Vol.917 映画監督 隅田靖(映画『子どもたちをよろしく』について)

映画監督 隅田靖(映画『子どもたちをよろしく』)

OKWAVE Stars Vol.917は映画『子どもたちをよろしく』(2020年2月29日公開)隅田靖監督へのインタビューをお送りします。

Q こどものいじめをはじめとする様々な問題を扱ったストレートな題材ですが、映画の経緯についてお聞かせください。

A映画『子どもたちをよろしく』隅田靖元文科省の寺脇研さんが私の師匠の澤井信一郎監督と懇意にされています。以前寺脇さんが第2プロデュース作品である『バット・オンリー・ラヴ』という映画を公開した頃に、澤井さんから、「次はぜひ隅田に撮らせてやってくれ」というお話が寺脇さんにあったようです。寺脇さんの第3作目である今回の映画は、専門分野の、中学生のいじめや自殺問題に取り組みたいということで、この映画の骨格である、デリヘル嬢の運転手の中学生の息子がいじめられ、それをいじめる側の中学生の姉が実はデリヘル嬢だったという話を聞きました。これはいけるんじゃないか、と直感し血が巡って「ぜひやらせてください」と言いました。中学生のいじめや自殺問題を扱った事件のルポルタージュものには興味があり、このお話をいただいてから3ヶ月くらいかけて資料を読み漁り脚本執筆に入りました。そこから3ヶ月ほどでその骨格のような物語ができました。最初はそのデリヘル 嬢の運転手と息子・洋一の親子の話に比重を置こうと思いましたが、いじめる側の稔と姉の優樹菜の話の方に話の広がりが出てきたので、そちらをメインにして書いていきました。約3年かけて、寺脇さんの意見を聞きながら書き上げました。今、中学生の自殺は増えていて、ドキュメンタリーではなくフィクションの映画でやる意味を感じています。現実、真実を見据えて捉え、皆様に考えてもらえるような映画を作ろうと、強い気持ちで取り組みました。

Q 子どもたちの痛みが伝わってきますが、子役のキャスティングや演出についてお聞かせください。

A隅田靖プロデューサーから「子役のオーディションはたくさん集まるから安心してください」と言われたものの、全く集まらなかったんです。寺脇さんの知り合いの方に紹介していただきフリースクールの中学生らにもオーディションに来てもらいました。洋一役の椿三期は、私がよく行く下北沢の中古レコード屋の息子で、彼が幼少の頃から知っていました。彼はプロのドラム奏者を目指していて、誘ったら「僕はやりたいですがセリフを言うのは難しい」と言われましたが、演技レッスンをしてセリフを覚えさせて、洋一と稔のどちらもできるようにしていきました。その後に実績のある杉田雷麟がオーディションに来て、圧倒的だったので稔役は彼にお願いしました。
優樹菜役もオーディションで選びました。30人ほど会った中で鎌滝えりさんは役への熱意が伝わってきました。話を聞くと彼女は不登校の時期もあって優樹菜に近い状況もあったようです。透明感があって役に合っていて熱意もあり、根性もありそうなのでお願いしました。3人とも、うまく役にハマったと思います。
中学生役の子どもたちは現場で芝居をつけている時間がないので、師匠の澤井さん譲りのやり方ですが、セリフのあるシーンはすべて事前にリハーサルを重ねました。だから現場に行ってからあれこれ悩むことなくスムーズに撮影できました。子どもたちが芝居しやすいようにカットを割らずにある程度一気に演じさせたので、子どもたちからも「芝居がやりやすかったです」と言ってもらえて、現場は楽しく演出できました。何より、三期はいじめられる役を後に引き摺ることはなく、カメラに映らない時も後ろで演技をしてくれたので雷麟らも随分助かったんじゃないかと思います。三期はミュージシャンのノリで過ごしていましたが、みんなをよくまとめてくれたので助かりました。

Q では逆に大人の役者についてはいかがでしたか。

A映画『子どもたちをよろしく』隅田靖実はスケジュールの都合で村上淳さんの出演パートは初日にすべて撮影して、有森也実さんも最初の2日間ですべて撮影しています。だから最初の2日間で映画のカラーが決まった感じはあります。台本上ではもっとクールな印象があったのが、芝居合戦のようになりより激しくなった印象です。村上淳さん、川瀬陽太さんのお二人はアイデアマンで、時には台本に無いことも含めていろんな芝居をしてくれました。それが作品にとりより厚みを増したと思います。鎌滝さんは最初の2日間で大事なシーンのほとんどを撮ってしまったので肝が座ったと思います。

Q どんなところを大事にしようと思いましたか。

A隅田靖脚本は110ページにおよぶので今回の撮影日程では、どうしたものかと悩みました。私は「あぶない刑事」などで3話まとめて撮るような経験もしてきたので、撮影の鍋島淳裕さんらと協力してスムーズに撮影を推し進めるように努力しました。ロケハンを何度もやって、事前にカット割りや役者の動きも決めて、スタッフを前に私が役者の動きをしてみて、どう撮影するのか?を説明していきました。現場で多少の変更はありますが、スムーズに撮影を進められました。
『ワルボロ』を撮ってから12年経っていたので現場に入る前はどうなるかとは思いましたが、現場に入ったら感覚やリズムがよみがえってきました。いわゆる普通の商業映画にも見劣りしないと思います。撮影、照明などもこだわって撮っています。スタッフ、キャスト皆が頑張った結果、成果です。プロデューサーからは「撮影中、雨が降っても延期はありませんよ」と言われていましたが、撮影をした桐生市は私の親戚の家があって、冬は雪も降らないし、からっ風は吹くけれど天気は崩れない、ということも分かっていました。それでも最終日に雪が降ってきたので、夜のシーンを昼間に変更して撮りきりました。脚本の段階で力を入れて、演出も力を入れましたが、現場で悩まないように事前に考えていたので、この映画の躍動感のようなものはクールな桐生の街と自然の雰囲気、空気感と役者のがんばりの結果だと思います。

Q よみがえってくるものと同時に新しい発見のようものはありましたか。

A隅田靖助監督時代にあらかた経験しているので、この映画は何がどうなるかはだいたい分かります。その中でできることを最大限やったので、満足もしているし、うまくまとまったなとも思います。12年映画を作っていなくても映画人の血はちゃんと残っているんだということが分かったので、現場は楽しいものになり、また新作映画を撮りたいなと思います。

Q 子どもたちの告白を入れたねらいをお聞かせください。

A隅田靖この物語のたどる結末。つまり洋一が自殺することは寺脇さんと私の間で決めていました。
これが実際の事件だったら、子どもたちは皆、口を揃えて「私は洋一くんを、いじめていません。彼は何故自殺したのでしょう。」と全員嘘をついていたでしょう。
ただ、この映画はフィクションなので、稔の最後の告白は、現実とはちょっと違う重い選択をしています。そこに意味を込めました。少しだけでも希望を見出していただけたならば嬉しいですね。また稔の未来のことを皆様に感じてもらえたらと思います。

Q隅田靖監督からOKWAVEユーザーに質問!

隅田靖今一番観たい映画はどのような映画でしょうか。また、自分が一番撮ってみたいのはどんな映画でしょうか。

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■Information

『子どもたちをよろしく』

2020年2月29日(土)ユーロスペースにて公開!

東京にほど近い北関東のとある街。デリヘルで働く優樹菜は、稔の母親・妙子と義父・辰郎、そして、辰郎の連れ子・稔の四人家族。辰郎は酒に酔うと、妙子と稔には暴力、血の繋がらない優樹菜には性暴力を繰り返した。母の妙子は、まったくなす術なく、見てみぬふり。義弟の稔は、父と母に不満を感じながら優樹菜に淡い想いを抱いていた。
優樹菜が働くデリヘル「ラブラブ48」で運転手をする貞夫は、重度のギャンブル依存症。一人息子・洋一をほったらかし帰宅するのはいつも深夜。洋一は暗く狭い部屋の中、帰ることのない母を待ち続けていた。稔と洋一は、同じ学校に通う中学二年生。もとは仲の良い二人だったが、洋一は稔のグループからいじめの標的にされていた。ある日、稔は家の中で、デリヘルの名刺を拾う。姉の仕事に疑問を抱いた稔は、自分も洋一と同じ、いじめられる側になってしまうのではないかと、一人怯えるようになる。
稔と洋一、そして優樹菜。家族ナシ。友だちナシ。家ナシ。
居場所をなくした彼らがとった行動とは。

監督・脚本:隅田靖
出演:
鎌滝えり 杉田雷麟 椿三期
斉藤陽一郎 ぎぃ子 速水今日子 金丸竜也 大宮千莉 武田勝斗 山田キヌヲ 小林三四郎
上西雄大 小野孝弘 林家たこ蔵 苗村大祐 初音家左橋 難波真奈美 外波山文明
川瀬陽太 村上淳 有森也実
配給・宣伝:太秦

http://kodomoyoroshiku.com/

©子どもたちをよろしく製作運動体


■Profile

隅田靖

映画監督 隅田靖(映画『子どもたちをよろしく』)1959年生まれ。
大学卒業後、ビデオ製作会社入社。退社後、主に東映セントラル・アーツを中心にフリーの助監督を始める。『ビー・バップ・ハイヒール』(87)、『あぶない刑事』(88)、『ふたり』(91)、『時雨の記』(98)等の助監督を務め、澤井信一郎、長谷部安春監督に師事。東映映画『ワルボロ』(2007/松田翔太・新垣結衣主演)で初監督を務める。DJとしても活躍。