OKWAVE Stars Vol.778は映画『オーケストラ・クラス』(2018年8月18日公開)ラシド・ハミ監督へのインタビューを送りします。
Q フランスのフィルハーモニー・ド・パリが運営するDémosプログラム(子供のための音楽教育プログラム)をもとにこの映画が作られたそうですが、このプログラムについてどう思われましたか。
Aラシド・ハミ僕自身もこの映画に出てくる子どもたちのような庶民的な出自で、この映画に関わるチャンスをもらえて本当に幸運でした。僕のパスポート上の国籍はフランスだけれど、移民の出身なのでフランス社会においては少しだけ異邦人のような立場です。ただ、僕の母は文化を伝えることに熱心で、僕は子どもの頃からフランスの書物やクラシック音楽に触れることができました。学校の先生たちも授業以外でも文化の大切さというものを教えてくれました。
Démosプログラムについて聞いた時は興味を持ちましたし、その授業を受けている子どもたちを追っていくと、目に見えて子どもたちが変わっていく様子が分かります。やはり、人間にとって文化が果たす役割はとても大きいですし、文化がなければ人間は生きていけないんだと確信しました。
Q 子どもたちがたくさん出演する映画ですが、現場をどうまとめていったのでしょう。
Aラシド・ハミ子どもたちをまとめるのは難しいです。だから、子どもたちと映画を撮ろう、なんて普通は考えないです。子どもたちの中でも、この映画に出てくるような子たちというのは、学校でも落ちこぼれているような子ですし、集中力もあまりありません。そんな子たちを映画の撮影に向かわせるのはとても大変なことですし、そもそもバイオリンを習わせるのも大変でした。
子どもたちはもともとバイオリンを習っている子たちではないので、この映画の主人公のシモン・ダウド先生が「フィルハーモニー・ド・パリでの演奏会でのスタンディングオベーションを目標にしよう」と子どもたちに話すのと同じように、実際のフィルハーモニー・ド・パリの先生たちが出演者である子どもたちにバイオリンを教えていたので、映画のストーリーと僕のストーリーがオーバーラップするような状況でした。
Q では、子どもたちにどう接していきましたか。
Aラシド・ハミ高圧的な接し方ではなく、彼らのお兄さんのように接していました。子どもたちは僕の弟か妹のような存在だと思って、威厳を見せる時も自然な形で振る舞いました。一度そういう関係が築けると、彼らは求めることをちゃんとやってくれました。ですので、僕が監督として彼らに芝居をさせる、というよりも、僕が何かをやって、彼らの反応を引き起こすようにしていた、ということです。
Q シモン・ダウド先生を演じたカド・メラッドら大人のキャストはいかがでしたか。
Aラシド・ハミうまく子どもたちと接してくれました。カド・メラッドはフランスの人気俳優ですので、いつもなら現場でもスターとして扱われています。今回はそのスターの座から降りてもらって、子どもたちの目線まで下りてきてもらうことを受け入れてくれました。どちらかといえば、子どもたちが快適に芝居ができるように振る舞ってくれましたし、子どもたちとの間に変な障壁がないように努めてくれました。親近感を出し続けてくれたので、役者同士、というよりも、もっと親密な仲間のような関係を作ることができました。
Q 映画の中には、さまざまな人種の子どもたちがクラスにいますが、フランス社会の現状と、それをどう映画に取り込んでいったのでしょう。
Aラシド・ハミ人種については先日のサッカーW杯のフランスチームでもうご存知ですよね(笑)。この映画の子どもたちの姿は今のフランス社会そのものです。こういった少し貧しい家庭の方がフランス社会全体ではむしろ多いです。ですが、フランス映画では移民や貧しい家庭のことはあまり語られません。フランスに移民が多い理由は、世界中に植民地を持っていた時代にまでさかのぼります。第二次世界大戦後にフランスは国を立て直すために移民を受け入れていきました。そういった人たちが家庭をもって、次の世代が生まれてきたので、フランスには多様な文化が存在します。だけど、移民の子たちは自分たちの文化に留まらず、フランス人の学校に通ってフランスの歴史も学びます。それが今のフランス社会の姿なんです。
Q 子どもたちの一人、アーノルドは自宅の屋上でたびたび練習をしていますが、その屋上からのパリの光景が美しいです。そのカットに込めた狙いをお聞かせください。
Aラシド・ハミこの映画に関しては“都会の童話”のようなものだと思っています。リアルなんだけど、どこかポエムのようなところを見せたいと思いました。彼らが屋上に上がった時、彼らの足元にあるのは貧しい地区かもしれませんが、屋上から見えるのはお金持ちの象徴のようなエッフェル塔であったり、高層ビルに囲まれている光景です。都会の資本主義に囲まれているようでもあり、都会のおとぎ話でもある、ということを狙いました。
Q 最後のコンサートのシーンはやはり感動的ですが、撮影の様子としてはいかがだったでしょうか。
Aラシド・ハミ僕だけではなく、みんな大変でした。やはりリアルに描かなければなりませんから技術的にはかなりハードな挑戦でした。その分、撮り終えた時の満足感は大きかったです。子どもたちもやりきった充足感のような、何かを勝ち取ったような表情を見せてくれました。大変な2日間でしたが、彼らの満足感に溢れた表情が印象的でした。
舞台に上る前の無音の部分は、みんな緊張していました。コンサート会場はいわば音の世界です。その直前は沈黙があって、その緊張感を携えて、闘牛場に入るようなものですね。
Q 監督は来日されて、日本の夏の暑さはいかがですか。日本の印象などお聞かせください。
Aラシド・ハミ時にはフランスの方がもっと暑いこともあるから大丈夫です。とくに、日本にはどこにでもエアコンがあるから(笑)。フランスの建物にはあまりなくて、涼を求めることができないからいつも暑いんです。
日本に来るのは4回目です。フランスとは文化がぜんぜん違うし、奥深くていいなと思っています。だから日本に来ると、自分の魂を休めることにしていて、日本のおいしい料理を楽しんでいます(笑)。
Q ラシド・ハミ監督からOKWAVEユーザーにメッセージ!
Aラシド・ハミ日本の皆さんには文化は人間をつなぐ絆を作ってくれるものだとお伝えしたいです。私が知っているフランスという国のある一部分をシェアしてくださるのは嬉しいことですし、できればこの映画を観た映画監督を目指しているような方は、日本のみんなが取り上げない、僕たちが知らない日本を映画にしてシェアしてくれたらさらに嬉しいです。映画や文化は自分たちがどう思っているかをシェアできるとてもパーソナルな方法なんだと思います。
■Information
『オーケストラ・クラス』
2018年8月18日(土)ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開
パリ19区にある小学校へ音楽教育プログラムの講師としてやってきたバイオリニストのシモン。音楽家として行き詰まったシモンは、気難しく子供が苦手。6年生の生徒たちにバイオリンを教えることになるが、楽器に触れたこともなく、いたずら盛りでやんちゃな彼らに音楽を教えるのは至難の業で、たちまち自信を喪失してしまう。しかし、クラスの中でひとり、バイオリンの才能を持った少年アーノルドと出会ったことをきっかけにシモンの人生が再び動き出す。アーノルドの影響もあって、感受性豊かな子供たちは音楽の魅力に気づき、演奏することに夢中になっていく。ときには、練習中に喧嘩になったり、他校との合同練習で赤っ恥をかいたり、失敗や経験を重ねながら音楽をとおして少しずつ成長していく子供たち。そんな彼らに向き合うことで、音楽の喜びを取り戻していったシモンは、生徒たちと共に一年後に開かれるフィルハーモニー・ド・パリでの演奏会を目指していく…。
キャスト:カド・メラッド、サミール・ゲスミ、アルフレッド・ルネリー
監督:ラシド・ハミ
配給:ブロードメディア・スタジオ
http://www.orchestra-class.com/
© 2017 / MIZAR FILMS / UGC IMAGES / FRANCE 2 CINÉMA / LA CITÉ DE LA MUSIQUE – PHILHARMONIE DE PARIS
■Profile
ラシド・ハミ
1985年、アルジェリア、アルジェ生まれ。
アブデラティフ・ケシシュ監督に師事、役者としてのキャリアを築く。出演作に『身をかわして』(03)、『キングス&クイーン』(04)、『ふたりの友人』(15)などがある。短編『Point d’effet sans cause』(05)で監督デビュー、長編1作目では、ルイ・ガレル、レイラ・ベクティを起用し『Choisir d’aimer』(08)を撮影、本作が長編2作目となる。