OKWAVE Stars Vol.651は『八重子のハミング』(2017年5月6日公開)出演の高橋洋子さんへのインタビューをお送りします。
Q 28年ぶりの映画への出演ですが、本作出演を決めたきっかけをお聞かせください。
A高橋洋子28年振りですし、これまでは大きな子どもがいる役は演じていませんでした。今回、大きな子どもがいる家族で、認知症になる役なので、浦島太郎のような気持ちでしたね(笑)。
映画祭で佐々部清監督とお会いして、後日に出演のオファーをいただきました。その時には台本は完成していました。
オファーをいただいた時は意外だと感じました。大きな役ですし、自分の年齢も飛び越して、何も分からない認知症の役ということでびっくりしました。でも、チャンスだとも思いました。升毅さんと夫婦の役ですし、これだけブランクがあるので新人のような気持ちでできるんじゃないかなと思いました。
Q 台本を読まれてどう感じましたか。
A高橋洋子深刻な話だと思いました。だから監督は八重子役をかわいらしい女性に演じてほしいのかなと思いました。八重子がいつも暗い顔をしていたら、観ている方も苦しくなってしまうと思います。監督は打ち合わせの時から何度もそう言っていました。台本自体は重苦しいですが、映像というプラスアルファがあるので、そういうことなんだろうなと思いました。撮影が春からだったので、春らしい優しい光のもとで撮るのかなという予想はありました。ところが、撮影の時は意外と寒くて、本当に優しい光が撮れているのかなと心配しながらの撮影でした。
Q 撮影の様子についてお聞かせください。
A高橋洋子監督は役者にもスタッフにも覚悟をつけさせるためなのか、最初の3日間ハードスケジュールを組むんです。朝6時から夜11時くらいまで撮影したのですごく大変でした。宿舎に戻ってくると畳の上にペッタリと倒れ込むくらいでした。そこから先は私は病気で寝ている場面が多かったので、身体は楽になっていきました。その分、升さんは大変だったと思います。何より台詞の量が多いですし。
Q 八重子の役作りについてお聞かせください。
A高橋洋子幼児返りをしようと思いました。子どもに戻るようにピュアでいようと。他の役者が話す台詞が聞こえなければいいのになと思いました。芝居で絡むことができないのでもどかしくて演じる側として辛かったです。八重子としては無心でいなければならないけれど、シーンの流れに沿って私自身は演じないといけないです。認知症が進んでからは、頭の中で童謡を歌って頭を空っぽにしながら、タイミングを図って八重子を演じました。
表情は、仏像の半眼の目を意識しました。八重子の遺影が出てきますが、半分目を閉じた様な幸せそうな笑顔の写真です。いいタイミングでシャッターを切ってもらえたなと思いました。あの写真が八重子さんなんだと思います。
Q 升毅さんとの夫婦役の芝居はいかがだったでしょうか。
A高橋洋子監督は升さんに「この撮影中は洋子さんのことを愛してください」と仰っていました。撮影が始まって一週間ほど経ってから升さんに「今まで八重子を愛していただけましたか」と聞いたら「もちろんですよ」と怒ったように言っていましたが(笑)升さんと私が心を通わせないとうまくいかないなと思ってやっていたので、それを聞けて良かったです。升さんは台詞が多いのでロケバスの中でもずっと練習していましたし、他愛のない話はしていましたが、芝居に関する話はあまりする機会はなかったですね。升さんの懸命さ、私の懸命さが絡み合えばいいなと思いました。役柄上、お互いに一人芝居のようなものなので、それでもふたりが仲良く見えればいいなと。升さんは私のことを「天真爛漫だね」と言っていて、撮影後も会うたびにそう言っていました。
Q 20年以上、撮影の現場を離れていて、今回復帰されて、現場の変化のようなものは感じましたか。
A高橋洋子ショーケン(萩原健一)をはじめ、昔の役者はみんなわがままでした。高倉健さんなんて、長台詞があると松方弘樹さんに振っていました(笑)。昔の映画スターにはそんなこともできてしまう時代もあったんです。今は時代が変わったのか、升さんは全然わがままではなかったです。監督と升さんは以前に一緒に撮っていることもあってか、この撮影はスムーズに進んでいて、ショーケンや松田優作とは違うなと思いながら様子を見ていました。彼らも自分の個性を出したくて言うので、昔がダメだったかというとそういうわけでもないんです。今回、あまりにスムーズだったので、こんなにスムーズでいいのかしらと思ってしまうくらいでした。もちろん、この映画は監督が映画を撮るために自分でお金を集めて、撮影日数もきちんと予定通りに収めたいという気概も感じました。だから、今の映画製作の大変さも、勉強にもなりました。
Q 若手俳優はどう映りましたか。
A高橋洋子みんないい子でしたね。昔はもっと悪い子が多かったですから(笑)。「こんな台詞は言いたくないです」と言ってしまうような子を監督が面白がって使っていました。それを思うと、皆さん良くできているなと思います。でも、つまらないわけではなくて、辻伊吹くんとは「チュートリアルの徳井義実さんに間違えられて、しかも怒られてしまって謝ったんです」なんて話もしました。そんな辻くんは台湾でも大人気なんですよね。監督はイケメン好きなのか、キャスティングにはそういうカラーが出ていますよね(笑)。
Q 萩市でのロケはいかがだったでしょう。
A高橋洋子萩を見学できるほどの余裕はなかったですが、撮休の時に地元の方に案内していただきました。それで名所を一通り見て回りましたが、そういうところを畳み掛けるように出すような映画ではありません。だから、案内してもらえていなかったら泊まった旅館と眺めた橋本橋くらいで萩を知らずに帰ったかもしれません。ロケなんてそんなものですよ(笑)。
Q 認知症の介護について、この作品を通じて感じたことをお聞かせください。
A高橋洋子八重子さんは幸せだったと思います。こんなに見てくれた人がいましたから。年を取ると怒りっぽい人はもっと怒りっぽくなりますし、ケチな人はもっとケチになります。その人の悪いところが誇張されてしまいます。痴呆というのは考えようによってはかわいらしい節もあります。八重子さんは柔らかく痴呆が進んでいったと思います。すごく乱暴になったわけでもないですし、誰かを罵ってもいないです。あのくらいの衰え方なら、もしかしたら亭主から見たらかわいらしい老い方だと思います。私の母は「年を取るとみんなから嫌われる」と言っています。性格の良くないところが誇張されて、母は何かと文句ばかり言っていました。それが最近怪我をしてしまって大人しくしているものだから、かえって愛おしく見えるんです。八重子さんは誠吾からしたらかわいらしかったんだろうなと思います。人が飼い犬や動物に優しくなるのは喋らず大人しいから、ということもあるかもしれません。人間は喋られるからしくじるし仲違いもします。会話ができないからこそ愛情がじわじわと染み込んだのかなと思います。
Q 高橋洋子さんからOKWAVEユーザーにメッセージをお願いします。
A高橋洋子もしも皆さんのお母さんがそうなったらどうしますか。一緒に手を取って歩きますか。
母から聞いた話ですが、電車に乗っていたら高校生2人が座っている席の前に1人のおばあさんが乗ってきたんです。おばあさんは席を譲ってもらえると思って高校生の前に立ったけれど譲ってもらえないものだから「最近の若い者は席も譲らないのか」とブツブツと文句を言い出したそうです。高校生たちも席を譲るタイミングを逸してしまったので聞こえないふりをしていました。それで高校生たちが電車を降りる時、ドアが閉まる寸前に「このクソばばあ!」と叫んだそうです。話を聞いた直後はひどい子どもたちだと思いましたが、今はおばあさんのことも同じくらいひどいなと思います。
この『八重子のハミング』のように、「あなたが頼りです」と言っているかのように手を握って歩いている八重子の姿が愛おしく見えたらいいなと思います。年配の方には愛おしく老いましょうと言いたいです。若い方には親の性格が段々と悪い方向に誇張されていきますがいいところを見つけてあげましょう、と伝えたいです。
Q高橋洋子さんからOKWAVEユーザーに質問!
高橋洋子ある女優さんの名前が出てこないんです。『がんばれ!ベアーズ』という映画を観ていて、後半に出てくる女優さんでウォルター・マッソーに「あなた、この大会に成功して良かったわね」と声をかけてくる女性です。その女優は「刑事コロンボ」の「黄金のバックル」という回でゲスト主役をやっています。『サイコ』の主演マーティン・バルサムと結婚した、ということまで分かっていながら本人の名前が出てきません。ぜひ調べて教えてください。
■Information
『八重子のハミング』
山口県のとあるホール。「やさしさの心って何?」と題された講演。
妻・八重子の介護を通して経験したこと、感じたことを語る白髪の老人、石崎誠吾。
「妻を介護したのは12年間です。その12年間は、ただただ妻が記憶をなくしていく時間やからちょっと辛かったですいねぇ。でもある時、こう思うたんです。妻は時間を掛けてゆっくりと僕に お別れをしよるんやと。やったら僕も、妻が記憶を無くしていくことを、しっかりと僕の思い出にしようかと…。」
誠吾の口から、在りし日の妻・八重子との思い出が語られる。
教員時代に巡り会い結婚した頃のこと、八重子の好きだった歌のこと、アルツハイマーを発症してからのこと…。
かつて音楽の教師だった八重子は、徐々に記憶を無くしつつも、大好きな歌を口ずさめば、笑顔を取り戻すことも。家族の協力もあり、夫婦の思い出をしっかりと力強く歩んでいく誠吾。
山口県・萩市を舞台に描く、夫婦の純愛と家族の愛情にあふれた12年の物語。
出演:升毅 高橋洋子
文音 中村優一 安倍萌生
辻伊吹 二宮慶多 上月左知子 月影瞳 朝加真由美
井上順 梅沢富美男
監督・脚本:佐々部清
原作:陽信孝「八重子のハミング」(小学館)
配給:アークエンタテインメント
(C)team「八重子のハミング」
■Profile
高橋洋子
1953年5月11日生まれ、東京都出身。
高校卒業と同時に文学座付属演劇研究所に入所(同期は松田優作氏)。1972年、映画『旅の重さ』(斎藤耕一監督)のオーディションに合格、ヒロインとしてスクリーンデビュー。翌1973年、NHK朝の連続テレビ小説「北の家族」のヒロインに抜擢される。翌年、映画『サンダカン八番娼館 望郷』(1974年、熊井啓監督)にて田中絹代が演じる主人公の10代~30代を演じ話題に。1981年、小説「雨が好き」で作家デビュー、第7回中央公論新人賞受賞。1983年、同小説を自らの監督・脚本・主演で映画化する。その後は映画『さらば箱舟』(1984年、寺山修司監督)、『パイレーツによろしく』(1988年、後藤幸一監督)などに出演。近年の主な活動は文筆業であり、最新刊「のっぴき庵」(講談社)で好評を得る。本作品が待望の本格女優復活作として、多くの期待を集めている。