OKWAVE Stars Vol.769はフランツ・カフカの不条理小説を現代の東京を舞台に映画化した『審判』(2018年6月30日公開)に出演の常石梨乃さんへのインタビューをお送りします。
Q カフカの原作はご存知だったでしょうか。
A常石梨乃この映画を撮る前にジョン・ウィリアムズ監督が開いていたワークショップで監督がカフカの「審判」をやりたいと言っていて、それで読みました。初めて読んだ時は、不条理ものが得意ではないこともあって、すぐには頭に入ってこなかったです。
映画の台本は、小説を分かりやすぐ削ぎ落としているのでよく理解できました。もっとも、監督の演劇版を通じて慣れただけなのかな、とも思いました。
Q Kがたどる一連の出来事についてはどう感じましたか。
A常石梨乃Kはお客さんの目線にもっとも近い人物なので、お客さんも一緒に、彼の身に起こることに「は?そんなことありえないでしょう?」と思うかもしれません。Kは人間らしい人間と言いますか、欲を非常に素直に受け入れていってしまいます。私は女性の立場としてはKには批判的なところもありますが、人間のあり方としては分からなくはないかなと思います。
Q 演じられたKの隣人の“鈴木さん”の役柄をどう受け止めましたか。
A常石梨乃監督からは“夢見る夢子ちゃん”だと言われました。私はこの物語の中で一番純粋な存在だと思いました。監督がこの映画の前に演出していた舞台版で私は違う役を演じていました。一番派手でKとも関係を持ってしまう役だったのですが、今回演じた鈴木は、それをあえて引っくり返したような、純粋で男性のことを何も知らないような女の子、という設定です。
Q 役作りについてお聞かせください。
A常石梨乃まずはリアルな隣人の距離感を出すために、実際に生活している隣人の方をKだと思って、物音が聞こえないか聞き耳を立てたり、外まで様子を見に行ったり。常に隣りにKがいる、という日常を過ごしました。だから、他人から見れば、ちょっとおかしな人ではあるんですよね(笑)。でも、そういう法には触れていないスレスレなことをしている、ということも現代的だと思います。そういうとても危険な人物なんだと思います。
Q 演じる上でとくに気をつけたことはいかがでしょう。
A常石梨乃鈴木は男性を知らない、それこそ処女なので、男性に飛び込みたいけれど、できなくて恐怖も感じています。そこに恥じらいが出てきます。男性から見ると恥じらっている女性の顔はかわいく見えますよね。それは女性の武器でもあるので、そこを使おうと思いました。Kの周りに現れる他の女性たちは皆イケイケな感じですが、鈴木も取ろうとする行動自体は一緒です。だけど飛び込めないから恥じらっている。それを使ってKの気持ちをくすぐろうと思いました。
Q Kにとって「一番の助けになる」と言っていますが、ご自身ではどう解釈されましたか。
A常石梨乃物語で一番重要なところだと思います。私という存在が、Kにとっては救いとなる、捨ててはいけないものであるのに、Kは他の欲に負けてしまった。そんなメッセージ性が私の設定だったのだと思います。
Q Kのように突然「逮捕されてしまった」としたらどう感じますか。
A常石梨乃Kの気持ちも分かるんです。身に覚えはないけれど「もしかしたらあのことなのか」と。人は罪悪感のようなものを持っていますし、それを過去のページから探してしまいがちです。だからKは何もしていないのに裁判所に行ってしまうのかなと思いました。私がもし同じ立場でもきっと自分が何をしたのか知りたくて行ってしまったと思います。
Q Kに次々と降りかかることについてはいかがでしょうか。
A常石梨乃大事なことを話し合わなければならないところで、Kが自分の欲に負けてしまうところは、人間らしさだと言えばそうですし、Kの個性なのかもしれません。でも、何を見て生きているんだ、ということを監督はこの『審判』の世界を通して煽っているのだろうと思いました。
Kが弁護士のところに行った後、神社で会う場面では、鈴木はKのことを信じていた、というよりもどこか我慢をしていたから、Kに裏切られたと思っています。私自身はひとりの女性として演じましたが、作品としてのメッセージ性は異なるところにあるので、そのシーンのセリフは監督とずいぶん話し合いました。もともと、台本は英語で書かれていて、セリフとしての日本語訳は書かれていなかったので、監督と日本語のセリフについて話し合い、女性としての嫉妬や怒りをKにぶつけることにしました。
Q 現代の東京を舞台に描いた、という部分で思うところはありますか。
A常石梨乃この映画は男と女というものを浮き上がらせて取り上げている作品でもあると思います。#METOOムーブメントなど、男女の問題のいろいろなニュースが飛び交っている、まさにこのタイミングにすごく合致していると感じました。とはいえ、最近のネットでの言説は行き過ぎかなと思うこともあります。
Q この映画に関わっての新しい発見はありましたか。
A常石梨乃私自身は不条理作品を見るのも演じるのも得意ではなかったのですが、この作品のようにシンプルに削ぎ落としていくことで見えてくることがあるんだと気づかされました。置き換えていくことで伝えたいことをシンプルにすると分かりやすくなるのだと、勉強になりました。
Q 常石梨乃さんからOKWAVEユーザーにメッセージ!
A常石梨乃不条理ものが苦手な方でもとても見やすい作品になっています。カフカのファンに限らず、これが“カフカデビュー”の方も含め、いろんな方に観ていただけたらと思います。
■Information
『審判』
2018年6月30日(土)渋谷・ユーロスペースにて公開ほか全国順次
木村陽介。銀行員。30歳の誕生日に、逮捕。罪状不明。
現代の東京。銀行員の木村が30歳の誕生日の朝、自宅マンションのベッドで目覚めると、部屋にはふたりの見知らぬ男たちが佇んでいた。彼らは「逮捕」を告げにきたと言う。でも罪状は不明。無実を主張すればするほど、蜘蛛の巣のような“システム”に絡みとられ、どんどん身動きができなくなっていく。ここから抜け出す方法はあるのか?救いを求めてあがくものの、期待はことごとく外れていく。そして、木村は出口のないこの迷路の終焉に、気づき始めるのだった。
出演:にわ つとむ、常石 梨乃、田邉 淳一、工藤 雄作
坂東 彌十郎(特別出演) 、高橋 長英、品川 徹ほか
監督・脚本:ジョン・ウィリアムズ
原作:フランツ・カフカ「審判」
製作・配給・宣伝:百米映画社
公式サイト:www.shinpan-film.com
(c) Carl Vanassche
■Profile
常石梨乃
1978年生まれ、奈良県出身。
劇団に入るため21歳で上京。舞台経験を積み、現在の事務所(有)グルーに所属。舞台、TV、CM、ラジオ、映画などに幅広く出演し、影のある存在を持ち味とする。最近ではドラマBS時代劇「大岡越前4」や福澤克雄監督の『祈りの幕が下りる時』(2018)などに出演。
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