OKWAVE Stars Vol.720は『TERROR テロ』に出演する神野三鈴さんへのインタビューをお送りします。
Q 本作は観客が参加する形の面白い内容となっております。
A神野三鈴この作品は法廷劇ですが、お客様に参審制裁判の法廷に来ていただいて、一緒に事件について考えてもらう時間になると思います。どういうことが起きて、それに対して自分がどういう答えを出すのかというシミュレーションとなるお芝居です。とても上手に作られていて、題材は私たちがお芝居やエンタテインメントといったフィクションの世界では扱えない、本当に今考えなければいけないリアルな問題を扱っています。今までの裁判にはなかった新しい犯罪であるテロに対して私たちがどう向き合っていくのかを考える時間になるでしょう。海外のニュースや頭の中だけのことではなく、実際に目の前にいる生身の被告や証人のいろいろな考えを聞き、目の前で行われる裁判を見ながら、自分たちの価値観がどう変わるかを楽しんでいただきたいです。
Q 検察官・ネルゾン女史を演じられますが、役柄についてお聞かせください。
A神野三鈴知的で、法曹界で信念を持って生きてこられた方だと思います。法律の世界の中で信念を持つということは、人間の営みに対して考察をし続けてきたプロフェッショナルだということ。そして、この検察官が女性であるというところに、この台本を書かれたフェルディナント・フォン・シーラッハが込めた意味があると感じています。法律の理念や真理とは別に、彼女の中で燃えている女性として生まれた価値観のような生身の部分が深層にはあるとも思っています。
Q この作品では「テロリストにハイジャックされた旅客機を撃墜し、乗客を犠牲に多くの命を救った」空軍少佐の裁判が行われますが、ご自身ではどう感じましたか。
A神野三鈴彼を有罪にしようとする検察官側を演じるから、というだけではなく、私自身がこの被告は有罪なんだと思って挑むつもりです。ただ、有罪ではありますが、少佐自身に罪があるとも思っていません。少佐はテロを未然に防ぐために164人の無辜の人の命を奪ってしまいます。それと引き換えに7万人を救ったということが天秤にかけられます。人間の数の問題ですが、数字で判断した場合と、その一人一人に顔と名前をつけられた時に、判断が下せるのかを考えなければなりません。
海外で飛行機事故が起きて「乗客に日本人はいませんでした」と言われて「良かったね」と思う違和感と、逆にそこに日本人が含まれていた時のショック、さらにそれが同僚だった時、身内だった時。身近になるほど人間は事件に対する重みが変わってきます。そして命の数で判断が変わっていいのか、ということが私の論点になってきます。答えが出なければお客様も私も悩み続けますが、その答えが変わってしまってはいけないと思っています。もっと言えば、これがテロではなく戦争だとすると、勝利のために味方に犠牲が出るのはいいのか、もちろん相手の国の人間の命もですが・・・という話にもなります。私たちは過去の戦争からそのことを学んでいなければならないです。
ドイツ人のシーラッハがこの作品を手がけましたが、ドイツは第2次世界大戦でヒットラー政権下、ナチスの行った行為の代償を今も払っています。そしてもちろんドイツ自身も大きな犠牲を払いました。ですから自分達で新しく作りあげた法律に対して、より積極的に話し合われているのだと思います。翻って私たちは戦後もその責任を、国を動かしている人たちに任せすぎてきてしまったと思います。そういったことも考えなければならない時が来ているのだと思います。
Q 法廷で激突するのは橋爪功さんですね。
A神野三鈴一人の俳優として私が大好きで尊敬している方です。この大名優が単独での朗読公演でこの作品を一昨年に演じました。その時は全公演、有罪だったそうです。今回、橋爪さんは弁護人役だけを演じます。今回の検察官役は、橋爪さんから「三鈴ならば検察官役が出来るでしょう」というご意見があったそうなんです。そう言われると本当にプレッシャーです(笑)。橋爪さんは「俺は弁護人役だから無罪にしたい」と仰っています。役者としては太刀打ちできませんが、頑張ります!ですので無謀ですが、名優・橋爪功に神野三鈴がどう立ち向かっていくのかも楽しみにしていただけたらと思います。それぞれの立場での正義を感じて、今回の芝居でどう皆さんの考えが左右されていくのかを身をもって体験しにきていただきたいです。弁護人・橋爪さんに勝った日は、役者としてはちょっとだけ喜びたいと思います(笑)。
Q 芝居で結果が左右されてしまうのも怖いですね。
A神野三鈴人の命がかかっています。有罪か無罪かの判決一つで松下洸平さんが演じる少佐の命を少佐の家族の人生から奪うことになるので、有罪を勝ち得たからといって喜べませんし、かといって、無罪になれば撃墜された旅客機の乗客の家族役の前田亜季さんの無念も晴らせませんので、弁護人も検察官も厳しい仕事だと思います。ですので、本当にヒリヒリするようなお芝居になるはずです。法廷ですので両者とも情を排していますし、少佐も被告人ですので感情を抑えています。ですが、逆にその抑えたものからいろんな感情がこぼれ落ちてくると思います。法廷劇としては、喋っている法律の話以上に、法律がどれだけ人間くさいものなのかも楽しめると思います。
Q 緊迫して目が離せない舞台となりますね。
A神野三鈴私たちも大変ですが、全てを司らなければならない裁判長も大変です。裁判長役の立ち位置も面白いと思います。演技力の確かな今井朋彦さんが裁判長役を演じますので、そこも楽しみです。
Q 稽古にあたってはどのような準備をされるのでしょう。
A神野三鈴演出の森新太郎さんとは初めてご一緒します。森さんの舞台に立った人は皆「森さんは稽古が好き」と言っています。プロデューサーの言葉を借りると“ねちっこい稽古”とのことですが、しつこい人は大好きなので(笑)楽しみにしています。今までの舞台を見ていると男性を描くのがとてもお上手だなぁと、そして綿密であり、セリフの間の静寂の豊かさを見事に出す方だと。
初めての演出家の方とご一緒する時はワクワクします。私は感覚的に演じる女優で検察官とは程遠いタイプですので、森さんは知的に作り上げていく演出家ですから、どう導いていただけるのかも楽しみです。
法廷劇ということでは、場面は全く動きません。それを森さんがそれをどのように料理されるのか、私自身楽しみにしています。そういう意味では演出家泣かせの難しい作品ですが、森さんがこの台本のどこに一番の重きを見出すのか、そういったことも明確に出されると思います。
Q 本作に限らず、役を演じる時に心がけていることは何でしょう。
A神野三鈴私は役を生き切りたいタイプです。食べるものから着るもの、仕草まで役になりきりたいのです。だから同時期に違う役を演じることになると大変です。今回は、法曹界のプロフェッショナルですので、すぐには役に活かせなくても検察官の方にお話を聞かせていただくなどして、できる限りのことは準備したいのですが、守秘義務の多い仕事なので苦労しました。
役者は、様々な人を生きることになりますし、いろいろな経験値が自分の中にたまっていくことは、無駄なことはないですし、大変ありがたいことだと思います。
先日までシンガポール国際映画祭に『blank13』という映画で参加していましたが、その会場がもともとは裁判所だったんです。今回の舞台は法廷内だけですけれど、外から階段を上がってエントランスに至る、裁判所のあの建物の構造は別世界でした。被告人も参審員もこういう場所で裁判という話し合いを行うのだと、とても神聖に感じられ、舞台に上がるまでの時間のイマジネーションになりました。
Q 神野三鈴さんからOKWAVEユーザーにメッセージ!
A神野三鈴今、正に毎日ニュースで流れてくることが題材です。私たちの裁判所にいらして、一緒に体験してみませんか。私たちの住む世界、私たちの子どもたちの住む世界が少しでもいいものになるように一緒に考えてみませんか。それと、役者たちが長台詞と苦闘した姿をぜひ楽しんでください(笑)。法廷でおまちしています!
■Information
『TERROR テロ』
2018年1月16日(火)~28日(日)紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYA
2018年2月17日(土)・18日(日)兵庫県立芸術文化センター阪急中ホール
2017年7月26日、ドイツ上空で民間旅客機がハイジャックされた。犯人であるテロリストたちは、7万人が熱狂しているサッカースタジアムに飛行機を墜落させて多数の命を奪うと共に、世界的なニュースになることを目論んでいた。しかし、緊急発進したラース・コッホ空軍少佐は、独断でこの旅客機を撃墜する。
乗客164名の命を奪って、7万人の観客の命を守った彼は英雄なのか、犯罪者なのか。裁判は民間人が評決に参加する参審制裁判に委ねられる。検察官による論告、弁護人による最終弁論を経て、判決は一般の参審員(観客)の評決で決めることとなる。観客の評決によって、無罪と有罪の二通りの結末を持つ衝撃の法廷劇。
作:フェルディナント・フォン・シーラッハ
翻訳:酒寄進一
演出:森新太郎
出演:
橋爪功
今井朋彦
松下洸平
前田亜季
堀部圭亮
原田大輔
神野三鈴
http://www.parco-play.com/web/play/terror/
企画: 兵庫県立芸術文化センター
共同製作: パルコ 兵庫県立芸術文化センター
■Profile
神野三鈴
1966年2月25日生まれ、神奈川県出身。
劇作家テネシー・ウィリアムズが描くガラスのような精神に共鳴し、それを演じたいという衝動で神野三鈴は女優になる。数々の名だたる舞台演出家からは難役を任され、チェーホフ、テネシー・ウィリアムズ、別役実らが紡ぐ伝説的戯曲にも出演。井上ひさし作品にも欠かせない女優となる。2012年に『三谷版「桜の園」』と『組曲虐殺』で紀伊國屋演劇賞個人賞を受賞。近年の舞台出演作は『メアリー・ステュアート』『タンゴ・冬の終わりに』(共に15年)、『死の舞踏』(17年)など。映像作品にも活動の場を広げ、主な出演映画に『駆込み女と駆出し男』『日本のいちばん長い日』(15年 共に原田眞人監督)、『光』(17年 河瀨直美監督)などがある。18年2月には齊藤工 長編初監督作品『blank13』が公開予定。またアメリカ映画『I am not a bird』には全編英語で出演する。