OKWAVE Stars Vol.862は映画『こはく』(2019年7月6日公開)に出演の遠藤久美子さんへのインタビューをお送りします。
Q 夫でもある横尾初喜監督の半自伝的な映画への出演について、まずはご感想をお聞かせください。
A遠藤久美子主人の2作目でオリジナルストーリーですが、妻が妻の役を演じるので不思議な感覚でした。主人の半生を描いてはいますが、ストーリーとしては映画的に描いている部分もあって、ドキュメンタリーのようでドキュメンタリーではない作品です。ですが、夫婦の描き方は、当初の台本よりも実際の私たちに近い様子がたくさん入れられて、台詞も私たちが実際に交わした言葉に変更されていきました。夫役の井浦新さんからは「公私混同している」と言われてしまいましたが(笑)、一生に一度しかない経験をさせていただきました。
それと、友里恵役に加え、亮太のお母さんの若い頃も演じています。「人は孤独とよ」という特徴的な言葉が出てきますが、主人のお母さんにその言葉の意味を聞きました。私は主人と出会って3、4年程度ですが、主人が若い頃にお母さんと生活の中で交わした会話について聞く機会はあまりないと思います。役を通してそんな話を聞けたのも、主人のことを深く知るきっかけにもなったので、より特別な映画になりました。
Q 脚本の印象をお聞かせください。
A遠藤久美子脚本の第一稿から妻の立場で読ませていただきました(笑)。最初に上がってきたストーリーや役柄は、実際の私たちというよりは、もう少し異なる亮太と友里恵の物語、という感覚が強かったです。
主人は現場に入ってからも、新さんや大橋彰(アキラ100%)さんと話し合ってどんどん台詞を変えていきました。なので、最初の脚本がどんなふうだったか思い出せないくらいに変化しています。そういった変化の中で、鶴見辰吾さんの入ったシーンはリハーサル無しの本番一発だったと聞きました。
練りに練って作っている部分の中にドキュメンタリーのような、その時の奇跡のようなものが織り込まれていて、できあがったものは自分に近い感覚がありました。
Q 夫婦のシーンについてはどのように芝居を作り上げていきましたか。
A遠藤久美子たとえば、お母さんの呼び方は実際に私が呼んでいる呼び方に変えています。最初の、友里恵さんと亮太の肉じゃがとシーチキンサラダのやり取りは、主人がシーチキンサラダを好きでお母さんに作ってもらっていたそうなので、「お母さんに作り方を教わった」というふうに変えました。中盤で寝ている亮太を起こすシーンでは、当初はもっと強い起こし方になっていましたが、実際には主人は疲れていることが多くて(笑)あまりきつく起こすことはないので、普段どおりの言い方に変えました。
新さんに言われて気づいたのですが、私たち夫婦は話す時の距離感がすごく近いようです。新さんは亮太を演じるにあたって、すごく主人のことを観察していたようで、そのことを役に取り入れて、友里恵さんとの会話のシーンではなるべく私の近くで喋るようにしていたそうです。私と友里恵さんの違いは、出産のシーンくらいです。私は長男の出産は難産ではなくスムーズでしたので。
夫婦の描き方を私達自身に寄せた理由を主人は「再婚なのでキツイ女性は選ばないから」と言っていました(笑)。そういった理由で、最初の台本にあった友里恵さんの描き方にはちょっと違和感があったそうです。
Q 友里恵のキャラクターとしてはご自分を投影しきっているものでしょうか。
A遠藤久美子主人から「そのままでいいよ」とは言われたものの、新さんが演じる亮太と友里恵の夫婦なので感覚は違うのかなと思って現場に入ったら、亮太は主人にしか見えませんでした(笑)。先ほどもお話した亮太が起きれない感じなど、私と接する時の空気感が主人と似ていました。主人は始まる前は「嫉妬したらOKかな」なんて言っていましたが、途中から「自分にしか見えなくなってきた」と言っていて、公私一体のような感じでした。ですので、完成した映画を観て「私はこういう人物なんだ」と気づかされることも多かったです。主人から見た私はこういう人物なんだと思いました。映画を観ていただいた60代の方からは「友里恵さんは優しかね〜。あんなに優しくなかよ〜」と言われたのが印象的です。この先、20年、30年と経った時、夫婦像が今と比べてどうなっているのか考えさせられました。
Q 佐世保弁での会話はご自身や共演者の方々はいかがでしたか。
A遠藤久美子主人は普段も佐世保弁なので、出会った頃は何を話しているのか分からないこともありましたが(笑)、それを経てのこの映画でしたので、耳は他の役者さんよりは慣れていたと思います。台詞が長くなると抑揚が合っているのか不安になることもありました。地元の方に観ていただくのに、言葉が気になってしまうと没入しにくくなってしまいますが、主人が佐世保出身ですので、主人がOKを出せばOKなんだ、という基準があって助かりました。
彰さんは苦労したと仰っていました。方言指導の方は60代の方で、彰さんが習いながらセリフを言ったら、主人からは「おじいちゃんみたい」と言われてしまう一幕もありました。現場では学生さんが手伝ってくれていて、街に出ればあちこちで佐世保弁が飛び交っているので、耳を傾けながら調整されていたようです。
新さんは言葉も体に馴染んだと仰っていました。
Q 井浦新さんとの共演のご感想をお聞かせください。
A遠藤久美子私は映画の出演がそれほど多くはないので、新さんのような“ザ・映画俳優”のような役者さんと夫婦役を演じるのは緊張感もありました。ある意味、監督の妻だから許される、という気持ちも内心ありました。新さんの現場での立ち振る舞いや役の捉え方、市民キャストもいる中での人との関わり方など学ぶことばかりでした。撮影で使ったアーケードのお店にはプロデューサーさんが頼み歩いて映画のポスターがずらっと貼ってあります。新さんはサインペン片手に端からアーケードを歩かれて、ポスターを見つけてはサインを書いていました。お世話になった市民キャストの方のお店にも挨拶に行かれていました。スクリーンの中以外にも映画愛みたいなものがあふれていて、主人も惚れ込んでいましたし、スタッフ一同みんな新さんのファンになるくらいでした。
新さんは役作りする上で、主人が心に蓋をしているようなところをたくさんこじ開けていったようで、その演技を見て主人はよく痛がっていました(笑)。
友里恵が亮太に妊娠の報告をするシーンでは、私も初めての妊娠を主人に伝える際に、主人が再婚ということもあって、本当に喜んでくれるかな、という不安も少しあったので、その時の気持ちを演じました。実際には主人はすごく喜んでくれたのですが、新さんはそのシーンでは、台本では言葉で伝えるだけだったのを、手を添えてくれて、その手の温かさと大きさに感動してしまいました。
新さんとお話しているときに、台本を閉じて裏返しにされて、「監督の本当の物語はここから始まるんだよね」と仰っていて、台本の中以外からも役作りの情報を得ようとしているその姿勢に頭が下がる思いでした。普段からとても謙虚ですし、座長としてみんなを引っ張っていましたので、最初に配役が決まったのが新さんでもあったので、素晴らしい方と夫婦役ができてよかったです。
Q 佐世保でのロケについてお聞かせください。
A遠藤久美子私も長崎には家族旅行で何度か行きましたが、私にとっては馴染みのある風景ですが、観光地らしいところではないところでロケをしています。主人から聞いた話ですが、ロケハンをする中で、撮影監督さんからは「見えてこないですね」と言われたそうです。主人が幼少期に遊んでいた公園や母校、暮らしていた町並みや路地裏を紹介すると「ここに監督の原点があったんですね。ここでロケをしましょうよ」と言われたそうです。もともとは長崎でのロケが多くなる予定だったのが、そのように決まっていったので、長崎県民でもロケ地がどこか分からないくらいだったそうですが、むしろそこで暮らしていた風景を切り取れたことでより身近な作品になったのだと思います。
亮太が子どもの写真を取り出して捨てようとしてまた戻すシーンは、主人が子どもの頃に遊んでいた公園、亮太の小学生時代の教室のシーンは母校で撮影したそうです。亮太と彰さん演じる兄の章一が行くアパートの裏の路地の近くには主人の父方のご先祖が眠るお墓があると後から聞かされて、そんな奇跡もあるんだと感じました。
最後のシーンはその日だけ天気も大荒れだったのが、撮影が終わったら虹が出たそうで、天候も心境を表しているようでした。
東京のクルーがやってきて撮影していった映画、ではなく長崎の人をたくさん巻き込んで、先祖たちも迎えてくれた中で多くの奇跡が起きたのだと思います。
Q 出産のシーンはリアルなものでしょうか。
A遠藤久美子実際には友里恵さんのような難産ではなかったです。夜にお腹が痛くなってきていたけれど、主人が疲れていたのと産婦人科が朝8時からだったので、翌朝になってから主人に伝えたら、「言ってよ〜」と大慌てで病院に連れて行ってくれて、14時頃には生まれました。劇中で、亮太が父親探しに時間を費やしていて、帰宅して友里恵が痛がっているのに最初気づかないのは、主人がその時のことを説明して、取り入れたものなんです(笑)。
Q 今作での挑戦はどんなところでしたか。
A遠藤久美子やはり自分で自分を演じるところです。
主人の二作目がオリジナルストーリーで、しかも郷土で撮りたいという気持ちが実現した作品です。そこに参加できたので、プライベートな感情も出てしまいます。撮影期間中、息子も同行して私の母が面倒を見ていました。画面には映っていませんが、アーケードのシーンでは道行く人に混じって歩いてくれました。そのアーケードのシーンでは主人も映っていて、その時は新さんが監督を務めてくれたそうです。みんなが家族の話をしながら、みんなで作っていったので、こういう温かい感覚が味わえる現場は初めてでした。
友里恵が出産した後、亮太は章一さんの前で、前妻との間に子どもがいて、新たに父になることへのいろんな思いに涙を流しますが、その涙はもともとは台本にありませんでした。その現場は私も見に行っていましたが、後で主人と一緒に「抉られるね〜」とへこみました(笑)。主人を知っているからこそ、心が忙しくなりがちでしたし、女優として役を全うして現場を過ごすには、軽い気持ちではいられなかったので、たくさんのことを吸収させていただきました。
Q 家族像についての新しい発見などありましたか。
A遠藤久美子私も家族を持つことができたので、息子と接することで自分が母である、主人が父であると感じることがたくさんあります。息子は公園で他の子がいると遊具を譲ってしまうのですが、主人はガキ大将で遊具を譲ったことがないそうです。そんな息子にどう言えばいいのか、というような小さな積み重ねが家族を作っていくのだろうなと思います。未婚の頃はそんなことを考えたこともありませんし、家族で行くようなところに行くこともありませんでした。まだまだ自分たちの家族というものは模索中ですが、この映画に関わったことで、横尾家としてもそうですし、遠藤家としての家族のあり方も考える機会になりました。私が妊娠したとき、父は闘病中で、子どもの顔を見る前に亡くなってしまいましたが、その日に子どもの性別が男の子と分かって、母が父にそれを伝えてくれました。そんな経験もあって、自分の家族がどんな家族だったのかと考えることもありました。
Q 遠藤久美子さんからOKWAVEユーザーにメッセージ!
A遠藤久美子長崎を愛する映画監督である主人の自分のオリジナルストーリーということで、普段の作品作りとは全く違う、自分の蓋を開ける作業をしていました。長崎での先行上映はものすごくたくさんの方に来ていただきました。「本当に良かった」と言ってくれるおばあちゃんをはじめ、自分をさらけ出したことで人に届いている、ということがこちらにも伝わってきました。上映中の場内の様子を見る機会があって、その雰囲気にも映画の力を感じました。長崎の町を堪能できますし、人の温かさを感じられますし、家族について改めて見つめ直すこともできます。きっと心に残る作品だと思いますので、一度と言わず何度でもぜひ観に来てください。監督はこれからも家族の話を撮っていきたいそうですし、その際に、役に合ってキャスティングしてもらえるのであれば私も出たいと思っています。今後もよろしくお願いします。
■Information
『こはく』
2019年6月21日(金)より長崎先行ロードショー
7月6日(土)ユーロスペース、シネマート新宿ほか全国順次公開
幼い頃に別れた父の会社を受け継ぎ、経営者として周囲に認められるようになった亮太。しかし、父と同じように離婚して子供たちと別れた経験が、現在の妻との幸せな生活に小さな影を落とすことがある。そんな亮太に兄の章一が、父を街で見かけたと言う。兄と一緒に父を捜して街を歩き回るうちに、これまで考えたことがなかった父の、そして母の人生に思いを馳せる亮太。父を捜すという、日常の中でのささやかな冒険を通して、亮太は自分を見つめ直し、家族の愛を再発見していく。
井浦新 大橋彰(アキラ100%)
遠藤久美子 嶋田久作 塩田みう 寿大聡 鶴田真由 石倉三郎 鶴見辰吾 木内みどり
原案・監督:横尾初喜
配給:SDP
© 2018「こはく」製作委員会
■Profile
遠藤久美子
1978年4月8日生まれ、東京都出身。O型。
95年にマクドナルドのCMで注目を集め、バラエティー番組で人気を獲得。98年に歌手デビュー。2003年にTVドラマ「ダンシングライフ」(TBS)で初主演を果たし、「警視庁捜査一課9係」(06~17/EX)、「駅弁刑事・神保徳之助」(07~17/TBS)などに出演。映画や舞台でも活躍している。16年7月に横尾初喜監督と結婚し、17年2月に第1子を出産。横尾監督の前作『ゆらり』(17)にも出演した。本年は5月公開の映画『武蔵 -むさし-』(三上康雄監督)にも出演。