OKWAVE Stars Vol.926は、恋ぶみ屋一葉2020『有頂天作家』の取材会および出演者の渡辺えりさん、キムラ緑子さんへのインタビューをお送りします。
☆取材会より、恋ぶみ屋一葉2020『有頂天作家』の作品の見通しや意気込みなど。
齋藤雅文劇団新派の齋藤です。「恋ぶみ屋一葉」は四半世紀前に書かせていただきました。江守徹さん、音楽は池辺晋一郎先生、舞台美術は朝倉摂先生、照明は吉井澄雄先生という非常に華やかで権威のある方々が作ってくださって、杉村春子さん、杉浦直樹さんからもいろいろなものを学びました。とても愛着のある作品です。
今僕がこれをやったらどうだろうなという気持ちはずっとつきまとっていました。僕自身の演劇観も変わってきましたし、渡辺えりさん、キムラ緑子さんと出会って、一緒に芝居を作るようになってから、芝居の作り方も変わってきました。そして改めてこの作品をやってみたいと深く思うようになりました。僕の中では、えりさん、緑子さん、渡辺徹さんは理想の配役です。今これをやらなければ今後もやることはないだろう、と腹をくくりました。ただ、僕は30代でこの台本を書いていて、いざその年齢になった僕が今やったらこうなる、という修正は加えました。でも、基本的には変わっていません。恋ぶみ屋一葉2020『有頂天作家』とタイトルも変わりましたが、歌や踊りも入れて、明るく楽しく、切なく、エンタテインメントとして、喜怒哀楽が伝えられればと思います。
渡辺えり「恋ぶみ屋一葉」の初演を観て、号泣しました。杉村春子さんと交友があって、杉村さんの新作を私が書くことになっていてよくお会いしている頃に観に行った作品です。こういう芝居をいつかやってみたいと思ったものです。その時に髪の長い美男子風だった齋藤さんともお会いしていました。その後の浅丘ルリ子さんの再演も観ています。その時もいい台本、いい演技だと感じました。
この有頂天シリーズは4作目ですが、もともと自分からこの戯曲がいいと思っていた作品を演じるのは初めてです。また、これまではもう亡くなられている作家さんの作品を取り上げてきましたが、初めて存命の作家の作品を演じる機会にもなります。作家と話し合いながら演じられるのはすごく贅沢ですし、面白いし、最高だと思います。
台本を読むと、最後は本当に泣けてきて。私自身は親友を8年前にがんで亡くして、今でも生きていてほしいと思っています。その人が帰ってきたらどんなに幸せなことだろうと思うので、奈津はとても幸せだと思います。心を許せる親友なんてそんなにいないし、ましてや女同士、男社会で生きていくために友情を捨てて男についていくような時代であってもこの二人はずっと友情を残しています。しかも三角関係で一人の男をお互いに好きなのにお互いに譲り合っている。奈津は手紙があるので文学少女のまま夢を見続けられていましたが、私の演じる小菊は義理のため生活のため好きでもない相手と結婚して思いもよらない仕事をしているので気の毒です。こんなに気の毒な役を演じるのも初めてです。ミュージカルのような歌を着物を着て歌う場面もあるので、笑って泣ける作品として、二重、三重に面白い舞台になるんじゃないかと思います。
キムラ緑子えりさんとご一緒するシリーズも4本目になります。今までは敵対しているような役どころが多かったのですが、今回は女同士の友情で、本読みの段階でのえりさんの演じ方に、もらい泣きして初日から大変なことになってしまいました。とてもいい作品になると思います。これまでのシリーズと異なり、今回、齋藤さんが書かれた台本を齋藤さん自身が演出するということでどういう風に私たちを導いてくださるのか楽しみです。劇団新派の方もたくさん出演されるので、私もその一員になったような気分です。みんなで一丸となって、齋藤さんがお作りになったこの世界をお客さんに伝えたいと思います。
☆渡辺えりさん、キムラ緑子さんへのツーショットインタビュー
Q 女性目線での本作の見どころをお聞かせください。
A渡辺えり私の演じる小菊は何不自由なかったお嬢さんだったのが家業が倒産して芸者に売られてしまいます。そして芸者時代に好きな人と恋愛関係になるのですが、別れさせられて死んだことにされて、結局お見合いをして川越の農家の嫁になります。それから21年間、姑と舅にいじめられながら働くことになるんです。けれども、自分には商才があることに気づいて、自立して身を起こそうとしていますので「おしん」みたいなイメージですね。この作品の背景は明治時代ですが、時代にも男性にも負けていないで、自分で経営者として身を立てようというのが、この作品の新しいところです。男に頼らずに生きていく、今では当たり前かもしれませんが、そのさきがけのような人物なんです。この人物像がこの戯曲で私が気に入っているところですね。
キムラ緑子私の演じる奈津も同じで、この時代にあって、それまでいなかった、まさに新しい女性像だと思います。女性二人が一人の男をめぐってすったもんだする、という設定はよくある話だと思うんですが、この戯曲は、そこから二人の関係がどうなっていくのか、何を選択してまた別れていくのか、という一歩先の部分が描かれていくので、そこが見どころになると思います。
渡辺えりもうひとつ面白いのは、主人公の奈津が好きな人を取られまいといじわるをするところです。親友に嘘をついて騙してしまうところが悲しくて、でも面白い。もう四半世紀前になりますが、杉村春子さんが演じた初演を拝見しました。その嘘がかわいくて説得力がありましたし、それまで主人公はいい人が多かったのが、意地悪してしまう主人公の描き方が新しいな、と感じました。親友のことは大事なのに、それでも嘘をついてしまう。だから私の役は奈津の気持ちを表すためにいるのだと思います。私の気持ちの動きで、お客さんが奈津に感情移入できるようになるんだ、と感じています。
Q 本作での男性の描かれ方をどう受け止めていますか。
A渡辺えり出てくる男性の多くは作家と新聞記者と編集者でみんな文化人です。彼らの会話は面白いですね。そして、ここに出てくる渡辺徹さんが演じる作家・涼月さんと若い時の小菊との関係が、弟子の草助と芸者の桃太郎の関係と重なって見えたりもします。草助は自立している女性に惹かれるのですが、それはこの時代には新しいことですね。はっきり物を言う女に惚れるという男性たちの姿は、この作品が描く新しい時代の幕開けを象徴していると思います。
キムラ緑子「芸者ごときに」というセリフもあるので、そういう時代の話なんですよね。
渡辺えりこの「有頂天」シリーズでは今までは現代劇風に演じることが多かったですが、今回は歴史を踏まえた上で壊していくようなところが新しいと思います。若い人が観てどう感じるのかとても気になりますね。
キムラ緑子奈津は小説家になることを諦めて、手紙の代筆で他人の心を伝えていきます。代筆で人助けをしていることに、生きがいも感じている。そこに死んだと思っていた親友が現れて心が揺れ動く…。なんとも優しくて可愛らしい話だと思います。それにしても、手紙ですから、今と違って何もかもがゆっくりしているんですよね。なかなかこういう世界は今はないと思いますねえ。
Q渡辺えりさん、キムラ緑子さんからOKWAVEユーザーに質問!
渡辺えり台本の中に「川越弁が時々出る」と書いているのですが、川越だとどのくらいの訛っているのか、それと方言があれば教えてください。
キムラ緑子私からは、「皆さんは手紙をどんな時に書きますか」とお聞きしたいです。
■Information
恋ぶみ屋一葉2020『有頂天作家』
東京公演:2020年3月13日(金)~28日(土)新橋演舞場
(※新型コロナウイルス感染症の拡大防止に向けた政府要請を受け、3月13日(金)~19日(木)の公演は中止)
大阪公演:2020年4月2日(木)〜13日(月)大阪松竹座
明治43年、花街で働く女性たちの手紙の代筆業を営んでいる前田奈津と、流行作家の加賀美涼月は、若い頃にはともに小説家を目指して切磋琢磨した仲。その後、奈津は小説家の道を諦めて自称「恋文屋」を生業としているが、人気作家となった涼月とは今でも良き相談相手として交友関係が続いていた。ある日、片桐清次郎をはじめとした弟子たちがいる涼月宅に編集者の田熊哲、谷初子が原稿取りに来ているところへ、新たに弟子入りを志願する羽生草助が現れる。草助の書いた文章を読んだ涼月はケチョンケチョンに貶すが、気まぐれに玄関番を命じた。
時を同じくして、奈津のところへ21年前に死んだと思われていた親友の小菊が訪ねてくる。この小菊、昔は芸者として涼月と相思相愛の仲であったが、悲恋の末に他の男へ嫁ぎ、程なくして亡くなったはずであった。死んだと思っていた小菊の登場によって封印しつつあった自分の本当の気持ちを思い出し始める奈津。またそのころ草助は芸者の桃太郎と惹かれあいつつあった。花魁の此花ら周りの者は二人を応援していたが、“芸者との恋は修行の妨げになる”と師の涼月に固く禁じられている草助は気が気ではない。
突然の小菊の登場によって思わぬ方向へ動き出した物語。果たして奈津、涼月、そして小菊たちを待ち受けるのは有頂天な結末なのか……。
齋藤雅文 作・演出
渡辺えり
キムラ緑子
大和田美帆
影山拓也(ジャニーズ Jr.)
瀬戸摩純
春本由香
宇梶剛士
渡辺徹
【ご観劇料(税込)】
1等席:12,000円
2等席:8,500円
3階A席:4,500円
3階B席:3,000円
桟敷席:13,000円
https://www.shochiku.co.jp/play/schedules/detail/enbujo2003/
■Profile
渡辺えり
山形県出身。
舞台作・演出ならびに女優として舞台、テレビドラマ、映画、さらに著書・執筆などにも活躍中。
キムラ緑子
兵庫県淡路島出身。
女優として舞台、テレビドラマ、映画、ナレーションに活躍中。