちで観てほしいです。観た方が作品を自分のものにして、人生に何らかのいい影響を及ぼしていただけたら嬉しいです。

Qマイウェン監督からOKWAVEユーザーに質問!

マイウェン日本の皆さんに2つ聞きたいです。
日本に来ていつもびっくりするのですが、電車の中で寝ている方をよく見かけますが、どうして日本の方は電車の中で寝ていられるのでしょうか。
もうひとつは、日本の皆さんはアニメやマンガが大好きだと思います。朝の電車の中でも雑誌やスマホでマンガを読んでいる姿を見かけますが、朝からマンガを見るような文化はどのように定着したのでしょうか。

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■Information

『モン・ロワ 愛を巡るそれぞれの理由』

2017年3月25日(土)、YEBISU GARDEN CINEMA、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開

弁護士のトニーはスキー事故で大けがを負いリハビリセンターに入院する。リハビリを続ける中、ジョルジオとの波乱に満ちた関係を振り返る。これほどまでに深く愛した男はいったい何者だったのか。なぜ、ふたりは愛し合うことになったのか。10年前、トニーはかつて憧れていたレストラン経営者のジョルジオとクラブで再会し、激しい恋に落ちる。瞬く間に意気投合したふたりは、電撃的に結婚を決め、トニーは妊娠するが…。

監督:マイウェン(『パリ警視庁:未成年保護部隊』)
出演:エマニュエル・ベルコ(『太陽のめざめ』監督)、ヴァンサン・カッセル(『美女と野獣』)、ルイ・ガレル、イジルド・ル・ベスコ

配給:アルバトロス・フィルム、セテラ・インターナショナル

http://www.cetera.co.jp/monroi/

© 2015 / LES PRODUCTIONS DU TRESOR – STUDIOCANAL


■Profile

マイウェン

1976年4月17日、パリ近郊レ・リラにて生まれる。
本名はマイウェン・ル・ベスコで、『モン・ロワ 愛を巡るそれぞれの理由』に出演のイジルド・ル・ベスコは妹、母は女優として活躍したカトリーヌ・ベルコジャ。母親が彼女をスターにすべく、3歳の頃から子役として数多くの作品に出演させられていた。91年にリュック・ベッソンに出会ったことから自身の天職に気づき、女優業を一時休止。93年にベッソンと結婚し、『レオン』(1994)で小さな役を演じた以外は、96年に『フィフス・エレメント』のディーバ役を演じるまで映画出演はなかった。だが、ベッソンとは97年に破局、そのショックで一挙に太ってしまったという。その後、女優に復帰すべく演技を学び直し、最初は舞台で、次いで2003年にアレクサンドル・アジャ監督の『ハイテンション』で映画にも本格復帰。さらにクロード・ルルーシュの『Les Parisiens』(2004)、『愛する勇気』(2005)にも出演。そして06年には『Pardonnez-moi』で監督デビューを飾る。09年には長編第2作『Le Bal des actrices』を、11年には第3作『パリ警視庁:未成年保護特別部隊』でその演出力も認められ、セザール賞の最優秀作品賞のほか監督賞、脚本賞にもノミネート。名実ともにフランス期待の女性監督に。さらに本作では、カンヌ映画祭に正式出品され、主演のエマニュエル・ベルコに女優賞をもたらしたほか、セザール賞の作品賞、監督賞にふたたびノミネートされた。

Photo: MITSUHIRO YOSHIDA
Hair&Make: Mariko Kubo