OKWAVE Stars Vol.822は映画『金子文子と朴烈』(2019年2月16日公開)主演のチェ・ヒソさんへのインタビューをお送りします。
Q 史実を基にした映画ですが、どのように準備をされましたか。
Aチェ・ヒソ実在した人物を扱った映画ですし、金子文子の場合は手記も書いていますので、演じる上で参考にしなければならない資料があり、ときにはイ・ジュンイク監督やスタッフにも共有しました。このようにある人物の過去を探るのは面白い経験でした。金子文子と朴烈のことは韓国でもあまり知られていません。この人たちを私たちが映画で残すのは重大な責任感がありました。監督からは「君が描いた金子文子のまま、観客は金子文子のことを覚えるから、それは素晴らしいことだよ」と仰っていました。負担はありましたが、うれしい経験でした。
Q 史実を知り、映画としての台本を読んで、金子文子と朴烈が闘った裁判のことなど、どう感じましたか。
Aチェ・ヒソ教科書に載せられていない方々なので新しく知ることが多かったです。監督は「この人たちは裁判を闘って勝ったのではなく、過程だけで結果がないから歴史の教科書に載らないんだ」と仰っていて、心が痛くなりました。金子文子と朴烈だけではなく、裁判を一緒に闘った布施弁護士や、アナキスト、独立運動家たち、支援者には韓国人だけではなく日本人もいます。私たちは学校では教科書をもとに学ぶのでそこで紹介されないと忘れられてしまいます。そんな紹介されなかった人たちを発掘する気持ちでいたのでこの映画に出演できることがうれしかったです。
Q 金子文子を演じる上で、どんなところを大事にしましたか。
Aチェ・ヒソ金子文子は主体性があって、意志の強い女性です。大正時代の日本にも、韓国にも存在しなかったであろう、とても素敵な女性です。そんな彼女を作ったのは、幼い頃の貧しく、両親にも愛されなかったつらい経験です。その境遇によって「自分のような人のために生きていこう」と生きる道を決めるきっかけになったと思います。そんな彼女の幼い頃の経験を私の内面に入れようと思いました。金子文子の手記には幼い頃の経験がかなり克明に書かれています。それを繰り返し読み返すことが役を作っていく上で大切なプロセスだと考えました。私が経験していないことを私の中に入れることが大事でした。
Q ご自分では、金子文子にとって朴烈のどんなところが魅力的に映ったと思いますか。
Aチェ・ヒソ朴烈も貧乏ですし、何の後ろ盾もないのに、誰よりも力強くて、誰に対しても自分の主張を曲げない強さがあります。また、「自分は犬だ」と詩に書くほど、自分が何者でもないということと、自分を虐げる権力者になびかない気持ちを表立って表明できる男性は今でもそうそういないと思います。女性の観客にはとても魅力的に映ると思います。文子もその「犬ころ」の詩を読んで魅了されましたし、いま存在しても魅力的な人だと思います。
Q 朴烈役のイ・ジェフンさんとの芝居はいかがでしたか。
Aチェ・ヒソ私はもともとイ・ジェフンさんのファンでした。イ・ジェフンさんは私よりも2歳年上ですが、キャリア的には年の差以上に非常に素晴らしい作品に出演されてきました。俳優の中にもファンが多い方です。彼が朴烈になったことを聞いたときはとてもうれしかったです。イ・ジェフンさんは相手の演技を重要だと思い、相手の芝居を吸収して演じるので、文子と朴烈のふたりの場面はまったく難しくなかったです。
Q 日本語でのお芝居についてはいかがでしたか。
Aチェ・ヒソイ・ジュンイク監督の前作『空と風と星の詩人 尹東柱の生涯』に出演させていただいて、初めて日本語の演技をしました。私は日本に住んでいたこともあるので日本語を話せますが、これまでに日本人役を演じる機会はありませんでした。その映画で日本人役があると聞いて、「日本語ができます」とプロデューサーにもちかけて、監督と話す機会を得てキャスティングしていただき、その経験があって、今回の金子文子役に至りました。
今回、日本語のセリフが書かれた台本を読むこと自体が日本語を学び直す機会になりました。日本の映画を何本も観ましたし、水野錬太郎役のキム・インウさんは日本で俳優活動をされていた方なので、一緒に練習させていただきました。どうしても心情を語るときにはフィルターが掛かっているような感覚になってしまい、それを取り除けるまで練習するのは、大変でしたし、つらかったです。裁判のシーンの難しい単語も、話しながら、それが本当に合っているのか自分ではなかなか判断できず、難しかったです。
Q 日本人判事の立松懐清を演じたキム・ジュンハンさんとの日本語の芝居はいかがでしたか。
Aチェ・ヒソキムさんは日本に3ヶ月くらいしか住んだことがないのに、耳が良いからか、日本語の発音が日本人のようにできていました。立松役のオーディションの際に、監督は日本語が分からないので、頼まれて、恐縮ながらオーディションの審査員の一人として演技を見させていただいていました。キムさんとはこれまで面識はありませんでしたが、彼は芝居はもちろんのこと日本語の発音も声も良かったので監督に「キムさんいいですよ」とずっと言い続けていました。いまではキムさんは韓国のドラマで主演もしていますし、この映画への出演がきっかけでスターになりました。
Q 韓国での大ヒット、日本の映画祭でも好評を博しました。映画の成功をどう受け止めましたか。
Aチェ・ヒソ若い二人の青春が描かれています。裁判を闘い抜いた二人の物語が実話で、裁判記録に残っているものをそのまま演じていますので、実話の力もあると思いました。また、韓国人と日本人が同志として当時の権力と闘った、という史実はとても素敵なことだと思います。今も日韓関係は難しいものがありますが、100年も前にこうやって一緒に闘った人たちがいたことを、観客の皆さんに観ていただいて日韓関係が変わっていく何かにつながればと思います。
Q この映画を通じて女優としての新しい発見はありましたか。
Aチェ・ヒソ私にとってこの映画はメジャーな商業映画での初主演となります。最初は負担も大きかったですが、多くの方に観ていただけて、私の演技にも良い評価をしていただけました。それもあって、この映画以降にいろいろな役を演じることができました。でも、まだこれからだとも思っています。この機会をきっかけとして、日本の作品にも出演したいという気持ちになりましたし、アメリカの作品のオーディションも受けるようになりました。私は韓国の女優ですけれど、国境を超えてチャレンジしていきたいと思っています。
Q チェ・ヒソさんからOKWAVEユーザーにメッセージ!
Aチェ・ヒソ題材からもしかすると反日映画だと誤解されるかもしれませんが、実際には韓国人と日本人の二人が国境を超えて一緒に闘ったストーリーです。日本と韓国の両国で知られていない方たちが描かれています。100年も前に権力と闘った人たちがいたこと、そして朴烈のセリフに「私たちは日本という国に反感があるのではない。日本の民衆には親しみを感じる」というものがあります。その点がとても重要だと思っています。この映画で二人が共に闘って生きていったように、日韓関係も良い方向に向かったらいいなと思います。ぜひこの映画を観てください。
■Information
『金子文子と朴烈』
2019年2月16日(土)よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開
1923年、東京。社会主義者たちが集う有楽町のおでん屋で働く金子文子は、「犬ころ」という詩に心を奪われる。この詩を書いたのは朝鮮人アナキストの朴烈。朴を訪ねてすぐに彼の強靭な意志とその孤独さに共鳴した文子は、唯一無二の同志、そして恋人として共に生きる事を決めた。ふたりの発案により日本人や在日朝鮮人による「不逞社」が結成された。しかし同年9月1日、日本列島を襲った関東大震災により、ふたりの運命は大きなうねりに巻き込まれていく。
内務大臣・水野錬太郎を筆頭に、日本政府は、関東大震災の人々の不安を鎮めるため、朝鮮人や社会主義者らを無差別に総検束。朴烈、文子たちも検束された。社会のどん底で生きてきたふたりは、社会を変える為、そして自分たちの誇りの為に、獄中で闘う事を決意。ふたりの闘いは韓国にも広まり、多くの支持者を得ると同時に、日本の内閣を混乱に陥れていた。そして国家を根底から揺るがす歴史的な裁判に身を投じていく事になるふたりには、過酷な運命が待ち受けていた…。
出演:イ・ジェフン チェ・ヒソ
キム・インウ キム・ジュンハン 山野内扶 金守珍
監督:イ・ジュンイク
配給・宣伝:太秦
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■Profile
チェ・ヒソ(최희서)
1987年1月7日生まれ。
大阪(建国小学校)と米国に居住経験のある帰国子女。イ・ジュンイク監督のミューズとして『空と風と星の詩人 尹東柱の生涯』で名を馳せたチェ・ヒソ。同作でクミ役を演じ、繊細な感情表現と完璧な日本語で強い印象を残した。今回再び、イ・ジュンイク監督の作品に抜擢された。本作では、日本人でありながら、朝鮮の独立と日本帝国主義への抵抗を貫いた強い女性・金子文子を演じた。チェは金子文子の自伝に基づいて役作りした。その過程で、日本人なまりの朝鮮語を話しているように聞こえるように、自身のセリフをひらがなに書き直すなど、様々な努力を惜しまなかった。その結果、イ・ジュンイク監督は彼女の文子は完璧だと褒め称えた。本作を通して、女優チェ・ヒソは確かな演技力でスターへの足掛かりを確かなものにした。