Vol.763 映画監督 ジョン・ウィリアムズ(映画『審判』)

映画監督 ジョン・ウィリアムズ(映画『審判』)

OKWAVE Stars Vol.763は映画『審判』(2018年6月30日公開)のジョン・ウィリアムズ監督へのインタビューをお送りします。

Q 現代の東京を舞台にカフカの「審判」を映画化しようと思ったきっかけをお聞かせください。

A映画『審判』ジョン・ウィリアムズ初めて原作を読んだのは14歳の時です。その頃まで読んでいた他の小説と比べると「何だこれは」と思う作品でした(笑)。不条理ですし、夢なのか現実なのか、「鞭を打つ人」のような何者か分からない人物も出てきますし、ずっと心の中に引っかかり続けていました。
3.11震災後、日本全体が政治も含め不安になっていると感じました。不条理な方向に走っているようにも感じ、「審判」を元にした演劇作品の台本を書き、上智大学で上演しました。上演後、映画化したいという気持ちが自分の中に残っていました。舞台の準備を行っていた2年間は、アメリカもイギリスもそうですが、日本の政治の方向性も更に不安になりました。それで、舞台を現代の東京として、新しく台本を書き、映画化を決めたのです。
原作では最初に出てくる監視人2人を、映画では最後まで登場させる、といった翻案をしていますが、原作の構成そのままに各話ごとに脚色していきました。

Q 映画ならではのどんな表現を心がけましたか。

Aジョン・ウィリアムズ現代の東京を撮るので、美術や造形ではなく、カメラワークで不安を描くこととしました。また、現代の東京でありながらどこか歪んでいる、ということを描くことも挑戦でした。人形劇のシーン以外はリアルな世界を作り上げましょうと撮影監督らと話しました。カメラワーク、照明、ロケ地といったことでこの「審判」の世界を描きました。

Q 撮影前のリハーサル期間を長くとったそうですね。

A映画『審判』ジョン・ウィリアムズ今回の映画版には舞台版の役者が多く出演しています。舞台版はワークショップ形式でしたので、役者同士が仲良くなって信頼関係ができあがっていました。ですが映画は別物ですので、演劇で作った世界観を一度壊すのに時間がかかりました。また、役者たちには舞台版とは異なる役を用意しました。原作からして、逮捕された理由が語られていないし、そういう現実的ではない設定をどうリアルに演じるかについて、主演のにわつとむさんとも長い間、話し合いました。他の登場人物もリアリティを出すために、映画の中には出てこない裏設定を用意して、演じる役者だけに伝えました。舞台では表現できないことが映画ではできるので、そういう部分に時間をかけました。

Q 演出の際に心がけたことはいかがでしょうか。

Aジョン・ウィリアムズつとむは僕のデビュー作の『いちばん美しい夏』にも出演していますが、その作品はとても撮影期間が長かったんです。なので、撮影中に現場で思いついたことを試したり、偶然起きたことも映画の中に入っています。それに比べると今回は撮影日数も短かったので、カメラアングルをはじめ、撮影の予定は全て事前に決めて臨みました。

Q 印象的な撮影エピソードをお聞かせください。

A映画『審判』ジョン・ウィリアムズ子どもたちが観客として出てくる人形劇のシーンでは子どもたちを怖がらせるはずが、怖がってくれないという予期しないことがありました(笑)。その人形劇のシーンを撮る前は、助監督が「子どもたちにこんな残酷なものを見せてよいのか」とすごく心配していましたが、蓋を開けてみると子どもたちが面白がって見ていたのがおかしかったです。

Q 主人公のKこと木村が追い詰められていくのが怖いですね。

Aジョン・ウィリアムズそこは原作どおりですが、私の友人が突然逮捕された実際の出来事や、私がイギリスに住んでいた頃、警察から捜査中の犯罪者と間違えられた経験が反映されています。当時のイギリスは今よりも警察が優しくはなかったので、犯人と間違えられた時はとても怖かったです。何も悪いことをしていなくても、人間はどこかに罪悪感や弱さを抱えています。この映画の木村には誰もが感情移入できると思います。
また、日本の社会全体が与えるプレッシャーのようなものを描きました。日本に初めて来た当時は気づいていませんでしたが、数年いると日本社会のプレッシャーにも気づくようになりました。昨年、イギリスに一時帰国していて感じましたが、イギリス社会もおかしな方向に向かっているところもありますが、日本社会と比べると個人の自由がまだあるように感じました。自分の意見を言える余地がまだあるんですね。日本社会では自分の意見を強く言えるような余地がなくなってきているように感じます。日本の60~70年代の映画を観ればすぐ分かりますが、社会に対する強い反発のようなものが今は足りない気がします。批評のない社会が本当に良い社会なのか。周囲を気にしているところは、木村という個人を描きながらも彼は日本社会というものの象徴でもあると思います。

Q 木村の周りに現れる女性たちの描き方についてはいかがだったでしょうか。

A映画『審判』ジョン・ウィリアムズそこはかなり悩みました。原作では、急に主人公のKの魅力が増して、ジェームズ・ボンドのような存在になってしまいます。この映画ではそうは描きませんでした。現代の日本社会はまだまだ男社会なので、女性は自分らしく生きられないと思っています。そのため、ある種のお面をかぶって女性のキャラクターを演じている、というところを描きました。作ったキャラクターで社会の中での地位を得るためのゲームに参加している、というところを見せようとしましたが、うまく描けたのか、とくに女性がどう思うのかは映画が公開されて意見を聞いてみたいところです。

Q 本作を作り終えて、新しい発見などはありましたか。

Aジョン・ウィリアムズ編集を終え、映画が完成した段階である種の落ち着きが得られますが、映画はお客さんに観てもらうことで、初めて生き物になります。私が気づいていないことを指摘してもらって新しい発見があると思います。それが楽しみ、というよりは怖いところですね(笑)。

Q 監督は上智大学外国語学部英語学科の教授でもありますが、監督の映画キャリアをお聞かせください。

Aジョン・ウィリアムズ14歳の頃にとあるドイツの映画を観た時に、自分も映画監督になりたいと思いました。でも、80年代のイギリスの映画業界は不況で、イギリスでは映画監督になるのは難しかったです。そこで日本に来てお金をためてアメリカの映画学校で勉強をしようと思いました。でも5~6年、日本に住み、短編映画を撮っているうちに、アメリカに行くという選択はつまらないなと思うようになりました。映画学校には行ったほうが良かったかもしれませんが、映画だからアメリカ、という選択をしなくて良かったと今でも思います。それで、映画学校に行くつもりでためたお金で映画を撮り、途中いろいろな失敗もありましたが、映画学校に通ったような自信もついて、2001年に長編『いちばん美しい夏』を撮ってデビューしました。私はずっと日本で8ミリの自主映画を撮ってきて、それで映画監督になることができました。

Q ジョン・ウィリアムズ監督からOKWAVEユーザーにメッセージ!

Aジョン・ウィリアムズこれは説教っぽい映画ではありません。ある種のエンタテインメントですので、まずはサスペンス映画のように観ていただければと思います。その中でどこかで見た光景が見つかるかもしれません。私からのメッセージは映画の中に全て込めましたので、ぜひ映画をご覧ください。

Qジョン・ウィリアムズ監督からOKWAVEユーザーに質問!

ジョン・ウィリアムズこの映画のテーマの一つに、自由とは何か、というものがあります。みなさんへの質問ですが、自分自身はいま、自由に生きられていると思いますか。

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■Information

『審判』

映画『審判』2018年6月30日(土)渋谷・ユーロスペースにて公開ほか全国順次

木村陽介。銀行員。30歳の誕生日に、逮捕。罪状不明。
現代の東京。銀行員の木村が30歳の誕生日の朝、自宅マンションのベッドで目覚めると、部屋にはふたりの見知らぬ男たちが佇んでいた。彼らは「逮捕」を告げにきたと言う。でも罪状は不明。無実を主張すればするほど、蜘蛛の巣のような“システム”に絡みとられ、どんどん身動きができなくなっていく。ここから抜け出す方法はあるのか?救いを求めてあがくものの、期待はことごとく外れていく。そして、木村は出口のないこの迷路の終焉に、気づき始めるのだった。

出演:にわ つとむ、常石 梨乃、田邉 淳一、工藤 雄作
坂東 彌十郎(特別出演) 、高橋 長英、品川 徹ほか
監督・脚本:ジョン・ウィリアムズ
原作:フランツ・カフカ「審判」
製作・配給・宣伝:百米映画社

公式サイト:www.shinpan-film.com

(c) Carl Vanassche


■Profile

ジョン・ウィリアムズ

映画監督 ジョン・ウィリアムズ(映画『審判』)英国生まれ、1988年来日。プロデューサー、映画監督、脚本家。上智大学外国語学部英語学科教授。
デビュー作『いちばん美しい夏』(01)は、ハワイ国際映画祭でグランプリを獲得し、カルロヴィ・ヴァリ国際映画祭インターナショナル・コンペティション部門NETPAC賞など、各国の国際映画祭で受賞。佐藤浩市、木村多江主演の『スターフィッシュホテル』(07)は、ルクセンブルグ国際映画祭でグランプリ。佐渡島を舞台にした3作目『佐渡テンペスト』(13)は、シカゴ国際映画音楽祭にてグランプリを受賞。本作が長編4作目となる。