Vol.685 映画監督 喜多一郎(映画『桃とキジ』)

喜多一郎(映画『桃とキジ』)

OKWAVE Stars Vol.685は映画『桃とキジ』(2017年9月9日公開)喜多一郎監督へのインタビューをお送りします。

Q 『桃とキジ』本企画の経緯についてお聞かせください。

A映画『桃とキジ』喜多一郎岡山にいるプロデューサーから、僕の前作で神奈川県推薦映画第一号認定作品の『ヨコハマ物語』のような映画を岡山を舞台に撮れないだろうか、というお話をいただいたのがきっかけです。僕はドキュメンタリーなどのTV番組で地域に密着した作品を撮る機会も多いですし、これまでに撮った映画10作品も地方が舞台です。地方の行政や地方の方々と一緒に作る楽しみや面白い発見があることも知っています。ただ、岡山にはこれまで何の縁もなかったので、題材はすぐにはピンとは来ませんでした。さらにプロデューサーからは岡山を代表するものとして「桃太郎」をモチーフにして作れないかと言われて、正直、最初は困ってしまいました。
そこでまずは岡山に行ってみようと、2016年の4月に現地に行きました。桜のきれいな季節ですごくいいところでした。桃太郎伝説の発祥の地と言われる吉備津神社に行くと、その前には田園風景が広がっていて、神社の雰囲気も良くて、日本人の原点を感じさせてくれるような気になりました。その景色を見ながら撮るなら夏だろうなと思いました。夏の終わりのちょっとした物哀しさのようなものをここなら表現できると思ったんです。それで、この夏の終わりと、吉備津神社を舞台にした作品にしようと思いました。
一方で、岡山には「うらじゃ」という踊りで知られる「おかやま桃太郎まつり」という行事が8月にあって、それも映してほしい、という話もありました。それで、先ほどの自分で表現したいと思ったことと岡山サイドから出ている条件を盛り込んで6月には『桃とキジ』というタイトルも決めて提案しました。それをすごく気に入ってもらえて、この映画に至りました。

Q “桃太郎”を女性にしたねらいは何でしょう。

A喜多一郎主役の桃役の櫻井綾のことは元々知っていて、作品のイメージに合うとピンときました。夏の終わりの田園風景の中を白いワンピースに麦わら帽子で歩いている彼女と、吉備津神社の境内で殺陣をする彼女のイメージが一致しました。彼女はこちらの期待以上に応えてくれたと思います。吉備津神社と櫻井綾がマッチしていることを観る皆さんが認めてくれればこの映画は成功だと思っています。

Q 主人公・桃の成長の物語としたことについてはいかがでしょう。

A喜多一郎僕の映画は一作目から一貫して人間再生というテーマがあります。この世の中で全て理想通りに生きている人なんていないですよね。最終的に何かを成し遂げたり勝利する方というのはあきらめなかった人だと思います。それは往生際の悪さではなく、前向きさをずっと持ち続けることなんだと思うんです。僕は芝居のワークショップを開いていますが、役者を目指して地方から出てきて、夢を掴みきれずに挫折してあきらめてしまう子もたくさん見てきました。その中で、あきらめずにコツコツ頑張っている人もいます。そういう自分の身近にいる人たちにもエールを贈ってあげたい気持ちもありました。この映画の中にも「役者なんてなかなか簡単に夢をつかめる仕事ではない」というセリフが出てきますが、もし、何らかの形で映画に参加できたら、そういう人たちを勇気づけられる側に回れるので、役者を目指すのならあきらめずに頑張ってほしいなという気持ちがこの物語には表れています。

Q 桃を受け入れる幼馴染のキジ(洋介)の描き方についてはいかがでしょう。

A映画『桃とキジ』喜多一郎矛盾してしまうかもしれませんが、キジは桃とは違って役者の夢を諦めて地元で就職しています。でも、一つの夢を諦めたから人生が終わるのではなく、真面目に前向きに過ごすことで人生を楽しくすることはできるとも思います。彼はどちらかと言えば裏方的な性格で、優しく思いやりがある青年ですが、それは応援するものがあって初めて発揮できることです。彼にとっては桃の存在がそうで、同じ夢を今も頑張ってくれている桃にはすごく励まされていると思います。それを体現できる役者を探して何十人もオーディションをしましたが、なかなか見つけられませんでした。そんな時に弥尋を紹介されて、彼の雰囲気がキジそのものだったので、彼を選びました。彼もまた期待に応えてくれましたね。

Q 桃の両親の愛情が素晴らしいですね。

A映画『桃とキジ』喜多一郎桃を中心に、友情と愛情、それと家族愛を描こうと思いました。家族愛は人間が成長する上で不可欠と言ってもいいくらいのものです。桃のお父さんは作中ではすでに亡くなっていますが、本当の愛はたとえ亡くなっていても消えずにちゃんと伝わります。人間はどんなに強くても、一人では生きられません。周りから支えられ、愛情を受けて、その期待に応えようとどんどんパワーアップしていくものです。そうなると周りも励まされるし、本人ももっと強くなれます。そういう図式のようなものを描きたいと思いました。そんな本物の愛を感じさせるキャストということで手塚理美さんと甲本雅裕さんはすごくいい芝居をしてくれました。

Q 作り終えてご自身ではどのように感じていますか。

A映画『桃とキジ』喜多一郎僕は次に『ライフ・オン・ザ・ロングボード』の続編を種子島で撮影する関係で、この『桃とキジ』の特別上映会を現地で開きました。種子島は岡山とは何の縁も無いですし、感覚的にも遠い場所ですけれど、観ていただいた現地のおじいちゃんやおばあちゃんからも「岡山に行ってみたくなりました」という感想を聞いて嬉しくなりました。岡山の人に頼まれたことをクリアできたかな、という認められた気分です。
プロデューサーは「岡山は桃太郎くらいしか特筆できるものがない」と言っていましたが、現地に行ってみればいいものがたくさん見つかるものです。先入観や思い込みで物事を決めずに、何かを求めて動き回ることは人生において大切だと思いました。固定観念のようなものを自分の中に作るのではなく、映画を観ることもそうですが、何かを感じるということも大事だと思いました。

Q 喜多一郎監督からOKWAVEユーザーにメッセージ!

A喜多一郎人生にとって、負けることは終わりではなく、あきらめることが終わりだと思います。あきめることはつらいし大変なことですけれど、自分の中で追い求めることを続けてほしいです。人生は、ちょっとしたきっかけや小さな出会いで大きく変わることもあります。そういったことをこの映画から感じてもらえたらと思います。そして、岡山にも行ってほしいと思います。新しいことを知るのは人生にとってプラスになることなので、そういう気持ちになってもらえたらうれしいです。

Q喜多一郎監督からOKWAVEユーザーに質問!

喜多一郎一年間に観る映画が数本くらいの方はどういう基準で選ぶのか知りたいです。

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■Information

『桃とキジ』

映画『桃とキジ』2017年9月9日(土)東京公開を皮切りに全国順次公開

保育園のお遊戯会で『桃太郎』を演じた女の子、小島桃。
同級生の男の子をお供にしたがえ、見事に演じあげた。
その後、演劇に目覚め、女優を志し、18歳で上京するも、そこは厳しい世界だった。
それでも頑張って来られたのは、女優業を応援してくれた父がいたから…
ところが、その父は病死。
その後も全く芽が出ず、生活も苦しく、気付けば26歳に。
でも、どこかで思っていた。「自分には帰る実家がある」と。
そんなある日、母が一人で切り盛りする帽子店が閉店になると知る。
慌てて実家に戻ると、そこには青年になった同級生のイヌとサル、そしてキジがいた…

監督:喜多一郎
出演:櫻井綾 弥尋 木ノ本嶺浩 北村友彦
千鳥・大悟 桃瀬美咲 江西あきよし
ベンガル 甲本雅裕 手塚理美
配給:ベストブレーン

公式サイト:http://momotaro-kun.com/

©2016 映画「桃とキジ」製作委員会


■Profile

喜多一郎

喜多一郎(映画『桃とキジ』)1956年6月9日生まれ、東京都出身。
日本大学藝術学部映画科卒。
映画監督、脚本家、プロデューサー、作家として幅広いジャンルで活動。
映画監督としては「人間再生」を一貫したテーマにオリジナル脚本で本作を含め11本の映画を制作。2005年公開の映画『Life on the longboard』(大杉漣、小栗旬 他)では日本中の海を、中年サーファーで一杯にし社会現象を生み出し話題に。2013年公開映画『ヨコハマ物語』(北乃きい、奥田瑛二、市毛良枝 他)は神奈川県推薦映画第一号に指定される。2015年公開の異色作『Bad moon rising』は世界中の映画祭で上映され絶賛される。
映画、TV番組、CM等、1,000本以上の映像作品を手掛け、代表的な著書は「星砂の島、私の島」(ワニブックス)、「やくそく」(小学舘) 他。
ハワイのカルチャーにも精通して多くの作品(CD、NHKのドキュメンタリー 他)を制作、プロデュースする。
音楽プロデューサーとしても1985~90年代に数多くのヒット曲を手掛ける。