Vol.700 映画監督 ヴァレリー・ミュラー&アンジュラン・プレルジョカージュ(映画『ポリーナ、私を踊る』)

ヴァレリー・ミュラー、アンジュラン・プレルジョカージュ(映画『ポリーナ、私を踊る』)

OKWAVE Stars Vol.700は映画『ポリーナ、私を踊る』(2017年10月28日公開)のヴァレリー・ミュラー&アンジュラン・プレルジョカージュ共同監督へのインタビューをお送りします。

Q 本作の映画化の経緯についてお聞かせください。

Aヴァレリー・ミュラー私がアンジュランをテーマにしたフランスのTVのドキュメンタリー番組を作りました。ダンスを主題にしたドキュメンタリーでしたので、「次はダンスを主題にしたフィクションを撮りたいね」という話を2人でしていました。一方、この映画のプロデューサーが原作であるバンド・デシネ(グラフィックノベル/漫画)の映画化権を取得して、アンジュランに脚色をしないかというオファーが来たんです。そこで、アンジュランが私と共同監督をしようと言ってくれたのがいきさつです。

アンジュラン・プレルジョカージュもう一つ面白いのは、原作者のバスティアン・ヴィヴェスがこの漫画の「ポリーナ」を描くためにダンスのことを調べていた時に、私の作品を観に来ていたんです。だから原作の作品の中には私が作ったダンスを基にした絵も描かれているんです。バスティアンがまず私の作品を絵に描いて、その漫画を今度は僕たちが映画にしたのだから、面白いですよね。

Q 主人公ポリーナの“成功物語”ではなく“成長物語”としたねらいをお聞かせください。

Aヴァレリー・ミュラー一人の女性が自己を構築していくにあたって、自分の強さだけで構築していくのではなく、弱さも踏まえているということを描きました。ポリーナの軌跡は簡単なものではないですし、彼女自身の性格も頑固です。好きなことを困難を乗り越えてやっていくのには、彼女が人生で経験したことが役に立っています。ダンス以外に、ウェイトレスのアルバイトをしたこともそうです。やりたいことが成就されている、ということが肝です。道は決してひとつではなく、その人によって物事を成就する方法は異なっていて、様々な経験によって様々な道があるということを示しました。

Q ポリーナを演じたアナスタシア・シュフツォワさんはこの映画出演を経て、ポリーナのように振付家を目指したいと話しています。監督はどう思いますか。

Aアンジュラン・プレルジョカージュある意味、ポリーナとアナスタシア自身の軌跡が重なる部分はあります。アナスタシアもロシアのバレエアカデミーを経て、私たちの映画に出演するためにロシアから離れました。それまでの生活と断絶するような経験をし、そこで振付の仕事にもインスパイアされていたので、彼女がそう言っているのなら、その気持ちは分かります。
この映画の撮影後に彼女は世界で最も権威あるバレエカンパニーの1つであるサンクトペテルブルクのマリインスキー劇場に入団しました。でも、彼女には映画のオファーがロシアとフランスから来ていて、映画出演のために彼女はマリインスキー劇場を辞めるとも聞いています。彼女自身は本当は両立させたかったようですが、マリインスキー劇場の運営上、それは難しいようです。

ヴァレリー・ミュラーアナスタシアにとってこの映画への出演は冒険だったと思います。最初はフランス語が話せませんでしたし、コンテンポラリーダンスを踊ったこともありませんでした。だから、フランスにロケに来て、フランスに溶け込めるようにと、夜遊びに連れ出したりもしました。彼女は規律も厳しいところにいたからです。だから本当にポリーナのような軌跡を辿ったのだと思います。

Q ジュリエット・ビノシュのコンテンポラリーダンスも素晴らしかったですが、現場の様子はいかがでしたか。

A映画『ポリーナ、私を踊る』ヴァレリー・ミュラージュリエットは本当に素晴らしかったです。彼女のような名女優が、アナスタシアのようなダンサーが演技をするということをどう思うのかなと、実は私も少し心配していました。でも、ジュリエットはすごく熱心に役に取り組んでいて、この映画のために10ヶ月間、身体トレーニングを続けていました。アナスタシアとの最初のシーンの時には彼女のことを気にかけて、テイクの間にずっと話しかけてあげて、助けてくれていました。

Q これまでにダンス未経験のニールス・シュナイダーさんも非常に素晴らしかったです。

A映画『ポリーナ、私を踊る』ヴァレリー・ミュラー最初にカメラテストをした時からアナスタシアとすごく息が合っていたのでニールスにしようと決めていました。この映画への彼の出演が決まってから、アンジュランがダンサーと俳優が一緒に出演する作品を作ることが決まりました。だったら俳優のひとりをニールスにしたら、ということで、彼はアンジュランの作品に4ヶ月間、出演したんです。そこでアンジュランとの仕事を経験しましたし、ダンサーに混じって毎日トレーニングを積んだ経験があったから、この映画の撮影では、ダンサー役ということを振り付けを覚えることも含めて、非常に楽にこなしていました。

Q 終盤、会いに来たポリーナに恩師ボジンスキーが微笑む場面が印象的です。とはいえ、ボリショイ・バレエ団ではない道に進んだことに師匠として葛藤を感じることはあるのでしょうか。

Aアンジュラン・プレルジョカージュボジンスキーとしてはポリーナが会いに来てくれたのは嬉しいことです。これはポリーナが恩師として今でも認めていることでもあるからです。このシーンはセリフ無しで演じてほしいと2人に伝えましたので、難しいシーンではあったと思います。このシーンのように全体にセリフが少ない映画です。ポリーナ自身、そんなに饒舌ではないので、セリフではなく身体や顔で何かを語っている映画なんだと思います。

Q ロシアのボリショイ・バレエ団とフランスのパリ・オペラ座バレエ団を比べるわけではありませんが、パリ・オペラ座バレエ団を上と見る人たちが若い世代には増えてきているのでしょうか。

Aヴァレリー・ミュラーポリーナは彼女の世代の典型的なキャラクターではないと思います。アンジュランのところにはボリショイ・バレエ団出身のロシア人ダンサーもいます。他のダンスの形態も学びたいということで、彼のコンテンポラリーダンス集団に加わっているんです。この映画のような例は実際にあるということは言えますね。
ポリーナ自身にとっても彼女なりのユニークな軌跡だと思います。一種の自己開放の物語でもあるし、映画らしいドラマツルギーでもあるけれど、ある意味、ユニバーバルなプロのダンサーの軌跡であったり、プロのアーティストの歩みのひとつを見せている映画でもあります。

アンジュラン・プレルジョカージュパリ・オペラ座バレエ団にボリショイ・バレエ団のダンサーがいわゆるゲストプリンシパルとして招かれることはあります。しかし、パリ・オペラ座バレエ団に入団したいというロシアのダンサーはあまり聞いたことはないですね。パリ・オペラ座バレエ団自体が、パリ・オペラ座バレエ学校から受け入れる体制となっている影響もあると思います。

Q 原作者は男性ですが、原作作品を描くにあたってダンスの世界でも女性がもっと振付家として活躍してほしいという思いを持っていたそうです。その点についてはどう思いますか。

Aアンジュラン・プレルジョカージュ原作者のバスティアンはフランスではかなり有名な漫画家です。でも「ポリーナ」のようなダンスを扱った漫画自体は初めてなのではないかと思うくらいテーマとしては少ないです。日本ではダンスをテーマにした漫画が既にジャンルのひとつとしてあるそうですね(笑)。

Qヴァレリー・ミュラー監督、アンジュラン・プレルジョカージュ監督からOKWAVEユーザーに質問!

ヴァレリー・ミュラーアンジュラン・プレルジョカージュ主人公のポリーナは夢を追って海外に飛び立ちますが、あなたにも同じような経験はありますか?

回答する


■Information

『ポリーナ、私を踊る』

映画『ポリーナ、私を踊る』2017年10月28日(土)より、ヒューマントラストシネマ有楽町、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国ロードショー

ボリショイ・バレエ団のバレリーナを目指すロシア人の少女ポリーナ。貧しい家庭環境で育ちながらも、厳格な恩師のもとで幼少の頃から鍛えられ、将来有望なバレリーナとして期待されていた。ところが、憧れのボリショイ・バレエ団への入団を目前にしたある日、コンテンポラリーダンスと出会い、すべてを投げ打って、パートナーと南フランス(エクス・アン・プロヴァンス)のコンテンポラリーダンスカンパニーへ行くことを決意する。しかし、新天地で待ち受けていたのは夢と愛に葛藤する日々。そんななか、練習中に怪我を負い、描いていた未来が狂い始めていく。失意のポリーナが、新たにたどり着いた場所で見つけたものとは……。

監督:ヴァレリー・ミュラー&アンジュラン・プレルジョカージュ
脚本:ヴァレリー・ミュラー
出演:アナスタシア・シェフツォワ、ニールス・シュナイダー、ジュリエット・ビノシュ、ジェレミー・ベランガール、アレクセイ・グシュコフ
原作:バスティアン・ヴィヴェス「ポリーナ」 (訳:原正人 小学館集英社プロダクション刊)
配給:ポニーキャニオン

http://polina-movie.jp/

©2016 Everybody on Deck – TF1 Droits Audiovisuels – UCG Images – France 2 Cinema


■Profile

ヴァレリー・ミュラー&アンジュラン・プレルジョカージュ(映画『ポリーナ、私を踊る』)

ヴァレリー・ミュラー

芸術と映画の歴史を勉強しながら、助監督及びプロダクションアシスタントとして働き始める。その後、『Avant La Parade』(94)や『Portrait en Mouvement』(96)などのドキュメンタリーだけでなく、マリオン・コティヤール主演『La Surface de Réparation』(98)、『Cellule』(03)などのショートフィルムも制作。2009年にはフランソワ・ファヴラとオリビエ・ソレルとともに『L’Identité』、2012年にはサルバトーレ・リスタと『Deluge』を共同執筆した。また、自身の制作会社であるリチウムフィルムとの共同プロデュースも多く、主な作品は、エヴァ・フッソン監督の『Tiny Dansers』(07)やアンジュラン・プレルジョカージュ監督の『La Dernière Pearle』(15)、オリヴィエ・アサイヤス監督のドキュメンタリー『Eldorado』(07)などがある。『ポリーナ、私を踊る』は彼女がアンジュラン・プレルジョカージュと共同監督した2本目の長編映画。

アンジュラン・プレルジョカージュ

1957年1月19日、フランス・シュシー=アン=ブリ生まれ。
フランスでアルバニア系の両親の元に生まれ、古典舞踊を専攻したあと、カリン・ヴィーヌールの元でコンテンポラリーダンスに転向。1980年にはニューヨークに移住し、ゼナ・ロメットとマース・カニングハムに師事する。その後、ドミニク・バゲのダンスカンパニーに入団し、自身のダンスカンパニーを1985年に設立。以降、ソロから大規模なアンサンブルまで、振り付けは49作品にも及ぶ。それらは、世界中のレパートリーともなっており、ニューヨーク・シティ・バレエ団やミラノスカラ座、そしてパリ・オペラ座バレエ団など、有名ダンスカンパニーからも委託されている。CMや映画作品でも振り付けを担当しており、これまでに数々の賞に輝く実績を持つ。さらに、フランス文化大臣はレジオン・ドヌール勲章シュヴァリエと共に彼をナイト爵、そして芸術文化勲章オフィシエと国家功労勲章オフィシエの名誉職位を授与。2014年にはSamuel H. Scripps/アメリカン・ダンス・フェスティバル功労賞も受賞した。2006年10月以降、プレルジョカージュ・バレエ団とメンバーはパヴィヨン・ノワールで創作活動しており、本作は自身初のフィクション映画である。