OKWAVE Stars Vol.895はドキュメンタリー映画『草間彌生∞INFINITY』(2019年11月22日公開)ヘザー・レンズ監督と編集・共同脚本のイデイケイタさんへのインタビューをお送りします。
Q 草間彌生さんに関心をもたれたきっかけについてお聞かせください。また、作品などで印象的なものについてお聞かせください。
Aヘザー・レンズ最初に興味を持ち始めたのは、1990年の初頭でした。当時、大学で美術史とファインアートを学んでいました。その後、映画作りの勉強で、修士を取りましたが、当時、美術史の授業ではなくて、彫刻の授業を受けているときに始めて彼女の作品に触れたんです。
ところが、当時、今からすると驚きなんですが、アメリカでは草間さんに関するカタログは一冊しか出版されてなかったんです。それで、私としては、アメリカのアート界への彼女の貢献が正しく理解されてないんじゃないか。知ってもらいたい、正しく理解してもらいたいと思ったのが映画作りへ着手したきっかけの一つです。
その一つの例を挙げると、60年代の草間さんは、反戦ハプニングというパフォーマンスアートを行っていたのですが、当時のアメリカのマスコミは、やはり裸体だったりが出てくるセンセーショナル部分だけにスポットライトをあてて、彼女自身のこと、例えば彼女自身の過去、を知ろうとはしない、ということがありました。第二次世界大戦を子ども時代に体験している草間さんは、女学生になっても軍事工場に働なければならず、そういう体験をなさってるからこその反戦ハプニングだった訳ですよね。
草間さんの印象的な作品は、70年代のコラージュの作品です。これらが好きです。
Q 映画化する上で、草間彌生さんのNY時代にとくに着目された理由、もしくは構成する上でその時代のウェイトが大きくなった理由についてお聞かせください。
Aヘザー・レンズ最初は、ニューヨークで彼女が過ごした時代だけをフィーチャーしようと、あるいは、そこをメインにしようと思っていました。それはアメリカ人としては、すごく納得のいく構成かなと思いました。15年も生活されていたし、草間さんに欠かせない時代だったと思うんです。さらには、今ほどのグローバルなスーパースターになる前でしたから。
その物語に深く深く踏み込んでいくと、ニューヨークで作った作品がどうして作られたのかという背景を描かなければいけない、そのためには、その過去も描いていかなければいけないんですよね。それで、その過去も描きつつ、草間さんはどんどん作品を新しく作っていかれるので、逆にそれもフィーチャーしていかなければと思いました(笑)。
実は当初、1993年の第45回ヴェネツィア・ビエンナーレに初めて日本の代表として女性のアーティストに選ばれたのが草間さんだ、というところで終わらせようと思っていたんです。
物語のちょうど半分くらいのところで、1960年代にそのヴェネツィアのビエンナーレに無許可で参加したというところがあるので、それとうまく鏡で映したかのようなきれいな終わり方になるのかなと思っていたら、そこからも彼女がどんどん進化していくので追い付いていかなければならなかったということです。もっと言うと、映画の終わり方も最新の作品で終わりたくはないと思いました。というのは、彼女はさらにその前に行ってしまうので、時間がどんなに経ってもタイムレスな終わり方にしたいと思いました。
そこで、自分の生まれた故郷の松本市で、評価されなかったけれどもアメリカに渡って、そして最終的には評価されて受け入れられた、という風に構成しました。
出野圭太本当は、第一幕、草間さんが日本にいるときに、草間さんは女学校を卒業して美術工芸学校(当時)に入学したため京都で日本画を学んだりもしているので、そういうシーンが入ってもいました。だけど、その辺はちょっと軽めにしました。
レンズ監督の補足になりますが、第二幕のアメリカにいる時代をヘビーなものにした理由は、草間さんが壁に当たるからです。女性で、アジア人、日本人だからと。この問題は、この映画を制作していく中で、レンズ監督は白人の女性ですが、ハリウッドの映画業界は男性白人社会なので、その困難と僕の中でどんどんシンクロしていきました。いまのこの時代でもその問題があるということで、草間さんが目にした問題をしっかり描いて、今の時代の人たちに伝えないといけないなというのがすごく感じたポイントです。
ですので、ちょっと第一幕を軽めにして、第二幕をちょっと重くしたという感じがあります。
Q 草間彌生さんへのインタビューを通じて、ご本人にはどんな印象を持たれましたか。また、お会いする前後で印象に変化はありましたか。
Aヘザー・レンズとくに前後で変わったということはなかったですね。お会いしたことは、本当に素晴らしい体験で、もっといろんな質問をしてみたかったし、もっと時間があったらなと思います。実際にそれまで、いろいろな記事や本の中で、彼女が話してなかった部分を聞くことができたので、本当に素晴らしい取材だったし、それが終わったとき、草間さんに私から「人生で一番幸せな日でした」と申し上げたら、草間さんの方も「私もよ」と寛大にも仰ってくださって。すごく礼儀正しく、フレンドリーで、すごく興味深い、そんな時間を一緒に過ごすことができました。
Q 草間彌生さんが関係する諸氏へのインタビューを通じて、監督自身が感じたことをお聞かせください。
Aヘザー・レンズインタビューの相手というのは、やっぱり彼女のことをよく知っていらっしゃる方、そして彼女自身の人生、キャリアに大きな役割を果たした方というのを意識して選んでいきました。
ご近所の方とかお友達の方とか、そういった話を聞いて、彼女というパズルを作っていったという感じでしょうか。
あるいは彼女の歴史というモノを作っていく。つまり一人の方だけをソースにしているわけではなくて、何人の方が、同じものを見て仰ってるのであれば、より真実に近づけるはずですよね。
いろいろな方にお話を聞いたことで、全体的には草間さんがいかに勇気を持った方なのか、大胆な方なのか、大胆な女性なのか、そしてインスパイアされるストーリーを持っているのかということが、ただただそういう思いが強くなっていったという感じでしょうか。
出野圭太僕も同感です(笑)。他の方の話を聞いて抱いたのは“tenacious”、日本語で粘り強いということ。草間さんはとりあえず作って作って作って、とにかくそこにフォーカスしていたという気がします。
Q ヘザー・レンズ監督、出野圭太さんからOKWAVEユーザーにメッセージ!
Aヘザー・レンズただ純粋に彼女がいかに先駆者であるのか、自分がアーティストになるため、その夢を追うために、いかにいろんな壁を乗り越えていったのか、ということを実感してほしいです。
出野圭太僕が感じる草間さんは、一つのコンセプトをずっと続けていたという感じがするので、一つのことを長く続けていくということを伝えられたらいいなと。それと、日本人でも世界で通用するんだよ、ということ。これをこの日本の観客の皆さんに感じてほしいです。
Qヘザー・レンズ監督からOKWAVEユーザーに質問!
ヘザー・レンズ5人のお気に入りの女性アーティストの名前を挙げてほしいです。それプラス、またはお気に入りの女性の映画監督を5人挙げてください。
■Information
『草間彌生∞INFINITY』
2019年11月22日(金)より、渋谷PARCO8F WHITE CINE QUINTO他全国ロードショー
70年以上にわたり独自の芸術を表現し続け、2016年にTIMES誌の「世界で最も影響力のある100人」に選出された草間彌生氏。そんな彼女がまだ無名だった頃、芸術家としての高みを目指し、単身で渡米。本作で捉えるのは幼少期の芸術への目覚めから、アメリカへ移住するまでの日々。そして激動の1960年代ニューヨークで苦悩しながら行った創作活動と、当時それらの作品が国内外でどのように評価されたのか、アメリカで活動するアーティストへ与えた影響といった、草間氏の知られざる過去が映される。
監督:ヘザー・レンズ
脚本:へザー・レンズ、出野圭太
出演:草間彌生ほか
配給:パルコ
公式サイト:kusamayayoi-movie.jp
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■Profile
ヘザー・レンズ
脚本家、映画監督、プロデューサーとして活動し、主に類稀な人生を歩む人々に焦点を当てたドキュメンタリー映画や自伝映画を手掛ける。ケント州立大学美術学部を卒業し、南カリフォルニア大学映画学部で美術学の修士を取得。自転車発明家に焦点を当てた短編ドキュメンタリー映画『Back to Back』(01・日本未公開)は学生アカデミー賞にノミネートされ、世界中の映画祭で上映された。美術学生時代に草間の作品にはじめて触れ、一目見た瞬間から魅了される。彼女について探求していく中で、15年に渡る草間のニューヨークでの創作活動が、アメリカのアート界に及ぼした影響が見落とされていることに気が付く。
出野圭太
大阪に生まれた後、シンガポールに移住。サンディエゴ州立大学で放送学や映画制作を学び、在学中に編集として参加した短編映画『Last Swing Dance』が、現ルーカス・フィルム社長のキャスリーン・ケネディの目に留まり、全米監督協会で上映される。これを機に本格的に編集者としての道を進む。ギャスパー・ノエ監督『エンター・ザ・ヴォイド』(10)やイザベル・コイシェ監督『ナイト・トーキョー・デイ』(10)にアシスタントとして携わり、両作品とも09年のカンヌ国際映画祭コンペティション部門に選出された。最新作はNetflixの「アルティメット・ビーストマスター」など。
掲載画像クレジット(草間彌生さん写真):
Portrait of Yayoi Kusama in her studio. Image © Yayoi Kusama. Courtesy of David Zwirner, New York; Ota Fine Arts, Tokyo/Singapore/Shanghai; Victoria Miro, London; YAYOI KUSAMA Inc.
Artist Yayoi Kusama drawing in KUSAMA – INFINITY. © Tokyo Lee Productions, Inc. Courtesy of Magnolia Pictures.
掲載画像クレジット(ヘザー・レンズ監督、出井圭太さん):©︎上條遼