OKWAVE Stars Vol.907は映画『嘘八百 京町ロワイヤル』(2020年1月31日公開)武正晴監督へのインタビューをお送りします。
Q 前作『嘘八百』から本作への経緯をお聞かせください。
A武正晴2018年1月に前作が公開されて、その年の夏にはシナリオ作りに着手しました。続編とは言っても続きがあるわけではなかったので最初は手探りでした。1本目の企画開発には比較的時間があったんです。今回はその時間よりもすぐに準備稿が必要だったのでまずはプロットを作りました。則夫と佐輔に絡む女性を出そう、という話にはなって、古田織部の茶器をモチーフにするというところまでは決まったものの、シナリオ作りは撮影に入るギリギリまでかかりました。織部について調べていくと“歪み”という特徴に気づいて、“歪みの精神”のようなものをシナリオに織り込むことができたので、この映画ができたのは織部さんのおかげです(笑)。
Q 広末涼子さんのキャスティングについてはいかがでしたか。
A武正晴前作で友近さんと初めて仕事をさせていただいて、その後に友近さんのお笑いライブを観に行く機会があったんです。その会場の何席か離れたところに雰囲気のある女性がいるなと思ったら広末さんで、お会いしたことがなかったので素敵な第一印象でした。その時の印象があったので志野のキャスティングの話になった時に広末さんの名前を挙げました。高知出身なので関西の言葉も使えそうですし、友近さんのライブを観て大笑いされていたのもいい印象でしたのでキャスティングさせていただきました。広末さんも志野のようにお子さんを育てられていて、役柄ともシンクロしていて、さらにちょうど陶芸を始めていたそうで、そういう意味でもいいタイミングになったのかなと思います。非常にうまくいったんじゃないかと思います。
Q 中井貴一さん、佐々木蔵之介さんとは今作ではどのようなことに取り組まれましたか。
A武正晴前作でキャラクターはできあがっているので、ふたりとも今回は何をやるか、というところだけでした。今回は京都が舞台なので、前作の後に則夫と佐輔はそれぞれどうしていたのか、なぜ京都にいるのかが役者的には気になるところだったようで、その話をよくしました。
Q 本作で一番大事にしたことは何でしょう。
A武正晴いつもそうですが「どうやったら映画になるか」ということに尽きます。前作同様にいいキャストが集結してくれたので、集団劇としてどう見せていくかを考えました。役柄を全うできる役者が揃いましたので、その出てくるすべての役が最後まで活躍できるようにしようと。そういう意味でもキャスティングが一番大事でした。
Q 監督は“なかなかOKを出さないけれどもとても撮影が早い”とのことですがどのような現場だったのでしょう。
A武正晴それは撮影を朝早くから始めるからですね(笑)。まだ暗いうちに撮影を始めるので役者さんはびっくりしていました。日が昇ったら撮り始めて、早く終えて明日の準備をして休む、という方針です。撮影期間は休みがないので、せめて早く終えてせっかくの京都なので美味しいものを食べてくださいと。そのためにも朝早くから始めるということです。
Q うまくハマった場面など撮影の様子をお聞かせください。
A武正晴やはり最後のテレビ番組のシーンです。前作もそうですが、最後に全員が集まって繰り広げられるシーンなので、その全員をしっかり見せる必要があります。それを2日間で撮らなければならなかったので、記憶しきれないくらい慌ただしく撮影を進めました。やはり撮り終えた時には頭も体も疲れ果てていました。ただ前作の方が撮影期間は短かったので撮影後に寝込んでしまいましたが、今回はそこまでではなかったですし、やはりいい役者さんが揃ったことが大きいです。坂田利夫さんには特殊メイクをしていただいたり、役者の皆さんも大変だったと思います。
Q 本作を通じて新しい発見はありましたか。
A武正晴撮影時期にはいろいろとコンプライアンスの問題が起きていましたので、“歪み”というテーマは良かったなと思います。古田織部の特徴ではありますが、この“歪”の字の語源は“不正”です。そもそも、この「嘘八百」というタイトルも昔からあるいい言葉だと思います。「どうせ嘘をつくなら八百つきなさい」と、これは哲学です。“江戸に橋が100あるなら、大坂には800ある”と大坂の人たちが言ったのが語源ですが、現代では意味も使われ方も変わってつまらない使われ方をしています。元々は人をだますというよりも洒落で使っていたものです。ですので今回の“歪む”も、人間の正しいところもまずいところも歪むのだから正しいことと間違っていることは表裏一体だと、昔の人が言葉に哲学を入れてくれていることが発見でした。「歪んだものでもいい」というのが織部さんの言いたかったことです。利休さんが作った無駄のないシンプルな美のようなものに対して、ヒビが入っていても面白い、という視点を示したので、映画を作る上でもそういう主人公たちでもいいんだという気づきが得られました。いま映画はどうかといえば、ちょっと歪んだものを描こうとすると全部止められてしまいます。それでは僕らが映画を作る意味が問われます。僕はこの後にNetflixで「全裸監督」を撮ったので、この気づきはとても良かったですね。僕らがいつも作っているものはこちらの方向でいいんだと、僕たちならまともに歪むことができる、という洒落の効いた言い方ができるので、それをすでに見出していた昔の人たちは素敵だと思います。現代は洒落っ気がどんどんなくなって人の悪口もどんどん辛辣になっています。もっと洒落っ気のある言い方もあるだろうし、そういう映画がいいなと思います。
Q 非常に共感できる考え方です。関西で作られたことも良い作用をしたと思いますがいかがでしょうか。
A武正晴関西の人たちの言葉のおおらかさはいいですよね。いまは関西のノリで「お前はアホか」と言うと怒り出す人がいる余裕のない時代ですので、軽薄なものではなく、バカバカしくも洒落っ気の効いた文化がまた広まればいいなと思います。ですのでこういう大人が観られる洒落の効いた作品を作る企画をいただけたのもありがたいです。人が面白がって笑ってくれる作品を作るのは難しいですし、いい役者さんがいて成立するものなので、そのような映画を送り出せたと思います。
Q 武正晴監督からOKWAVEユーザーにメッセージ!
A武正晴難しい映画ではないので、役者さんたちの演技を面白がって観てもらえればと思います。そして織部さんが言う“歪んでいてもいい”という哲学が伝わればいいなと思います。この映画の「嘘八百」というタイトルは脚本の今井雅子さんの発案ですが、これも哲学があっていいと思っています。最近の長いタイトルにはない哲学を感じていただけたらと思います。
■Information
『嘘八百 京町ロワイヤル』
かつて、大阪・堺で幻の利休の茶器で大勝負を仕掛けた古物商の則夫と陶芸家の佐輔。二人はそれぞれの人生を送っていたが、ひょんなことからお宝眠る古都・京都で再会を果たす。そこで出会ったのは、着物美人の志野。彼女のけなげな想いにほだされて、二人は利休の茶の湯を継承し「天下一」と称された武将茶人“古田織部”の幻の茶器にまつわる人助けに乗り出すが・・・。それは、有名古美術店や大御所鑑定家、陶芸王子、テレビ番組をも巻き込む大騒動に。
出演:中井貴一 佐々木蔵之介
広末涼子 友近 森川葵 山田裕貴
坂田利夫 前野朋哉 木下ほうか 塚地武雅/竜雷太/加藤雅也
監督:武正晴
脚本:今井雅子 足立紳
配給:ギャガ
© 2020「嘘八百 京町ロワイヤル」製作委員会
■Profile
武正晴
1967年生まれ、愛知県出身。
短編映画『夏美のなつ いちばんきれいな夕日』(06)の後、『ボーイ・ミーツ・プサン』(07)で長編映画デビュー。『カフェ代官山~Sweet Boys~』(08)、『カフェ代官山 II ~夢の続き~』(08)、『花婿は18歳』(09)、『カフェ・ソウル』(09)、『EDEN』(12)、『モンゴル野球青春記』(13)、『イン・ザ・ヒーロー』(14)、『百円の恋』(14)など。『百円の恋』は、日本アカデミー賞、ブルーリボン賞など数々の映画賞を総なめにし話題を呼び、第88回アカデミー賞外国語映画賞の日本代表作品としてもエントリーされた。近作には、『リングサイド・ストーリー』(17/出演:佐藤江梨子、瑛太)、『嘘八百』(18/主演:中井貴一、佐々木蔵之介)、『銃』(18/主演:村上虹郎、広瀬アリス)、『きばいやんせ!私』(19/主演:夏帆、太賀)などがある。また、Netflixで配信中の「全裸監督」(19)も話題に。