Vol.853 映画監督 五十嵐匠(映画『二宮金次郎』)

映画監督 五十嵐匠(映画『二宮金次郎』)

OKWAVE Stars Vol.853は映画『二宮金次郎』(2019年6月1日公開)五十嵐匠監督へのインタビューをお送りいたします。

Q 二宮金次郎という題材で映画を撮ろうと思ったきっかけをお聞かせください。

A五十嵐匠僕が前に撮った重松清さん原作の『十字架』という映画は茨城県筑西市というところで撮影しました。筑西市の教育長の方から「この筑西市の土地はかつて二宮尊徳(二宮金次郎)が復興させたんです」と聞きました。僕はそれまで二宮金次郎というと薪を背負って勉強する姿しか知りませんでした。それで調べてみると、二宮金次郎は驚くべき人生を送っていて、とくに青年期はいろんな苦難がありながら村々を次々と復興させていったことを知りました。僕は青森の出身で、東日本大震災のこともあって、二宮金次郎の青年期を題材に復興をテーマに映画にできないかなと思ったのがきっかけです。

Q 二宮金次郎の青年期を描く上で何を大切にしましたか。

A映画『二宮金次郎』五十嵐匠二宮金次郎が「仕法」という自分の編み出したやり方で一番うまくいったのが今の栃木県真岡市で、小田原藩の治めていた桜町領というところです。小田原藩からは何人もの侍が送り込まれて復興を試みますがことごとく失敗に終わります。藩主の大久保忠真公は最後、二宮金次郎を送り込みます。それは僕の中では西部劇のようなイメージで、西部の荒野に一人の男が乗り込んでいって、周りに邪魔されながらも、復興を成し遂げていく姿が映画になるなと。そこになみさんという二宮金次郎の奥さんがいて、家族と一緒に復興させていく姿は今でも共感されるだろうと思って、そこを切り取って映画にしました。

Q ロケ地についてお聞かせください。

A五十嵐匠二宮金次郎は晩年、今の栃木県日光市、江戸幕府の直轄地の日光神領を復興させようとして、当地で亡くなりました。そこを見ておこうと行ってみると、小百という集落に二宮堀という二宮金次郎が作った用水路が残っていて、今も田んぼに水を引いているんです。それを見て、この場所で撮影できないかと思いました。ですので、田んぼのシーンはこの小百ですべて撮影しています。

Q 合田雅吏さんのキャスティングについて教えてください。どんな二宮金次郎を期待しましたか。

A五十嵐匠合田くんが二宮金次郎が生まれた小田原の出身ということもありましたが、「役者生命をかける」と言ってくれたことが大きかったです。全身で二宮金次郎を演じてほしいと思いました。真似をするのではなく、自分の二宮金次郎を演じてください、と言いました。ただ、その前の段階として、たくさん準備をして自分の二宮金次郎像を作ってもらえればと。いろんな資料がありますので、つい似せたくなってしまいますが、そういうのは一切いらないなと思いました。

Q 成田山のシーンが衝撃的です。敵を受け入れる、という考え方に思い至るのが素晴らしいなと思います。

A映画『二宮金次郎』五十嵐匠史実として二宮金次郎は桜町領でみんなの反発を受けて一度失踪しています。実際には2〜3ヶ月いなくなっていて、その時に何があったのか資料も多くはありません。ただ、成田山新勝寺で21日間の断食をしたのは事実です。彼が自分の気持ちを整理しようとしたのもあると思いますが、一方で、彼は自分がいなくなったらみんなはどう動くのかと考えていたのかもしれません。ある種の賭けに出たのかもしれません。その結果、彼としては今までやってきた仕法は間違ってなかったと思ったのだろうと推測しています。ですので、あの新勝寺での断食は彼の人生においてとても大事だったと思います。反対する者には反対するものの理屈があるという気づきをそこで得ることになります。

Q 撮影する上でポイントになった大事な場面についてお聞かせください。

A映画『二宮金次郎』五十嵐匠雨の田んぼのシーンです。あのシーンをどう撮るかがキーになると思いました。僕としてはあのシーンはすべて雨の中、というイメージがあったので、実際の撮影は大変でした。二宮金次郎が豊田正作にどんな表情で立ち向かうのかがポイントでした。田中美里さんがご自分の顔に泥を塗る芝居を考えてくるなど、見せ場になる非常に重要なシーンになったと思います。

Q この映画を通じて何か新しい発見はありましたか。

A五十嵐匠映画を作る前は二宮金次郎は過去の人物だと思っていました。しかし、映画を撮ってみると、この二宮金次郎という人物は確実に今もいて、表には出てこないだけだと思いました。金次郎が復興させた村などそれぞれの場所に彼の思想や仕法は生きているんじゃないかと思います。この映画を撮るために「金次郎サポーター」として皆さんに支援をしてもらいましたが、多くの方が賛同してくれたのは、二宮金次郎、という人物と題材だったからだと思います。ですので今でも二宮金次郎はいるのだろう、というのが発見ですね。

Q 五十嵐匠監督からOKWAVEユーザーにメッセージ!

A五十嵐匠ほとんどの方は二宮金次郎の青年期以降を知らないと思います。小学校によくある二宮金次郎の像は「働きながら勉強する」という姿を明治以降に政府がいいように使ったもので、本来の二宮尊徳のすごさは青年期以降の姿だと思います。震災が起きてから、復興が叫ばれてはいますが、それは簡単にはできないし、何かをかけなければなりません。二宮金次郎が人生をかけて復興を成し遂げていく姿を観てほしいです。また、二宮金次郎は一人ではなく、家族がいて復興させているということも観てほしいです。さらに、百姓の出身で天領の復興に携わることになったのは、彼一人だけの力ではありません。大久保忠真公の後ろ盾や多くの支援もあったからです。そんなところに気づいていただけたらと思います。

Q五十嵐匠監督からOKWAVEユーザーに質問!

五十嵐匠もしこの令和の時代に二宮金次郎が生きているとしたら、何の仕事をしていて、どんな発言をしていると思いますか。
僕が時々思うのは、彼はお金を集めるのも上手だったのでこの映画のプロデューサーになってほしいなということです(笑)。

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■Information

『二宮金次郎』

映画『二宮金次郎』2019年6月1日(土)東京都写真美術館ホールにて公開ほか全国順次

幼い頃、両親が早死にし、兄弟とも離れ離れになった二宮金次郎。
青年になった金次郎は、小田原藩主に桜町領(現・栃木県真岡市)の復興を任される。金次郎は、「この土地から徳を掘り起こす」と、“仕法”と呼ぶ独自のやり方で村を復興させようとするが、金次郎が思いついた新しいやり方の数々は、一部の百姓達には理解されるが、保守的な百姓達の反発に遭う。そんな中、小田原藩から新たに派遣された侍・豊田正作は、百姓上がりの金次郎に反発を覚え、次々と邪魔をし始める。はたして、金次郎は、桜町領を復興に導けるのか?

出演:合田雅吏 田中美里 成田浬
榎木孝明(特別出演)柳沢慎吾 田中泯
監督:五十嵐匠

公式サイト:ninomiyakinjirou.com

(c)映画「二宮金次郎」製作委員会


■Profile

五十嵐匠

映画監督 五十嵐匠(映画『二宮金次郎』)1958年青森県生まれ。
96年にはピューリッツァー賞カメラマン沢田教一の軌跡を追ったドキュメンタリー映画『SAWADA』で毎日映画コンクール文化映画部門グランプリ、キネマ旬報・文化映画グランプリなど数々の賞を受賞。『地雷を踏んだらサヨウナラ』(00/浅野忠信主演)、『長州ファイブ』(07/松田龍平主演)、『半次郎』(09/榎木孝明主演)、『十字架』(15/小出恵介、木村文乃主演、重松清原作)などを監督。 国内外で高い評価を得ている。