OKWAVE Stars Vol.652は弐瓶勉さん原作の『BLAME!』(劇場公開中、Netflixにて配信中)を手掛けた瀬下寛之監督、吉平“Tady”直弘副監督/CGスーパーバイザーへのインタビューをお送りします。
Q 弐瓶勉さんの原作の印象をお聞かせください。
A瀬下寛之20年前の原作ですけれど、読んだ印象はとにかくマニアック(笑)。当時、こんなハードSFを商業コミックスの世界で連載していること自体が奇跡だと思いました。別な視点で言えば、日本のコミック文化、その表現の多様性は凄いなと。
吉平“Tady”直弘背景の描写一つ一つや、小さく描かれたキャラクターの表現もストイックです。読む方にとっては難解と言われるかもしれないし、熱狂的に支持される作品でもあったので、そんな作品の魅力をいかに抽出して今回のアニメにしていくか、ということが企画の立ち上がりにはありました。
Q どんなところが今回のアニメ化の肝だと思いましたか。
A瀬下寛之キャラクターよりも世界とか背景そのものが主役であるということですかね。原作は独特の世界観が構築されていますから。
それと、SF的に重要なモチーフとして、原作における“パイプ”へのこだわりがあります。パイプ自体は無機質な存在ですが、巨大な都市に縦横無尽に走るパイプの様相は、まるで血管のような、神経のような、何か有機的なもののメタファーでもあり、都市全体が息づいている印象を感じさせるのです。
吉平“Tady”直弘近未来ではなく遠未来を舞台にしていて、僕らの生活と何か重なっているところもあれば、ありえないようなことも起こる世界で、ありえないような強さとありえないような武器を持った霧亥という主人公に対して、いかに親近感を持ってその世界に入ってもらえるかを常に考えました。今回、焦点を霧亥側に置くのではなく、電基漁師という人間側に基軸を置いて、物語を進めていければと思いました。
Q 世界観そのものが主人公ではありつつキャラクターもまた魅力的です。キャラクターはどのように描こうと考えましたか。
A吉平“Tady”直弘まず、霧亥は喋らない(笑)。それなのに、そんな霧亥を見ていて視聴者が気になってしょうがないような作りというのを意識しました。
瀬下寛之半機械化された霧亥は、極めて無感情で無機質という存在として登場します。ここで、原作から最も大きな違いは、事実上の主人公は霧亥ではなく、人間であるということです。ディストピアの中で飢餓に怯えながら生きている電基漁師という人々、この危機に陥っている仲間を救おうとしている一人の少女づるを主人公に置きました。この電基漁師たちは情感豊かに人間らしく描きました。そんな彼らと霧亥の邂逅によって、ドラマは展開し、会話や音楽やムードを通して、当初は無機質であった霧亥に段々と感情を表出させていくような構成にしています。
Q 原作者の弐瓶勉さんが総監修として参加されています。どのようなコラボレーションだったのでしょう。
A瀬下寛之作品にもよりますが、総監修はいわば名誉職的な場合も少なからずあるかと思います。しかし、本作に関して言うと全くそういうものではなく、弐瓶先生は極めて深く濃密に制作に参加されています。映像化するには難解だと言われていたこの原作を、むしろ弐瓶先生自身から「原作は難しかったから、映画版ではもっと簡単にして、みんなが観てくれるものにしましょう」と提案していただきました。初期段階のプロットの時点から毎週の会議に参加していただいて、かつ膨大な量の設定を描いていただいたので、まさに弐瓶先生自身が私たちと共に原作をリブートした作品だと断言できます。「シドニアの騎士」の連載が終わった頃で、多少時間があったとはいえ、それを4〜5ヶ月続けていただいたのは、本当に凄いことだったと思います。
吉平“Tady”直弘弐瓶先生がいま作りたい『BLAME!』を僕らと一緒に再構築したということですね。非常に柔軟な方で、キャラクターひとつとっても、僕らからのエンターテインメントとしての希望を飲み込んで、それを咀嚼したアイデアを新たに出していただいたので、まぎれもなく、弐瓶先生原作の作品になっています。
Q 制作を進める上で、最も悩んだところは何でしょうか。
A瀬下寛之やはり構成ですね。原作が膨大ですので、どのキャラクターやエピソードを基にリブートするのか、が根本的な問題でした。
吉平“Tady”直弘僕ら自身が『BLAME!』ファンでしたので、「あのエピソードもこのキャラクターも入れたい」という気持ちはありました。そういう要素が減っていっても原作ファンに『BLAME!』だと受け取ってもらえるようにするところですね。
Q プレスコで声を録られたそうですが、その時点ではどのような演出をされたのでしょう。
A瀬下寛之我々のプレスコは全く画がない状態で行います。普通の脚本よりも情報量の多いプレスコ台本というものを作り、そこに世界観をはじめ、場面描写やキャラクターの配置などの詳細を記述しています。その台本を基に、言わばセットの無い舞台演劇のように声優の皆さんに演技していただくのです。その状態で録った声だけを編集し、ラジオドラマのように、音だけで物語が面白い事を確認した上で、画をつけていく作業に入る、という進め方です。
吉平“Tady”直弘プレスコの第一回目の演出で、まさに『BLAME!』の世界や空間、個々のキャラクターの関係性を声優の方々と一緒に作っていきました。声優さん達もすごく台本を読み込んで、いろんなアイデアを持ってきてくれたので、僕らのイメージと磨り合わせて、より生々しい魅力を持ったキャラクターが出来上がりました。
Q 映像面でのこだわりをお聞かせください。
A瀬下寛之弐瓶先生の独特な世界観の具現化を念頭に、その上で『シドニアの騎士』などで積み重ねてきた、ポリゴン・ピクチュアズの個性でもある、セルルック3DCG技術を進化させたところが大きいです。吉平が副監督兼CGスーパーバイザーとして、技術面の最適化を図り、スタッフたちと共に頑張ってくれたので非常に良い映像になったと思います。
吉平“Tady”直弘『BLAME!』という壮大で魅力的な世界を描き出して、そこに生きるキャラクター達を配置してカメラで切り取る、その時に今回チャレンジしたのは照明演出です。より臨在感を持って見えるように複雑な光による効果に取り組みました。通常は明暗2色しか塗り分けないと言われているアニメの配色スタイルに、多様な光の表現を織り込んでいます。なおかつ今回はHDR(ハイダイナミックレンジ)画質ということでしたので、非常に多くの光のグラデーションを持った画はまるで実写の様な映像にも見えるかもしれませんが、それでも「これは紛れもなくセルアニメのジャパニメーションだ」と思ってもらえるところを目指しました。ハードSFでありながら、初めて『BLAME!』を観る人でも手にしやすいキャッチーさとの両立もまた一番難しいところでした。
Q 冒頭にづるたちが追われる駆除系が怖くて、すぐに作品に引き込まれます。
A吉平“Tady”直弘夜中には絶対会いたくない気持ち悪さですよね(笑)。駆除系は叫んだり表情を作ったりすることがない中で観る人にどう怖さを伝えるかの演出には苦心しました。
瀬下寛之元々駆除系は人間を守るための存在であり、本来は人間が安心できるかのように、白くて清潔で人間風の見た目が加味された造形です。しかし、人間が駆除対象に転じた時、彼らのその少しだけ人間のように見える感じが、余計に怖いですね。彼らの動きも虫のような動きにしました。対話不可能な感じにしたかったので、虫なんです。今回の映画版駆除系も、弐瓶先生自身が新しく設定を描きおこしてくれています。
Q 電基漁師の衣装も個性的で、かつ日本のアニメらしいですね。
A瀬下寛之弐瓶先生には、キャラクタースケッチも本作の為に膨大に描き下ろしていただいています。骸骨のような強化服に袴のようなデザインが潜んでいたり、ハードSFらしい骨太な造形を核に、どこか日本を感じさせる作りにもなっています。日本から世界に作品を発信する際、あからさまに日本的なものを出すよりも、さりげないバランスでエッセンスが注入されているほうが洗練されていて、弐瓶先生の秀逸なセンスを感じました。
吉平“Tady”直弘彼らの武器が銛(モリ)というところも面白いアイデアですよね。
Q 劇場公開とNetflixの同時公開となりましたが、発表形態についてお聞かせください。
A瀬下寛之僕らにとっても、一般論としても、とても新しい取り組みです。様々な視聴体験のバリエーションがあるというのは素晴らしいことだと思います。今回の作品は臨場感、没入感といった「体感」を強く提供する作りにしていて、劇場でこその映像と音響を楽しむ事もできますし、自宅のTVで何度もリピートすることで見えてくる新しい発見もたくさん仕込んでいます。
吉平“Tady”直弘まず最初に劇場で楽しんでいただいて、それを自宅でも何度も楽しむ、4KHDRというフォーマットでじっくり見直していただくのもありだと思います。あるいはNetflixで気軽に手にとってもらって、それから大きなスクリーンと極上の音響で体験として楽しむのもありだと思います。僕らが笑ってしまうようなマニアックな仕掛けなど、細部までいろいろな情報が詰まっています。画面の前にいるキャラクターが喋っている時に、奥にいるキャラクターもそれに合わせた芝居をしていますし、何度も見るといろんな発見があると思います。
Q 瀬下寛之監督、吉平“Tady”直弘副監督からOKWAVEユーザーにメッセージをお願いします。
A瀬下寛之この作品のベースはマニアックなハードSFです。けれども、SFの知識がなくても観られる作品にしました。これほどユニークな世界観が日本人の作家から生み出されて、世界的に伝説の作品として長く評価されています。まずは、予備知識無しに観てもらい、そのムード、世界観を体感していただくだけで、面白さが伝わると思います。
吉平“Tady”直弘爽快なアクション映画と捉えていただいてもいいですし、古典的な人間ドラマと捉えてもいいです。その両方の要素をSFの世界の中でアニメーションでやっているので、何かひとつでも引っかかれば、楽しい105分になると思います。
Q瀬下寛之監督、吉平“Tady”直弘副監督からOKWAVEユーザーに質問!
瀬下寛之僕らが作ったら面白いと思う原作を教えてください。漫画でも小説でもいいです。
『BLAME!』や『シドニアの騎士』を作るようなスタジオだったら、この原作がいいんじゃない?といった客観的かつ意外な意見をお願いします。ただし、実際に作れるかどうか、お約束は一切できません(笑)。
■Informatiom
『BLAME!』
過去の「感染」よって、正常な機能を失い無秩序に、そして無限に増殖する巨大な階層都市。都市コントロールへのアクセス権を失った人類は、防衛システム「セーフガード」に駆除・抹殺される存在へと成り下がってしまっていた。
都市の片隅でかろうじて生き延びていた「電基漁師」の村人たちも、セーフガードの脅威と慢性的な食糧不足により、絶滅寸前の危機に瀕してしまう。
少女・づるは、村を救おうと食糧を求め旅に出るが、あっという間に「監視塔」に検知され、セーフガードの一群に襲われる。
仲間を殺され、退路を断たれたその時現れたのは、“この世界を正常化する鍵”と言われている「ネット端末遺伝子」を求める探索者・霧亥(キリイ)であった。
霧亥:櫻井孝宏
シボ:花澤香菜
づる:雨宮天
おやっさん:山路和弘
捨造:宮野真守
タエ:洲崎綾
フサタ:島﨑信長
アツジ:梶裕貴
統治局:豊崎愛生
サナカン:早見沙織
原作・総監修:弐瓶勉『BLAME!』(講談社「アフタヌーン」所載)
監督:瀬下寛之
副監督/CGスーパーバイザー:吉平”Tady”直弘
アニメーション制作:ポリゴン・ピクチュアズ
配給:クロックワークス
製作:東亜重工動画制作局
公式サイト:http://www.blame.jp/
(C)弐瓶勉・講談社/東亜重工動画制作局
□Netflixとは
世界最大級のオンラインストリーミングサービス。190以上の国で1億人超のメンバーにご利用いただいています。オリジナルコンテンツ、ドキュメンタリー、長編映画など、1日1億2,500万時間を超える映画やドラマを配信しています。メンバーはあらゆるインターネット接続デバイスで、好きな時に、好きな場所から、好きなだけオンライン視聴できます。コマーシャルや契約期間の拘束は一切なく、思いのままに再生、一時停止、再開することができます。
NetflixJapan公式ホームページ:https://www.netflix.com/