OKWAVE Stars Vol.856は『メモリーズ・オブ・サマー』(2019年6月1日公開)アダム・グジンスキ監督へのインタビューをお送りします。
Q この映画を作ろうと思ったきっかけについてお聞かせください。
Aアダム・グジンスキこの映画のあるところまでは私自身の経験です。ですが、この映画の中で母親と父親の間で起きたことは私が経験したことではありません(笑)。むしろ、あるテーマを物語るためにこのストーリーを考えました。ある状況の中で“家族の関係が試される”ことを題材に、物語の世界を構築していきました。
Q この映画は1970年代のポーランドを舞台にしていますが、この時代・場所である効果を意図したものでしょうか。それとも監督の子ども時代に近い世界を描こうとしたからでしょうか。
Aアダム・グジンスキ私自身はポーランド人ですので、自分のよく知っている世界を描いていますが、この物語はどこにでもある普遍的なものだと思います。ある国の文化よりも人間同士の原形的な振る舞いを描いています。日本でも起こりうることだと思います。その土地、という意味では、ポーランドの田舎町の牧歌的な夏休みと対比的に主人公の少年と母親の少々痛々しい関係性を描き出しました。
Q 子役を含め、非常にリアルな芝居を役者がされていますが、どのような演出をされたのでしょう。
Aアダム・グジンスキ子役については、キャラクターのイメージが私の中にありましたので、そのイメージに近い子を探すことの方が大変でした。子どもというものは、自分が感じていないことは演じられないものです。ですので、キャラクターの気持ちを感じられる子役を見つけさえすれば解決しました。一方で、プロの俳優との仕事は難しいです。大人のプロの俳優は演技経験に基づいた癖があります。その癖からなかなか離れられないものです。そこから離れて私の描く世界の住人になってもらうのは難しかったと思います。父親役を演じたロベルト・ヴィェンツキェヴィチは普段はまったく違う演技で知られている俳優です。はっきりと感情を表す役を演じることが彼は多いのですが、今回は真逆で、感情を露わにはしません。描き出す上で、時には彼の顔の間近にカメラを寄せて、顔の動きひとつひとつを捉えるような撮り方もしました。
Q 少年ピョトレックと母親ヴィシャの関係性の変化をどのように演出していきましたか。
Aアダム・グジンスキシナリオ段階では幾つかのバージョンを作りましたが、撮影に入ってからはシナリオは変えませんでした。母親に起こっていることを息子が想像する、という作りになっています。嵐の夜に部屋に二人でいたのに、気づいたら母親は部屋からいなくなってしまっている。それを受けて息子は何が起きているか想像する、というように、すべてを語り尽くすのではなく、想像できる範囲に必要なものだけを残すことで表現しています。
Q 映画の原題「Wspomnienie lata(夏の思い出)」も歌詞の一節からとられている、アンナ・ヤンタルの1974年のヒット曲「町中には、こんなにも太陽が(Tyle słońca w całym mieście [英訳 So Much Sunlight in the Whole City])」を使用した意図をお聞かせください。
Aアダム・グジンスキ私の個人的な思い出ではなく、物語を作る必要性から歌を選んでいます。1970年代の大ヒット曲なので、ポーランド人はみんな知っていて、私の両親も大好きな歌です。選んだ理由ですが、時代の雰囲気を説明するためではなく、歌詞が重要でした。歌われている女性の心情はこの母親の心情と似たものです。映画の後半になると歌の内容とは逆の内容の物語が展開していくことになりますので、音楽を劇伴的には使っておらず、二重のコミュニケーションを取るというべき、ドラマ的な使い方をしています。この歌のことはもちろん知っていましたが、シナリオを書きながら、母親と息子が踊る場面を入れたいと思ってそこに合う歌だと気づきました。有名な歌なので、ポーランド人には歌詞から映画の内容も想像できてしまうかもしれないという心配はありました。
Q たびたび汽車と線路が印象的に登場しますが、その狙いについてお聞かせください。
Aアダム・グジンスキ映画の中で鉄道が果たす役割はたくさんあります。町と主人公の家の間に踏み切りがあります。そこが2つの世界を分けているものという表現にもなります。そして汽車は力そのものです。映画のラストで踏み切りにいるピョトレックの強い感情は汽車の力ともリンクします。母親、あるいはマイカと自転車で駆ける隣りを汽車が走っていく場面はロマンチックな戯れのようなイメージができると思います。父親が今いないというこの映画の設定も、列車が連れて行ってしまうという表現ができていると思います。
Q アダム・グジンスキ監督からOKWAVEユーザーにメッセージ!
Aアダム・グジンスキ映画はその人に届くかどうかですので、私はコミュニケーションが成立することを祈るだけで、内容は皆さんが自由に読解していただければと思います。この映画は普遍的な根本的な人間関係を描いていますのでうまく伝わっていればいいなと思います。
■Information
『メモリーズ・オブ・サマー』
2019年6月1日(土)よりYEBISU GARDEN CINEMA、UPLINK吉祥寺ほか全国順次公開
1970年代末のポーランドの小さな田舎町、夏。
12歳の少年ピョトレックは母親のヴィシャとはじまったばかりの夏休みを過ごしていた。父イェジは外国へ出稼ぎ中だが、母と息子は、石切場の池で泳ぎまわり、家ではチェスをしたり、ときにはダンスをしたりする。ふたりの間には強い絆があり、ピョトレックは楽しく夏休みを過ごしていた。だがやがてヴィシャは毎晩のように家をあけはじめる。ピョトレックは、おしゃれをし、うきうきとした母の様子に、不安な何かを感じ始める。
団地に、都会からマイカという少女がやって来る。母に連れられ、おばあちゃんの家へ遊びに来たマイカは、田舎町が気に入らないようだ。仏頂面のマイカに、ピョトレックは一目で惹かれる。やがてふたりは徐々に仲良くなり、郊外へ一緒に出かけるようになる。
母は相変わらず出かけてばかりいる。月に一度、ふたりのもとに、外国で働いている父イェジから電話がかかってくる。喜んで話をするふたりだが、「ママに何か変わったことはないか?」という父の質問に、ピョトレックは沈黙する。その様子を見ていた母は、息子に「なぜあんな真似を」と怒りをぶつける。その日から、ふたりの間には緊迫した空気が流れ始める。そんななか、大好きな父が出稼ぎから帰って来る……。
監督・脚本:アダム・グジンスキ
出演:マックス・ヤスチシェンプスキ ウルシュラ・グラボフスカ ロベルト・ヴィェンツキェヴィチ
配給:マグネタイズ
http://memories-of-summer-movie.jp/
© 2016 Opus Film, Telewizja Polska S.A., Instytucja Filmowa SILESIA FILM, EC1 Łódź -Miasto Kultury w Łodzi
■Profile
アダム・グジンスキ(Adam Guziński)
1970年、ポーランド・コニン生まれ。
14歳の頃、父親の仕事の都合で中央部のピョートルクフに移る。ウッチ映画大学でヴォイチェフ・イエジー・ハスの指導を受け、短篇『Pokuszenie』(96)を発表。続いて、父親のいない少年を主人公にした短編『ヤクプ Jakub』(98)がカンヌ国際映画祭学生映画部門で最優秀映画賞を受賞したほか、数々の映画祭で賞を受賞する。同作は、2007年に東京国立近代美術館フィルムセンター(現国立映画アーカイブ)で開催された「ポーランド短篇映画選 ウッチ映画大学の軌跡」でも上映された。短篇『Antichryst』(02)を手がけた後、2006年、初の長編映画となる『Chlopiec na galopujacym koniu』を発表。作家の男とその妻、7歳の息子の静かなドラマを描いたこのモノクロ映画は、カンヌ国際映画祭のアウト・オブ・コンペティション部門に正式出品された。『メモリーズ・オブ・サマー』はグジンスキ監督にとって長編2作目となる。