OKWAVE Stars Vol.776は映画『クレイジー・フォー・マウンテン』(2018年7月21日公開)ジェニファー・ピードン監督へのインタビューをお送りします。
Q 山岳映像と管弦楽のコラボレーションである本作に関わるにあたって、どんなところに魅力を感じましたか。
Aジェニファー・ピードンまずは一製作者として面白そうなプロジェクトだと感じました。オーストラリア室内管弦楽団からの依頼で音楽ありきの映画を作る、という手法は今までに私がやってきたこととは違う試みでした。オーストラリア室内管弦楽団は非常に有名で日本でも公演をしていますが、これまでも面白いコラボレーションや共演の実績があります。そこに魅力を感じました。そして、私自身はこれまでも山を扱った映画を撮ってきましたが、その中で語りきれなかったり、自分が追求しきれていなかった部分を大きな規模感で実現できるのではないかと感じました。
Q 本作では山岳映像といっても登山のみならずエクストリームスポーツなど様々な人と山の関わりが描かれています。映画のコンセプトや対象をどのように決めていったのでしょう。
Aジェニファー・ピードン人と山の関わり方の変遷、ということが当初から考えにありました。脚本を担当した作家ロバート・マクファーレンの著書「Mountains of the Mind」をもとに構成していますが、私自身そこからインスピレーションを多く受けています。山は崇拝する対象から自分で登るものになった、という関係性の変化をこの映画の流れにしたいと思いました。その関わりが極端になったものがまさにエクストリームスポーツだと思います。山に挑むということを通り越して、危険に挑む、という風に短期間に人と山の関わりは大きく変わってきています。最後には山がいかにして生まれたか、ということも描きました。ロバートの考えもありますが、山に対する行為が行き過ぎてしまったところから、山という自然に対する敬意を忘れてはならない、というメッセージも込めました。
Q 映像は『MERU/メルー』の撮影も担当した山岳撮影の第一人者レナン・オズタークの協力のもと集められたそうですが、監督自身が撮ったものなど、映像にまつわるエピソードをお聞かせください。
Aジェニファー・ピードン前作の『Sherpa』撮影時にもレナンとは協力関係にあり、その時には本作の製作の話もあったので、エベレストでレナンとたくさん話し合いました。彼と一緒に新しいシーンも撮りましたし、彼自身が撮りためて未発表だった映像を快く開放もしてくれました。カナダのプロダクション「シェルパズ・シネマ」も同じようにアーカイブを開放してくれました。日本でクリエイティブ合宿を行って、そこで出た意見を基にさらに映像を増やしています。「もう帰りたいよ!」と山の頂で叫んでいる映像や、ウイングスーツで飛んでいる映像などは、レナンが登山仲間たちから尊敬されているからこそ、彼の紹介でみんなが心良く映像を使わせてくれました。なぜそのような方法にしたかといえば、全編を世界中の本物の登山家の本物の映像にしたかったからです。それを私が一人で撮っていたら10年以上かかってしまいますので、撮り下ろしの映像と未発表のアーカイブを組み合わせることにしました。
Q 日本でのクリエイティブ合宿についてお聞かせください。
Aジェニファー・ピードン音楽監督を務めたリチャード・トネッティは実は毎年ニセコに滞在してスキーを楽しんでいるんです。彼は日頃音楽活動で多忙なので、なかなか時間を取ることができません。それで「この時期はニセコにいるからみんな来ないか」という話になってスタッフが集まりました。映像のラフカットをみんなで観ながら意見を出し合ったり、新しい曲をその場で書き下ろしたり、ナレーションの位置や入れ方を話し合いました。山の中、美しい雪が降る中、約10日間、みんなが一緒に話し合ったので、充実した合宿になりました。私もニセコの雪を堪能しました。あまりにも良かったので、翌年の冬は家族と一緒に来てしまいました(笑)。
Q 本作に関わったことでの新しい発見はありましたか。
Aジェニファー・ピードン学んだことはコラボレーションすることでより素晴らしいものができあがるということです。コラボレーションをする上では自分だけの考えではなく、譲り合わなければなりませんので、そういった障害や課題を乗り越えたからこそ、他にはないユニークな作品になりました。私一人ではなく、ロバート・マクファーレン、リチャード・トネッティ、レナン・オズターク、他にも様々なスタッフの力を合わせることで生まれる力やお互いへの敬意があったからこその素晴らしい作品だと思います。
Q 監督はこれまでも山を扱った映画を撮ってこられましたが、その原点についてお聞かせください。
Aジェニファー・ピードンきっかけはニュージーランドの山々です。私の出身のオーストラリアには高い山がないんです。ある時、撮影仲間たちから山の映像を撮ることに誘われました。山に登っていると、私は山に合っている体質だと分かりました。高所に行くと体調を崩してしまう人もいますが、私は逆に調子が良くなって、まるで戻るべき場所に帰ってきたかのような感覚になったんです。そして、山に行った時の自分の限界にどこまで挑戦できるのか、という感覚も気に入っています。また、山にはものすごくたくさんの物語がある、ということにも魅力を感じています。私が女性であるという観点からは、映画の世界は男性が多いので、女性ならではの視点で伝えられることがあるのでは、という思いもありました。
Q 映画の中では、山の危険についても触れています。
Aジェニファー・ピードン根本的に、より大きな刺激を受けないと自分が生きている実感がわかない、という人たちがいます。彼らには彼らなりの理由があってそういう危険に挑んでいるので、簡単に批判するのは少し違うかなと思います。ただ、それが自分の限界に挑戦して自分のことをもっと知りたいという純粋な気持ちではなく、傲慢さや自己顕示欲からやっているのであれば、自然に対する敬意が足りないのかなと思います。
Qジェニファー・ピードン監督からOKWAVEユーザーに質問!
ジェニファー・ピードン日本で一番美味しいお好み焼き屋さんを教えてください。
オーストラリアで山登りの練習に行っていた山の麓に以前美味しいお好み焼き屋さんがあったのですが閉店してしまったんです。
■Information
『クレイジー・フォー・マウンテン』
なぜ今、数百万もの人々が、山に惹かれるのか?なぜ、時に命さえも懸けて挑戦してきたのだろう?
かつてはそこに近づくことさえ恐れ多いという畏敬の対象であった高山。20世紀半ばにエベレストが征服された頃から人類は山頂制覇への挑戦を続けてきた。
山々は、克服すべき困難、恐怖心が生死のぎりぎりまで、あるいは生死の向こう側まで人を追いやりかねない場所と見なされていた。
しかし、今日ではレクリエーションの舞台となり、公園として、スポーツとして管理され、商品化されている。
そうした人類の山に対しての考え方や挑戦のアプローチの変遷から、今の私たちと山のあるべき関係を静かに諭してくれる。
世界遺産の富士山をはじめてとして夏山シーズンには数多くの登山家、愛好家がまた山をめざす。
世界有数の山好きの日本人に送る究極の「山」映画。
製作・監督:ジェニファー・ピードン
音楽:リチャード・トネッティ
撮影:レナン・オズターク
ナレーション:ウィレム・デフォー
配給:アンプラグド
©2017 Stranger Than Fiction Films Pty Ltd and Australian Chamber Orchestra Pty Ltd
■Profile
ジェニファー・ピードン
極限状況に置かれた人々の素顔に迫る、人の心を掴んで離さない作品で知られ、代表作として『ソロ ロスト・アット・シー 冒険家アンドリュー・マッコリーの軌跡』(08)、『Miracle on Everest』(08)、TV「Living the End」(11)、『Sherpa』(15)などの作品があり、『ソロ ロスト・アット・シー 冒険家アンドリュー・マッコリーの軌跡』は、第21回アムステルダム国際ドキュメンタリー映画祭や第15回シェフィールド国際ドキュメンタリー映画祭などの主要なドキュメンタリー映画祭の公式セレクションで上映され、オーストラリア映画協会のドキュメンタリー映画賞をはじめ数々の賞に輝いた。
『Sherpa』は第62回シドニー映画祭の公式コンペティション部門に選ばれた唯一のドキュメンタリー作品で、その後も第42回テルライド映画祭、第40回トロント国際映画祭などで上映され、好評を博した。第69回英国アカデミー賞のドキュメンタリー賞にノミネートされ、第59回ロンドン映画祭でグリアソン・アワードのドキュメンタリー長編賞を受賞。そしてオーストラリアのドキュメンタリー映画としてはこの年の1位、史上3位の興行収入を記録した。