Vol.713 俳優 シェルワン・ハジ(映画『希望のかなた』)

シェルワン・ハジ(映画『希望のかなた』)

OKWAVE Stars Vol.713は映画『希望のかなた』(2017年12月2日公開)主演のシェルワン・ハジさんへのインタビューをお送りします。

Q 本作出演の経緯についてお聞かせください。

A映画『希望のかなた』シェルワン・ハジある日、Eメールを受け取りました。フィンランドのプロダクションがアラビア語と英語を話せる役者を探しているとのことでした。かつ、フィンランド語が話せるとなお良くて、ユーモアのセンスがあれば最高だと。最後の部分は自分にあるのか分かりませんでしたが、それ以外の条件は満たしているので「ここにひとりいるよ」というくらいの気持ちで返信しました。だからその時は役がもらえるとは思っていませんでした。その当時、私はイギリスで映画監督を目指して勉強していました。監督を目指す上でここで役者として立っておくのもいいだろうと思ったからです。そうしたら返事が来ました。主演とのことでした。しかも、小さな規模の映画だと思っていたので、それが映画界のアイコンのひとりであるアキ・カウリスマキ監督が撮る映画だと知らされて非常に驚きました。彼と面談をして、自分の前向きな決断が良かったと思いました。脚本も素晴らしかったです。だから、ここでノーと言うわけがありませんし、出番が1フレームだけでも出たいと思ったでしょう。

Q 脚本を読んでどう感じましたか。

Aシェルワン・ハジ私も脚本を書きますし、勉強のために様々な脚本を読む機会があります。そういった経験がある中で、この脚本を読むと、そこには映画に出てくるほとんどのディティールが説明されていました。音楽も、色使いもです。それ以上に、詩を読んでいるような感覚になりました。役者への指示書のようなものではなく、監督の思いが描かれていました。そして、私はシリア人の気持ちを代弁する代表に選ばれたんだと感じました。その気持ちが嬉しかったですし、アキ監督が難民の気持ちに入り込んで、ただの情報ではなく人間として描いていたのが素晴らしかったです。生涯忘れることのない内容だと思いました。

Q ヨーロッパでのシリア難民問題の扱われ方についてお聞かせください。

Aシェルワン・ハジ物事には両面がありますので、簡単に説明することは難しいです。滞在していたイギリスでは、シリア難民を支援している方々や、難民問題への意識改革をしようと運動している人たちがいました。一方で、難民たちを罵ったり、壁を作りたい人たちやこの問題を海にでも捨ててしまいたい人たちもいました。ヨーロッパのどの国でも同じです。私の妻もアキもフィンランド人ですが、彼らは前者側の人たちで、できれば私はそういう人たちと一緒にいたいです。

Q シーンの構図も美しく計算されていますが、演じる上では監督とどんな話をしたのでしょう。

A映画『希望のかなた』シェルワン・ハジこの映画の映像は一番驚くところです。役者が役柄になりきるには、そのための情報を蓄積していきます。ところで、映画監督と聞くと、いつも怒り狂った中年男性を思い浮かべるかもしれません。私が今後、監督業に移行する時にそういう姿を目指しているわけではありません。監督の役目としてはある目的のために雄弁に語っていくものだと思います。観客にはどう感じてほしいのか、そのために役者にはどうあってほしいのか、そういった説明が加わっていきます。今回、役者としては、最小限度の説明でも高みに到達できるものだと感じました。アキは詩的で美しい脚本を渡してくれましたが、それは役柄の骨格でもあります。映画のフレーム上の限界を教えてくれるものでもあります。だから役を演じるというのは、その骨格の上に洋服を着るような感覚でしょうか。アキが映画監督として高く評価されているのは、彼には絶大な自信があって、役者に信頼を与えてくれるし、役者としての空間も与えてくれるからです。それは先ほどの例で言う骨格と洋服の間にある隙間のようなものです。それがクリエイティブな世界でのパートナーシップだと思います。そのような間柄でした。

Q 難民のカーリドの物語とレストラン経営で人生をやり直そうとするヴィクストロムの物語が折り重なっていきますが、ヴィクストロムの物語についてはどう感じましたか。

Aシェルワン・ハジ魔法のようなある種の世界観がありましたね。私は撮影中もクルーの目線でカメラの後ろから見ていました。ヴィクストロムの物語もストーリーの展開が素晴らしかったです。自分のシーンと比較して楽しんでいました。

Q ヴィクストロムのレストランが集客のために日本食レストランに業態変更するところは非常にコミカルなシーンとなりましたが、シーン全体の印象をお聞かせください。

A映画『希望のかなた』シェルワン・ハジ日本に来るのは今回が初めてで、刺し身も食べましたし、あのシーンを撮り直すなら今回の来日の経験が活きるでしょう(笑)。あのシーンは日本食にまつわるジョークが盛り込まれていますが、日本人以外にもちゃんと伝わると思います。それは人間的な何かがあるからで、言語や文化を越えて伝わると思います。ヴィクストロムを演じたサカリ・クオスマネンはレストランを幾つか持っていて、寿司の作り方も知っています。彼が最初に握った寿司は完璧なものでした。アキがそれを見て「もっとワサビを盛らないと!」と言い出しました。誇張された現実を見せることは、トリビュートという側面でもとても良いと思います。あのシーンは店内の日本風のBGMも含め素晴らしかったです。アキは日本の映画や芸術から受けた影響をきちんと持ち込んでいますが、それを落ち着いた見せ方やロマンティックに描かずに、ああいうことにしてしまうんですね。それがアキのやり方ですし、彼の魅惑的なやり方なのでしょう。

Q 難民申請の場面でカーリドは妹を探すことと、自分の人生よりも彼女の未来が大事だと話します。カーリドがたどる人生をどう感じましたか。

A映画『希望のかなた』シェルワン・ハジアキの作品は人間的な部分をキャラクターに注ぎ込んでくれます。現実の世界ではこういう試練を受けた場合にどう振る舞うかは難しいです。シリアで起きていることは現実です。それを私も把握しています。カーリドは人間らしい人間で道徳的な指標も持っています。妹がいなくなってしまった時、私だったらどうするのか。そんなことは起きてほしくありませんが、誰かが体験しなくてはなりません。とても困難な精神状態に陥ると思います。カーリドの選択肢は、人生のプライオリティとして何かを選んでいることです。妹と一緒にいることもできたかもしれませんが、難民申請するように送り出したこともそうです。

Qシェルワン・ハジさんからOKWAVEユーザーに質問!

シェルワン・ハジ私は子どもの頃、シリアで日本のアニメの「まんが猿飛佐助」をよく観ていました。「キャプテン翼」や「釣り吉三平」も好きでしたね。
質問は、実は猿飛佐助のことをよく知らないので、誰か解説をお願いします。

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■Information

『希望のかなた』

映画『希望のかなた』2017年12月2日(土)ユーロスペースほか全国順次公開

内戦が激化する故郷シリアを逃れた青年カーリドは、生き別れた妹を探して、偶然にも北欧フィンランドの首都ヘルシンキに流れつく。空爆で全てを失くした今、彼の唯一の望みは妹を見つけだすこと。ヨーロッパを悩ます難民危機のあおりか、この街でも差別や暴力にさらされるカーリドだったが、レストランオーナーのヴィクストロムは彼に救いの手をさしのべ、自身のレストランへカーリドを雇い入れる。そんなヴィクストロムもまた、行きづまった過去を捨て、人生をやり直そうとしていた。それぞれの未来を探す2人はやがて“家族”となり、彼らの人生には希望の光がさし始めるが…。

監督・脚本:アキ・カウリスマキ
出演:シェルワン・ハジ、サカリ・クオスマネン
配給:ユーロスペース

http://kibou-film.com/

©SPUTNIK OY, 2017


■Profile

シェルワン・ハジ

シェルワン・ハジ(映画『希望のかなた』)1985年シリア生まれ。
2010年にフィンランドへ渡る。2008年にダマスカスのHigher Institute of Dramatic Artsを卒業。いくつかのテレビシリーズに出演した後、2015年にイギリスのケンブリッジにあるアングリア・ラスキン大学芸術学部に進学し、翌年に博士号を取得した。2012年からは演技に加え、彼自身のプロダクションLion’s Lineでショートフィルムの脚本や監督、インスタレーションの制作も行っている。長編初主演となった『希望のかなた』でダブリン国際映画祭最優秀男優賞を受賞。劇中では伝統楽器サズの演奏も披露している。