Vol.909 映画監督 中村真夕(ドキュメンタリー映画『愛国者に気をつけろ!鈴木邦男』について)

映画監督 中村真夕(ドキュメンタリー映画『愛国者に気をつけろ!鈴木邦男』)

OKWAVE Stars Vol.909はドキュメンタリー映画『愛国者に気をつけろ!鈴木邦男』(2020年2月1日公開)中村真夕監督へのインタビューをお送りします。

Q 本作を撮るきっかけについてお聞かせください。

A中村真夕私の父が正津勉という詩人で、父も鈴木さんも高田馬場に昔あった日本ジャーナリスト専門学校で講師をしていたんです。それで面識があって、5年ほど前に私が撮った『ナオトひとりっきり Alone in Fukushima』という映画のトークショーに来ていただいたのが私が鈴木さんと知り合ったきっかけです。
鈴木さんを題材にしたのは、これまでに鈴木さんを撮った映像作品がなかったからです。最初はテレビ局に企画を出しましたが成立しなかったので、2017年の夏に自分で撮り始めました。それが映画の中にも出てくる鈴木さんの生誕祭というイベントです。それまで、何度か会っていて仲は良くなっていましたが、どんなことをしてきた人物かはあまり知りませんでした。

Q ドキュメンタリー映画としてはどんな作品にしようと思いましたか。

Aドキュメンタリー映画『愛国者に気をつけろ!鈴木邦男』中村真夕ドキュメンタリーを撮る時はいつもどういう結末の作品にするかを決めずに撮りながら考えるんです。インタビューが中心になるとは思っていました。鈴木さんの書籍には個人情報保護の時代にも関わらずご自分の住所を公表されていているので、その自宅である“みやま荘”に行かなければと思いました。それで鈴木さんに相談をしたら、椎野さんという編集者の方と一緒に来ることという条件で受け入れてくれました。
鈴木さんの著作は70作くらいあるのでどこから読めばいいのかわからずにいた時に、鈴木さんの経歴がわかりやすい「〈愛国心〉に気をつけろ! 」という本と、昔から重版されている「新右翼」という本を読みました。そうして勉強するうちに、鈴木さんと同い年で17歳の時に日本社会党の党首を暗殺した山口二矢、民族派活動家の野村秋介、三島事件で切腹死した森田必勝の名前がよく出てくることに気づいて、鈴木さんの人生で一番大きな影響を受けたのだろうと思って、その話を中心に聞くことにしました。
この映画の問題提起の入口としては、右翼、左翼、宗教や思想がまったく異なる人たちと鈴木さんは仲良くなれるのはどうしてかという謎を解くことでした。私の意図としては“鈴木邦男から民主主義を考える”映画にしたかったんです。いろいろな価値観や背景を持つ人たちが話し合える社会が来ればいいなという願いを込めました。私は今の日本社会は不寛容というか、異なる意見を受け入れない風潮を感じていて、鈴木さんはその逆を行っているので、そのような思想がどこから生まれたのかを辿ろうとしました。いろいろな方にもお話を聞きましたが、謎が解けたのかどうか、なかなか難しい命題でした。

Q 鈴木さんご自身の反応はいかがだったのでしょう。

Aドキュメンタリー映画『愛国者に気をつけろ!鈴木邦男』中村真夕鈴木さんは来る者拒まず去るもの追わずといった方なので、誰でも歓迎されるんです。取材はもちろん、みやま荘への訪問も受け入れてくれました。ただ、その同席した椎野さんから最初に「女性と赤報隊事件のことは絶対に話さないよ」と聞かされていました。それで絶対に聞こうと思って、撮影を続ける中で詰将棋のように段々と核心に迫ることで聞き出すことができました。ぜひ映画で観ていただければと。とはいえ、鈴木さんは父と友だちで、私は年齢的に娘くらいなので、私が「なんで独身なんですか」とズケズケと質問する中で(笑)、半分は仕方ないかという感じではあったと思います。

Q 監督自身は政治や思想にはもともと関心が高かったのでしょうか。

A中村真夕私はむしろ勉強不足で知らない方だと思います。私は団塊ジュニア世代で、フィクション映画でデビューをしていますが、そのデビュー作の『ハリヨの夏』は全共闘世代の親を持つ女子高生の話です。全共闘世代の時代に対する興味や憧憬のようなものはありました。『ハリヨの夏』ではダメになってしまった全共闘世代の話を描いたので、その時代の右翼の人たちはどうだったのだろうなという興味も持っていました。また、この映画を撮り始める直前に若松孝二監督が急に事故で亡くなってしまって、誰も監督のドキュメンタリーを撮っていなかったなとも思って、あの時代の人たちが段々といなくなってしまう前に撮らないと、どういう時代だったのか分からなくなってしまうなという思いもありました。

Q 鈴木邦男さんを触媒にいろいろな人物が登場しますね。

A中村真夕この映画では上祐史浩さんや松本麗華さんも出てきます。私は普段はテレビ番組の仕事もしていますが、テレビではほぼ取り上げることのない人たちです。鈴木さんを通して彼らに映画の中で話していただいたので、普通の生活を送っていたらなかなか接点のない人たちと出会えたので、勉強になった部分も多いです。松本麗華さんの麻原彰晃の娘としての苦悩も映画の中で触れていますが、社会から断罪されたり締め出された人たちにも手を差し伸べようとしている鈴木さんのようなことはなかなかできません。

Q 鈴木邦男さんの周りに集まる人たちは鈴木さんのどんなところに惹かれるのでしょう。

Aドキュメンタリー映画『愛国者に気をつけろ!鈴木邦男』中村真夕例えば松本麗華さんは「鈴木さんはメディアや社会の偏見にとらわれずにその人と向き合っている」と言っています。映画ではカットしてしまいましたが、撮影期間中に鈴木さんはよど号ハイジャック犯だった人たちに会いに北朝鮮に二度渡ったりもしています。人が好きで勉強が好きで、好奇心が強いのだと思います。直にその人と会うことを心がけているのが素晴らしいなと思います。それと、雨宮処凛さんは「鈴木さんは一切威張らない」と言っています。鈴木さんの世代は経歴などをひけらかして威張りがちですが、むしろ「自分はもっと勉強しないといけない」とすごく謙虚です。慎ましい生活を送っているのでまるで修道士みたいです(笑)。そして、偉ぶったところがまったくないので女性にすごくモテるんです。私も含め“邦夫ガール”がいっぱいいて、偉そうな男性にウンザリした女性が癒やされに寄ってくるのかなと思います(笑)。鈴木さんがどうやってそういう人になったのかはいまだに私にも分かりません。もちろん怖い部分も持っていると思います。目が鋭い時があって、敵か味方かを一瞬で察知しているのだろうなと思います。それを柔らかい表面で隠しているのかなとも思います。

Q この映画のタイトルに込めた監督自身の思いについてお聞かせください。

A中村真夕どの映画でもタイトルには悩みます。最初は“テロと民主主義”というタイトルを考えていました。スタッフと話し合う中で、鈴木さんの著作の「〈愛国心〉に気をつけろ! 」には自戒の念もあるのだろうなと感じてつけました。“愛国心”にまつわるイデオロギーが氾濫している中で、右翼だったはずの人がそれを言っているのも面白いなとも思いました。隠れて人をバッシングするのではなく「表に出て正々堂々と意見を言おうよ」というのが鈴木さんの考え方です。「言論の覚悟」という本も書かれているので、表に出て批判も受けて立つ覚悟を持っているのだと思います。ネットの世の中になって、意見が一方通行のようになっていますが、鈴木さんはそこにあえて対話を求めています。民主主義の根本はいろんな人の意見をちゃんと聞くということなので、そんなところに至れればいいなと思います。

Q 本作を通じて監督自身の新しい発見などはありましたか。

A中村真夕ポレポレ東中野での上映後のトークショーには錚々たる方たちに特別ゲストとして来ていただけることになりました。鈴木さんに所縁のある方を中心に声をかけました。例えば瀬々敬久監督は『菊とギロチン』に鈴木さんが長いコメントを寄せていたのでお願いしました。これだけたくさんの特別ゲストに参加していただけるようになったのは、やはり鈴木さんの人望だし、それだけのことをやってきた人だからだと思います。世の中的には危険人物なのかもしれませんが(笑)私もこういう人になりたいと思いました。

Q 中村真夕監督からOKWAVEユーザーにメッセージ!

A中村真夕ネット社会になって対話の形式も変わってきたと思いますが、ネット社会でもいろんな価値感と意見を持つ人たちが批判も受け入れながら交流できるようになるといいなと思っています。顔が見えないからこそ強く言ってしまいがちですが、その先に人間がいるということを意識して対応しなければなりませんし、匿名だからこそ節度や責任を持たないとならないと思います。鈴木さんが生きてきた時代とは違う時代だからこそ、今の時代の良さとともに考えられればと思います。

Q中村真夕監督からOKWAVEユーザーに質問!

中村真夕少し前に伊藤詩織さんが裁判で勝訴した際に伊藤さんをバッシングする人たちがいて心を痛めました。私は帰国子女だからか、世の中で声を上げた人をバッシングする、出る杭を打つような日本社会の風潮に怖さも感じています。批判することはいいのですが、その人がどういう思いで声を上げているのかを考えてほしいなとも思います。
質問ですが、皆さんはネットでバッシングをする心理をどのようなことだと思いますか。

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■Information

『愛国者に気をつけろ!鈴木邦男』

2020年2月1日(土)よりポレポレ東中野ほか、全国順次ロードショー

長年、右翼活動家として活動しながらも、元赤軍関係者や、元オウム真理教信者たち、元警察官からグラビアアイドルまで、様々な人たちと交流をし続ける謎の政治活動家・鈴木邦男、76歳。前回制作したドキュメンタリー映画『ナオトひとりっきり』のトークゲストとして来てもらったことをきっかけに、彼に興味をもった私、映画監督・中村真夕。2年間、鈴木に密着し、その思想遍歴をたどる中で、どのようにして彼が政治や宗教の境界を超えて、様々な人たちと交流するようになったかが見えてきた。異なる意見や価値観を持つ人たちに対しての不寛容さが強くなっている今の日本社会で、鈴木のボーダーレスな存在から、この映画で何か突破口を示唆できるのではないかと願っている。

製作・監督・撮影・編集:中村真夕
出演:鈴木邦男、雨宮処凛、蓮池透、足立正生、木村三浩、松本麗華、上祐史浩他
配給:オンファロスピクチャーズ

http://kuniosuzuki.com/

©️オンファロスピクチャーズ


■Profile

中村真夕

映画監督 中村真夕(ドキュメンタリー映画『愛国者に気をつけろ!鈴木邦男』)ニューヨーク大学大学院で映画を学ぶ。2006年、劇映画『ハリヨの夏』(主演:高良健吾、於保佐代子、柄本明、風吹ジュン)で監督デビュー。釜山国際映画祭コンペティション部門に招待される。2012年、浜松の日系ブラジル人の若者たちを追ったドキュメンタリー映画『孤独なツバメたち~デカセギの子どもに生まれて~』を監督。2015年、福島の原発20キロ圏内にたった一人で残り、動物たちと暮す男性を追ったドキュメンタリー映画『ナオトひとりっきり』を発表。モントリオール世界映画祭のドキュメンタリー映画部門に招待され、全国公開される。最新作、オムニバス映画『プレイルーム』はシネマート新宿で異例の大ヒットとなりアンコール上映され、全国公開される。脚本参加作品としては「東京裁判」(NHK)がある。