Vol.937 映画監督 末永賢(ドキュメンタリー映画『zk/頭脳警察50 未来への鼓動』について)

映画監督 末永賢(ドキュメンタリー映画『zk/頭脳警察50 未来への鼓動』)

OKWAVE Stars Vol.937はロックバンド・頭脳警察の結成50周年を追ったドキュメンタリー映画『zk/頭脳警察50 未来への鼓動』(2020年7月18日公開)の末永賢監督へのインタビューをお送りします。

Q 本作に携わる経緯をお聞かせください。

A映画監督 末永賢(ドキュメンタリー映画『zk/頭脳警察50 未来への鼓動』末永賢映画製作会社ドッグシュガーがずっと劇映画を作ってきたのでドキュメンタリー映画もやってみようということになり、頭脳警察が2020年の結成50周年に向けて活動するとのことだったので、それを撮らしてもらおうという話になりました。それが2018年の話です。僕は2015年にドッグシュガーが製作した映画『いぬむこいり』に関わっていて、出演者だった頭脳警察のPANTAさんと知り合ってはいました。『いぬむこいり』の片嶋一貴監督から「今回はプロデューサーをやるから、お前が監督をやらないか」と聞かれました。僕はこれまでに劇映画の監督の経験はあったけれど、ドキュメンタリーはそれほど場数を踏んでいなかったし、良い機会だと引き受けたものの、頭脳警察の長年のファンということでもないし、ずっとドキュメンタリーを撮っている方とも動機からして違うかもしれません。

Q 本作について、頭脳警察のPANTAさんらの反応はいかがでしたか。

A末永賢PANTAさんは『いぬむこいり』の時の僕を覚えていてくれたので、それならと引き受けていただけました。2018年の5月から撮影を始めて、最初は「末永さん」と呼ばれていたのがすぐに「末永くん」になって、さらに2〜3週間後には「おい、末永」となったので、僕は逆に嬉しかったです。劇映画ではないので、いまだに「監督」とは呼ばれないんです。

Q PANTAさんやTOSHIさんにはどんな印象をお持ちだったのでしょう。

A末永賢最初、PANTAさんには世間で言われるような過激で強面な印象がありました。けれども実際にはとてもオープンな方で、しかも全く固定していないんです。その道の偉い人と言うと何かと固まりがちですよね。僕が昔ついていた鈴木清順監督も世の中では芸術派の監督と言われていますけれど、本人はそう言われるのが嫌いでアクション映画の監督だと言っていました。PANTAさんも、一角のことを成し遂げた偉人でありながらも、今現在も90年代生まれの若者と対等に音楽をやっているので、非常に素敵な、不良の兄貴ですね。
TOSHIさんの人柄も大好きです。ライブが終わると、PANTAさんはその後もファンサービスもしっかりされるのですが、その間のTOSHIさんは控室に戻って、お客さんがだいぶ帰ってから喫煙所に行って一服する、というような方です。まさに太陽と月のように対照的なふたりですね。

Q 頭脳警察が50周年に向かっていくこの2年間の様子とデビュー当時の映像も織り交ぜられていますが、どのようにまとめていこうと考えていましたか。

A末永賢過去のライブの追体験のようなものとは違った切り口にしようと思いました。頭脳警察は1969年に活動を開始しています。僕は65年生まれなので、東大の安田講堂に水がかけられて煙が上がっている映像を見た記憶がかすかにあります。そういう激しい時代を生きてこられたし、それを切り口にした歌も歌っていることを知識として知っていました。それが描ければ映画としては面白くなるだろうなとは思っていました。
2018年5月に撮影を始めたので、それ以前の映像を入手しなければならないと考えていた時に、昔の映像が大量に発見されたんです。PANTAさんが自宅から「6ミリテープ(※当時のオープンリールテープの呼称)がたくさんあるんだけどどうしたらいい」と聞かれて、送ってもらったら、8ミリの映像フィルムだったんです。これは大変なものが見つかったと思いました。同時に、もし映画で使うなら撮影した人に許可を取らないとならないと思っていたら、送られてきたダンボール一式の中に当時の送り状も入っていました。そこには僕が90年代に助監督として関わっていた麻雀映画に麻雀指導をされていた方の名前が書かれていたんです。その方がもともと音楽モノのディレクターだということを知っていたので、連絡を取ったら、「お前が監督なら仕方がないな」と使用許諾をいただだけました。それで大きな弾みがつきましたし、僕の30年の映画人生は伊達ではなかったと思いました。素晴らしい記録フィルムだったので、これを一つの軸として作っていこうと思いました。

Q 頭脳警察の現在の活動を撮りながら感じたことはいかがでしょう。

A映画監督 末永賢(ドキュメンタリー映画『zk/頭脳警察50 未来への鼓動』末永賢撮影とは、「現在」がレンズを通った瞬間に「過去」として記録されていく作業です。だけど音楽は次の小節を目掛けて進んでいます。だから僕は常に過去を追いかけていくような感覚になります。TOSHIさんにしても、ソロ活動では演劇人たちとも活動していますが、彼らも撮られるという意識はなくて、その場を肉体で表現しているので、在り方は“生”なんです。対照的に僕は映像の人間なので、いわば生を缶詰にしていくようなものです。映画は死の芸術である、と言われますが、本当にそれを体感しました。僕に何ができるのかという、“向こうとこちら”という感覚になることもありました。
そんな中でこのコロナ騒動です。感染拡大もそうですし、もしかするとこの映画が映画館で上映される日は来ないかもしれないと思いましたし、映画館自体が無くなってしまうのではとも思いました。それがこうして公開できることになって、公開が見えた時点ではまだ編集中でした。その時、この映画が上映されて、そこで観るお客さんがいるなら、それがこの映画の現在なんだと気付きました。生の物を扱っているということで、これから公開を迎えられる、現実を迎えられるということにエキサイティングな気持ちになりました。7月18日(封切り日)の世界がどうなっているのかと、他の映画を作っている時以上に感じました。

Q まさにコロナの渦中にエンディングの映像を撮られていますね。

A末永賢撮影としても最後に足した場面です。その部分を含めずに完成させることもできましたが、やはり公開した時に、コロナのことに何も触れなければドキュメンタリーとしては嘘だと思ったんです。

Q 頭脳警察の新作のレコーディングも行われ、その様子も撮られています。

A映画監督 末永賢(ドキュメンタリー映画『zk/頭脳警察50 未来への鼓動』末永賢ライブに行けばそれこそ70歳代のファンの方もいます。ファンの方にとっての頭脳警察のメインの時期というものは異なると思いますが、10代からのファンではない僕にとっては2019年7月に行われたレコーディングされたアルバム『乱破(らっぱ)』が現在なんです。それをそのまま映像にできたのは光栄です。そういう意味もあって、収録曲の「乱破者(らっぱもん)」の最初のフレーズが出てくるまでのスタジオでの様子をしつこいほどに長くカメラに捉えました。例えば映画のメイキングなら、人工の雨を降らす場面のスタッフの奮闘ぶりを見せたりしますが、そういう「ものづくりの現場」を音楽の場合どうしたら見せられるか悩んでいました。それがあの時幸運にも訪れたんです。おおくぼけいくんとのアレンジワーク、そしてレコーディングまでの一部始終が撮れて良かったです。

Q この映画に携わって新しい発見などはありましたか。

A末永賢頭脳警察の代表曲の「万物流転」のMCでPANTAさんはよく「止まっていることと変わらないことは違う」と言っています。川の中でそこに止まっているように見えるのは、「ただ流されていかないように水の中で足掻いているからなので、流れる水との関係は絶えず変化している」ということらしいですが、それはまさに頭脳警察にも当てはまると思いました。頭脳警察に対する評価自体は70年代からあまり変わっていないです。“抵抗”や“反体制”といった言葉で括られがちです。けれどもこれまでにPANTAさんとTOSHIさんがバンドの関係を解消したり、バブルの時期に再結成をして、その時代とも切り結んできました。本当は激動の頭脳警察史というものがあるはずですが、立ち位置そのものはいつだって変わっているようには見えません。今風に言えば、ブレてないんです。けれども、そのためにはものすごく変わっているし、足掻き続けているんだと思います。

Q 末永賢監督からOKWAVEユーザーにメッセージ!

A末永賢「時代はサーカスの象に乗って」の歌詞にあるように「どこからでもやり直しはできるだろう」と思います。失敗を恐れないといけない世の中になってしまったのは、多分に僕ら大人の責任です。世の中、失敗しても良いんじゃないかと、観てくれる人の何人かでも感じてくれたらうれしいです。失敗する人がいないと世の中は変わらないし、そんな先陣を切ることはできなくてもそれを応援できる人は100倍はいるはずです。それには、自分は反対でもあの人たちの存在は認めるよ、という姿勢が大事だと思います。コロナ騒動で世の中が変わらなければならない中で、世の中がもっと緩やかで、失敗してもいいという評価があればいいし、そういうきっかけを僕ら大人が作らなければならないと思います。

Q末永賢監督からOKWAVEユーザーに質問!

末永賢皆さんが今一番頭にきていることは何ですか。なぜそう思っているか聞きたいです。

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■Information

『zk/頭脳警察50 未来への鼓動』

映画監督 末永賢(ドキュメンタリー映画『zk/頭脳警察50 未来への鼓動』2020年7月18日(土)より新宿K’s cinemaにて公開

1969年12月、中村治雄(PANTA)と石塚俊明(TOSHI)によって結成された“頭脳警察”。のちに日本語ロックの元祖と謳われことになる彼らは、反戦・反体制運動が激化するなか、その過激な歌詞と自由なメロディーによって、運動に参加する若者の圧倒的な支持を得た。のちに“革命三部作”と呼ばれる「世界革命宣言」「銃をとれ」「赤軍兵士の詩」は、鬱屈した社会情勢に抑圧された若者の心情にまさに共鳴する“詩”として享受されたのだった。
しかし、やがて彼らはもっと純粋な音楽への探究を模索し始める。本当にやりたい音楽を追究するためには、大衆に支持された現状が足かせとなっていた。そして、1975年、彼らは大衆の圧倒的な支持を背にステージを降りてしまう。頭脳警察から放たれたPANTAとTOSHIは、それぞれの道を歩みながら、以後、離合集散を繰り返し、その都度、“頭脳警察”もまた進化し続けてきた。
時は過ぎ、2019年、“頭脳警察”は新たな血を入れ、再始動!ギター・澤竜次(黒猫チェルシー)、ベース・宮田岳(黒猫チェルシー)、ドラム・樋口素之助、キーボード・おおくぼけい(アーバンギャルド)という若きミュージシャンとともに、“頭脳警察”50周年バンド”を結成。本作は、“頭脳警察”と同じ時代を歩んできた者、その背中を追ってきた者、あらゆる世代の表現者の証言とともに、変わらぬ熱量を保ち続ける彼らの現在と過去を追うことで、日本におけるカウンターカルチャーとサブカルチャーの歴史を浮き彫りにしていくドキュメント作品である。 そして、現在、コロナ禍に大揺れの日本のカルチャーシーンに対して、“頭脳警察”はどのような答えを導き出すのか。閉塞する“今”の時代だからこそ、彼らは絶景としての“未来”を思い描いている。PANTAとTOSHI、そして新たな強力メンバーを得た“頭脳警察”の闘いは、この時代を生き抜くための力を、私たちに与えてくれるに違いない。

出演:頭脳警察(PANTA・TOSHI・澤竜次・宮田岳・樋口素之助・おおくぼけい)
監督・編集:末永賢
配給・宣伝:太秦

http://www.dogsugar.co.jp/zk.html

©2020 ZK PROJECT


■Profile

末永賢

映画監督 末永賢(ドキュメンタリー映画『zk/頭脳警察50 未来への鼓動』)頭脳警察結成時は4歳。海賊と白バイ警官(府中のニセモノ)に憧れる日々を神奈川県逗子市にて過ごす。バブル絶頂期に大学を卒業するも映画界に迷い込み鈴木清順、小沼勝らの助監督を経て監督活動を開始。本作撮影中に書かれた「ヤルタ・クリミア探訪記 PANTAと仲間たち」では共同著者に名を連ねる。監督作に「日本犯罪秘録・チ37号事件」「大阪ニセ夜間金庫事件」「長官狙撃」「河内山宗俊」など。日活大部屋俳優の実録『人生とんぼ返り』が2020年秋に公開予定。