OKWAVE Stars Vol.751は映画『泳ぎすぎた夜』五十嵐耕平&ダミアン・マニヴェル監督へのインタビューをお送りします。
Q 共同監督で本作を作ることになったきっかけは何だったのでしょう。
A五十嵐耕平ロカルノ映画祭に行った際に、あるランチに参加してダミアンたちのクルーと同じテーブルになったのが最初の出会いです。彼が日本語で話しかけてくれて、仲良くなりました。その後、ダミアンが日本に来た時にも会って話をしていると、映画の作り方や考え方が似ているなと思いました。やりたいことが似ているから、一度一緒に撮ろうかという話になりました。
Q マニヴェル監督は日本との関わりは何だったのでしょうか。
Aダミアン・マニヴェル私の奥さんが日本人なので日本語も少し話せます。日本への興味はそこからです。フランスとは全然違いますし、日本人の友達もできましたし、日本語を勉強するのも好きです。今はパリに住んでいますが、日本に住むのもいいなと思っています。
Q 本作『泳ぎすぎた夜』ですが、弘前で撮ることにした経緯をお聞かせください。
A五十嵐耕平自分一人で撮る時もそうですが、経験していないところで撮りたいと思いました。今回は共同監督なので、どちらかが知っていることだと2人の間に差がついてしまうので、そうではない環境を選びました。僕は子どもが主役の映画を撮りたいと思っていて、僕もダミアンも子どもの映画を撮ったことはなかったです。ダミアンは雪を撮りたいと言っていて、僕も撮ったことがなかったので、その2つを題材にしました。弘前は仕事で行ったことが何回かあって好きな場所だったので、ダミアンに紹介して気に入ってもらったので、ここで撮ることにしました。
Q 共同監督ということでは映画作りはどのように進めたのでしょうか。
Aダミアン・マニヴェル半分フィクションで半分ドキュメンタリーのような映画を撮りたいと思っていました。それで面白い子どもを探し始めました。
五十嵐耕平そこからプロットを考えていきました。主役の子どもが古川鳳羅(こがわ たから)くんに決まってから細かい部分は変わっていきました。事前に考えたことに対して、鳳羅くんが演じたことで現場で起きたことに合わせて更新していくようなやり方でした。撮影の最後までそのやり方で進めました。
Q 古川鳳羅くんはイベント会場で見かけた面白い子だったとのことですが、映画出演はすぐに決まったのでしょうか。
五十嵐耕平ご家族にもお話をして、鳳羅くんは最初から映画出演にずっと乗り気でした。すぐには決まりませんでしたが、鳳羅くんがずっと「出たい」と言い続けていたそうで、それで出てもらえることになりました。
Q 撮影はスムーズに進んだのでしょうか。
五十嵐耕平雪もありましたし、鳳羅くんが撮影の途中で遊びたいと言い出たりもして、1カット撮るのに数時間かかることもありました。同じことを繰り返しはできないので、やり直しをしない前提でこちら側はできる限りの準備をして、鳳羅くんの演技の可能性を狭めないようにしました。
Q 共同監督の役割分担のようなことはあったのでしょうか。
Aダミアン・マニヴェル役割は全部同じでした。
五十嵐耕平あえて挙げれば、僕の方が日本語での説明ができるので、鳳羅くんにシーンの説明をすることは多かったです。でも、ダミアンが説明することもありましたので、やはり役割が明確に分かれていたわけではありません。
Q 撮影を通じて何か新しい発見はありましたか。
Aダミアン・マニヴェル初めて子どもの撮影をしましたが、鳳羅くんは1テイクのみ、がんばっても2テイクまででした。だから、その1テイクで起きたことを基に次のことを考えるという作り方をしました。他の映画では10テイク撮ることもできますので、映画の作り方が全然違うところが発見でした。
五十嵐耕平子どもってこんな感じだろうなというイメージを持って撮影に入りましたが、子どもとは精神的にもすごく複雑なものだと思いました。鳳羅くんは大人のことをいろいろ見ているし、知っていたり気づいていることもたくさんありました。子どもには純粋無垢なイメージがありますが、もっと人間らしくて、それがむき出しになった状態で、見ているのは面白かったです。
Q 個人的には鳳羅くんが雪の降りしきる市場の駐車場でお父さんの車を探すシーンが印象的です。
Aダミアン・マニヴェルあのシーンは急に撮影が決まりました。「駐車場ではすごく雪が降っている」という設定だったので、別のシーンの撮影の準備をしている時に理想的な降雪になったので、急遽このシーンを撮ることにしました。
五十嵐耕平ちょうどお昼時で、お父さんが市場から家に帰る頃だったので、鳳羅くんはお父さんに会えると思ったようです。『泳ぎすぎた夜』を観てくださった方ならわかると思うんですが、それはこの映画と同じ展開です。そういうことが起こるのも面白いなと思いました。
Q セリフがほぼ無いというところはいかがだったでしょう。
A五十嵐耕平演技経験のない鳳羅くんだから、というよりは意図的にそうしました。雪の中にいるとすごく静かなので、その感覚を活かしたいと思いました。鳳羅くんに関しては、表情や動きを見てもらえれば、セリフを言わなくても伝わってきます。この映画はお父さんとの関係性を映し出してもいるので、静けさは距離とも関係しているので、セリフがないことで、その距離感の感覚を出したいなと思いました。
Q 映画祭などでのこれまでの反響はいかがでしたか。
Aダミアン・マニヴェル反応はすごく良かったです。東京フィルメックスでも、ヴェネチア国際映画祭でもたくさんの人に観てもらえました。いろんなリアクションがありましたが、お父さんと息子の話にみんな共感できたようです。
五十嵐耕平自分が小さな頃のことを思い出されたり、父親との関係性というものはどこの国でも共通なので、そんなところも良かったと思います。
Q 今後は、どんな作品を撮っていきたいですか。
Aダミアン・マニヴェル次の映画はフランスで撮ります。今度は大人の話です(笑)。
五十嵐耕平次は鳳羅くんより少し上のティーン・エイジャーの話を撮りたいなと漠然と考えています。日本だと学園モノや家族モノ、恋愛モノが多いですが、それらとは違うアプローチができないかと考えているところです。
Q 本作に限らず、映画作りでこだわっていることや大事にしていることは何でしょう。
Aダミアン・マニヴェルHonest(正直)なものを撮りたいと思っています。それが大事なものだと思います。
五十嵐耕平僕達が撮っている映画は現実の何かを映し取っています。だから自分の考えではなく、その起きていることを受け入れて、自分と相手や周りとの対話によって作られていくということを大切にしています。だから僕自身のイメージは一番大事なことではないです。
Q OKWAVEユーザーにメッセージ!
A五十嵐耕平この映画はノスタルジーではなく将来のためのものだと思っています。子どもの頃には、この映画の中で子どもが学校に行かずに父親のところに行くというような、ルールを破ったり、めちゃくちゃだったりあいまいな行動を取ることがあったと思います。大人になるとそんな行動はしなくなります。この映画の鳳羅くんのようにもう少し自由に行動できるんじゃないかなと思います。鳳羅くんの様子をかわいいと思って観ていただいてもいいですが、彼が何かにチャレンジしている様子を感じ取ってもらえたらいいなと思います。
ダミアン・マニヴェルこの映画は他の映画とはかなりスタイルが違ってオリジナリティがあると思います。だからぜひ観てください。
QOKWAVEユーザーに質問!
五十嵐耕平皆さんはどんな子どもでしたか。とくに思い出深い善い行い、または悪事(笑)をお聞かせください。
ダミアン・マニヴェルこの映画の撮影前にいろいろな人にインタビューをしました。その際に「子どもの頃にどんな冒険をしましたか」ということを必ず聞きました。最初はみんな「無い」と答えましたが、そのうちに「そういえば一人で買い物に行った」「一人で乗り物に乗ってどこかに行った」と何かしら思い出していました。質問は、皆さんの子どもの頃にどんな冒険をしたかぜひお聞かせください。
■Information
『泳ぎすぎた夜』
2018年4月14日(土)より[シアター]イメージフォーラムほか全国順次公開
雪で覆われた青森の山あいにある小さな町。夜明け前、しんしんと雪が降り積もり、寝静まった家々はひっそりと暗い。漁業市場で働いている父親は、そんな時刻にひとり目覚め家族を起こさないように、静かに仕事に行く準備を始める。出掛ける前には、それが毎日の日課というように台所でゆっくりと煙草をふかす。しかし、なぜだかこの日に限って、その物音で目を覚ました6歳の息子。父親が出て行ったあと、彼はクレヨンで魚の絵を描く。そして翌日。結局寝ることができず、うつらうつらしたままの少年は眠い目を擦りながら歯磨きをして、家族と朝食をとり、学校に出かける。だが、登校途中に彼は、学校には向かわず、雪に埋もれた道なき道をさまよい始める。父親に、このぼくの描いた絵を届けに行こう、そう思ったのか、父親が働く市場を目指す。この日、少年にとっての新しい冒険が始まる。朧気な記憶を頼りに、手袋を落っことし、眠い目を擦りながら。
監督:五十嵐耕平、ダミアン・マニヴェル
キャスト:古川鳳羅(こがわ たから)、古川蛍姫、古川知里、古川孝
© 2017 MLD Films / NOBO LLC / SHELLAC SUD
■Profile
五十嵐耕平
1983年、静岡生まれ。
東京造形大学在学中に制作した映画『夜来風雨の声』が Cinema Digital Seoul Film Festival (CINDI) に出品され韓国批評家賞を受賞。2014年、東京藝術大学大学院映像研究科にて制作した修了作品『息を殺して』は第67回ロカルノ国際映画祭に出品され、その後全国劇場公開された。また近年はD.A.N.や[Alexandros]等のミュージックビデオも手がけている。
ダミアン・マニヴェル(Damien Manivel)
1981年フランス・ブレスト生まれ。
コンテンポラリー・ダンサーとして活躍後、ル・フレノワ国立現代アートスタジオにて映画を学ぶ。短編『犬を連れた女』は2011年ジャン・ヴィゴ賞を受賞、短編4作目の『日曜日の朝』は2012年カンヌ国際映画祭の批評家週間短編大賞を受賞。初長編映画となる『若き詩人』はロカルノ映画祭特別大賞を受賞、2015年に日本でも劇場公開された。長編2作目の『パーク』は2016年カンヌ国際映画祭に選出された。