OKWAVE Stars Vol.788は映画『single mom 優しい家族。 a sweet family』松本和巳監督へのインタビューをお送りします。
Q 本作が映画長編デビューとのことですが、そもそも不思議な経歴を辿ってこられました。
A松本和巳僕が元国会議員だと伝えたら、ブラッド・ピットなどのアクティングコーチをされているイヴァナ・チャバックさんから「Crazy!」と言われました(笑)。そのくらい不思議なように見えるのでしょう。
僕はこれまで劇団をやってきましたが、子どもの頃から映画を観るのが好きでした。叔父が『サウンド・オブ・ミュージック』のビデオを持っていて、それを何百回も観るくらいでしたので、映画に対する思い入れはありました。ただ、自分が作るという発想はまったくなかったです。演劇は、2011年頃にある女優さんの舞台を観に行ったのがきっかけです。その時に演劇自体にハマってしまい、その年だけで100本くらい観てしまいました。さらに観ているうちに自分でも作れるのではと思うようになって、俳優の友人に相談したら「簡単だよ!」と言われて劇団を立ち上げました。5年ほどの活動期間に新国立劇場でも2タイトル上演できて、その2回目が終わった時に、一種の達成感のようなものがあって、少し舞台はお休みしようかなと思いました。そんな時に「映画を撮りませんか」というお声がけをいただきました。それでこの映画の企画が動き出しました。
Q この作品の企画自体がそのオファーの時に出てきたのでしょうか。
A松本和巳この映画の企画は自分から出しました。直前に新国立劇場で上演した舞台の登場人物の1人がシングルマザーでした。また、その公演の前にはシングルマザー支援協会代表理事の江成道子さんと知り合う機会がありました。支援のあり方などを話し合っている中で、シングルマザーの方にエンタテインメントに触れてもらえるように観劇にご招待したところ、とても喜んでいただけました。
映画の題材は何にしますか、と聞かれた時点でシングルマザーの皆さんとのつながりもできていたので、このテーマしかないと思いました。それと、この映画が完成するまでにものすごく時間もかけましたが、なぜそんなに情熱を傾けられたかといえば、シングルマザーの方々を観劇にご招待する準備を進めている時に、ある方から「それは偽善では」と言われたことも心の中に残っていました。善意でやろうとしていることがそう見えてしまうこともあるのかと思うと同時に、そう思われたまま終えてしまうのは自分としても納得がいかない、という気持ちもあったと思います。それでこのシングルマザーというテーマを深掘りして進めたいと思いました。
Q 北海道ニセコ町を舞台にしたのはなぜでしょう。
A松本和巳ある映画の会合に出て、二次会にも参加した時に、隣に座っていた方に「今度、シングルマザーの映画を撮るんですよ」と会話をし始めたら、「それならニセコに来なよ」と言われて、その方が、たまたま大雪で飛行機が欠便になってしまったニセコ町長だと知りました。ニセコのロケーションがとても美しいところなのは知っていましたので「見に行きますよ」と軽く受け答えて、実際に訪問しました。町長からは「最初に有島記念館に行ってください」と言われました。下調べの段階でそこはこの映画のロケ地としてはきれいすぎる建物というイメージだったので、僕の中では興味がわきませんでした。とはいえ、町長があまりにも強く言うので、役所の方に案内されて現地に行き、そこで15分のショートムービーを見せられました。そのショートムービーは有島武郎を紹介する内容でしたが、すごく感銘を受けたんです。元々、ニセコの土地は有島家が所有していて、その土地に住む農民たちは細々と生活をしていたそうです。有島武郎は全財産を投げうって、その土地を開拓し、実り豊かな農園にしました。その上、「この土地に僕は住んでいない。この土地に住んでいるのは君たちで、君たちはここで生活しなければならない。だからこの土地は君たちのものだ」と、農民たちに全部土地をあげてしまったそうです。その助け合いの気持ちに圧倒されました。「相互扶助」という掛け軸が映画の中にも出てきますが、それは彼が普段から言っていたことです。そういう精神が息づいている町ならこの映画にもそういったものがにじみ出るだろうと思って、ニセコを舞台にさせていただきました。
Q キャスティングについてはいかがでしょう。
A松本和巳僕がお願いしたい人もプロデューサーらから推薦された人もいました。必ず僕が会わせていただいて、お話をした上で、僕が何を感じるかを判断基準とさせてもらいました。人間模様を描く上で、役を無理して作るのではなく、感情がきちんと見えていることが僕にとって重要でした。
Q セリフではなく、映像で見せる演出をされています。
A松本和巳今回の画作りは洋画を意識しています。言葉で伝えるのではなくて、感情でしっかり伝えることを重視しました。映画を作っているとどうしても説明したくなることもあると思いますが、心情というものは映像から出ているエネルギー量をどう感じられるかだと思います。例えば、誰かに怒っているときも「お前は!」と言ってしまうと、その言葉に関心が向いてしまいます。それよりも内から出ている怒りのエネルギーをしっかり撮っていきたかったので、そういう方向の映画にしようと思いました。台本を仕上げたときには、「これでは60分もないですよ」と言われました。僕の中では間も含めて計算していたので、「大丈夫です」と説得するには苦労しました(笑)。実際、撮影すると、ちゃんと110分くらいの映像ボリュームになりましたので、思い通りでしたね。その後、編集して98分になりました。
Q 音楽もまた素晴らしいです。
A松本和巳今回の映画は、収益の一部をシングルマザーの支援に使いたいという意図があります。それに共鳴していただいた方がたくさんいます。ありえないくらい良い機材を提供していただいて使うことができました。音楽も同様に、大嵜慶子さんが共感して、全曲書き下ろしてくださいました。映像を見ながら曲を作った上に、さらに妥協せず、生音を入れてくれました。そんなこだわりのある方々が参加しています。また、音楽は映像を補完するだけではなく、映像を違った印象で見せることもできるので、僕の中では音楽はとても重要な位置を占めています。実は、挿入歌を入れないかとか、いろんなお話もいただきましたが、やはり音楽は大事なので、こだわりをもってやらせてもらいました。
Q 本作を通じての新しい発見はありましたか。
A松本和巳「シングルマザー」という言葉があって、皆さんはそこからシングルマザーの抱えている課題と向き合うのだと思います。障害者やLGBTもそうですが、その言葉があることで区別と差別が生まれてしまいます。当事者はその言葉に反応してコンプレックスになってしまいます。また、善意の支援であっても、支援する側とされる側に分かれてしまって、される側は常にコンプレックスを抱えています。映画の中にも出てくるフードバンクを僕は現在も手伝っているのですが、最初に現地に行ったときにスタッフの方から「見えない存在になってください」と言われました。フードバンクに来る方はセンシティブになっているので、支援側はなるべく目立たないようにということです。そこで1年くらい関わりができるうちに、最初は見えない存在であっても段々と打ち解けてもいきますので、彼女らの反応の変化を目の当たりにしました。そこで感じたのは、目線をどこに置くかの大切さで、シンプルライフというところに行き着きました。何かと比べるよりも、自分が生きやすい生き方ができれば、生きている意味を感じることもできると思います。映画の中で「何で生きているのだろう」というセリフが出てきますが、これはシングルマザーに限らず、誰もが考えたことがあると思います。シングルマザーは年収200万円でも多い方で、300万円稼いでいたらすごいと言われます。でも世間からは少ない方だと思われています。年収を上げる方向で無理をさせるよりも、200万円の収入なら200万円で楽しく生きられる選択肢もある、ということを提示できたらいいなと思っています。それもあって、映画づくりと並行して、旭川でタイニーハウスを使った新しい生活スタイルを提案する取り組みも進めています。
Q 映画づくりに限らず、アウトプットする上で大切にしていることは何でしょう。
A松本和巳僕が行動するのは社会課題や疑問に対してすっきりしていないからだと思います。例えば、日本のボランティアは無償の活動とされていますが、ボランティアをやっている人にも生活があります。最後には身銭をきることになって、疲れてやめていってしまう、ということにもなります。本来、善意でやっていることが、善意を貫けずにネガティブになってしまう。だからボランティアでも生活できるくらいには儲けてもいいんじゃないかと思いますし、そういった違和感について発信していきたいと思っています。
Q 松本和巳監督からOKWAVEユーザーにメッセージ!
A松本和巳試写会を開くと全く反応がない方と、ものすごく感情移入される方と二手に分かれます。元々の狙いが、シングルマザーの方の心情がどうしてネガティブな方向に向かってしまうのかを皆さんにわかってもらいたいというところでした。それはもしかすると同じ経験をした人にしかわからないことなのかもしれません。
だからこそ、こういう人もいるんだ、という視点で観ていただけたらと思います。ダイバーシティという言葉がありますが、それは認め合うことで初めて実現します。そういう人がいてもいいよ、と皆さんが思うようになれば、シングルマザーであることについて、シングルマザーという言葉自体がなくなっていけばいいなと、この映画の直球のタイトルにはそんな壮大な思いを込めました。
■Information
『single mom 優しい家族。 a sweet family』
2018年10月6日ヒューマントラストシネマ有楽町にて公開ほか全国順次
北海道のニセコに住むシングルマザー・空愛実(そらまなみ)は、愛娘のエミリーと二人暮らし。仕事が決まらず、貯金を切り崩し、惨めな生活を送っていた。
そんな愛実の母である実幸もまたシングルマザーだった。母とは衝突が絶えず、母からの暴力もあり、愛実は中学生のとき児童相談所に保護され、3年間母と引き離されて暮らしていた。
愛実もまた、時に自分の母親が自分にしたように娘を我を忘れて怒鳴り散らしてしまう。押しつぶされそうな不安を抱えながら生きる愛実。
最後の頼みの綱で勇気を振り絞って役所に相談に行った愛実は、町役場の職員で同じくシングルマザーの犬塚優子に出会う。時を同じくしてエミリーもまた、人との関わりを拒んで生きてきた孤独なミニカー職人の大西鉄二に出会う。
様々な人との出会いが、愛実を少しずつ変えてゆく。
そして、あることがキッカケにすっかり忘れていた母との思い出が蘇り、愛実は初めて母の想いを知ることになる……。
出演:内山理名 阿部祐二 石野真子 木村祐一
監督・脚本:松本和巳
公式HP: http://www.singlemom.click/
©single mom優しい家族。製作委員会
初日舞台挨拶決定!
10月6日(土) 12:10〜上映の回の上映後に舞台挨拶が決定しました。
登壇者:内山理名、長谷川葉音、阿部祐二、石野真子、木村祐一、松本和巳監督(予定)
場所:ヒューマントラストシネマ有楽町(千代田区有楽町 2-7-1 有楽町イトシア・イトシアプラザ 4F)
https://ttcg.jp/human_yurakucho/access/
チケット購入は、10月3日(水)0:00より、https://ttcg.jp/human_yurakucho/ 「上映スケジュール」の該当回の「購入◯」部分をクリック。10月3日(水)よりヒューマントラストシネマ有楽町の4F劇場受付でも購入可能。
■Profile
松本和巳
映画監督・演出家・脚本家・劇団マツモトカズミ主宰・ラジオパーソナリティ
ドラッグストア「マツモトキヨシ」創業者の松本清氏を祖父にもつ。ラジオパーソナリティやフォトアーティストとして表現活動を行い、衆議院議員としても活動してきたが、48才の節目に政治活動を休止し、次世代のエンターテイナーを育てるべくプロデュース型劇団「劇団マツモトカズミ」を旗揚げ、新国立劇場公演も成功に収めた。現在は劇団公演の他、映画制作にも取り掛かり、また役者育成にも力を入れ育成指導も行っている。またVR・AR・MRなどのバーチャルエンターテイメントへの取り組みを始め、新形態のコンテンツ作りにも積極的に取り組んでいる。