OKWAVE Stars Vol.654は最果タヒさんの現代詩集を原作とした『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』(2017年5月27日全国公開)について石井裕也監督へのインタビューをお送りします。
Q 詩集を基に映画を作る、という本企画を聞いた時はどう感じましたか。
A石井裕也プロデューサーから最初に話を聞いた時はちょっとどうかしてるなと(笑)。今までにそんな企画はありませんでしたし、詩集自体にはもちろんストーリーがないので。どうしようかなと。
Q オファーを受けられてからかなり短期でシナリオを書かれたそうですが、描きたいテーマと原作がリンクする部分についてお聞かせください。
A石井裕也詩を読んだ時、理屈ではないところ、つまり感覚の部分に刺激を受けました。自分の心の中のどこをどんなふうに揺さぶられたかを反芻しながら、その時に出てきたイメージを掘り返す作業をしてシナリオを作っていきました。刺激を受けたのは、今の時代を生きる、とくに東京で生きている若い人の気分です。「虚しい」とか「寂しい」といった言葉だけでは言い表せないような、そういうモヤモヤとした気分に触れようとしているんだろうな、と思いました。それで、そこを出発点にした映画にしようと思いました。
Q 監督ご自身は「東京」についてはどう感じますか。
A石井裕也出身が埼玉県の浦和なので、東京に対してはある種、傍観的で、客観視していますが、「遠くはない」という感覚もあります。
Q 本作を作る上で核にした部分もついてはいかがでしょうか。
A石井裕也この「虚しい」とか「寂しい」という気分をそのまま映画にしてしまうと暗い作品になってしまうので、それを大前提にしながらも、そこでいかに生きていくのか、ということをちゃんと言おうと思いました。そこがいちばん大事なところだろうなと思いました。
Q 主演の池松壮亮さん、石橋静河さんについてはすぐに決まったのでしょうか。
A石井裕也池松くんは最初から決めていました。池松くんを想定して脚本を書きましたし。石橋さんについては新人ですのですんなり決まるものではなかったですし、最後まで逡巡もありました。ご両親がああいう方たちだからなのかは分かりませんが、石橋さんは堂々としている、フリをしていました。そこがいいなと思いました。
Q では池松さん、石橋さんに期待したところは。
A石井裕也池松くんについては、彼が自分でも気づいていない新しい池松壮亮という俳優を見せたい、という考えがありました。石橋さんに関しては、常に緊張に苛まれて震えていました。それは美香という役柄と、映画初主演の石橋さんがシンクロする部分でしたので、そのまま気を抜かせないようにしていました(笑)。
美香と慎二はどちらかが変化すると、もうひとりは不安になったり饒舌になります。2人は全く違うところもあるし、あるいは非常に似ているところもあって、そんな2人の相互補完関係が常にある、そういう距離感をずっと意識した演出をしました。
Q 池松さん演じる慎二の仕事仲間たちには個性的な面々が集まりましたが、その関係性についてはいかがでしたか。
A石井裕也池松くんが速射砲のように言葉を喋りまくって、他の3人が引いている、という関係性ですが、中年の男がいて、外国人がいて、感じの悪い人もいる(笑)、普通ならグループにならないけれど、爪弾きにされた者同士で何となく一緒にいる、という関係性は面白いなと思いました。
Q 原作の詩の一節が随所で詠まれますが、その狙いや苦心したところなどお聞かせください。
A石井裕也詩が心地よい音楽のように聞こえればいいなと思いました。一度聴いただけで100%詩の内容を理解することはまず不可能なので、気配のようなものが感じられるように使いたいと思いました。そもそもが音楽的に聞こえるフランス語なんかと違って、日本語は母音的な言語なので堅苦しく聞こえてしまう。気は遣いましたね。
Q ストリートミュージシャンの歌も印象的です。
A石井裕也真っ当なことをちゃんと誠実に歌っているのにそれに誰も見向きもしない、という今の状況の象徴として使いました。あの歌詞は僕のオリジナルです。「脇汗かいて 気にして 私生きてる」という最初の1行目が出てきた時は、結構才能あるなと思いました(笑)。
Q 2人が抱えている寂しさのような気分に対して、ユーモアを感じさせるシーンも度々あります。そのバランスはどのように考えたものでしょうか。
A石井裕也シリアスであることは、同時に喜劇的であるということだと思います。それはどこから見ているかによるのだと思います。この映画に限らず個人的なテーマとして、感情というものは重層的なものなので、いろんな角度から見ていろんな印象になるものにしたいと思っています。ただ嬉しいとか悲しいということではなく、嬉しい気持ちの中にも陰りが入っていたり、悲しさの中にもユーモアが入っているような表現が好きなので。特に今回は、どこから見ても何かを感じられるようにしようと思いました。
Q 2人が前に進んでいる、ということを感じられる終盤がとくにとても素晴らしいですが、そこの狙いをお聞かせください。
A石井裕也2人が前進しているところを描きたいと思いました。「人生は素晴らしい」と言ってしまえるほど単純なものではないけれど、そうなる可能性はある、ということは見せなければならないし、僕自身、それを見つけなければならないと思います。希望、と言うと言い過ぎなので、やはり可能性、と言うくらいがちょうどいいのかなと思います。
Q どんな人にこの映画を観てもらいたいですか。
A石井裕也モヤモヤしている人です。不満を抱えていたり、何かが足りないと思っている人は前進しようと思っている人だと思います。この映画がきっかけになってくれればいいなと思います。
Q 原作のタイトルでもある「夜空はいつでも最高密度の青色だ」を監督はどう感じましたか。
A石井裕也映画のタイトルとしては長いな、と(笑)。そもそもどんな意味なのだろうかと考えてみると、「最高密度の青色」というのは、人によって当然感じ方が違うと思うんです。むしろ違うべきです。つまり、自分で決めていいんだ、ということじゃないでしょうか。夜空の色だけではなく、あらゆることにも当てはまると思いますが、他人に決めさせてはいけない、自分自身の感性に従って決めていいんだ、ということだと解釈しています。
Q 石井裕也監督からOKWAVEユーザーにメッセージをお願いします。
A石井裕也観ている人の感覚のどこかを揺さぶるような新しい恋愛映画ができたと思います。受け取り方によってまるで変わってくる作品でもあるので、感受性を総動員して観てほしいと思います。
Q石井裕也監督からOKWAVEユーザーに質問!
石井裕也東京で暮らすことがいいことかどうか、ぜひ理由込みでお答えください。
僕は浦和の出身なので、東京に対しては近さも感じますし、傍観的なところもあります。
■Information
『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』
看護師として病院に勤務する美香は女子寮で一人暮らし。日々患者の死に囲まれる仕事 と折り合いをつけながら、夜、街を自転車で駆け抜け向かうのはガールズバーのアルバイト。作り笑いとため息。美香の孤独と虚しさは簡単に埋まるものではない。
建設現場で日雇いとして働く慎二は古いアパートで一人暮らし。左目がほとんど見えない。年上の同僚・智之や中年の岩下、出稼ぎフィリピン人のアンドレスと、何となくいつも一緒にいるが、漠然とした不安が慎二の胸から消えることはない。
ある日、慎二は智之たちと入ったガールズバーで、美香と出会った。美香から電話番号を聞き出そうとする智之。無意味な言葉を喋り続ける慎二。作り笑いの美香。店を出た美香は、深夜の渋谷の雑踏の中で、歩いて帰る慎二を見つける。
「東京には1,000万人も人がいるのに、どうでもいい奇跡だね」。
路地裏のビルの隙間から見える青白い月。
「嫌な予感がするよ」。「わかる」。
二人の顔を照らす青く暗い光。
建設現場。突然智之が倒れ、そのまま帰らぬ人となった。葬儀場で二人は再会する。言葉にできない感情に黙る慎二と、沈黙に耐えられず喋り続ける美香。「俺にできることがあれば何でも言ってくれ」と慎二が言うと、美香は「死ねばいいのに」と悲しそうな顔をした。 過酷な労働を続ける慎二は、ある日建設現場で怪我をする。治療で病院に行くと、看護師として働く美香がいた。「また会えないか」と慎二が言うと、美香は「まぁ、メールアドレスだけなら教えてもいいけど」と答える。
夜、慎二は空を見上げる。
「携帯、9,700円。ガス代、3,261円。電気、2,386円。家賃 65,000円、シリア、テロリズム、食費 25,000円、ガールズバー 18,000円、震災、トモユキが死んだ、イラクで56人死んだ、薬害エイズ訴訟、制汗スプレー 750円、安保法案、少子高齢化……、会いたい」新宿。二人は歩く。
「ねぇ、なんであの時、私達笑ったんだろう、お通夜の後」「分からない」
「ねぇ、 放射能ってどれぐらい漏れてると思う」「知らない」
「ねぇ、恋愛すると人間が凡庸になるって本当かな」「知らない」
不器用でぶっきらぼうな二人は、近づいては離れていく。
出演:石橋静香 池松壮亮
佐藤玲 三浦貴大 ポール・マグサリン / 市川実日子 / 松田龍平 / 田中哲司
監督・脚本:石井裕也(『舟を編む』)
原作:最果タヒ(リトルモア刊「夜空はいつでも最高密度の青色だ」)
配給:東京テアトル リトルモア
(C)2017「映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ」製作委員会
■Profile
石井裕也
1983年6月21日生まれ。埼玉県出身。
大阪芸術大学の卒業制作『剥き出しにっぽん』(05)でPFFアワードグランプリを受賞。24歳でアジア・フィルム・アワード第1回「エドワード・ ヤン記念」アジア新人監督大賞を受賞。ロッテルダム国際映画祭や香港国際映画祭では自主映画4本の特集上映が組まれ大きな注目を集めた。商業映画デビューとなった『川の底からこんにちは』(10)がベルリン国際映画祭に正式招待され、モントリオール・ファンタジア映画祭で最優秀作品賞、ブルーリボン監督賞を史上最年少で受賞した。『舟を編む』(13)では第37回日本アカデミー賞にて、最優秀作品賞、最優秀監督賞を受賞、また米アカデミー賞の外国語映画賞の日本代表に史上最年少で選出される。『ぼくたちの家族』(14)では、家族の絆を正面から描き、国内外で高い評価を得る。『バンクーバーの朝日』(14)では1930年代のカナダを舞台に、日系移民の苦悩や葛藤を丁寧に描き、日本国内でヒットを記録するとともに、バンクーバー国際映画祭で観客賞を受賞した。今、世界中で最も新作が期待される若手映画監督である。