OKWAVE Stars Vol.931は映画『いつくしみふかき』主演の遠山雄さんと大山晃一郎監督へのインタビューをお送りします。
Q 本作に至る経緯をお聞かせください。
A遠山雄僕は19歳から俳優をやっていますが、なかなか芽が出ない中で、大山監督と劇団をやったりしていました。そうしていくうちにどんどん自分がやりたかったこととずれていく感覚があったんです。本当は自分が何をしたいのかを見つめ直すと、もともとは映画俳優になりたかったので、監督に「自分も出演する映画を撮ってほしい」と言いました。彼も映画監督になるのが夢でしたから「どうせやるなら主演でやりなよ」と言われて、それでこの映画を企画しました。
Q 実話ベースという、本作の題材についてお聞かせください。
A遠山雄題材は僕の友達のお父さんのお葬式での、その彼が読んだ手紙です。その内容が心に残っていて、それをもとに映画にしました。
大山晃一郎この題材は、映画にする前に、遠山雄という俳優が初演出した舞台という黒歴史があるんですよ(笑)。
遠山雄そうなんです(笑)。その公演からだいぶ経ちますが、今でも観た人からは酷評されます(笑)。僕がこれをテーマに映画を作ると聞いたら、みんな大丈夫かと心配したと思います。実際、僕も映画にするにあたって、もう一度、友人への取材からやり直しました。
大山晃一郎僕はその話を聞いて、まずはその親子が住んでいた長野県の飯田市に一度行ってみようと思って、遠山と二人で行きました。この映画でもモデルにしている当事者の方々が住んでいらっしゃるので、話を聞いたりしながらゼロから2年くらいかけて台本にしていきました。
Q 映画にする上でどんなところを大事にしましたか。
A大山晃一郎この映画の父・広志の役柄に反映していますが、モデルとなっているお父さんはかなり敵も多かったんです。そしてその息子はあまり社交的ではない方です。そんな息子が父親の葬儀で喪主を務めたんですね。僕も彼には会っていますが人前で話ができるようなタイプには見えなかったので、どういう気持ちで喪主として挨拶をしたのだろうと興味を持ちました。僕も遠山も父親と良い関係を作っては来られなかったので、この映画を作ることには意味があると思って、自分自身の人生も振り返りながら作っていきました。そして作る上では嘘を描きたくはなかったです。綺麗事になるのは自分でも許せなかったので、正直に描きました。
遠山雄劇団でやった時とは違うものにしなければならなかったので、要所要所で脚本を見せてはもらいましたが僕は基本的にはノータッチでした。
大山晃一郎映画の中身は僕が作っていって、製作的なところを彼がやるスタイルで、これは劇団の時と同じ棲み分けでやっていました。
Q 台本を読まれていかがでしたか。
A遠山雄何度も改訂を重ねていたので、段々と面白いものに仕上がっていっていて、僕が劇団でやってしまったものとは違いましたね(笑)。
大山晃一郎僕が書く台本はあまり親切ではないんです。自分にだけ見えているものをメモのように書いているところがあるので、長い付き合いの遠山には分かっても、渡辺いっけいさんや金田明夫さんでも時々「これは何?」という時もありました。現場でさらに頭の中にあるものを出していくので最終的にはかなり変わりました。
Q キャスティングについてお聞かせください。
A大山晃一郎飯田市が舞台なので、できるだけ飯田出身の役者さんを起用したいということで遠山が声をかけていきました。いっけいさんとは元々お付き合いがあって「人生をかけて映画を作っているので乗っていただけますか」とお願いして快諾していただきました。他にも僕が助監督をやっていた頃に「いいな」と思った役者さんには「僕が監督をやる時は出てください」とずっと言っていたので、そういうストックを放出していきました(笑)。
Q 長編初監督とのことでしたが撮影の様子についてお聞かせください。
A大山晃一郎助監督の時はお調子者のキャラで現場を進行させるのもエンタテインメントだという気持ちでいました。監督になったら真逆で、それこそノイローゼになりそうでした。自分たちのためにお金を集めてくれて、スタッフもキャストも揃って、これで面白くないものを作ってしまったらどうしよう、というプレッシャーしかなかったです。だから撮影中はその日の撮影が終わると誰にも会いたくなくてすぐに帰っていました。スタッフが8LDKの拠点を用意していて、そこの狭い納戸で寝泊まりしてましたが、その狭い納戸の中にいるとさらにどんよりした気持ちになりました。「初監督、楽しかったでしょう?」とよく聞かれるんですが、その時は全然そんな気持ちにはなれませんでした。
遠山雄僕はとても充実していました。主役で携わるのが初めてだったし、僕が企画を立てていることもあって、周りも気を遣ってくれていたので、カメラの前での芝居に集中できました。だから監督のそんな様子は気にしてなかったです。たまに指示をしに来る時は様子が変だったので関わらないようにしてました(笑)。
大山晃一郎現場で逃げていくんですよ(笑)。僕も僕でそれまで言っていた演出を当日になって変えたりしていたので、自覚もありましたが毎日大変でしたね。遠山もいっけいさんも金田さんもそんな僕の演出を受け続けてくれました。
Q 渡辺いっけいさんらとのお芝居はいかがでしたか。
A遠山雄本当に楽しかったです。いっけいさんも金田さんもテイクを重ねても同じことをしない方々で、僕もそういうやり方が好きですが、今までこんな方々とガッツリお芝居をすることがなかったのでもっとやりたいなという気持ちでいっぱいでした。自分の出てないシーンもいっけいさんらのお芝居を見ているだけで楽しかったです。
大山晃一郎超一流の方々なので、普段あまり上手ではない人たちにする演出とは全然違いました。「このシーンを色に例えるとグレイだと思っていましたが、モスグリーンもいいなと思うんですよ」と言うと、いっけいさんは一緒に考えてちょっとやってみると本当にそういうイメージになっていくのが面白かったです。
遠山雄自分がやりたい芝居ではなく「監督がこうしたいんだろうな」という芝居を当たり前のようにその場で作られるので、これが一流かと思いました。金田さんなんて「まだあるよ」とどんどん披露されていました。
大山晃一郎単にこちらの演出通りということではなくて、さっきの色の例えのような僕のお題に対して俳優側も考えて出してくれる積み重ねが良い形になったと思います。
Q 飯田市での撮影についてお聞かせください。
A大山晃一郎当初の予算だけでは1週間で撮りきらなければならなかったんです。さすがにこの内容を1週間では無理だったので、飯田の皆さんに「撮影期間を3週間にするために、協力していただけませんか」とお願いしました。それでお金ではなくても、住むところや車を貸していただいたり、食材をもらったり。それを使って、100人くらいの婦人部の皆さんが毎日交代でロケ弁を作ってくださったんです。助監督時代に東京でロケ弁を発注すると1食880円くらいかかっていたのが、今回1食あたり容器代の18円だけで済んだので、そういう協力とやりくりで3週間の撮影期間を捻出できました。それがあったから、“グレイをモスグリーンに”なんていうことに時間をかけることができたんです。だから単純に「飯田の人が協力してくれたおかげです」では済まなくて、飯田でなければ撮れませんでした。ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2019の「ゆうばりファンタランド大賞」をはじめ、たくさん映画祭で賞をいただきましたが、それも飯田の皆さんが何年も自分たちに付き合ってくれて、撮影できたからです。
撮影のロケ地としては、ほどよい自然と、坂が多いので立体的な映像が撮れました。
遠山雄決して観光PR映画ではなくて、本当はもっと雄大な自然も撮れるのをあえて抑えたりもしているんです。でも十分に伝わっていると思います。
Q 映画祭や先行上映での反響をどう受け止めましたか。
A大山晃一郎人と実際に会って話してチケットを買ってもらって、という活動を遠山は12月から、僕も年明けからやっていました。これだけネット社会になっても、アナログな手法が強いと僕らは知っていました。遠山は飯田の企業を回って、夜は飲み屋を回って、空き時間には手紙を出していましたが、その結果、人口10万人の飯田市で8,000枚のチケットを買っていただきました。2月に先行上映を開始してコロナの影響も受けてしまいましたが、劇場が開いている間は誰かしらが毎回舞台挨拶に立っていました。気持ちを分かってくれた方はリピーターになって何度も観に来てくれました。これから全国でも徐々に公開されますが、そういう深いつながりをしっかり作っていきたいと思います。
Q この映画を作って、映画への気持ちは何か変わりましたか。
A遠山雄自分の中ではただ映画を撮って終わりとは思っていなくて、どんな手段を使ってでも、一人でも多くの方に観ていただけるようにと考えています。監督も言っていたように、アナログな方法が効いてくるので、ここからが本当の本番だと思っています。先行上映で良い反響をいただいていますがまだ満足していませんし、どっぷりハマってくれる人を全国に作っていきたいです。
大山晃一郎「映像は省略と飛躍の芸術だ」と僕の師匠が言っていて、心の中でずっと意識しています。この映画でも僕はすごく「省略」と「飛躍」を心がけたので、上映後に観客の皆さんとお話しすると、その間のストーリーを観ている人がそれぞれ自由に想像してくれていたことがわかって、師匠の言っていた意味が理解できました。そうすることで映画は完成するのだと思うんです。そういう意味では、分かりやすい映画ではありませんが、観た人それぞれの『いつくしみふかき』が出来上がっていっているのが良いなと思います。受け身にならずに観ていただけると、すごく泣ける、という人もいますし、いろんな感じ方ができると思います。
遠山雄初めて観たお客さんにあるシーンのことを質問されたので、「もう1回観たらわかりますよ」と答えたんです。そしたら、「私は2回観たから分かったよ」と言ってくれる人がいて。映画館でそういう連鎖が生まれていくと良いなと思っています。
Q 今後の展望や次の野望をお聞かせください。
A大山晃一郎僕は助監督を長くやってきて、テレビドラマの現場にも長くいるのですが、少し前と比べてもコンプライアンス遵守や予算が削られて撮影期間も短くなっていっているので、「このままでは自分には監督は無理なのかな」と思ってしまう時もありました。そんな時にこの『いつくしみふかき』を作ったので、自分が撮ったものを映画祭で何度も観て、舞台挨拶に立って、観客の皆さんからの質問に答えたりする時間は楽しすぎて貴いと感じました。だからまた映画を作りたいですし、その生み出した“子ども”といろんなところを回りたいです。
遠山雄映画俳優として生きていきたいですし、そんなに甘くない世界だということも知っています。そのためにこの映画を作りました。この映画を作ってみて、今の日本の映画界ではオリジナルの作品を作ることがとても難しいということも知りましたので、自分としてはオリジナルの、リアリティを追求した映画を作って、自分の存在を認められたいと思っています。最初は映画に興味のなかった方が、僕がこの映画を作ったことで興味を持ってお金を出すと言ってきてくれたので、そういう風に巻き込んでいければ日本の映画業界もすごい力を発揮できるタイミングが来るんじゃないかと思っています。
大山晃一郎最初は「予算1千万で1億のクオリティの映画を作る、と言っている詐欺集団」と思われていましたからね(笑)。最初に狙っていた映画祭に落選してしまった時は本当にそうなってしまったと落ち込みました。それがゆうばり国際ファンタスティック映画祭を転機に良い方向に進み出しました。その感覚を伝えられたと思うので次は「予算1億で10億のクオリティの映画」を作ることもできると思います(笑)。それと、作品がどんなに売れても作り手に還元されない仕組みはおかしいので、まずはしっかり『いつくしみふかき』をヒットさせてスタッフに大入り袋を渡したいです。
Q OKWAVEユーザーにメッセージをお願いします。
A遠山雄本当に人生をかけて、無茶をして、いろいろ失って、そうでもしなければ自分の夢を叶えられないだろうと思って、いろんなリスクを背負って作りました。自分が自分ではないと思うくらい追い詰められて、今まで知らない自分を発見したり、自分の人間の小ささに打ちのめされたこともありました。でも、そこまでやると還ってくるものも大きいと実感しています。無名な俳優ですけれど、このインタビューを読んで、そこまでやった映画に少しでも興味をもっていただけたら、映画館に来て観ていただければと思います。騙されたと思って来てください!
大山晃一郎チラシとポスターに使っている、お風呂に入っている二人のビジュアルがまず浮かびました。「監督はこのカットを撮りたかった」という情報を頭の片隅に置いて観ていただけたらと思います。わかりやすくはない、観る側も体力を使う映画ですが、ぜひ劇場に来ていただいて、一緒にこの映画を完成させていただきたいです。
Q遠山雄さん、大山晃一郎監督からOKWAVEユーザーに質問!
遠山雄長野県飯田市、これからもっと認知度を上げるにはどうすればいいと思いますか。
大山晃一郎この映画のタイトルでもある「いつくしみ」とはどんな感情だと思いますか。
■Information
『いつくしみふかき』
30年前。母・加代子が進一を出産中に、あろうことか母の実家に盗みに入った父・広志。「最初から騙すつもりだったんだろ?」と銃を構える叔父を、牧師・源一郎が止め、父・広志は”悪魔”として村から追い出される。進一は、自分が母が知らないものを持っているだけで、母が「取ったのか?この悪い血が!」と狂うのを見て、父親は”触れてはいけない存在”として育つ。
30年後、進一は、自分を甘やかす母親が見つけてくる仕事も続かない、一人では何もできない男になっていた。その頃父・広志は、舎弟を連れて、人を騙してはお金を巻き上げていた。
ある日、村で連続空き巣事件が発生し、進一は母を始めとする村人たちに、「悪魔の子である進一の犯行にちがいない。警察に突き出す前に出ていけ」と言われ、牧師のいる離れた教会に駆け込む。「そっちに行く」という母親に「来たら進一は変わらない」と諭す牧師。
一方、父・広志は、また事件を起こし、「俺にかっこつけさせてください」という舎弟・浩二に、「待っているからな」と言っても、実際には会いに行かない相変わらずの男で、ある日、牧師に金を借りに来る。「しばらくうちに来たらどうだ?」と提案する牧師。牧師は進一のことを「金持ちの息子」だと嘘を吹き込み、進一と広志は、お互い実の親子だとは知らないまま、二人の共同生活が始まる。
出演:渡辺いっけい 遠山雄
三浦浩一 眞島秀和 塚本高史
金田明夫
監督:大山晃一郎
脚本:安本史哉、大山晃一郎
配給・宣伝:渋谷プロダクション
公式サイト:www.itukusimifukaki.com
公式Twitter:itukusimifukaki
公式facebook:itukusimifukaki
(c)映画「いつくしみふかき」製作委員会
■Profile
遠山雄
1984年生まれ、韓国ソウル市出身。
日韓のハーフとして複雑な家庭環境の中、屈折した感情を持って育つ。
本作監督の大山晃一郎を巻き込み「劇団チキンハート」を立ち上げ、4年半で一回の公演で3,000人の動員に成功する。
誰もやった事の無いことをやる、芝居をしないことにこだわっている。
大山晃一郎
大阪出身。
18歳の頃、大阪芸大中退後上京、フリーの助監督に。『リング』の中田秀夫監督や『沈まぬ太陽』の若松節郎監督の下、助監督として数多くの映画の製作現場で活躍。
2011年に初監督した短編映画『ほるもん』は2011年度ショートショートフィルムフェスティバルのNEOJAPAN部門に選出され、同団体が運営する「日本人若手監督育成プログラム」にも選ばれている。他の参加作品に映画『溺れるナイフ』『怪談』『夜明けの街で』、テレビドラマ「ROOKIES」「刑事7人」「BG」「警視庁捜査一課長」「遺留捜査」など。
また劇団チキンハート、大山劇団の作・演出家として年2回ペースで演劇公演も行っている。本作が長編映画初監督作品。