Vol.852 脚本家 高橋悠也(『LUPIN THE ⅢRD 峰不二子の嘘』)

脚本家 高橋悠也(『LUPIN THE ⅢRD 峰不二子の嘘』)

OKWAVE Stars Vol.852は『LUPIN THE ⅢRD 峰不二子の嘘』(2019年5月31日公開)脚本の高橋悠也さんへのインタビューをお送りします。

Q 『LUPIN THE ⅢRD』シリーズに関わるようになったきっかけをお聞かせください。

A『LUPIN THE ⅢRD 峰不二子の嘘』高橋悠也最初の関わりは『LUPIN THE ⅢRD 次元大介の墓標』(以下「墓標」)でした。その時になぜ自分に声がかかったのかは分かりませんが、「墓標」を皆さんに楽しんでいただけたこともあってか、TVアニメ第4シリーズを30年ぶりに作ることになった時、シリーズ構成・脚本として呼んでいただきました。一方で「墓標」を作る時から、この『LUPIN THE ⅢRD』シリーズの<前編・後編>という構成について、「いつかこの構成でテレビ放送させたい」という淡い野望を、スタッフ全員が思っていました。「墓標」が評価されたことで、そのフォーマットで第2弾の『LUPIN THE ⅢRD 血煙の石川五ェ門』(以下「血煙」)につながっていきました。その時には「これは全員できそうだ」と薄々感じていて、今回、峰不二子をメインにすることができました。峰不二子が主人公ですが、以前に作られた「LUPIN the Third -峰不二子という女」と『LUPIN THE ⅢRD 峰不二子の嘘』とは監督も違いますし、一線を画した作品です。

Q 峰不二子の魅力をどう捉えていますか。

A高橋悠也何を考えているか分からない、本心がどこにあるのかいくら考えても読めないところに僕個人としては魅力を感じています。物欲のために動いているように表向きは見えますが、心根の部分としては何のためにああいう裏稼業で生きているのか、ブラックボックスな状態だと思います。

Q 今回新しい試みなどはありましたか。

A『LUPIN THE ⅢRD 峰不二子の嘘』高橋悠也「峰不二子に母性はあるのか」ということをこの作品を作るにあたって考えました。ゲストキャラクターのジーンやビンカムのような、今までの不二子のやり方が通じない相手にどう向き合うのかをテーマに作りました。モンキー・パンチ先生からはこのシリーズで描くことについては基本的にはお任せいただいていました。

Q クリエイティブ・アドバイザーの石井克人さん、小池健監督との、シナリオ執筆上の役割分担についてお聞かせください。

A『LUPIN THE ⅢRD 峰不二子の嘘』高橋悠也「墓標」の時から変わらないやり方ですが、まず石井さんから、敵キャラクターだったり、その人物の攻撃の仕方から好きな食べ物のようなものまでを、文字情報だけではなく絵も入ったメモのようなものが出てきます。それを見ながら、今回であれば、そのキャラクターがなぜ不二子と戦うのかという背景を僕が考えて物語を仕上げていきます。ですので、取っ掛かりは石井さんのメモから始まっています。「峰不二子の嘘」の敵キャラクターであるビンカムは、完成版では比較的イケメン風に仕上がっていますが、石井さんのメモではもっと爪が長くて細い風貌だったのを、小池監督が『LUPIN THE ⅢRD』のフォーマットに落とし込んでいきました。そのような役割分担になっています。また、小池監督や石井さん、プロデューサーとは議論しながらシナリオを作り上げていきます。ショボい敵ではストーリーの魅力がなくなってしまうので、毎回難産です。

Q シナリオを作る際に、ご自分では映像をどのくらいイメージされているのでしょう。

A高橋悠也「墓標」の時は小池監督がどんな映像に仕上げるのか読めないところがありましたが、完成した作品を観て「小池さんは天才だ」と衝撃を受けました(笑)。「こうすれば格好いい」という成功体験が「墓標」でできたので、「血煙」の時も今回も小池監督が格好良く演出してくれるだろうと期待して書きましたし、僕の想像を毎回超えています。シナリオを仕上げてからは小池監督にお任せしていますが、その後に意見を出すのはセリフを変更したことで狙った意図が変わってしまっているときくらいです。

Q 本作では峰不二子の「嘘」と「本音」が描かれていますが、どんなことを大事にしましたか。

A高橋悠也不二子にも母性があるのか、というテーマの中で、明確な答えを出さないことが大事なことかなと思いました。観る人によっていろんな見え方ができるようにしなければ不二子らしくないと思いましたし、作家の我がそこに表れてはいけないとも思って、調整には苦労しました。観る人によって、不二子の言動の嘘と本音の解釈が違っていてもいいと思います。一つの見方ですが、終盤、不二子はなぜビンカムと戦うことにしたのか、というところに僕個人の解釈を乗せていますが、それも観る方によっていろんな捉え方ができると思います。

Q ゲストキャラクターの子どものジーンは不二子との絡みの上でどう描こうと考えましたか。

A高橋悠也いつもの不二子の話術や色気が通じない相手、というところから、言うことを聞かないわがままな男の子、のキャラクターとしてジーンを登場させました。ジーンと不二子の関わりを考える中で、やはり一人の人間が考えた不二子像を押し付けることにならないように、“変な角は削って”この形になりました。

Q 『LUPIN THE ⅢRD』シリーズとして心がけていることはありますか。

A高橋悠也「墓標」から続くこのシリーズの僕の中での裏テーマがあります。「墓標」は「風」、「血煙」では「水」を重要な場面で事態を動かしていくものとして描きました。今回は「砂」をテーマにして、“乾いた砂に潤いを与える”ようなイメージを、ビンカムと不二子の関わりやビンカムの能力を描く上でのモチーフとして考えました。こういう僕が考えた裏テーマと石井さんのメモ、小池監督の演出が合わさって一つの作品となっています。それと、次元の銃、五ェ門の剣、と毎回キャラクターの武器を生かすつもりでいるので、不二子の武器は何か、ということを考えて今回もその要素を入れています。

Q 本作を通じて新しい発見はありましたか。

A『LUPIN THE ⅢRD 峰不二子の嘘』高橋悠也やはり不二子はエロいなと思いました(笑)。お客さんも期待しているだろうし、ある一定のセクシーな要素もルパン三世という作品にはあると思うので、僕もそれを期待してシナリオに落とし込みました。小池監督の演出はそれに輪をかけていました(笑)。ビンカムが不二子と対峙した時にハッと感じる部分など、不二子の持っているエロさをお客さんも再認識していただけたらいいなと思います。
ルパン三世という長い作品で描かれ尽くされているようなキャラクターを、この『LUPIN THE ⅢRD』シリーズで新たな一面を描いていくのは面白い挑戦です。見たことがないものを目指して毎回考えています。

Q 大人向けのルパン三世作品を描く上で気をつけていることはありますか。

A『LUPIN THE ⅢRD 峰不二子の嘘』高橋悠也コメディシーンについては、TV第2シリーズの“ファミリールパン”のような描き方はしないだろうなと。やるとしたらブラックジョークだったりシニカルなものになるのだろうなと思います。小池監督は小道具や効果音にすごくこだわって演出されるので、あまりファンタジックになりすぎないように、それこそ実写でもできそうな、現実にありそうだと思わせるギリギリの線をつきながら、面白いことができたらと思います。他のシリーズなら、タイムマシーンが出てきたり、宇宙に行ったりすることもありえますが、このシリーズではリアリズムの中でできるファンタジックな表現というものを目指しています。
それと、ルパンたちがタバコを吸うシーンがありますが、最近はこういう表現自体が少なくなっていますが、やっぱりルパンたちはタバコを吸ってないとルパンたちらしくないし、一仕事終えた後のタバコはうまいという感覚も分かります。「墓標」の時にそれがうまくハマったので、今回も入れていますが、別にタバコでなくてもよいところをあえてそうすることで生まれる化学反応もルパン三世らしいと思っています。そもそも、彼らは泥棒で、欲に生きているので、そんな彼らが節約していたらダサいですよね(笑)。ある種の無駄なものにロマンと人生を掛けているところがいいなと思います。

Q 動かしやすいキャラクターと難しいキャラクターはいますか。

A高橋悠也僕個人では、五ェ門は少し動かすのが難しいです。口数も少ないしみんなと交流が持たせづらいので、油断すると五ェ門の登場シーンがどんどん無くなっていって、結果、心待ちにしているお客さんが悲しむ、という悪循環になりがちです(笑)。もちろん五ェ門を主役にした「血煙」は、ちゃんと主役として存在していますが、いろんな人が出てくる中に五ェ門を置こうとすると、動かすのが非常に難しいです。ルパンや不二子は理屈を考える難しさはありますが、キャラクターとしては嘘をつくこともあるし、別の思惑があってある場所にいる、ということもできるので、動かしやすさという点では楽しく書けます。

Q 高橋さんご自身のルパン三世との出会いについてお聞かせください。

A高橋悠也子どもの頃にTVアニメの第2シリーズや第3シリーズをそれほど観ていたわけではありませんが、高校の文化祭でルパン三世の演劇をやる機会があって、あの衣装のルパン役を演じて演劇の面白さに目覚めました。それ以前から物語を書く仕事につきたいと思っていたので、演劇のシナリオを書くことがその仕事につながりそうだと感じました。それで劇団の活動を経て、映像の仕事に行きついたので、僕がこの脚本の世界に入るきっかけのひとつになっています。それが巡り巡ってこのルパン作品に関わることができたのも縁だと思います。

Q 高橋悠也さんからOKWAVEユーザーにメッセージ!

A高橋悠也当たり前のように嘘をつく峰不二子を主役にした「峰不二子の嘘」というタイトルは意外ではないと思いますが、なぜそのタイトルなのかを、本作の中で不二子がついている嘘の数々の意味を考えながら楽しんでいただけたらと思います。

Q高橋悠也さんからOKWAVEユーザーに質問!

高橋悠也皆さんがこれまでについた最大の嘘は何でしょうか。

回答する


■Information

『LUPIN THE ⅢRD 峰不二子の嘘』

『LUPIN THE ⅢRD 峰不二子の嘘』2019年5月31日(金)新宿バルト9ほか限定公開

不二子は逃げていた。
父親が横領した5億ドルのカギを握る少年ジーンとともに。
二人はジーンの父・ランディを襲った殺し屋ビンカムに命を狙われていた。
呪いの力によって人の心を操るビンカムから一度は逃げ延びるが、
拘束されてしまう不二子とジーン。
ビンカムの鋭利な爪が今、不二子に襲い掛かる!

原作:モンキー・パンチ
監督・演出・キャラクターデザイン:小池健(「REDLINE」「LUPIN THE ⅢRD 次元大介の墓標」「LUPIN THE ⅢRD 血煙の石川五ェ門」)
脚本:高橋悠也(「仮面ライダーエグゼイド」「曇天に笑う」「LUPIN THE ⅢRD 次元大介の墓標」「LUPIN THE ⅢRD 血煙の石川五ェ門」)
声の出演:栗田貫一、小林清志、沢城みゆき、宮野真守 ほか
製作・著作:トムス・エンタテインメント
アニメーション制作:テレコム・アニメーションフィルム
共同配給:ティ・ジョイ、トムス・エンタテインメント

http://fujiko-mine.com/

原作:モンキー・パンチ ©TMS


■Profile

高橋悠也

脚本家 高橋悠也(『LUPIN THE ⅢRD 峰不二子の嘘』)1978年生まれ。
完成度の高いサスペンス作品の脚本で注目される。TVドラマ「相棒」シリーズ(テレビ朝日)、「仮面ライダーエグゼイド」(テレビ朝日/16)など話題作を担当。また劇団UNIBIRDを主宰し、その舞台作品全ての脚本・演出を担当。『LUPIN THE ⅢRD 次元大介の墓標』(14)『LUPIN THE ⅢRD 血煙の石川五ェ門』(17)では脚本、「ルパン三世 PART4」(15)でもシリーズ構成と脚本を担当した。

https://twitter.com/yuya_takahashi?lang=ja