OKWAVE Stars Vol.842は映画『パパは奮闘中!』(2019年4月27日公開)ギヨーム・セネズ監督へのインタビューを送りします。
Q 本作を企画した経緯をお聞かせください。
Aギヨーム・セネズ僕自身が子どもをなしたパートナーと離婚を経験したことがきっかけです。僕の場合は同意のもと、円満な別れでしたので、子どもの面倒をみるのも半々でした。ただ、僕はその時、長編1作目の準備中で忙しい時期だったので、仮定として、もし彼女がどこかに行ってしまったり事故に遭ってしまって、子どもへの責任が自分に100%かかるようになっていたとしたら、いま映画作家としてのキャリアを始めようとしている時に、子どもの世話をしなければならないとしたらどうなるのか、という恐れを感じました。それがあって映画の題材にしました。脚本はフィクションですので、ドラマを作る上で、自分の経験とはかけ離れていきましたが、きっかけとしては自分自身の体験でした。
Q 主人公の勤め先をはじめ、現代的な設定ですが、物語作りで大事にしたことは何でしょう。
Aギヨーム・セネズ現代社会の総括のようなものにしました。それはやはり今の家族、今の夫婦、今の社会の仕事の形態がいかに家庭生活に影響しているのか、ということを描きたいという気持ちでした。
Q セリフを含めた脚本はあるものの、役者にはそれを見せずに演じさせたとのことでした。その狙いについてお聞かせください。
Aギヨーム・セネズこれは僕の仕事のやり方で、短編の第2作目の時から現場で培ってきたメソッドです。ロマン・デュリスは僕の長編第1作目の『Keeper』を気に入ってくれたそうです。それで会って話してみると、僕のやり方もすごく気に入ってくれました。僕が選んだ他の役者さんたちもこのすごく自由なやり方を気に入ってくれています。逆に言えば、このやり方を気に入っている人だけを集めています。セリフ重視の役者さんには気に入らないやり方かも知れませんが、ある種のリスクを恐れない人たちでチームを作ったんです。
Q 子役の二人も素晴らしかったですが、彼らの家族らしさをどのように作り上げましたか。
Aギヨーム・セネズロマン・デュリスを最初に選んで、他の役者を探し始めました。シナリオは何度も書き換えていたので、お母さん役は当初よりも若い人物にすることにして、ルーシー・ドゥベイを選びました。それに合わせて子役を選びました。
まずお母さんのシーンから撮影をしましたが、その前に子どもたちとお母さんが慣れるように公園に遊びに行かせたりしました。ルーシーと子どもたちを最後に撮ったのは、お母さんのいなくなる直前のシーンです。それを撮って、翌日からルーシーは現場を離れましたので、子役たちはお母さんがいないことに段々と不安を覚えていったと思います。
その後は、大人の役者と同様に、シーンの流れの中で、役者の内側からセリフが出てくるように仕向けていきました。大人に比べれば、演じやすいように多少は枠組みを作ってあげましたが、自由な発想でセリフを発していくやり方は大人と変わりませんでした。
Q 今の社会を反映している内容かと思いますが、フランスでの反応はいかがだったのでしょう。
Aギヨーム・セネズ男女のお客さんの性別分かれての議論のようなものはあまりなかったです。国の違いもあまりないと思います。僕自身、二重国籍で、この映画もフランスとベルギーの合作ですので、どこでもありえる、普遍性のある話を狙いました。
Q 本作を通じて、監督自身、新しい発見はありましたか。
Aギヨーム・セネズこの映画を撮ったことよりも、実人生の経験が自分を成長させていると思います。別れの経験があったからこそ、子どもたちとよりコミュニケーションを取るようになりましたし、そのことで人間的にも成長できたのかなと思います。
Q ギヨーム・セネズ監督からOKWAVEユーザーにメッセージ!
Aギヨーム・セネズ僕は常に作品は観客のものだと思っています。この作品もそうですので、皆さんが鑑賞して心の軌跡のようなものを発見していただければと思います。皆さんが想像できる余地を残していますので、ぜひいろいろ考えていただけたらと思います。
Qギヨーム・セネズ監督からOKWAVEユーザーに質問!
ギヨーム・セネズもしご自分のパートナーがいなくなってしまったとしたら、電話以外で見つけるためにまず何をしますか。
この質問の意図ですが、この映画で主人公が勤めているのはAmazonをモデルにしたオンライン通販会社の倉庫です。あの倉庫ではバーコードひとつですべての品物の在り処が分かります。そんな物流の世界に主人公はいますが、人間を探そうとした時、電話を手放されてしまったら見つけられなくなります。そんな今の社会を映画では描きました。
■Information
『パパは奮闘中!』
妻のローラと幼い二人の子供たちと、幸せに暮らしていると信じていたオリヴィエ。ところが、ある日突然、ローラが家を出て行ってしまう。オンライン販売の倉庫で働くオリヴィエには、ベビーシッターを雇うお金もなく、残業続きの仕事と慣れない子供の世話の両立を迫られる。朝は子供たちに着せる服も分からないし、夜は寝かしつけることさえできない。料理もまるでダメで、夕食にシリアルを出す始末。次から次へと巻き起こるトラブルに奮闘しながら、ローラを捜し続けるオリヴィエだったが、彼女の行方も姿を消した理由も一向に分からない。そんな折、妻の生まれ故郷ヴィッサンから一通のハガキが届き、さらなる騒動が起きる。
監督・脚本:ギヨーム・セネズ
出演:ロマン・デュリス(『タイピスト!』『モリエール 恋こそ喜劇』)、レティシア・ドッシュ(『若い女』)、ロール・カラミー(『バツイチは恋のはじまり』)、バジル・グランバーガー、レナ・ジェラルド・ボス、ルーシー・ドゥベイ
配給・宣伝:セテラ・インターナショナル
@2018 Iota Production / LFP – Les Films Pelléas / RTBF / Auvergne-Rhöne-Alpes Cinéma
■Profile
ギヨーム・セネズ
1978年ベルギー・ブリュッセル生まれ。
ベルギーとフランスの2つの国籍を持つ。2001年に国立映画学校(INRACI)を卒業後、3つの短編映画を制作し、数々の映画祭に選ばれる。中でも、09年短編第二作目の『Dans nos veines』は、カンヌ国際映画祭・ユニフランス短編映画賞に、第三作目の『U.H.T.』(12)ではベルギー国内におけるアカデミー賞と形容されるマグリット賞の短編映画賞にノミネートされた。16年に公開された長編第一作目となる、高校生の妊娠に焦点を当てた『Keeper』は、トロントやロカルノなど70を超える映画祭に招待され、アンジェ映画祭でのグランプリをはじめ、20以上の賞を獲得する。長編第二作目の本作では、18年度のカンヌ国際映画祭の批評家週間部門に選出され、今後の活躍に注目が集まる。