OKWAVE Stars Vol.766は「ウォーター・バイ・ザ・スプーンフル~スプーン一杯の水、それは一歩を踏み出すための人生のレシピ~」主演の尾上右近さんへのインタビューをお送りします。
Q 現代劇は初挑戦とのことで、オファーをどう受け止めましたか。
A尾上右近あらすじを読ませていただいた第一印象は率直に難しかったです。ですが、何度か台本を読むうちに主人公のエリオットの気持ちや、作品が伝えたいこと、海外と日本の共通点など、いろいろなことが少しずつ見えてきました。まず感じたのは、ネット社会と薬物という今の社会の大きな問題が題材にあって、両者にそれぞれ付随する人の気持ちや痛みのようなものがテーマになっているのだろうということ。それは国境や時代を超えた普遍的なテーマなのだと。人の心がどのように動いて、何に支えられているのか。人と人のつながりや想いによって人は生きていける、そういうことが描かれているんだと理解できました。
それは歌舞伎でも同様です。歌舞伎の演目は今とは違う時代や生活を描いていますし、武士道のような今の時代にはないテーマの演目もあります。しかし、そういう身近ではないテーマであってもそこに向き合う心の動きに感動する演劇だと歌舞伎のことを捉えることもできます。ですので、演劇というものは人の心がテーマなんだと、この台本を読ませていただいた段階で改めて思いました。初めての現代劇で主演ということで、こういった人の心を描いた作品なので出演させていただけることはありがたいと思いました。
Q 共演の方々についてお聞かせください。
A尾上右近共演の皆さんには、百戦錬磨の舞台人の方も多く、ご一緒できるのが嬉しかったです。初めてお会いする方が多く、なかでも南沢奈央さんが演じるヤズミンはエリオットと一番距離が近いので、顔合わせ本読みもお隣りでしましたが、これだけ距離感の近い役を演じる相手が初めてお会いする方というのも不思議な感覚で面白かったです。皆様に対してついつい遠慮してしまうのを、1ヶ月近い稽古を通じてどれだけ近づけるのか。それは役にも引っ張られることだと思いますので、そこがエリオットを演じる上で楽しみの一つです。歌舞伎の世界では初めてお会いする方と演じる、ということがまずないです。これが現代劇のスタート地点なのかとも思いました。
Q エリオットの役作りについてお聞かせください。
A尾上右近歌舞伎では通常は演出家と呼ばれる人がいないので、演出家のいる現代劇ではその意向に従うことが大事だと思っています。ですが、「どうしたらいいですか」と聞いて従うのと、「こういう風にやってみたいです」と提案して取捨選択していただくのは違います。G2さんは役者のやり方を尊重してくださる演出家さんですし、僕は初めてで分からないことも多いと思いますが、まずはやってみて自分なりのパターンをいろいろ考えることが大事だと思っています。いろいろ考えて、どんどん良い提案ができるよう進めていきたいです。
Q 境遇のまったく違う、イラク戦争の帰還兵という役柄ですが、エリオットとは何か共通点はありますか。
A尾上右近エリオットの中にある自分の気持ちへの戸惑いは、僕も年齢が近いので感じられるところです。エリオットが母親に対して感じる距離感や、気持ちを上手く伝えられないのはこの年頃ならではだと思います。20代にもなると人に聞くわけにもいかないですし、自分で解決しなければならないことが前提です。エリオットもそれを感じているからこそ自分で抱えたままでいますし、距離感の近いヤズミンにも言えないことがあります。その気持ちは僕も分かります。
Q オンラインでの会話とオフラインのシーンが出てきますが、舞台上ではどの様になるのでしょう。
A尾上右近エリオットとヤズミンはオフラインの現実世界での芝居が中心になります。それと、オンラインにいる人たちのチャットでの会話が、静と動のように動きで見せていくところもあると思います。G2さんが考えられたネット空間と現実世界を行き来するような視覚的な舞台空間も面白いですし、僕らが動くことでそれをより良く見せられたらと思います。
Q エリオット役の見どころをお聞かせください。
A尾上右近エリオットはボクシングジムに通っていますし、サブウェイで働いていたり、幽霊と対峙する場面もあります。ヴァーチャルな世界と現実世界の話ですが、エリオットに関しては、自分の中に現れる幽霊が舞台上にどう表現されるのか、僕自身も楽しみにしているので、観ていただく皆さんも楽しみにしていていただきたいです。
Q 会話劇ですが独特な感触がありますね。
A尾上右近翻訳劇ということもあるかもしれません。翻訳された言葉を僕らが日常会話として話すせめぎあいも面白いと思います。G2さんからは話しやすい言葉に変えてもいいとも言われていますが、翻訳した言葉を自分の言葉として発することは今回習得したい項目の一つだと思っています。
Q 本作で繰り広げられるオンライン上のコミュニケーションにちなんで、そういったネット上のコミュニケーションについて思うところはいかがでしょう。
A尾上右近ネット上だと、実際に喋る言葉よりも発信されるまでが遅くなるので、自分の考えをまとめられます。会話の速度や思いを伝える速度が大事なことかなと思います。その気になれば喋るような速度でコミュニケーションを取ることもできますし、しっかり考えてから伝えることもできる空間だと思います。登場人物の“ミネラルウォーター”がどう投稿するかを考えている描写はすごく面白いです。それに対して、“あみだくじ”と“オランウータン”のふたりは喋っているような速度でチャットをするシーンもあります。ネットと比べると、手紙はどんなにがんばっても届くまでには時間がかかります。会話の場合、喋る間に考えをまとめる時間を強いられますし、時には急かされているような感覚になることもあります。そのどちらもできるのがネットならではの速度なのだと思います。
Q いろんな世代の方に伝わる題材だとは思いますが、とくにどんな世代の方に観てほしいですか。
A尾上右近とくに同年代の方など、若い人に観てもらいたいなと思います。
この作品は人の心が静かに描かれています。それぞれの人生の解決への道が面白く作られていて、僕もその面白さを伝えたいと思っています。相対するだけではなく、チャットの中でも人生の問題の解決に向かう描写があります。“劇的”ではない劇ですが、それは悪いことではなく、むしろ新鮮なお芝居だと思っています。日常に近い人の心のリアルさをそのまま舞台にしたような作品ですので、そこをぜひ観に来ていただければと思います。
■Information
「ウォーター・バイ・ザ・スプーンフル~スプーン一杯の水、それは一歩を踏み出すための人生のレシピ~」
東京公演:2018年7月6日(金)~22日(日)紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYA
大阪公演:2018年8月4日(土)サンケイホールブリーゼ
オデッサは、特殊なサイトを運営しているサイト管理人だ。そのサイトは、何千マイルも離れてまったく異なる職業につきながら、ある共通点を持った人々が集まるサイトだった。ヘロイン、コカインといった依存性のあるドラッグ中毒者たちである。無職の者、税務署職員、起業家などなど。管理人のオデッサ自らも元薬物中毒者であり、かつて幼い娘と息子を依存症のために見殺しにしかけ、娘を失った過去を持っていた。
オデッサの息子エリオットは、イラク戦争に出兵して肉体的にも負傷すると共に、あることで心の傷を負っていた。また足の負傷をきっかけに、心ならずも薬物中毒となった経験を持っている。そして、彼のよき理解者であり従兄弟である大学非常勤講師のヤズミンは、現在離婚調停中で人生に行き詰まっていた。すべての登場人物が、人生の行方を探そうとしてあらがい彷徨う中、エリオットの育ての母であり、伯母でもあったジニーの死をきっかけに、オンラインとオフライン、それぞれの人間関係がリアルな世界の繋がりの中へとくっきりと浮かび上がり、少しずつ変化していく。
ドラッグを契機に身内も含めた「社会」から疎外されてしまった人々。改めて他者とつながりたいという願望を募らせつつも、うまくいくはずがないと葛藤する彼ら彼女らのありようは、現代社会の闇であると共に、ネット社会こその一筋の希望を照らし出す。
作:キアラ・アレグリア・ヒュディス
翻訳・演出:G2
出演:尾上右近 篠井英介 南沢奈央 葛山信吾 鈴木壮麻 村川絵梨/陰山 泰
チケット料金:8,000円
U‐25チケット:4,000円(東京公演、観劇時25歳以下対象、当日指定席引換、要身分証明証/チケットぴあ、パルステ!にて前売販売のみの取扱い)
お問い合わせ:東京公演:パルコステージ 03-3477-5858(月~土11:00~19:00/日・祝 11:00~15:00)
大阪公演:キョードーインフォメーション 0570-200-888(10:00~18:00)
http://www.parco-play.com/web/play/wbts/
■Profile
尾上右近
1992年5月28日生まれ、東京都出身。
江戸浄瑠璃清元宗家七代目清元延寿太夫の次男。曽祖父で名優の六代目尾上菊五郎に憧れて幼くして歌舞伎俳優を目指し、7歳で歌舞伎座『舞鶴雪月花』の松虫で初舞台を踏む。12歳で新橋演舞場『人情囃文七元結』の長兵衛娘お久役ほかで、二代目尾上右近を襲名。清元の修行も幼い頃から続けており、2018年1月には浄瑠璃方の名跡「七代目清元栄寿太夫」を襲名。2017年のスーパー歌舞伎Ⅱ『ワンピース』では怪我で降板した市川猿之助に代わって主役のルフィを務めあげ注目を集めた。趣味は絵を描くこと、観ること。歌を歌うこと。母方の祖父は昭和を代表する映画スター鶴田浩二。