OKWAVE Stars Vol.758は映画『29歳問題』(2018年5月19日公開)キーレン・パン監督へのインタビューをお送りします。
Q ご自身の舞台を映画化されましたが、元々の舞台版を生み出したきっかけをお聞かせください。
Aキーレン・パン私はずっと舞台女優をしていました。その頃から自分で脚本を書いて演じたいと思っていました。でも、自分の脚本にあれこれ言われてしまうくらいなら、よく知っている劇場で自分一人で自分の言いたいことを言えるようなものをやりたいと思っていました。当時私は30歳で、私自身は30歳という年齢に何も感じていませんでしたが、周りの友だちはその年齢のことで大騒ぎしていて、びっくりしてしまいました。それをテーマに脚本を書いて自分で演じたら面白いのかなと思ったのがきっかけです。
Q その舞台版が好評を博して映画化に至りましたが、映画化にあたってはどんな事を考えましたか。
Aキーレン・パン2つの作業があると思いました。まず、一人芝居だった舞台版をどのように映画化するのかです。ストーリーを変える必要はないと思いました。翻案するにあたって、新たな人物や場面を加えましたが、主要人物の2人の女性についてはそのまま残しました。もう1つは実際の撮影です。私は映画監督の経験はそれまでにはありませんでしたが、幸いにも何年も舞台に立っていたので、自分なりの好みやリズム、あるいは物語をどう語るのかという演出については、その経験が非常に役立ちました。
Q 映画化にあたっては、どんなところを大切にしようと思いましたか。
Aキーレン・パン映画製作はチームワークです。私がやりたいことを伝えてみんなに理解してもらうのは簡単ではなかったです。私が監督ですから、撮影する時に自分の求めることをはっきり伝えないと、みんな困ってしまいます。時には私自身、何を求めているのか分からなくなることもありました。だから監督の立場はすごく大事だと思いました。
Q ご自分で演じてきたクリスティとティンロを他の女優に託すにあたって、どんな演出をしましたか。
Aキーレン・パンまずクリスティ役のクリッシー・チャウさんについては、クリスティを演じるにあたって彼女の身体から2つの感情を見つけようとしました。1つは怒り、もう1つは心の脆さです。この役柄は見た目は強いけれど実際にはそんなことはないです。クリッシーさんは普段怒ったりしないので、彼女の中から怒りの感情をどう見つけ出すかが難しかったです。心の脆さが顕になるところについてはとても期待していました。
ティンロ役のジョイス・チェンさんにはいかに自信を持ってもらうかを考えました。ジョイスさんはいつも自分が演技ができないんじゃないかと不安を口にしていました。だから「やればできるよ」と、気軽に楽しめるような環境を用意して自信を持って演じてもらいました。
Q 香港ではクリスティとティンロのどちらの目線から映画を観られることが多かったでしょう。
Aキーレン・パン観客の多くはクリスティに自分を投影していました。自分の中にもティンロのような一面を見出したいと思っているようでした。学生の頃はティンロのようなタイプも多いと思います。でも、社会人になってからは、働き出して大きなプレッシャーを受けたり、同じような毎日を繰り返していると、段々とクリスティの方に傾斜していきますよね。
Q 映画を撮ったことでこの作品への新しい発見はありましたか。
Aキーレン・パンこの映画を撮る時も編集する時も自分の感覚に基づいて作業をしました。完成した作品を関係者に見せたところ「あなたらしい作品ですね」と言われました。この「あなたらしい」とはどういうことだろうと考えました。もしかしたら私なりの一つのスタイルができあがっているのかなとも思いました。映画監督は初めてでしたが、舞台で築き上げた何かを映画の中にも取り入れることができたので、観客にも「この作品は舞台も映画も同じ人が作ったんだ」とちゃんと思ってもらえるのかなと思いました。
Q 香港で大ヒットを記録されたとのことですが、映画版の成功をどう受け止めていますか。
Aキーレン・パン大ヒットは意外でした。こんなに喜んでもらえるのかと、率直に嬉しかったです。でも、ある程度まではこの物語が持っている力を信じたいと思っていました。実は映画公開前から私なりの自信はあったんです。それは上映できる質の作品ができたという自信で、皆さんがどう受け止めるかということとは別物でした。
Q 映画の中では90年代の香港の芸能界へのオマージュや小ネタが多々織り込まれているとのことですが、その観点でチェックしておくと面白いことなど教えてください。
Aキーレン・パンクリスティと父親が昔風の喫茶店に行く回想が出てきます。でも今の香港にはああいった様式の喫茶店はもうほとんどないんです。そこで出てくるコーヒーとクリームケーキの組み合わせは定番なので香港に来ると映画と似ているところとそうでないところを発見できると思います。もう1つ例を出すと、ティンロが働いている昔風のレコードショップです。今の香港ではミュージックショップは大型店しか無いです。よくよく見ていただくと、そのレコードショップのCDの棚には女性2人組のTwinsとか2005年当時のヒット曲を並べています。他にもティンロが友人のチョン・ホンミンと遊びに行った遊園地や昔風の文房具屋さんも今では見られないものです。私としてはそういった昔感覚のものを再現したいと思いました。それと『花様年華』のポスターをクリスティが友だちに誕生日プレゼントとして渡しましたが、後日クリスティがその友だちに電話をかけた際に、その彼女と彼氏がポスターとそっくりなポーズで電話に出ているので、ぜひ注目してください(笑)。
Q キーレン・パン監督からOKWAVEユーザーにメッセージ!
Aキーレン・パンこの映画は日本の皆さんにも気に入ってもらえると思います。日本と香港は生活のリズムも似ていますし、文化的にもお互いに影響し合っています。私はこの映画を携えて日本に3回来ましたが、上映後に皆さんから「この映画が好きだ」と言ってもらえました。ぜひ劇場でご覧ください。
■Information
『29歳問題』
2005年、香港。30歳を目前に控えたクリスティ。勤め先の化粧品会社では働きぶりが評価されて昇進、長年付き合っている彼氏もいて、周囲も羨むほど充実した日々を送っている。
が、実のところ、仕事のプレッシャーはキツいし、彼氏とはすれ違いがち、実家の父親に認知症の症状が出始めたのも気がかりだ。そんなある日、住み慣れたアパートの部屋が家主によって売却され、退去を言い渡されてしまう。
とりあえず見つけた部屋は、住人がパリ旅行に行っている間だけの仮住まい。エッフェル塔をかたどった壁一面のポラロイド写真や、女の子らしい小物でいっぱいのその部屋で、クリスティはそこに住んでいるティンロという女性の日記を見つける。偶然にも誕生日が同じだと分かって、部屋の主に俄然興味を持ち始めたクリスティは、そこに書かれているティンロのささやかな日常に知らず知らずのうち惹かれていく…
監督・脚本:キーレン・パン
挿入歌:レスリー・チャン、ビヨンドほか
キャスト:クリッシー・チャウ(『西遊記~はじまりのはじまり~』)、ジョイス・チェン(『コールド・ウォー 香港警察 二つの正義』)、ベビージョン・チョイ、ベン・ヨン提供:ポリゴンマジック
配給:ザジフィルムズ/ポリゴンマジック
公式サイト:29saimondai.com
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■Profile
キーレン・パン
1975年2月11日香港生まれ。
香港で最も有名な舞台女優で舞台演出家。クロスメディア・クリエーター、作家、脚本家としても活躍。
名門芸術大学である香港演芸学院・表演学科を卒業。1998年に香港で最も古い歴史を持つ商業劇団中英劇団の専属俳優となり、舞台演出、作曲、振付、プロデューサーなどを務める。2003年退団。2004年に香港戯劇協会の奨学金でパリの演劇学校スタジオ・マジュニアで学ぶ。2005年、舞台芸術と文化の普及のために香港にキーレン・パンプロダクションズを設立して数々の舞台を手掛ける。2005年に発表した制作、脚本、主演を兼ねた初めての一人芝居『29+1』は高い評価を得て、2013年までに6回の再演を行っている。2008年には一人芝居『再見不再見』で香港戯劇協会舞台劇奨最優秀主演女優賞を受賞した。
2006年、パン・ホーチョン脚本・監督の映画『イザベラ』(ベルリン国際映画祭銀熊賞受賞)の脚本を共同執筆して、映画界と繋がる。同作のノベライズ本も執筆した。2017年、自作の芝居『29+1』を映画化して監督デビュー。ニース国際映画祭2017で外国語映画最優秀監督賞を受賞した。