OKWAVE Stars Vol.914は映画『犬鳴村』(公開中)清水崇監督へのインタビューをお送りします。
Q 実在の心霊スポットである“犬鳴村”を題材にした本作の経緯をお聞かせください。
A清水崇東映の紀伊さんというプロデューサーと何かやろうと話していた矢先、「犬鳴村って知ってる?これを映画にできないですかね」と聞かれました。犬鳴村が心霊スポットとして知られていることは僕も聞いてはいました。心霊スポットを題材とすると、突撃レポートものや、若者が肝試しに行って一人ずついなくなるもの、フェイクドキュメンタリーものはよくあるので、僕がやるなら、自分で怖いと思っていることや伝えたいテーマを入れられる劇映画がいいなと思いました。
心霊スポットや都市伝説を軸として、自分が興味を持って取り込めるものは何かを考えていくと、不思議な偶然の一致や、家族や身内に起きる連鎖的な血縁内のプライベートな出来事に興味があったので、因果応報や血筋に関わる要素を持ち込めないかと思いました。それで、心霊スポットが主人公の血筋と関わりを持ってしまう、というものだったら今までにはない映画になると思い至りました。
それと、紀伊さんは僕よりも少し年上で「犬神家の一族」などで映画的恐怖を体験した世代で、“忌まわしき因習”を入れられないかと。そこで狙いが合致する気がして、犬鳴村や各所の都市伝説にまつわる虚実入り交じった噂の歴史的背景についても調べ始めました。例えば「この先、日本国憲法通用せず」という看板にはどんな意味があるのか、誰が作ったのかといったことです。この犬鳴村に限らず、こういったところには今ではなかったことにされている史実が隠されているので、そういったものを根っこに背景づくりをしていきました。誰が主人公かも決めないまますごく長い家系図ができあがったり(笑)、過去の話は膨らんでいくものの、なかなか現代劇にならないので、保坂大輔さんに脚本で入ってもらって、僕が調べた色んな要素を抽出してもらおうと思いました。
Q その膨大な背景情報から脚本はどのように完成に至ったのでしょう。
A清水崇保坂さんが僕の調べた情報をまとめて、現代の話にするなら女性が主人公がいいだろう、と設定を決めてくれて、そこからは共同で進めていきました。霊感的なものを持ちながらそれを認めたくなくて見ないふりをしている主人公と、みんなが見ないふりをして蓋をしてしまった過去が結びついていくところや、主人公と心霊スポットの関わりの部分にはこだわって作っていきました。
これは偶然なんですが、中田秀夫監督の『貞子』とこの映画は同時期に作っていて、ロケハン中も同じ病院をすれ違っていたりしたんですが、あちらが先に公開されたので観に行ったら、主人公が病院の心理カウンセラーで、弟がYouTuberで事故現場に行ったらいなくなって主人公が探しに行く、という、内容は全く違うけれど設定が諸にかぶっていたので、これもシンクロニシティなのかとびっくりしました(笑)。『犬鳴村』の出演者やスタッフからも「『貞子』見ました?」って連絡が何件も来ました。
Q 三吉彩花さんが演じた森田奏についてお聞かせください。
A清水崇奏役が三吉さんに決まる前から、奏は兄弟の中でも自立しているけれど、子どもの頃から変なものを感じたりしてしまうので、そこから逃れるために科学で割り切れる道に行こうとしている、という内面は決まっていました。兄は地元の金持ちの息子で体たらくといいう家族構成も、関係してきた様々な人間模様の中から発想しました。三吉さんはプロデューサーの中林さんが推薦してきて、子役からやってきて若いながらもしっかりしているのでいいなと思いました。唯一心配したのはスタイルが良すぎるところでしたね(笑)。というのは、どこにでもいるような人の日常に恐怖が起きるという見え方が本来最適だからです。とはいえ、そこは福本カメラマンにうまく映していただけたかと思います。
Q 清水監督のホラー作品は、やはり期待して観に来るお客さんが多いと思いますが、今作でのホラーの見せ方をどのように考えましたか。
A清水崇僕が撮った『呪怨』や中田監督の『リング』が流行ったのは20年くらい前なんですね。タイトルは知っているけれど観たことはない人もいるし、今の若い人たちが求めるホラーに対して僕らはだいぶ歳を重ねてしまいました。一方で、当時のJホラーのような作品が観たいという声も聞きます。そのどちらにも楽しんでほしい、という気持ちで、映像表現では使い古した手法をあえて用いたり、逆に初めてのチャレンジをしたところもあります。特に今回は怪談とホラーの共存に取り組みました。怪談は想像に訴えかけることで怖さを伝えるものなので、映画になると具体的な映像になることで怖くなくなってしまうことが大半です。そのバランスをとって、うまく表現できないかとずっと考えていました。それで、奏が車を運転しているシーンなどにその表現を入れました。怪談ではよくある反復の表現ですが、映画ではあまり観たことがなかったので、脚本を作っている時にあの映像が思い浮かんで、保坂さんに興奮しながら細かく説明をしました。それと霊安室のシーンに関しては、稲川淳二さんの有名な怪談へのオマージュとなっています。
Q 本作を通じて監督自身の新しい発見がありましたか。
A清水崇その土地の噂になる不思議な場所には必ず何かしら人が起こした出来事や歴史があって、情に訴えてくる力を持っている。それをを、心霊スポットと呼ぶかスピリチュアルスポットと呼ぶかは人の心がけ次第なのかなと思いました。そういう実在する場所を取り上げればもっと劇映画も作れるのかなとも感じました。
Q 清水崇監督からOKWAVEユーザーにメッセージ!
A清水崇生まれて生きている限り、老若男女、貧富に関わらず、誰もが血筋というものを持っています。過去に自分の先祖には何が起きていたのか、未来の自分の子孫に何が起こるのか、そこには人間には見えない因果関係があるんじゃないかとか、そんなことを想像しながら観ていただけたらと思います。ホラー映画ですが、僕の中では親子の映画でもあるので、そこにも注目していただけたらと思います。
■Information
『犬鳴村』
臨床心理士の森田奏の周りで突如、奇妙な出来事が起こり始める。
「わんこがねぇやに ふたしちゃろ~♪」奇妙なわらべ歌を歌い出しおかしくなった女性、行方不明になった兄弟、そして、繰り返される不可解な変死。
それらの共通点は心霊スポット【犬鳴トンネル】だった。突然死した女性が死の直後に残した言葉「トンネルを抜けた先に村があって、そこで●●を見た・・・」
これは、一体どんな意味なのか?
全ての真相を突き止めるため、奏は犬鳴トンネルに向かう。しかしその先には、決して踏み込んではいけない、驚愕の真相があった・・・。
身も凍る恐怖と戦慄、古より続く血の祝祭からあなたは逃げられない。
出演:
三吉彩花
坂東龍汰 古川毅 宮野陽名 大谷凜香
奥菜 恵 須賀貴匡 田中健 寺田農 石橋蓮司
高嶋政伸 高島礼子
監督:清水崇
脚本:保坂大輔 清水崇
企画プロデュース:紀伊宗之
公式サイト:https://www.inunaki-movie.jp/
Twitter:@Inunakimura2020
Instagram:inunakimura2020
©2020 「犬鳴村」製作委員会
■Profile
清水崇
1972年7月27日生まれ、群馬県出身。
大学で演劇を専攻し、脚本家・石堂淑朗氏に師事。同郷の小栗康平監督作『眠る男』(96)の見習いスタッフで業界入り。小道具、助監督を経て自主制作した3分間の映像を機に黒沢清・高橋洋監督の推薦を受け、98年、関西テレビの短編枠で商業デビュー。東映Vシネマで原案した『呪怨』シリーズ(99)が口コミで話題になり、劇場版(01,02)を経てサム・ライミ監督によるプロデュースの元、ハリウッドデビュー。リメイク版“The Grudge”(邦題『THE JUON/呪怨』)で日本人監督として初の全米興行成績No.1を獲得。続く“The Grudge 2”(邦題『呪怨パンデミック』)も全米No.1。その他、『稀人』(04)、『輪廻』(05)、『戦慄迷宮3D』(09)、『魔女の宅急便』(14)、4DX専用の『雨女』(16)や『ブルーハーツが聴こえる/少年の詩』『こどもつかい』(共に17)など。近年は国内外でプロデューサーも兼任し、『キョンシー』(13・香港)、『稲川怪談:かたりべ』(14)、『バイオハザード:ヴェンデッタ』(17)などを手掛ける。理論物理学の最先端「ひも理論」にエンタメ要素を用いた3Dドームによる科学映画『9次元からきた男』(16)は国内外で様々な賞を受賞し、現在も日本科学未来館にて上映中。ホラーやスリラーを中心に、ファンタジーやコメディ、ミステリー、SFなど様々なジャンルに取り組んでいる。