Vol.939 映画監督 速水萌巴(映画『クシナ』について)

映画監督 速水萌巴(映画『クシナ』)

OKWAVE Stars Vol.939は映画『クシナ』(2020年7月24日公開)速水萌巴監督へのインタビューをお送りします。

Q 「深い山奥に人知れず存在する、女だけの”男子禁制”の村」という設定から斬新ですが、本作の着想についてお聞かせください。

A映画『クシナ』速水萌巴私が19歳から20歳になる頃に、お母さんに対してそれまでは分かり合えず諦めていた部分があったのですが、尊敬に変わる出来事があり、そのきっかけをもとに何か映画を撮れないかなと思っていました。
女性が持っている愛の強さや、年齢を重ねるにつれてその愛の形やベクトルが変わっていくという様子を描きたくて、この物語に至りました。
いろんな要素が加わってこの形になりましたが、当初はワンシチュエーションの女性メインの会話劇を考えていました。シナリオハンティングで鬼怒川温泉や湯西川温泉を巡った際に、この映画のエピローグ的な情景が思い浮かんで、それを終着点に物語を書き始めました。親子の話をベースに、女性だけの話という要素を加えて書き始めたら、うまく成り立ちました。ちょうどその頃に『アナと雪の女王』のように物語に必ずしも男性は必要ではないという流れもあって、そんな要素も取り入れていきました。

Q 鬼熊<オニクマ>、鹿宮<カグウ>、奇稲<クシナ>の三世代のキャラクターをどう造形していったのでしょう。

A速水萌巴物語の作り方としてはキャラクターから入っていきました。当時「新しい主人公の作り方」という本を読んでいて、ゲームのストーリーメイキングのように、先にキャラクターの役割を決めていくことで、物語が自然に動き出していきました。

Q この3人のキャスティングについてお聞かせください。

A映画『クシナ』速水萌巴この3人の前に、人類学者の蒼子役は稲本弥生さんに演じてもらえたらと、当て書きでキャラクターを作っていました。他の現場で知り合っていたので、稲本さんの持っている魅力がこの物語の案内役としていいなと思っていたんです。
鬼熊<オニクマ>役の小野みゆきさんは写真を見ての一目惚れです(笑)。この人しかいないと思って事務所に電話をしたらすぐに話を聞いてくださって。その日のうちに小野さんにも脚本を読んでいただけて、すぐに引き受けていただけました。
鹿宮<カグウ>役はなかなか決まらず、私の中でもあいまいなイメージだったのでキャスティングは大変でした。廣田朋菜さんを知り合いのプロデューサーさんに紹介された際には、別のオーディション現場で演じられていたキャラクターのイメージが強く残っていて、鹿宮<カグウ>のイメージと違うだろうなと思いながらお会いしたら、個性的な中に繊細さがあって、鹿宮<カグウ>の複雑なレイヤーを感じてお願いしました。
奇稲<クシナ>役は本当に撮影数日前になってもまだ決まっていなくて、本読みをした時には小野さんにまで心配されました。その時にヘアメイクの林美穂さんから「ぴったりな子がいる」と郁美カデールさんを紹介していただきました。写真を見せていただいて、ひと目見て奇稲<クシナ>だと思いました。奇稲<クシナ>の圧倒的な存在感に合う人がなかなかいなかったので、彼女しかいないと思いました。実際、映画の撮影が初めてとは思えないくらいでした。郁美さん本人は撮影初日は緊張のあまり発疹が出ていたそうですが、お芝居になりすぎず自然と演じている様子には小野さんもびっくりされていました。

Q 鬼熊<オニクマ>、鹿宮<カグウ>、奇稲<クシナ>のビジュアルがエキゾチックですね。

A速水萌巴奇稲<クシナ>を見た時のエキゾチックな感じや、鬼熊<オニクマ>とも鹿宮<カグウ>とも見た目が違うというところに他の血が入っていることを想起させ物語に膨らみを持たせられると思ったのと、単に私の好みの顔だということもあります(笑)。

Q 集落が幻想的ですが、どの様に撮影されたのでしょう。

A速水萌巴里の風景や川は山梨県ですが、家の内部は別の場所で撮影しています。ああいう場所があれば本当に良かったんですが、残念ながら一箇所では撮れなかったです(笑)。やはり映画撮影なので、電気がないと撮影できませんし、現代的なものが映り込むと設定とも違いますので、あるアングルからは撮れるけれど、その後ろには高速道路が見えるから映せないとか、編集するまではちゃんとつながっているのかという不安もありました。

Q 鹿宮<カグウ>の表情などが印象的ですが演出についてはいかがでしたか。

A映画『クシナ』速水萌巴廣田さんとは具体的な演出よりは鹿宮<カグウ>についてよく話すようにしていました。ただ欲しい表情が撮れるまでカットをかけず、5分以上カメラをまわしたこともありました。最初にリハーサルした時は背伸び気味な大人っぽい鹿宮<カグウ>を演じてくださったのですが、小野さんを交えて相談しながら、もっと鬼熊<オニクマ>の後をついていくような幼さを出した方が良いと思って、ビジュアルも含めあどけなさを出してもらいました。

Q 撮影で印象的だったことは。

A速水萌巴スケジュール上、2日目にラストシーンの撮影をしたんです。その本番の撮影中に涙してしまったのが印象深いです。自分でも予期していなかったのでびっくりしました。何度もリハーサルをした上で、カメラ割りも含めて話し合っていたので、段取り良く撮ろうと思っていましたが、自然の中での撮影だったので、偶然性が入り混じって、予想しなかったことも起きました。段取りでは、蒼子と奇稲<クシナ>の後ろ姿を撮る、というだけの予定だったのが、カメラマンがその後に鹿宮<カグウ>にカメラを振ってくれたことで、このラストカットの表情を一連で撮ることができました。役者のお芝居もそうですし、スタッフが今撮るべきものを撮っているという、みんなの結晶に感動しました。

Q 初監督を務められて感じたことはいかがでしょう。

A速水萌巴プレッシャーはすごく感じていました。やろうとしていることがファンタジー的な舞台設定で挑戦的なことでもあり、その正解を知っているのは私しかいないので、何が正解かの判断を私がしなければなりませんでした。けれども、ラストシーンを撮った時に、その映像を見て、自分ひとりで抱え込まなくていいし、もっと皆を信じて楽しんで作ればいいと思いました。

Q 2018年に完成させて映画祭での受賞もあり、公開のオファーを一度はお断りされたそうですね。

A映画『クシナ』速水萌巴大阪アジアン映画祭で《JAPAN CUTS Award》を受賞してインタビューを受けた際の、母親とのことを話した記事を母が見て悲しんでしまったので、母を悲しませるために撮った作品ではないので、いったんは一般公開するのをやめようと思いました。でも、作った作品ですし、評価してくれる方、劇場公開を気にかけてくれる方もいたので、母にはこれは脚色された映画だと理解してもらって、公開を決めました。
個人的な感情をベースに撮った作品なので、皆さんがどう受け止めるのか、どういうリアクションがあるのか楽しみです。

Q 速水萌巴監督からOKWAVEユーザーにメッセージ!

A速水萌巴この映画はちょっと不思議な設定で、自主映画には見られない挑戦をしています。私が100%思い描いた映画かと問われるとまだまだな部分もありますが、やろうとしていることが少しでも伝わればと思いますので、皆さんに観ていただきたいです。

Q速水萌巴監督からOKWAVEユーザーに質問!

速水萌巴母親を思い出す曲は何ですか。
余談ですが、エンディングテーマに使っている曲を、映画祭での上映後、私の母がジャズの発表会で歌ってくれました。これで私と母のこの映画をめぐる答え合わせは終わったなと思います(笑)。

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■Information

『クシナ』

映画『クシナ』2020年7月24日(金)よりアップリンク渋谷ほかにてロードショー

深い山奥に人知れず存在する、女だけの”男子禁制”の村。村長である鬼熊<オニクマ>のみが、山を下りて、収穫した大麻を売り、村の女達が必要な品々を買って来ることで、28歳となった娘の鹿宮<カグウ>と14歳のその娘・奇稲<クシナ>ら女達を守っていた。
閉鎖的なコミュニティにはそこに根付いた強さや信仰があり、その元で暮らす人々を記録することで人間が美しいと証明したいと何度も山を探索してきた人類学者の風野蒼子と後輩・原田恵太が、ある日、村を探し当てる。
鬼熊<オニクマ>が、下山するための食糧の準備が整うまで2人の滞在を許したことで、それぞれが決断を迫られていく。

郁美カデール
廣田朋菜 稲本弥生 小沼傑
小野みゆき

監督・脚本・編集・衣装・美術:速水萌巴
配給宣伝:アルミード

公式HP:kushinawhatwillyoube.com
Twitter:@kushina_cinema
facebook:kushina.cinema

(c) ATELIER KUSHINA


■Profile

速水萌巴

映画監督 速水萌巴(映画『クシナ』)立命館大学映像学部卒業後、早稲田大学大学院へ進学。在学中から映画やCMの現場で働き始める。助監督を務めた映画『西北西』(中村拓朗監督)は、釜山国際映画祭ニューカレンツ部門、JAPAN CUTSにて上映される。また、主人公の部屋のデザイン・装飾を担当した映画『四月の永い夢』(中川龍太郎監督)はモスクワ国際映画祭で批評家賞を受賞。本作で長編監督デビュー。