Vol.689 映画監督 ユン・ガウン(映画『わたしたち』)

映画監督 ユン・ガウン(映画『わたしたち』)

OKWAVE Stars Vol.689は映画『わたしたち』(2017年9月23日公開)ユン・ガウン監督へのインタビューをお送りします。

Q 子どものいじめという題材を映画にしようとした経緯をお聞かせください。

Aユン・ガウン『わたしたち』というこの物語は私の自伝的な経験から始まったものなんです。主人公のソンはだいぶ脚色しましたが私であり、私に似ているところがたくさんあります。私も彼女と同じように子どもの頃に友だちとのことでとても激しい体験をしました。それがずっと心に残っていて、私の生き方さえも変わってしまいました。いろんな悩みや宿題を残した出来事でしたので、私が最初の長編映画を撮る時は、この私が子どもの頃に経験した話を入れようと思いました。

Q 長編映画の第一作目としてご自分の体験を基にしたとのことですが、映画にする上ではどんなことを大事にしようと思いましたか。

A映画『わたしたち』ユン・ガウンこの映画は私の個人的な体験を基にしているけれど、映画はスタッフや俳優が加わって作り上げていくものですので、みんなが何か意味を見いだせるものになればいいなと思いました。この映画の内容を理解して、共感してもらえたらいいなと思ったんです。あまりにも私的な内容にこだわってはいけないと思って、できる限り心を開いた状態で、周りの方の意見もしっかり聞くようにしました。
シナリオ作りは悩みがたくさんありましたが、いざ撮影に入った時には何より子どもたちが主人公ですので、子どもたちが大切でした。キャスティングも精魂込めて丁寧にしましたし、リハーサルをしている時も、撮影前、撮影中、撮影後も、子役の皆さんにはいい経験をしてもらえればと思いました。子どもたちはこの映画への出演を通して、何らかの自我を見つけるだろうし、成長のきっかけになってくれたらいいなと思いました。

Q 子どもたちの芝居がとてもリアルでしたが、台本を渡さずに芝居をさせたそうですね。演出面についてお聞かせください。

A映画『わたしたち』ユン・ガウン撮影に入る前にリハーサルの期間を設けました。さながら、演劇の稽古のような形で、2~3ヶ月くらいかけて、1週間に3、4日、1回につき4~8時間練習をしました。シナリオは私だけが知っていて、子どもたちにはシーンの目的だけを伝えました。例えば、この映画の中に出てくる「ジアがソンのために色鉛筆を盗んで、ソンに渡す」というシーンでは、ト書きには「ジアがソンに盗んだ色鉛筆を渡して、ソンが喜ぶ。その後にジアの携帯電話に電話がかかってくる」としか書いていません。子どもたちにシーンの内容を伝えて、「ジアはソンのために色鉛筆を盗めると思う?」と聞くと、子どもたちは「盗むのは良くないと思います」とか「文房具屋のおじさんが悪者だったのでは」といった様々な答えが出てきました。そうやって、何でジアがソンのために色鉛筆を盗むのかを話し合っていきました。そして受け取るソンがどんな気持ちなのかも話し合いました。私が書いたシナリオでは「ソンは驚きながら受け取る」としか書きませんでしたが、それは私が考えたことなので、ソン役のチェ・スインさんがどう感じたか聞いてみると、「多分、ソンは困ってしまうと思います」と答えました。その気持ちが本当だと思いましたので、彼女には「では、その気持ちをそのまま演技してみてね」と伝えました。それで芝居が始まると、ジアが色鉛筆を見せて渡そうとするとソンは困った仕草を見せました。それでジアは「じゃあ、あげない」と態度を変えようとします。ソンは欲しくないわけではないので、さらに反応する、というように二人の掛け合いが始まりました。そんな風にしてシーンを積み重ねていきました。私はシーンの流れを決めただけで、子どもたちがどんどん積み重ねていくやり方でした。だから出てくる感情はどれも子どもたちのものです。

Q この作品を通じて、何か新しい発見や気づきはありましたか。

A映画『わたしたち』ユン・ガウン今まで話したことがないことですが、私は元々すごくせっかちな性格なんです。何か分からないことがあると答えを求めて焦ってしまったり、答えを探すことを最優先してしまうことがよくありました。でもこの作品を撮った時は、子どもたちと長い間一緒に過ごさなければなりませんでした。子どもたちはすぐに答えを出せるわけではないので、私が待たなければならない状況が何度もありました。子どもたちをしっかり見守っていないと子どもたちが不安になってしまうので、私が子どもたちを信じて待ってあげることが大事なことでした。この映画のテーマにも通じますが、時には友人のことを信じて待ってあげることや、そうする自分のことを信じることも大事なんだと悟りました。

Q ちなみに、子どもたちの答えを待ったとのことですが、この映画に取り掛かった当初からそのようにされていたのでしょうか。それとも途中で気づきがあったということでしょうか。

A映画『わたしたち』ユン・ガウン私は以前、短編映画を何本か撮ったことがあって、その時も子どもたちとの共同作業でした。その時は子どもたちができるまで何度も演じさせてしまったり、逆に妥協してしまったり、こちらが考えていることを教え込ませようとしてしまいました。つまり、子どもたちのことを信じることができていなかったということです。ですので、作品を評価していただけることがあっても、私自身はあまり気に入っていませんでした。そんな失敗をしてきましたので、この映画を撮る時には最初から子どもたちを信じて待つという決心はしていました。撮り始めた当初はもどかしさはありましたが、以前の失敗は繰り返したくなかったので、自分を戒めるために、撮影中は日記を書いていました。その日記の中に、子どもたちを信じることの大切さを書いて自分自身を落ち着かせていました。

Q ユン・ガウン監督からOKWAVEユーザーにメッセージ!

Aユン・ガウンこの映画ではいじめのような社会的な問題も描かれていますが、それだけではなく、人と人との関係を描いた映画です。人生において、心から好きになれる相手を見つけた時には、心から相手を信じて、心から支持して応援できる関係を築くことができると思います。時にはその関係が壊れてしまうことを皆さんも経験したことがあるかもしれません。でも、その壊れてしまった関係をもう一度やり直そうとした時に、何か新しい発見をする瞬間が来るのではないかと私は思います。この作品をご覧いただいて、もし人間関係に悩んでいる方がいらっしゃったら、少しでも勇気と希望を持ち帰ってもらえたらと思います。

Qユン・ガウン監督からOKWAVEユーザーに質問!

ユン・ガウン本当に大切だと思っている人に対して、あなたはいまベストを尽くすことができていると思いますか。

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■Information

『わたしたち』

映画『わたしたち』2017年9月23日(土・祝)YEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次ロードショー

夏休み、わたしたちは親友だった。
小学校に通う10歳の少女ソンは、いつもひとりぼっち。
一人教室に残っていた終業式の日に、転校生のジアと出会う。
ソンとジアは毎日のように顔をあわせ、お互いの家を訪ねるうちに、友情を築いてゆく。
だが、新学期になると、ジアはソンを仲間外れにするボラと親しくなり、ソンに冷たくあたるようになる。
また、共働きの両親を持つソンと、裕福だがある問題を抱えるジアの、互いの家庭環境の違いも二人の友情に暗い影を落とす。
そんなある日、ソンは勇気を振り絞ってジアとの関係を回復しようとするが些細なことからジアの秘密をばらしてしまう。

監督・脚本:ユン・ガウン
出演:チェ・スイン、ソル・ヘイン、イ・ソヨン、カン・ミンジュン、チャン・ヘジン
配給:マジックアワー、マンシーズ エンターテインメント

www.watashitachi-movie.com

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■Profile

ユン・ガウン

映画監督 ユン・ガウン(映画『わたしたち』)1982年生まれ。
西江大学で歴史と宗教学を専攻の後、舞台や美術の仕事を経て、ソウル総合芸術学校映像院へ。ソウルの中学、高校の映画クラブでの講義や映画博物館で、メディアについて子どもたちに教えながら、映像院在学中に短編映画を演出。現代を生きる子どもの親密で閉鎖的な生活や内に秘めた悩みや問題を等身大で表現するよう努めている。