Vol.945 俳優 坂口拓(映画『狂武蔵』について)

坂口拓(映画『狂武蔵』)

OKWAVE Stars Vol.945は映画『狂武蔵』(2020年8月21日公開)坂口拓さんへのインタビューをお送りします。

Q “ワンカット77分”という凄まじいアクションが繰り広げられますが、そのような作品に収斂していった経緯をお聞かせください。

A坂口拓(映画『狂武蔵』)坂口拓9年前のことですが、もともと、園子温監督と共同で作るはずだった『剣狂-KENKICHI-』という映画があって、その作品ではラスト10分間にルールなしのワンカットアクションを撮る準備をしていました。その映画がいろいろなことがあって企画が無くなってしまい、押さえていた機材などがあったので、その機材を返却する前に一発勝負で長編になるように70分以上かけて撮ろう、ということになりました。

Q 宮本武蔵を題材にした狙いは何でしょう。

A坂口拓(映画『狂武蔵』)坂口拓宮本武蔵は一番分りやすく、世界的にも有名です。それに加えて、武蔵は僕の中では人間っぽいと思っています。本当に強い人は武士道や侍であることを重んじて、武蔵のような戦い方はしなかったはずです。なぜ武蔵があのような戦い方をしたのか考えると、彼なりの兵法もあったかもしれませんが、戦う時は臆病だったし、人間っぽさを感じていいなと思いました。例えば、佐々木小次郎との戦いには意図的に遅れていきます。果たしてそれが兵法なのかどうか。侍ならば堂々としていなければならないので、侍としてはむしろ失格です。兵法では片づけられないその理由を考えていくと、心の弱さだと思いますし、何としても勝ち残りたいという気持ちの表れでもあると思います。この映画の吉岡一門との戦いの始まり方も同じですね。多勢の吉岡一門と戦うからそうするのは理解できますが、同じ剣客でも伊東一刀斎なら合戦でも生き残っているので、きっと正面切って戦っていると思います。いろいろな人が宮本武蔵を描いてきましたが、そこは共通している部分ですので、僕は武蔵は人として必ずしも強い人ではなかったかなと思います。
また、武蔵こそ剣の型がないとも思いました。僕も型にとらわれないアクションをやってきたので、そこはハマるだろうなと思いました。

Q 77分のノンストップアクションは、どのように準備をされたのでしょう。

A坂口拓もともとの映画のワンカット10分のために1年かけて準備をしてきました。人の身体には当てないのがアクションのルールなので、アクションマンたちは本気で狙わない癖がついています。アクションチームZEROSのメンバーとはスポーツチャンバラから始めて、僕が完全によけられることをわかってもらい、本気で狙うよう徹底させて、その後3ヶ月かけて木刀でのアクショントレーニングを行いました。木刀といえども一発でも当たれば骨は折れます。けれども10分なら集中すればやりきれると思っていました。
映画の企画が無くなってプロデューサーが皆の前で土下座をして謝られて、共同監督だった僕に何か言いたいことはないかと聞きました。皆を前にして、このまま無くなっていいのかなとその時に思ったんです。それでこのアクションだけで長編を撮ればいいという、ある意味“傾いた”考えを口に出しました。言いながら自分でも何を言っているのだろうとは思いました。
もともとの映画が無くなった時点で精神状態はボロボロでしたので、この撮影を行う前日までは少し落ち込んでいました。けれど、実際に撮影を行う時には清々しい気持ちになっていました。

Q 実際にカメラが回り始めて、やりきれると思えましたか。

A坂口拓(映画『狂武蔵』)坂口拓撮影が始まった時は絶対にやれると思っていました。撮影に入る直前に、ZEROSのメンバーを「本当に俺を殺す気持ちで来てくれ。そうでないと狂武蔵にならないし、嘘に見えないようにしたい。腕が折れたとしても、足が折れても、失明しても、俺が動いている間は続けてくれ。続けなければ俺がお前らの脳天を割るぞ」と鼓舞したんです。それでいざ始まると、最初からみんなすごい勢いでかかってきたので、早々に指の骨が折れて、あっという間に体力が尽きてしまいました。「皆の気持ちを上げるだけだったのにな」と思いながら、ガンガンかかってくるみんなと対峙して、すごく硬い樫の木の木刀が5本くらい折れているので、みんなの打ち込みは相当でした。「これではやれないな」と5分後には思ったというのが本音です。こんな経験を他の人はしないだろうから、令和の時代に合戦を経験しているのは自分だけです。この合戦を経験したことで侍の気持ちを一層理解できました。
途中で水を飲むシーンがありますが、疲れ切っていて飲み込めないんです。戦地から帰ってきた方に「そういう風に飲めないのは戦場あるあるだよ」と聞かされて、すごく納得がいきました。
計算外だったのが、ラスト25分くらいのところで、力で剣を持つのを止めて、相手が力で打ち込んできたものを、力で押し返すのではなく、柔らかくいなすことができることに気づいたことです。実際のところ、指の骨が折れているし、刀を強く握ることもできません。それで身体が相手の刀をいなすことを覚えていったということです。「合戦が侍を育てる」とはよく言ったもので、合戦で生き残ることとはこういうことかと思いました。武の真髄で「脱力を覚えよ」とも言われますが、合戦のような長時間の戦いで体力がなくなる時には脱力しなければ生き残れません。僕はそれをこの撮影の中で学びました。後半は剣を柔らかく握っていて、片手で剣を回すようなアクションも出てきますが、それまでにしたことはないし、自分でも自然とその動きが出ていました。だから映画の中で僕自身が進化してより強くなったのは計算外なんです。アクションの段取りで掛け声をあげてとびかかってくる、という決め事があって、前半はみんなそうしてくれていましたが、後半は、とびこんできそうな気配を察して僕から攻撃をしかけていました。後ろからくる気配も、空気の流れで分かるくらいでした。

Q 戦い終えた時の気持ちはいかがでしたか。

A坂口拓“無”でした。達成できた喜びもなく、ただただ仰向けになっていました。ZEROSのメンバーだった脩平は「見たことがない表情をしていた」と言っていましたが、顔にタオルを当ててくれて、その瞬間に涙が溢れました。今までにそんな風に泣いたことはなくて、それは達成感というよりも、「もういいよ」と身体が泣いている感覚でした。僕はそれまでリアルなアクションを追い求めてきましたが、それは一般の人に分かりやすいものではなくて、今以上にカット割りやCGやワイヤーを使ったアクションが幅を利かせていたんですね。だから『狂武蔵』をやりきった時には、もう俳優を続ける意味がないと思ったんです。
その後、復帰作の『RE:BORN』で使ったウェイブという新しい身体操作を覚えて、今は19歳から追い求めてきたリアリズムのアクションをもって、昔の三船敏郎さんや勝新太郎さんのような段取りの見えない刀の格好いい振り方を超えて暴れられるのは自分しかいないという気持ちで、侍という文化を表現したいと思っています。だから映画というルールのもとで合戦に出させてもらったこの『狂武蔵』を公開できるのは非常に意味があることだと思っています。

Q 2011年にワンカットアクションの撮影を行い、時を経て公開に向かって動き出した時にはどう感じましたか。

A坂口拓合戦に出た技術は身体に入っているし、一度自分の中で終わっていたので、撮影のことは思い出したくない経験だったんです。それをその後それぞれ本作の監督とプロデューサーになる、下村勇二や太田誉志が何としても公開したいと、前後にストーリーをつけて蘇らせてくれました。完成した映画を観てエンターテインメントとして蘇らせてくれたことに感謝しています。

Q 山﨑賢人さんの出演についてはいかがでしたか。

A坂口拓(映画『狂武蔵』)坂口拓『キングダム』で共演したことで、思いを共有してくれたことに尽きます。坂口拓に惚れてくれて世に出したいと思ってくれた心意気がうれしかったです。そういうみんなの思いが集まって復活しました。
新しく撮った部分に関しては、当時の自分よりもスピードもパワーも勝っていて、人間から化け物のようになってしまっているので、今後どうなってしまうんだろうと思いました。

Q 映画のアクションの今後のあり方について思いやお考えをお聞かせください。

A坂口拓僕は人間が好きなので、人間の身体の限界や、日本人としての侍の身体に注目していますし、日本人はすごいなと思われたいです。『キングダム』のアクションでも「CGですか」とよく聞かれましたが、人間の身体はもっと進化できるということを伝えたいです。そして日本人の強さと怖さも伝えていきたいです。先人たちが残してくれた文化としての侍を残したいので、その気持ちで刀を振るいたいです。

Q坂口拓さんからOKWAVEユーザーに質問!

坂口拓皆さんは、これからの日本映画はどうあってほしいですか。

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■Information

『狂武蔵』

映画『狂武蔵』2020年8月21日(金)新宿武蔵野館にてレイトショー公開

1604(慶長9)年、9歳の吉岡又七郎と宮本武蔵との決闘が行われようとしていた。武蔵に道場破りをされた名門吉岡道場は、既にこれまで2度の決闘で師範清十郎とその弟伝七郎を失っていた。面目を潰された一門はまだ幼い清十郎の嫡男・又七郎殿との決闘を仕込み、一門全員で武蔵を襲う計略を練ったのだった。一門100人に加え、金で雇った他流派300人が決闘場のまわりに身を潜めていたが、突如現れた武蔵が襲いかかる。突然の奇襲に凍りつく吉岡一門。そして武蔵1人対吉岡一門400人の死闘が始まった!

出演:TAK∴(坂口拓) 山﨑賢人 斎藤洋介 樋浦勉
監督:下村勇二
原案協力:園子温
配給:アルバトロス・フィルム

https://wiiber.com/

(C)2020 CRAZY SAMURAI MUSASHI Film Partners


■Profile

坂口拓

坂口拓(映画『狂武蔵』)俳優としての“坂口拓”、アクション監督としての“匠馬敏郎”、そして戦劇者としての“TAK∴”。3つの異なる名義で日本のアクション映画を進化させてきた。既存の体制に媚びない姿勢で成功と失敗を繰り返してきた。国外に熱狂的なファングループを持っている。『狂武蔵』の宣伝活動として始まったYouTubeチャンネルでは、新たな世代と自由なアクションの世界観を構築しつつある。

https://twitter.com/tak_ninnin