OKWAVE Stars Vol.663はこまつ座公演『イヌの仇討』に出演する尾身美詞さんへのインタビューをお送りします。
Q 本作についての印象をお聞かせください。
A尾身美詞最初に読ませていただいた時は、井上ひさしさんの美しい言葉が散りばめられていて、宝石のような言葉がいっぱいキラキラしている作品だと思いました。吉良上野介側の目線から、考えもしなかった切り口でいろんなことを教えられます。確かにそう言われるとそのとおりだと思うこともたくさんあります。吉良は討ち入りで首を取られてしまう、誰もが知っている結末に向かっていくドキドキ感と、最後は本当にグッときて、最初に読んだ時は泣いてしまいました。こんな思いで最期に向かっていく吉良上野介は美しいなと思いました。
Q 本作出演のきっかけについてお聞かせください。
A尾身美詞演出の東憲司さんの作品に何作か出演していて、東さんとのご縁で今回出演させていただくことになりました。私は青年座の研究生の時代からずっと音楽劇の舞台で歌いたいという気持ちが強かったので、こまつ座の舞台は何度も拝見させていただいていました。ですので今回のお話を聞いた時は本当に嬉しかったです。一つの夢でもあったので、こんなに素敵なキャストの方々とご一緒できて幸せだなと思います。
Q 演じる役どころについてはいかがでしょうか。
A尾身美詞私はお犬さま付御女中の役です。“お犬さま付御女中”ですが、このお犬さまは、生類憐れみの令が施行されていて、しかも将軍・綱吉公からいただいたお犬さまなので、吉良のお屋敷では一番目上の存在です。赤穂浪士に討ち入られ隠れた隠し部屋で、お犬さまが誰よりも位が高いというところが面白いと思います。それでてんやわんやになる場面もありますし、私たち御女中がどれだけ恭しくお犬さまを扱うかが大事だろうなと思います。私が演じるおしのは18歳ですが生まれたときから生類憐れみの令があるので、生き物は大切で、とくにお犬さまは神様のようなものと信じています。当時は、道端で犬同士がケンカしていたら止めなければならなかったそうです。止めてもやめないなら、周りに水をかけて、それでもダメならお犬さまの背中に水をかけて正気にお戻りいただく、という決まりだったそうです(笑)。そんな当時の特殊なところも表現できたらと思います。
Q 隠し部屋が舞台になるのですね。
A尾身美詞そうです。ほとんどのキャストが舞台上にずっといることになります。2時間出ずっぱりなので個人的にはとても楽しみですし、井上さんの作品としても珍しいと思います。史実でも吉良上野介は2時間くらい炭焼き小屋にこもっていたそうです。この作品も2時間ほどなので、そういった仕掛けもさすがだなと思います。
Q 共演者についてはいかがでしょうか。
A尾身美詞大手忍さんとは東さんの劇団「桟敷童子」で共演させていただいたことがありますが、他の方とは初共演です。私たち二人が女中役なので面白くできればいいなと思います。他の方は日頃から舞台で拝見していた方ばかりで、特に三田和代さんのお芝居は以前から大好きだったので、一緒に舞台に立てるだけで幸せです。稽古中も皆さん面白い芝居をされているので、毎日幸せだと思いながら稽古に来ています。
Q 稽古の様子についてお聞かせください。
A尾身美詞立ち稽古はまだ始まったばかりですが、それに先立って、みんなで吉良邸に行ってきました。交流会も開いていただいたので、一気にみんなの仲が縮まりました。みんな素敵な方々で、しっかりついて行こう、という気持ちになりました。
この作品はやはり討ち入りという状況が一番大切なので、東さんからも「いつ見つかってもおかしくない、いつ死ぬか分からない、という緊張感を大事にしよう」という話がありました。リアリティをきちんと出すことで、面白い台詞がより際立ってきます。この魔法のような感じが芝居の面白さだなと思います。
今回はお犬さまがキーになるので、違う側面からも楽しめるのではないかと思います。初演の時のお犬さまはリモコンで動かしていたそうですが、今回はよりリアリティを出そうと、出演者全員で試行錯誤を重ねています。私たちはお犬さまに一番近いので、お犬さまをどう見せているかにも注目していただきたいです(笑)。
Q どんなところが見どころになってくるでしょうか。
A尾身美詞吉良上野介の側近三人衆のやり取りなど面白いところが満載ですが、注目すべきは、この「イヌの仇討」というタイトルです。吉良邸に潜んでいた新助という盗ッ人が出てきて、吉良側が知らない世論のようなものを持ち込んできます。お上や世間に翻弄されて吉良上野介が最後の決断に向かっていくので、考えさせられることが多いです。ラストに向けてこのタイトルの真意が分かると目頭も熱くなる、そんなお話になっています。お上のイヌと呼ばれた吉良上野介の死に様であり、生き様をしっかり見届けていただきたいです。
また、全員出ずっぱりなので、ひとりひとりのリアクションがカラフルであるほど楽しいものになると思います。私もその一員になれるように演じたいと思います。
Q 尾身さん自身がこの作品を通じて目指すものは何でしょう。
A尾身美詞時代物なので、時代感を出すことが重要だと思います。言葉遣いもそうですし、所作や佇まいにはすごく重要な役割があると思っていますので、しっかりと挑戦できたらと思います。忠臣蔵や同じような時代を扱った古い作品は所作がきれいなので参考にしています。稽古の数日前から家でも浴衣を着て、身が引き締まる思いで過ごしてきました。ですので、今回そういうところを極めたいなと思います。
Q OKWAVEユーザーにメッセージをお願いします。
A尾身美詞300年以上昔の出来事ですが、「忠臣蔵」のイメージが強いので吉良上野介は悪者と思われがちです。史実を勉強してみると、吉良上野介はみんなに愛されていた人物だということも分かります。世間にもてはやされて美談として伝わっている話というものが実際にはどういうものなのか、真実を考えるきっかけにもなります。こういう目線で歴史を捉えるとこんなに面白いんだと、目から鱗が落ちるような作品なので、ぜひ楽しんでほしいです。29年ぶりの上演ですので、見逃していた方も、ぜひこの機会に、こんな作品もあるんだと、楽しんでいただけたらと思います。
Q尾身美詞さんからOKWAVEユーザーに質問!
尾身美詞私は井上ひさしさんの作品が大好きです。「父と暮せば」の台詞をいつか舞台で言ってみたいなと憧れています。皆さんは井上ひさしさんの作品では何が好きですか。
■Information
山形新聞・山形放送 後援
こまつ座第118回公演『イヌの仇討』
2017年7月5日(水)~23日(日)紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA
2017年8月4日(金)川西町フレンドリープラザ
2017年8月6日(日)酒田市文化会館
赤穂四十七士による吉良邸討ち入りの夜。吉良上野介は、将軍・綱吉公のくだされもののお犬さまと共に、側女・お吟の導きの元、狭く暗い隠し部屋に息を潜めた。忠実な家臣たち、御女中頭・お三さま、上野介の側近三人衆の清水一学、大須賀治部右衛門、榊原平左衛門、お犬さま付御女中のおしんとおしのも行動を共にした。混乱の最中の一同に、坊主・牧野春斎は赤穂側の様子を探っては報告を入れ、吉良邸へ潜んでいた盗ッ人・新助は吉良側の知らない巷の世論を伝える。「仇討ち」に納得のいかない上野介は赤穂浪士の筆頭・大石内蔵助の思惑を探ろうとするが、一向に見えない。恐怖に震える吉良邸の一同は、「討ち入り」への疑義、「名誉」への拘り、「忠義」の誓い、「生」への情念が渦巻いては衝突し、次第に追い詰められていく……。
<東京公演>
入場料: 7,000円/学生割引4,000円(全席指定・税込み)
スペシャルトークショー:
7月7日(金)13:30公演後 東憲司(劇作家・演出家)
7月9日(月)13:30公演後 大谷亮介・彩吹真央・久保酎吉・植本潤・加治将樹
7月13日(木)13:30公演後 角屋由美子(米沢市上杉博物館学芸主査)―「忠臣蔵」異聞?…吉良家の言い分―
7月16日(日)13:30公演後 大谷亮介・彩吹真央・植本潤・木村靖司・三田和代
7月17日(月・祝)13:30公演後 名越康文(精神科医)―「殿、ご乱心」は本当か―
■Profile
尾身美詞
1984年5月30日生まれ、東京都出身、O型。
劇団青年座所属。青年座研究所を経て、2006年入団。近年の主な出演作品に舞台『THAT FACE ~その顔』(演出:伊藤大)『奇妙旅行』(演出:古城十忍)『その頬、熱線に焼かれ』(演出:日澤雄介)『見よ、飛行機の高くとべるを』(演出:黒岩亮)『台所の女たちへ』(演出:田村孝裕)『オバケの太陽』『夏に死す』(作・演出:東憲司)『なつめの夜の夢』『フォーカード』(演出:宮田慶子)『ハーヴェイ』(演出:西川信廣)、映画『この世界の片隅に』(監督:片渕須直、主人公すずの義姉・径子役)。今回、こまつ座初出演となる。