Vol.884 映画監督 メヘルダード・オスコウイ(ドキュメンタリー映画『少女は夜明けに夢をみる』について)

映画監督 メヘルダード・オスコウイ(ドキュメンタリー映画『少女は夜明けに夢をみる』)

OKWAVE Stars Vol.884はドキュメンタリー映画『少女は夜明けに夢をみる』(2019年11月2日公開)メヘルダード・オスコウイ監督へのインタビューをお送りします。

Q 本作ではイランの少女更生施設を取り上げられましたが、ある国の出来事ではなく世界に通じることだと感じました。監督は少年と少女の更生施設をテーマに3本撮られましたが、このテーマに関心を持った理由をお聞かせください。

Aドキュメンタリー映画『少女は夜明けに夢をみる』メヘルダード・オスコウイこれまでに劇映画では撮影されたことはありましたが、ドキュメンタリー映画のカメラが少女更生施設に入ったのは初めてです。私は、声を上げても聞いてもらえないような人の声を取り上げることを大きなテーマに掲げています。ティーンエイジャーの子たちを扱った私の他の映画にも共通することです。また、女性を撮った作品も多いですが、これも女性が考えていることを伝えたいと思っているからです。
その中で今回は対象をよりクローズアップしたいと考えました。更生施設以外でも精神病院や家庭に問題があり子どもを預かっているような施設など、壁があってその中で人が戦っているところを撮りたいと考えていました。その結果として、少年少女たちの更生施設での撮影に至りました。
自分の少年時代を振り返ると、15歳の時に父が破産して、一家の生活が苦しくなったことも経験していますし、その父は政治活動をして投獄させられたこともあり、そのような自分のバックグラウンドも映画作りのきっかけになっています。

Q 更生施設の少女たちは自分の言葉を持っているように感じました。

Aドキュメンタリー映画『少女は夜明けに夢をみる』メヘルダード・オスコウイ施設の中にもイスラム教のイマーム(宗教指導者)が毎週やってきます。彼は彼女たちを導く役割なので話をよく聞いていますが、その彼が言うには、彼女たちには毎回難しい質問をされて困ると(笑)。私もカメラをまわしながらいつもなぜ彼女たちはこんなに雄弁に語れるのか、どうして自分の言葉を持っているのだろうかと驚かされました。これはドキュメンタリーを撮っている者として毎回驚かされることでもあるので、とても興味深いです。カメラの前での当事者のアクションはいつも読めないので、話を聞いていて、編集の時に絶対に捨てられないと思う言葉はその通り、たいてい残ります。

Q 少女らが祈りを捧げるシーンがあります。

Aメヘルダード・オスコウイ彼女らは自分にとっての二人の神、つまり天の神様と自分の母親について雄弁に語ります。それだけその2つの神は大切なものなのだと思います。私も自分の国や周りがもっと良くなるようにお祈りは欠かさないので、そのような気持ちは伝えたいと思っています。

Q この映画では家族の問題を抱えているような少女が多く映し出されましたが、たとえばもっと凶悪な犯罪に手を染めたような子や、施設内でのヒエラルヒーなどはあるのでしょうか。

Aメヘルダード・オスコウイこの少女更生施設は、少年の施設と比べて、たとえば犯罪組織の一味だったような子やグループを作ってリーダー格が出てくるようなケースはほぼなかったです。すぐに出所予定だったので撮らなかった少し年上の子が一目置かれていましたが、映画に出てくる中では、“名なし”(シャガイエ)という子は強そうな雰囲気があり、ソマイエという子はみんなに影響を与えるような存在でした。けれども少年の施設にあるような内部の争い事はなかったですし、ソーシャルワーカーの目も行き届いていました。

Q イランの少女たちが犯罪を犯してしまう背景についてお聞かせください。

Aメヘルダード・オスコウイイランでは、おそらく日本よりも家族の力や絆が強いので、家族の問題や、家族関係で寂しさを感じて薬物や売春に走ってしまうことはあまりありません。イランでこのようなことになる少女の多くは貧困による生活するお金のためだったり、ギャングに騙されて薬物にハマってしまい、その薬物を買うためにお金が必要になって犯罪を犯してしまう、ということが多いです。

Q ドキュメンタリー映画としてどのようにまとめていくものなのでしょうか。

Aドキュメンタリー映画『少女は夜明けに夢をみる』メヘルダード・オスコウイ撮りたい題材があると、自分へ質問をします。ワーキングタイトルと呼んでいますがまず題名は何なのか、次に主題は何なのか、そのアイディアはどこから出てきたものなのか、そして聞きたいことは何なのか、この映画を撮らないと自分はどうなるのか、と。そして撮るためには何が必要なのかリサーチを始めます。撮ったことでどういうものを見せるのか、そしてどういうスタイルで撮りたいのかと。すべての質問に答えられるとまず自分が納得できます。そして実際に撮影になるとどう転がっていくのかは分かりません。「この人の話は面白い」と思うのは実際に撮りながらです。以前、少年の更生施設で撮影した時に得た気付きとしては、一人ひとりの話をきちんと聞くべき、ということでした。編集の時に必要のないエピソードは削ればいいので、きちんと話を聞くということが大切だ、というメソッドも加わりました。

Q イラン女性を描いたイラン人監督の影響などはありましたか。

Aメヘルダード・オスコウイ映画監督としてはイラン出身のアッバス・キアロスタミ、他にはロベール・ブレッソン、小津安二郎から学ぶところが多かったです。まさに彼らからは“映画”を学びました。作家で映画批評家のスティーヴ・エリクソンが私の映画を観て「キアロスタミとフレデリック・ワイズマンの中間のような監督だ」と言っていました。ワイズマンはドキュメンタリー映画監督ですし、好きな監督の一人です。ワイズマンの作風からは狭い範囲を対象にその奥深くまでに入るというアプローチを学びました。判断せずに物事を見ることもそうですね。

Q 今回の映画では何か彼らからの影響はありましたか。

Aドキュメンタリー映画『少女は夜明けに夢をみる』メヘルダード・オスコウイ自分ではとくに意識はせず、実際、キアロスタミの映画の特徴やワイズマンの映画の特徴とも合致はしません。それでもどこかに影響を受けているとしたら、私は彼らの映画をたくさん観ているし、ワイズマンのワークショップに参加したこともあるので、世界を見る目がどこかで共通しているのかもしれません。実際、カメラを固定して撮っていたりすると「あれ、これは小津みたいだな」と自分で気づいたりもします。撮影期間中は他の映画は観ませんが、家にいる時にはアキ・カウリスマキの新作を観たりと、映画にはよく接しています。私は永遠の学生だと思っているので、毎日学ばなければならないとも思っているんです。映画をよく観ることに加えて、名だたる監督たちが映画を教えている講義の映像も見ます。最近はネットで簡単に見ることはできますからね。他にも心理学や哲学の本も読みます。私は映画を作っているというより、自分の中の問いかけを映画にしているので、自分の映画のことは“案山子”のようなものだと思っています。いろんなところから出てきたものを取り入れて映画にしているんです。

Qメヘルダード・オスコウイ監督からOKWAVEユーザーに質問!

メヘルダード・オスコウイ日本は第二次世界大戦後の復興を経ていまのような国になったのだと私は聞いております。もし皆さんが終戦後のような日本を一から建て直す役割だったとしたら、何から始めますか。

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■Information

『少女は夜明けに夢をみる』

ドキュメンタリー映画『少女は夜明けに夢をみる』2019年11月2日(土)より岩波ホール他全国順次ロードショー

高い塀に囲まれたイランの少女更生施設。無邪気に雪合戦に興じる、あどけない少女たちの表情を見ていると、ここが厳重な管理下におかれた更生施設であることを忘れてしまいそうになる。
ここには強盗、殺人、薬物、売春といった罪で捕らえられた少女たちが収容されている。社会と断絶された空間で、瑞々しく無邪気な表情をみせる少女たち。貧困や虐待といった過酷な境遇を生き抜いた仲間として、少女たちの間に流れる空気は優しく、あたたかい。しかし、ふとした瞬間に少女たちの瞳から涙が溢れ出す。自分の犯した罪と、それに至った自分の人生の哀しみを思う時に。
家族に裏切られ、社会に絶望してもなお、家族の愛を求め、社会で生きていかざるを得ない少女たち。レバノンのスラム街の少年を描いて話題となった『存在のない子供たち』(08)同様、「見えない存在(インビジブルピープル)」として、疎外されてきた彼女たちの心の嗚咽が問いかける。少女たちの罪の深さと、人間の罪深さとを。

監督:メヘルダード・オスコウイ
配給:ノンデライコ

http://www.syoujyo-yoake.com/

(C) Oskouei Film Production


■Profile

メヘルダード・オスコウイ

映画監督 メヘルダード・オスコウイ(ドキュメンタリー映画『少女は夜明けに夢をみる』)1969年、イラン・テヘラン生まれ。
映画監督・プロデューサー・写真家・研究者。「テヘラン・ユニバーシティ・オブ・アーツ」で映画の演出を学ぶ。これまで制作した25本の作品は国内外の多数の映画祭で高く評価され、イランのドキュメンタリー監督としてもっとも重要な人物の1人とされている。2010年にはその功績が認められ、オランダのプリンス・クラウス賞を受賞している。イラン各地の映画学校で教鞭を執り、Teheran Arts and Culture Association(テヘラン芸術文化協会)でも精力的に活動している。2013年にフランスで公開された『The Last Days of Winter』(11)は、批評家や観客から高く評価されている。