Vol.934 映画監督 辻野正樹(映画『河童の女』について)

映画監督 辻野正樹(映画『河童の女』)

OKWAVE Stars Vol.934は映画『河童の女』(2020年7月11日公開)辻野正樹監督へのインタビューをお送りします。

Q 『カメラを止めるな』を輩出したENBUゼミナールCINEMA PROJECT最新作とのことですが、参加した経緯をお聞かせください。

A映画『河童の女』辻野正樹CINEMA PROJECTはENBUゼミナールが新人監督、新人俳優と映画を作るプロジェクトとして毎年やっています。僕はいま51歳ですが、30代後半になって映画監督になろうと思って自主映画を撮り始めて、ENBUゼミナールには40歳を過ぎてから改めて監督の勉強をしようと入学したんです。その時は20代の若者と一緒に40代の自分が一緒に勉強していました。卒業後は脚本の仕事や演劇の仕事をしながら自主映画を撮っていました。長編の商業映画は今回が初監督作品ですが、自主映画以外にもホラーの短編オムニバスDVDを2本撮っていますので監督の経験はありました。
CINEMA PROJECTはそれまでプロデューサーが監督を選んでいましたが、今回の第9弾では、企画を公募することになったんです。ENBUゼミナール卒業生がエントリーできるとのことで僕も応募して選ばれました。もともとこの『河童の女』の脚本は、旅館を舞台にした長編を作りたいという他の監督に頼まれて5年くらい前に書いていたんです。その映画製作の話はなくなってしまいましたが、自分では面白い脚本ができたと思っていたので、どこかで形にしたいと思っていました。それが今回実現できて良かったです。

Q CINEMA PROJECTではどのように映画製作を進めたのでしょうか。

A辻野正樹CINEMA PROJECTではこれから世に出ていく役者さんをオーディションして、その役者たちとワークショップを経て作品を作る、という進め方です。『カメラを止めるな』もそのやり方で作られています。それと同じ進め方で役者を募集したのですが、「カメ止め」効果なのか428人の方が応募してくださったんです。そこから書類審査、オーディションを経て16人を選んでワークショップを3回やりました。基本的にはもともとの『河童の女』の台本に合いそうな役者を選んでいますが、それ以外にも魅力的な役者も選んで、最終的にはその16人に合わせた台本に書き直して、撮影に入っていきました。

Q 舞台となる川沿いの民宿は素敵なロケーションですね。

A映画『河童の女』辻野正樹飯能市に実際にある民宿「川波」で撮影しています。ラインプロデューサーがいくつか候補を上げてくれた中から選びました。大部分が民宿の中での話なので、その民宿次第で映画の雰囲気も決まってくるので、すごく重要な要素でした。ロケハンをした中で「川波」はすごくマッチしていて良かったです。民宿のすぐ裏に川があって、その川もいい雰囲気でした。撮影中も「川波」にみんなが泊まって合宿のように朝起きたら撮影、という感じでした。

Q 浩二と美穂を演じた青野竜平さんと郷田明希さんの二人についてはどんなところを演出していきましたか。

A映画『河童の女』辻野正樹主人公・浩二を演じた青野くんはENBUゼミナール出身なのでもともと知っていて、彼の出演した舞台も観ていました。浩二のうまく生きられない不器用さのようなものが青野くんにも感じられたので選びました。実際に撮影して彼に接してみると、結構不器用で(笑)、そこが浩二そのもので良かったです。
美穂は謎めいた女ということで、当初はロングヘアーの幸薄そうなイメージでした。郷田さんはちょっと違うなとは思いましたが、気になったのでオーディションに入れてみると、イメージ通りの人が集まった中で郷田さんはひとり異質だったこともあって目立っていました。ショートヘアーで声が低くて、自分で想像していない美穂のキャラクターの広がりが出せると思いました。郷田さんは感受性が強いのかエモーショナルな芝居をするので、作品によって良し悪しはありますが、今回はそれが良いのかなと思って選びました。実際、撮影では思った以上に感情の入った、繊細でほとばしる情熱を感じさせる芝居をしていたので、郷田さんを選んで正解だったなと思います。

Q 近藤芳正さんのキャスティングについてはいかがでしょう。

A辻野正樹近藤さんの飄々としたところはもともと好きでしたので、プロデューサーから名前が上がって、ぴったりだと思ってお願いしました。

Q “河童”という題材について何か特別な思い入れがあったのでしょうか。

A辻野正樹不思議なものがもともと好きです。UFOやUMAも好きなので、作品の中に取り入れてしまうことがあるんです。河童はユーモラスさと怖さの両方があるので、それを作品に活かしたいと思っていました。浩二が子どもの頃に川に河童を探しに行ったというエピソードが出てきますが、このエピソードは僕が脚本を勉強し始めた20年ほど前に思いついて短い脚本を書いていて、それがもとになっています。そのエピソードをいつか使いたいと思っていたので、今回うまくハマったと思います。

Q 長編商業映画の初監督を務めて、新しい発見などはありましたか。

A映画『河童の女』辻野正樹僕が今までやってきた映画よりもスタッフの数は多くて、初めて一緒に仕事をする人も多かったです。そうなると、自分がこうしたいと思ったイメージを伝えるのが難しいと思うことがありました。僕はみんなと話し合って納得してもらってから進めたい、というタイプですが、話してもなかなか伝わらないと思うことがたびたびあって、そういう時には監督がリーダーシップをとらないと進まないんだと感じました。映画監督のイメージには「俺はこうやりたいからついてこい」というところがありますが、自分はそういうタイプではないので難しさを感じました。でも、時にはそうした方がいい場合もあると気づきました。

Q 30代後半から映画監督を目指されたとのことですが、それまでのキャリアをお聞かせください。

A辻野正樹子どもの頃から映画へのあこがれはありましたが、僕が子どもの頃の映画監督というと黒澤明さんのようなイメージなので、とても自分がそんな人を目指そうとは思えませんでした。京都芸術大学時代から音楽活動をやっていて、卒業後は東京に出てきて音楽活動を続けていました。30歳になって音楽活動に限界を感じ始めた頃に友人から自主映画に音楽をつけてほしいと頼まれました。映画音楽に興味があったので引き受けたものの、いつまでたってもその友人が脚本を書き上げないので、自分が書くと言い出して脚本の勉強を始めました。結局その自主映画の企画は無くなってしまいましたが、自分は脚本に向いているという手応えを感じました。そんな頃に劇団を作りたいと話している役者と出会い、一緒に立ち上げました。その最初の公演は脚本だけではなく演出もすることになり、演出も手がけるようになりました。その公演が評判になって、フジテレビの深夜番組で舞台作品をドラマ化する企画にも選ばれて、ドラマの脚本も書き始めました。その後、30代後半になって、自分で映画を撮りたいと思い始めて自主映画を撮り始めたんです。

Q OKWAVEユーザーにメッセージをお願いします。

A辻野正樹コロナウイルス感染拡大による自粛期間が長く続いていたので、映画館で映画を観ることは楽しい、ということを思い出していただきたいです。この『河童の女』は楽しい映画ですし、旅行にもなかなか行きにくい時期が続いていますので、この映画はちょっとした旅行に行った気分にもなれますので、ぜひ映画館でご覧いただければと思います。

Q辻野正樹監督からOKWAVEユーザーに質問!

辻野正樹自粛期間には家で映画を観ることも多かったと思います。皆さんは家で映画を観るのと映画館で映画を観るのとどちらが好きですか。
それと、別の質問ですが、不思議な生物と出会った体験、またはこんなところにいるはずがないような生き物と出会ったエピソードを聞かせていただきたいです。

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■Information

『河童の女』

映画『河童の女』2020年7月11日(土)新宿K’s cinema、7月18日(土)池袋 シネマ・ロサほか全国順次ロードショー

柴田浩二は、川辺の民宿で生まれ、今もそこで働きながら暮らしている。
ある日、社長である父親が、見知らぬ女と出て行った。浩二は一人で民宿を続ける事となり、途方に暮れる。そんな中、東京から家出してきたという女が現れ、住み込みで働く事に。美穂と名乗るその女に浩二は惹かれ、誰にも話した事の無い少年時代の河童にまつわる出来事を語る。このままずっと二人で民宿を続けていきたいと思う浩二だったが、美穂にはそれが出来ない理由があった。

監督・脚本:辻野正樹
出演:青野竜平 郷田明希 /斎藤陸 瑚海みどり 飛幡つばさ 和田瑠子 中野マサアキ 家田三成 福吉寿雄 山本圭祐 辻千恵 大鳳滉 佐藤貴広 木村龍 火野蜂三 山中雄輔/ 近藤芳正
製作・配給:ENBUゼミナール

http://kappa-lady.net/

(C) ENBUゼミナール


■Profile

辻野正樹

映画監督 辻野正樹(映画『河童の女』)1968年生まれ、滋賀県出身。
ミュージシャン活動を経て、2003年に劇団「サニーサイドウォーカー」の立ち上げに参加。作・演出を担当した旗揚げ作品の「勝手にノスタルジー」はフジテレビ「劇団演技者。」にて大野智主演でドラマ化され、ドラマ版脚本も担当。
2008年より、演劇・映像製作ユニット「ハイブリッド・ジャンパーズ」を立ち上げる。2011年よりENBUゼミナールで映像制作を学ぶ。2015年、監督した自主映画『明日に向かって逃げろ』が横濱HAPPY MUSIC映画祭長編部門最優秀賞を受賞。ホラーオムニバスDVD作品「奇々怪々譚 醒めない悪夢の物語」で監督として商業作品デビュー。その他、舞台、映像作品の脚本や演出を多数手がける。劇場公開作品としては、今作が初となる。