Vol.885 映画監督 常盤司郎(映画『最初の晩餐』について)

常盤司郎(映画『最初の晩餐』)

OKWAVE Stars Vol.885は映画『最初の晩餐』(2019年11月1日公開)常盤司郎監督へのインタビューをお送りします。

Q 企画の経緯についてお聞かせください。

A映画『最初の晩餐』常盤司郎2010年に父が癌だと分かって、カメラを回して『クレイフィッシュ』という短編映画を作りました。『クレイフィッシュ』が「ショートショート フィルムフェスティバル & アジア」で賞を獲った10日後に父は亡くなって、その時に感じた思いがこの『最初の晩餐』には詰まっています。生死というものに向き合った時のハレーションは強いなと感じました。設定的には自分の父のことと似ている部分や僕自身の経験が多く入っています。一方でこの企画を一緒に始めた杉山麻衣プロデューサーはステップファミリーの映画をご自分の子どもに見せたいという意向があって、そこに僕の体験を重ね合わせていきました。企画を始めた当初はプロデューサーと監督の思いだけでしたのでそれこそ自主映画のようなものでした。企画を始めた2011年に撮った短編の『皆既日食の午後に』は過去と現在が入り混じった群像劇なので、それと『クレイフィッシュ』の要素も混ざっていると思います。

Q 父の葬儀の通夜ぶるまいに着目されたのがとても斬新でした。

A常盤司郎共同企画を務めた中川美音子さんが通夜ぶるまいのアイディアを出してくれて、僕の体験が台本に反映されています。映画の中の食の好みは僕の好みのままで、回想シーンの焼き芋が大爆発してしまうエピソードも僕自身の経験です。最初に出てくる目玉焼きは父・日登志が作ってくれた思い出の味として創作しましたが、そのシチュエーションは自分の記憶に基づいているので、プライベートだけどエンタテインメントなものになっていると思います。

Q キャスティングについてお聞かせください。

A映画『最初の晩餐』常盤司郎オリジナル脚本が完成した次に僕と杉山さん、中川さんの3人でキャストを考えました。主人公の麟太郎は32歳ですが、当時22歳くらいの染谷将太くんをTVのトーク番組で見て、演技はそれまで見ていませんでしたが直感的に彼だと思いました。染谷くんに脚本を読んでもらったら即決してくれましたが、その時もまだ具体的なスケジュールは決まっていませんでした。その後、制作会社やスタッフが固まって、永瀬正敏さんが父・日登志に決まってから本格的に動き出しました。斉藤由貴さん、戸田恵梨香さんが決まり、最後にシュン役に窪塚洋介さんが「絶対出たい」と言ってもらえて決まりました。
キャスティングで妥協するのはよそうと決めていました。この5人は活躍している分野も違いますしこれまで一同に会することはなかったと思うので、この5人がどう絡み合うのかがステップファミリーの話と通じると思いました。演技派の5人の化学反応はとても楽しみでした。

Q 通夜の晩の出来事に回想シーンが入る構成ですが、撮影はどのように進められたのでしょう。

A常盤司郎季節を分けて撮ることができました。回想シーンでもある過去の出来事の多くは、冬に撮影しました。そこで撮られていった“登場人物たちの過去”をスタッフが共有し、その後、春先はみんな別の仕事をして、夏至の夜の設定である通夜の晩の撮影のために3ヶ月くらい経ってからまた集まる形になったのですが、それが良かったです。過去のシーンを撮ってすぐに現在のシーンの撮影ではスタッフの間でも思い出にまでは至らないと思いますが、3ヶ月空いたことで撮影という行為自体がひとつ思い出になって、夏の撮影でスタッフもキャストも実家に帰ってきたような感覚になれました。麟太郎は年頃によって子役も違いますし、通夜の撮影で大人になった麟太郎の染谷くんが帰ってくると、スタッフも「大きくなったねぇ」と、つい親戚のような気分になる(笑)。斉藤由貴さんだけが過去と現在両方に出ていますが、全体を通して純粋な順撮りになっています。

Q 回想シーンの子役や少年少女時代のキャストの演出についてはいかがでしたか。

A映画『最初の晩餐』常盤司郎大人役の5人には策を弄する必要はありませんが、子役や若手の場合、台本を読み込んできてしまうとどうしても生々しさがなくなってしまうので、時には子どもたちには台本を渡さずに撮るようなこともしました。少女時代の美也子役の森七菜と青年時代のシュン役の楽駆は、楽駆だけ隔離したり、役の二人が仲良くなるまでは森七菜には楽駆をシカトしろと指示を出したり(笑)。そういう情報の操作もしました。

Q 最後まで飽きさせない展開です。工夫したことはありますか。

A常盤司郎脚本を褒められることが多いですが(笑)、特別なことはとくにしてはいないです。絵コンテはほとんど描かず、撮影の山本英夫さんと事前に打ち合わせを重ねていたので、あらかじめイメージもありましたし、現場で役者の感情に合わせていくような撮り方でした。

Q 新しい発見などはありましたか。

A映画『最初の晩餐』常盤司郎僕は脚本家でもあり映画監督でもあるので、監督としては脚本を現場で捨ててもいいと考えています。現場で見たことがすべてですし、「てにをは」へのこだわりもありません。終盤の橋を渡るシーンでは、台本上ではなく自発的に生まれたことが反映されています。役者が実際に演じた時の感情の動きを見るのが好きですし、それが正しいと思っています。
それと、染谷くんの台本の読み込み方は独特で、麟太郎自体は感情が表立って表れる役ではないので本当は難しいはずですが、僕の書いたセリフや動きをどんどん飛び越えてくれました。たとえば、お坊さんがお経をあげている時に美也子が父の遺言状があるという話を小声でした時に、僕の台本では「遺言状!?」と書いたので、僕らスタッフはここは驚くのだろうと思っていたら、「あ、遺言状。」と納得する芝居をしたので、麟太郎はそうくるのか、と撮りながらびっくりしました。通夜ぶるまいがキャンセルされていることを美也子が電話で知るシーンもその様子を覗き込む動きを自発的にしてくれたり。染谷くんに限らず、斉藤さんも本読みの第一声でアキコがどういう人物かを表現してくれましたし、永瀬さんの日登志もはじめから一貫していました。

Q 常盤司郎監督からOKWAVEユーザーにメッセージ!

A常盤司郎この映画は食卓の話であり、コミュニケーションの話です。黙々と食べることも会話しながら食べるのもコミュニケーションです。僕自身、家族旅行や運動会を振り返ってみると食べたものや食事の風景を思い出しますので、皆さんも映画を観て自分のそういった記憶を呼び起こしてくれたらうれしいです。エンドロールから家に帰るまでに何を思ってくれるかが映画だと思いますので、家族のことを考えたりしていただけたらいいなと思います。

Q常盤司郎監督からOKWAVEユーザーに質問!

常盤司郎皆さんの家族の食卓にまつわるエピソードの中で、もっとも強烈だった出来事を聞かせてください。

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■Information

『最初の晩餐』

映画『最初の晩餐』2019年11月1日(金)新宿ピカデリーほか、全国ロードショー!

独立して2年目となるカメラマン、東麟太郎は、姉の美也子とともに薄暗い病院の食堂で、麺がのびきったラーメンを食べている。
「親父が死んだ……。65歳になる直前の、夏至の日の明け方だった」
久しぶりに故郷に帰ってきた麟太郎は病室で亡き父・日登志と対面し、葬儀の準備をしながら、ありし日の家族を思い出す。
通夜の準備が進む実家の縁側で、麟太郎がつまらなそうにタバコを吸っていると、居間では、ちょっとした騒動が起きていた。通夜ぶるまいの弁当を、母・アキコが勝手にキャンセルしていたのだ。なにもないテーブルを見つめて戸惑う親戚たち。母は自分で作るという。それが父の遺言だ、と。やがて最初の料理が運ばれてくると、通夜の席はまた、ざわつき出した。母が盆で運んできた料理は目玉焼きだった。
戸惑いながらも、箸をつける麟太郎。目玉焼きの裏面を摘む。ハムにしてはやけに薄く、カリカリしている。
「これ、親父が初めて作ってくれた、料理です」
登山家だった父・日登志と母・アキコは再婚同士で、20年前に家族となった。麟太郎7歳、美也子が11歳の夏だった。 新しく母となったアキコには、17歳になるシュンという男の子がいた。
5人はギクシャクしながらも、何気ない日常を積み重ね、気持ちを少しずつ手繰り寄せ、お互いにちょっとだけ妥協し、家族として、暮らしはじめていた。それは平凡だけど、穏やかな日々だった。
しかし、1本の電話が、まるで1滴の染みが広がるように、この家族を変えていく……。

染谷将太 戸田恵梨香 窪塚洋介 斉藤由貴 永瀬正敏
森七菜 楽駆 牧純矢 外川燎 池田成志 菅原大吉 カトウシンスケ 玄理 山本浩司 小野塚勇人 奥野瑛太 諏訪太朗

監督・脚本・編集:常盤司郎
配給:KADOKAWA

公式HP:http://saishonobansan.com

(C)️2019『最初の晩餐』製作委員会


■Profile

常盤司郎

常盤司郎(映画『最初の晩餐』)福岡県生まれ。
映画、CM、ミュージックビデオの監督・脚本をはじめ、サザンオールスターズ初のドキュメントムービー「FILM KILLERSTREET(Director’s Cut)」(06)など様々な分野で活躍。実の父との関係を綴った短編映画『クレイフィッシュ』(10)がShort Shorts Film Festivalで最優秀賞と観客賞を開催初のダブル受賞し、国内外の映画祭で高く評価される。続く短編映画『皆既日食の午後に』(11)では世界10カ国以上の国際映画祭に正式招待。また河瀨直美監督らと競作した「CINEMA FIGHTERS PROJECT」(17)では、手がけた短編映画『終着の場所』が大きな話題に。本作が劇場長編映画デビュー作となる。