Vol.710 アニメーションスーパーバイザー ブラッド・シフ(映画『KUBO/クボ 二本の弦の秘密』)

アニメーションスーパーバイザー ブラッド・シフ(『KUBO/クボ 二本の弦の秘密』)

OKWAVE Stars Vol.710は映画『KUBO/クボ 二本の弦の秘密』(2017年11月18日公開)アニメーションスーパーバイザーを務めたブラッド・シフさんへのインタビューをお送りします。

Q 本作の企画を聞いた際の印象と、アニメーションスーパーバイザーという役職について教えてください。

A『KUBO/クボ 二本の弦の秘密』ブラッド・シフ脚本を読んだ時は非常にワクワクしました。僕自身、日本の映画や武芸、アニメーションが大好きでした。それをこの作品でより掘り下げることができるので、“スーパーワクワク”という気分でしたね!
アニメーションスーパーバイザーという役職ですが、アニメーションとは“モノを動かす”ということです。つまり、この映画の中で動いているものはすべて僕の管轄下にあるということです。今回35人のアニメーターがいて、彼らにはそれぞれの強みや個性があります。その中で出てきてしまうブレを押さえて、まるで一人で作ったかのように仕上げることが僕の仕事の中で責任が大きかったことです。

Q 日本についてどんな印象を持っていましたか。そして、この作品を作る上でどんなリサーチをされたのでしょう。

A『KUBO/クボ 二本の弦の秘密』ブラッド・シフ日本の文化には内在的な美しさがあると思っていて、僕自身、以前からそれに共感していました。日本の美術、映画、日本食も(笑)、どれも大好きで自分の感受性とは近かったです。
作品の企画を進める中でそれぞれの部署がリサーチを進めます。日本の伝統的な美術や神話などをリサーチし、さらに日本の文化に没入していくことができました。僕たち全員が日本の文化をリスペクトし、正しく描かなければならないと思って進めていきました。
知れば知るほど、日本の美術の美しさの理由が分かってきました。“ワビサビ”という観念のことはこの作品に関わるまで知りませんでした。いまだに完全に理解できているかは分かりませんが、このストップモーション・アニメーションというジャンルはワビサビの感覚があるものだと気づきました。ストップモーション・アニメーションは不完全なもので、そこが僕は好きなんです。何かそれはワビサビの心に通じるものがあるんじゃないかと思っています。

Q 主人公のクボの動きにも日本的な要素を感じますが、それも意識されたのでしょうか。

Aブラッド・シフ黒澤明監督の作品はずいぶんと参考にさせていただきました。日本の方々の身のこなしなどを研究したんです。ただ、黒澤作品には子どもがあまり出てこないので、クボの持っている純粋なところや、控え目でありながら遊び心もあるところを参考にしたのは『E.T.』でエリオット少年を演じたヘンリー・トーマスや『スタンド・バイ・ミー』、『グーニーズ』に出てくる子どもたちです。それらの作品の少年像がクボの少年らしさに必要だと感じました。

Q ストップモーション・アニメーションの途方もない作業の中で、さらに新しくチャレンジしたことをお聞かせください。

A『KUBO/クボ 二本の弦の秘密』パペット『KUBO/クボ 二本の弦の秘密』パペットブラッド・シフ映画作りにおいて、こんなやり方はないですよね(笑)。今回の作品はライカにおいても類を見ない大作です。4.9mもの巨大な骸骨や目玉のクリーチャー、パーツを組み合わせて作った最後に出てくるクリーチャーなど、1つ1つが大変でした。そして今回は江戸時代の日本を舞台にしているので、衣装の動きにこだわりました。クボの着物の袖の動きがとても複雑なんです。今までのストップモーション・アニメーションを見ていただくと、どれも衣装が体にぴったりしていますが、それにはちゃんと理由があるんです(笑)。今回の衣装では、動いた時に袖が自然に揺れないと、クボ自体が人形だという印象を与えてしまいます。キャラクターの髪が長いのも大きなチャレンジでした。髪の毛は人毛にシリコンを加えて動かせるようにしました。キャラクターのパペットを1コマごとに動かすのに加えて、髪や着物はもちろん、クボが背負った三味線が歩いている時に跳ねる様子や、腰に下げたへちまの水筒も動かなければいけないので、それら全てをキャラクターとして扱わなければなりませんでした。

Q 3Dプリンターも活用されたそうですが、パペットとCGと3Dプリンターの使い分けについてお聞かせください。

A『KUBO/クボ 二本の弦の秘密』パペットブラッド・シフまず、2Dのデザインを基に粘土で彫像を作ります。そして今度はそれをスキャンして3Dのデジタルの彫像を作ります。そこから“アセット”と呼んでいますが、顔のパーツを作っていきます。その中で、クボの微笑み方やしかめっ面、悲しい時の表情など、全ての感情を僕たちが考えてモデリングソフトのMayaを使って表情のデザインを作っていきました。今回はプレスコ(プレスコアリング:prescoring)でセリフを録っていますので、それを基にトラヴィス・ナイト監督と相談しながらシーンに合った表情のパーツを3Dプリンターで出力し、アニメーターが1つ1つ組み立てていきました。表情は口と眉のコンビネーションである程度の感情は表現できますが、さらに目の部分は瞳とまぶたが動くようにできていて、1コマずつアニメーターが動かして、目を細めたり、まばたきをしたりさせました。そしてパーツをつないでいるラインは最後にCGで消します。

Q ストップモーション・アニメーションのこだわりについてお聞かせください。

Aブラッド・シフ僕たちライカのゴールは、ストップモーション・アニメーションのできることを広げていきたいということもありますが、それ以上に大事なのはストーリーです。ストーリーを見ていただくためには、パペットのキャラクターがまるで呼吸をしているかのように生きた存在として見えなければならないです。ストップモーション・アニメーションというメディアであることを忘れて作品に没入して、ストーリーを追っていただけるように、というところを目指しました。
この作品は、世界中のストップモーション・アニメーションに関わるオールスターチームが集まりました。僕自身、各所に声をかけて才能のある方に参加してもらいました。最高の人材がライカには揃っていて、さらに1作ごとに成長していると思います。僕はスーパーバイザーという立場で、僕らの強みともっと伸ばしたいところを見極めて、成長できる環境を用意しました。そして、これは以前からアニメーターたちに言っていることですが、何か一つ動作をさせる時には、まずアニメーター自身が同じ動きを自分でやってみて、その動画を参考にしよう、と言っています。それによって、より自然な動きになるからです。クボが床に散らばった折り紙を拾うシーンが出てきます。アニメーター自身が紙を拾う動作を撮ったものを見せてもらっていたら、紙を拾い損なったところが映っていました。彼は「これは気にしないでください」と言いましたが、その不完全な動きが人間らしくていいと僕は思って、その動きを実際に使ったらどうかと彼には言いました。自分で動いた様子を撮ることで、頭だけでは思い至らなかったそういう人間的な部分にも気づくことができ、それで呼吸をしているようなキャラクターになるのだと思います。

Q プレスコは大変だったのではないでしょうか。

Aブラッド・シフむしろ大いに助かりました。セリフを聞くことでシーンの生命力を感じることができますし、表情を制作する上でも、声があるとキャラクターを見極めやすくなります。叫んでいる時の手の動きなども参考にできますので良かったです。役者が録音している時の映像も撮らせていただきました。とても参考になる方とそうでもない方がいて面白かったです(笑)。体全体を使って演じる人もいれば、台本を手に表情もあまり変えずに読むように話す人もいました(笑)。クワガタ役のマシュー・マコノヒーが一番身体の動きが大きかったですね。シャーリーズ・セロンは表情豊かに演じてくれましたけど、サル役だったので、残念ながらキャラクターに活かすには制限がありました(笑)。

Qブラッド・シフさんからOKWAVEユーザーに質問!

ブラッド・シフ日本では2Dアニメーションが強い印象です。
日本の皆さんはストップモーション・アニメーションのことは好きですか?もし好きならストップモーション・アニメーションの好きなところをお聞かせください。

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■Information

『KUBO/クボ 二本の弦の秘密』

『KUBO/クボ 二本の弦の秘密』2017年11月18日(土)新宿バルト9ほか全国ロードショー

三味線の音色で折り紙に命を与え、意のままに操るという不思議な力を持つ少年・クボ。幼い頃、闇の魔力を持つ祖父に狙われ、助けようとした父親は命を落とした。その時片目を奪われたクボは、最果ての地まで逃れ母と暮らしていたが、更なる闇の刺客によって母さえも失くしてしまう。
追手である闇の魔力から逃れながら、父母の仇を討つ準備を進めるクボは、道中出会った面倒見の良いサルと、ノリは軽いが弓の名手のクワガタという仲間を得る。やがて、自身が執拗に狙われる理由が、最愛の母がかつて犯した悲しい罪にあることを知る。

監督:トラヴィス・ナイト
声の出演:アート・パーキンソン(クボ)、シャーリーズ・セロン(サル)、マシュー・マコノヒー(クワガタ)、ルーニー・マーラ(闇の姉妹)、レイフ・ファインズ(月の帝)
公式HP:http://gaga.ne.jp/kubo
公式Twitter:https://twitter.com/KUBO_MOVIEjp
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■Profile

ブラッド・シフ

アニメーションスーパーバイザー ブラッド・シフ(『KUBO/クボ 二本の弦の秘密』)『KUBO/クボ 二本の弦の秘密』のアニメーションスーパーバイザーを務める。
MTVの「セレブリティ・デスマッチ」「The PJs and Gary & Mike(原題)」をはじめ、数々のTV番組で経験を積んだ後、2001年に「The PJs and Gary & Mike」でエミー賞のアニメーション特別貢献賞を受賞する。またアニメ製作以外にも、任天堂、FOX、サムスングループ等のCMも手掛ける。その他の作品として、『ティム・バートンのコープス ブライド』(05)、『ファンタスティック Mr.FOX』(09)、『パラノーマン ブライス・ホローの謎』(12)などがある。