OKWAVE Stars Vol.740は映画『修道士は沈黙する』(2018年3月17日公開)ロベルト・アンドー監督へのインタビューをお送りします。
Q 本作が生まれた経緯をお聞かせください。
Aロベルト・アンドーストーリーは突然に生まれます。今回も突然でした。無口でなぜその場に呼ばれたのか分からない謎めいた修道士、という本作の主人公の着想がまず浮かびました。
Q 世界経済を議論するG8の財務相会議の場を舞台にした狙いをお聞かせください。
Aロベルト・アンドー経済というものは現実的ですけれど、同時に幻想を作り出すものです。経済はこの映画の最初の方に出てくる人物と似ています。空港から修道士サルスが出てきた時に遭遇する宙に浮いた大道芸人のことです。彼は浮いているように見えますが、実際に浮いているわけではありません。この映画はそんな寓意を表しています。経済に関する様々な決定事項の多くは人々の頭越しで勝手に決められていると言ってもいいでしょう。イタリアもかつてそういった決定事項によって、経済破綻したギリシアのような危機に晒されたこともあります。
もちろん、この映画は経済についての映画ではなく、ある謎を扱っています。それは大臣たちと修道士の対立から生まれます。サルスは国際通貨基金(IMF)の専務理事であるダニエル・ロシェによって会議の場に招かれました。そのロシェの死によって大臣たちに生まれる恐怖や疑念を修道士がひっくり返していきます。そこはアルフレッド・ヒッチコックに似た引用をしました。『私は告白する』という映画で犯人が神父に告解をすることと、警察が神父に疑念を抱くところです。
Q 各国の大臣役としていろいろな国の俳優が集まりました。彼らをどのように演出していきましたか。
Aロベルト・アンドーG8は異なる国の代表が集まる場ですので、8カ国の俳優を使うのは必然でした。彼らはこの映画に出演することを喜んで来てくれました。共通語は英語でしたが、それとは別にいろいろな言葉が取り交わされる場でした。実際のG8もそうだと思います。
撮影で一番難しかったのは、その大臣たち全員がテーブルに着くシーンです。みんなが席についている周りを犬がグルグル回って、大臣たちが席を立つ、という流れですが、訓練された犬とはいえ、やはり時間はかかりました。
撮影全体としては、舞台のようにリハーサルをしてから撮影に臨むというスタイルでした。
みんな優秀で舞台や映画で活躍している俳優ばかりです。カナダの大臣役のマリ=ジョゼ・クローズはカンヌ国際映画祭でパルムドールを獲っています。ドイツのモーリッツ・ブライプトロイもベルリン国際映画祭男優賞を獲っていますし、イタリア人の2人、サルス役のトニ・セルヴィッロは言うに及ばず、イタリアの大臣役のピエルフランチェスコ・ファヴィーノも優秀な役者です。各国の優秀な俳優と仕事ができるのは特権的でしたし、やりがいもありました。
そして現代の政治家というものは、いわば俳優と同じ性質があるので、それを演じさせるということは彼らにとってぴったりの仕事だったとも言えます。
Q キリスト教の背景を踏まえての鑑賞ポイントがあれば教えてください。
Aロベルト・アンドー何より、この修道士のユーモアを理解してほしいです。サルスは修道士である前に一人の人間です。彼は戒律に従って沈黙という武器によって、政治家たちに立ち向かいます。サルスにはアイロニカルな面があります。例えば、鳥の絵を見せるシーンでは、政治家たちはその意味を真面目に議論しますが、サルスは毎回彼らの問いかけをはぐらかしていきます。つまり、ゲームのやり手として非常に優秀だということです。サルスは修道院の沈黙の中で生活することを選びました。そこで得た力というものは魂の力としか言いようがありません。映画を観る人たちには彼の仕掛けるゲームに乗っていただくことを期待しています。彼の知性と慈悲の心を感じてもらえたらと思います。
■Information
『修道士は沈黙する』
2018年3月17日(土)よりBunkamuraル・シネマほか全国順次ロードショー
ドイツ、ハイリゲンダムの空港にイタリア人修道士ロベルト・サルスが降り立つ。彼は迎えの車に乗り、ある国際的な会合が開かれる場に向かう。バルト海に面したリゾート地の高級ホテルで開かれる予定のG8の財務相会議。そこでは世界市場に多大な影響を与える再編成の決定がくだされようとしている。それは貧富の差を残酷なまでに拡大し、特に発展途上国の経済に大きな打撃を与えかねないものだ。
会議の前夜、天才的なエコノミストとして知られる国際通貨基金(IMF)のダニエル・ロシェ専務理事は、8カ国の財務大臣と、ロックスター、絵本作家、修道士の異色な3人のゲストを招待して自身の誕生日を祝う夕食会を催す。会食後、サルスはロシェから告解がしたいと告げられる。翌朝、ビニール袋をかぶったロシェの死体が発見される。
自殺か、他殺か?殺人の容疑者として真っ先に浮上したサルスは、戒律に従って沈黙を続ける。間近に迫るマスコミ向けの記者会見。ロシェの告解の内容をめぐり、権力者たちのパワーゲームに巻き込まれたサルスは自らの思いを語り始める。果たして謎の死の真相は?そしてロシェがサルスに託したものとは。
監督・脚本・原案:ロベルト・アンドー
脚本・原案:アンジェロ・パスクイーニ
出演:トニ・セルヴィッロ、ダニエル・オートゥイユ、コニー・ニールセン、マリ=ジョゼ・クローズ、ランベール・ウィルソン、モーリッツ・ブライプトロイほか
配給:ミモザフィルムズ
(C)2015 BiBi Film-Barbary Films
■Profile
ロベルト・アンドー
1959年、イタリア、パレルモ出身。フランチェスコ・ロージ、フェデリコ・フェリーニなど名だたる映画監督の助監督を務める。2000年にジュゼッペ・トルナトーレ製作の映画『Il manoscritto del Principe』(未)で長編監督デビュー。その後、オペラや舞台の演出を多く手掛け、携わった作品はオペラ17作品、舞台14作品に及ぶ。2000年にはフランチェスコ・ロージのドキュメンタリー映画『Il cineasta e il labirinto』(未)を監督。その後も、カンヌ国際映画祭のクロージングを飾った『そして、デブノーの森へ』(04)や『Viaggio segreto』(06/未)と次々に作品を発表。『ローマに消えた男』(13)で、ダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞2013最優秀脚本賞をはじめとした数多くの賞を国内外で受賞。