Vol.730 白石和彌、髙橋泉(映画『サニー/32』)

白石和彌、髙橋泉(映画『サニー/32』)

OKWAVE Stars Vol.730は映画『サニー/32』(公開中)白石和彌監督と脚本の髙橋泉さんへのツーショットインタビューをお送りします。

Q 本作はどういうところから生まれてきたのでしょう。

A映画『サニー/32』髙橋泉最初は北原里英さんの演じる赤理が拉致監禁されて、どう逃げ出すか、という現在軸だけを描こうと思っていました。そこに門脇麦さんの演じるもう一人のサニーや、赤理の学校の生徒のエピソードが加わっていきました。
モチーフにしたNEVADA事件(佐世保小6女児同級生殺害事件)をどう描くかについては、当初は完成した映画のような発想は無かったです。

白石和彌そこに関しては「北原さんが主演で」というAKBグループのプロデューサーである秋元康さんからの話をいただいて生まれたものですね。最初の打ち合わせの後、飲みに行って乾杯後には髙橋さんから「NEVADA事件やりましょう」という話が出てきました。

Q その北原里英さんは怪演ぶりを発揮されていますが、それを引き出せることを当初から予期できていたのでしょうか。

A白石和彌引き出してやろう、という気持ちよりは、必然的にそうなっていったので、「これ大丈夫かな。まあ大丈夫だろう」と思いながら撮っていました(笑)。

Q 雪のあるオール新潟ロケでなかなか過酷な現場だったそうですね。

A白石和彌撮影の時に人数が多いと大変でした。何より、雪があって寒いので、スピード感がいつもより出せない中で撮りきらなければならないので、僕らは必死でした。でも、その必死な様子を俳優に見せないようになるべく楽しくやっていました。

Q 脚本は現場でも変わっていくものでしょうか。

A白石和彌撮影に入る前は髙橋さんに相談しながらですが、現場でもセリフを加えたりすることが多少はありました。

Q その脚本作りで苦心したところはいかがでしょうか。

A映画『サニー/32』髙橋泉物語が転換する“キタコレ”の後、赤理が神のように崇められていきますが、そこがちゃんと伝わっているかどうかを気にしました。

白石和彌僕は赤理と柏原や小田たちが家族のようになっていればいいかなと思いました。

髙橋泉そこまでは1つの線で進められましたが、“キタコレ”の先はアイデアが何パターンかありました。でもオリジナル脚本なので苦心というよりは楽しみながら書いていました。

Q 先の読めない展開ながら、世相を巧みに取り込んでいるのが素晴らしいと感じました。

A映画『サニー/32』髙橋泉中には本筋とは関係ないものも入れたので、よくそのアイデアが通ったなと思います(笑)。物語の結末はあるけどそれぞれの役の結末がないので、みんな混乱するかなとは思いました。

白石和彌脚本を読んだみんなは面白がってくれていたと思います。北原さんは最初「どう演じたらいいのか悩んでいます」と言っていましたけど、「何を準備したらいいですか」と言われても“裸足で雪の上を歩く”練習はできないし、「アイドル活動をしていれば大丈夫です」という感じでしたね。

髙橋泉今回、わりと即物的に作っていて、“キタコレ”後のサニーについていくサニー信者たちも演出上「サニー教の家族がもう少しいてもいいよね」ということで増やしています。企画意図がガッツリあるというよりもオリジナルですのでその場のアイデアを形にしていきました。

白石和彌途中で出てくるドローン少年の設定もそうですね。

Q ピエール瀧さんとリリー・フランキーさんに関してはいかがだったでしょう。

A白石和彌ふたりとも白石組に来るとひどい目に遭うということも折り込み済みでやってくれました。瀧さんとリリーさんの役の立場は『凶悪』とは逆なので、新鮮かなと思います。

Q 門脇麦さん演じるもう一人のサニーについてはいかがだったでしょうか。

A映画『サニー/32』白石和彌門脇さんに関しては、アイドルから女優に転身する北原さんとは違って、はじめから役者です。彼女の方が年下ですけど役者としての修羅場はすでにいくつも超えていますので、こちらから何かしなくても北原さんとは違うものになるだろうなと思っていました。
まずは北原さんが異物として入ってこなければならないので、僕とすでに関係性ができている瀧さんとリリーさんが赤理を監禁する役として出てもらいました。その監禁シーンの撮影を1週間ほどやってから門脇さんが現場に入るので、北原さん、瀧さん、リリーさんの方も新しいチームワークができていて、今度は門脇さんが異物として入ることになります。台本を受け取った役者はみんな役柄のことを考えると思いますが、門脇さんは中継で映る設定ということもあって、現場のバランスは考えずに自分がよく見えることだけ考えればいいと伝えました。それが役柄とシンクロすることになるだろうと思いました。

髙橋泉:過去に罪を犯したサニーが現在どうなっているのかを、人のせいにしているのと、心が折れてすごく反省しているのと2パターン考えましたが、最終的にはその2パターンをドッキングさせました。どちらなのかは決められなかったということもあります。でも、門脇さんが出てくると、やはり赤理のサニーとは違うな、と思えました。

白石和彌「ヤバイのが出てきた!」と観ている人には思ってほしかったので、すごく情緒不安定になっていて、逆にうまくいったなと思います。

Q ところで、沖田修一監督がラップで参加しているのはどんな経緯でしょうか。

A白石和彌ラップはバカな感じにしようと思って、それをプロのラッパーの人にやってもらうのもどうかと思って外部発注することにしました。その時にNetflixオリジナルドラマ「火花」を演出した時に沖田監督が自分の回で演歌を作っていたことを思い出しました。歌詞も自分で書いて作曲家の方に曲を作ってもらったところで、歌い手が見つからなかったので「じゃあ沖田監督が歌いますか?」と言われて喜んで歌っていたのを知っていました(笑)。普段はメールを送ってもすぐ返信してこないのに、「歌ってほしいんだけど」とメールしたらすぐに返信が来ました。忙しい時期のはずなのにノリノリでやってくれました。

Q 本作を作り終えて、気づきや発見はありましたか。

A映画『サニー/32』白石和彌この映画ではネット社会を揶揄しているので、ネットとの付き合い方は個人としてもそうですし、人間社会全体としてもどうしていけばいいのかということを改めて考えました。それと、罪を犯した者に対する距離の置き方や、罪に対してどう償えばいいのかということを、これは永遠に答えが出るものではありませんので、もう一度考える機会になればいいなと思います。

髙橋泉「罪を償うことさえできない」ということがこの脚本を書く一番の熱量ポイントでした。書いても答えが出ませんでしたが、そうではなく答えが出ないものなんだということを学んだ気がします。同じことはやりませんが、いろいろな形で今後も考えたいと思っています。

Q 本作に出演して、AKB48グループを卒業して女優の道に進む北原里英さんに贈る言葉はありますか。

A白石和彌今後どんな役が来ても、これよりも大変なのはそんなにないと思いますので、堂々とやっていってほしいなと思います。僕もまた機会があれば声をかけたいと思います。

Q OKWAVEユーザーにメッセージ!

A白石和彌先々が見えない展開の読めない映画ですが、楽しんで観てもらえれば、おかしなところにたどり着ける映画になっています。必ず心に刺さる何かがあるはずなので、それがどういうことなのかを探していただければと思います。

髙橋泉『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』を観に行ったら、たくさんの女子高生たちがキャーキャーと怖がっていたので、あんな感じになればいいなと思います。でも観ているうちに考えさせられることが出てくると思いますので、笑ったり怖がったりしながら考えてもらえたらと思います。

Q白石和彌監督、髙橋泉さんからOKWAVEユーザーに質問!

白石和彌SNSは好きですか?それとSNSで他人の悪口を書いたことはありますか。

髙橋泉映画館で観る映画の料金はいくらが適正だと思いますか。

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■Information

『サニー/32』

映画『サニー/32』公開中!

“サニー”とは「犯罪史上、もっとも可愛い殺人犯」と呼ばれ、ネットなどで神格化し、世間を騒がせた事件当時11歳であった少女の愛称。その事件から14年目の夜、仕事も私生活もいまひとつの中学校教師・藤井赤理は、柏原と小田のふたりから拉致され、雪深い山麓の廃屋に監禁されてしまう。柏原と小田のふたりは“サニー”の狂信的信者であり、赤理を“サニー”と呼んだ。赤理は陸の孤島と化した豪雪地帯の監禁部屋から脱出を試みるが、それは事件の始まりに過ぎなかった。

北原里英
ピエール瀧・門脇 麦・リリー・フランキー
駿河太郎 音尾琢真(特別出演)山崎銀之丞 カトウ シンスケ 奥村佳恵 大津尋葵 加部亜門 松永拓野 蔵下穂波 蒼波 純

監督:白石和彌
脚本:髙橋 泉
配給:日活

Movie-32.jp

Ⓒ2018『サニー/32』製作委員会


■Profile

白石和彌

1974年生まれ、北海道出身。
1995年、中村幻児監督主催の映像塾に参加。以降、若松孝二監督に師事し、フリーの演出部として活動。若松孝二監督『明日なき街角』(97)、『完全なる飼育 赤い殺意』(04)、『17歳の風景 少年は何を見たのか』(05)などの作品へ助監督として参加する一方、行定勲監督、犬童一心監督などの作品にも参加。2010年、初の長編映画監督作品『ロストパラダイス・イン・トーキョー』で注目を集める。ノンフィクションベストセラーを原作とした『凶悪』(13)は、2013年度新藤兼人賞金賞をはじめ、第37回日本アカデミー賞優秀作品賞・脚本賞ほか各映画賞を総嘗めし、一躍脚光を浴びる。その他、日本警察史上最大の不祥事と呼ばれた事件をモチーフに描いた『日本で一番悪い奴ら』(16)、『牝猫たち』(17)、『彼女がその名を知らない鳥たち』(17)などがある。公開待機作として、『孤狼の血』(18年5月12日公開)がある。

髙橋泉

1973年生まれ、埼玉県出身。
2001年、俳優・監督である廣末哲万と共に映像ユニット「群青いろ」を結成し、デビュー作『ある朝スウプは』(03)は国内外で高く評価される。主な脚本作品は『ソラニン』(10/三木孝浩監督)、『ロストパラダイス・イン・トーキョー』(10/白石和彌監督と共同脚本)、『LOVE まさお君が行く!』(12/大谷健太郎監督)、『100回泣くこと』(13/廣木隆一監督)、『凶悪』(13/白石和彌監督と共同脚本)、『秘密 THE TOP SECRET』(16/大友啓史監督と共同脚本)、『ミュージアム』(16/藤井清美、大友啓史監督と共同脚本)、『トリガール!』(17/英勉監督)、『坂道のアポロン』(18年3月10日公開/三木孝浩監督)など。