OKWAVE Stars Vol.950はドキュメンタリー映画『ぼくのこわれないコンパス』を製作中の映画監督マット・ミラーさんへのインタビューをお送りします。
Q この映画の製作に取り組むきっかけについてお聞かせください。
Aマット・ミラーこの『ぼくのこわれないコンパス』では、子どもたちが抱えるトラウマやメンタルヘルス(心の健康)、児童養護施設でのケアの在り方といったことを題材に、日本で関心を高めてもらうため私が映画にして専門家や施設の方々などにそのリソースを使ってもらいたいという気持ちで取り組んでいます。
そもそものきっかけですが、私の父の話にさかのぼります。私の父は第二次世界大戦の頃に日本でアメリカ人の父、日本人の母から生まれました。父は5歳までは母親に育てられましたが、その後に面倒を見てくれた義理の父からは、一晩中、家の外に出されたり、ネグレクトなどの虐待を受けました。そして孤児院に入れられました。それで父は子どもの頃から心に痛みとトラウマを抱えることとなったんです。その後、アメリカの家庭の養子になってアメリカに移住しましたが、心の傷は大人になっても癒やされませんでした。僕はそんな父の心を癒やしたいという思いから日本にやって来ました。父の母から何かを得られるのではないかという思いもありました。しかし、自分では父の心の痛みは癒やせないことに気づいたんです。一方で、児童養護施設で子どもたちと触れ合う機会を得て、子どもたちがサポートを必要としていることを知りました。それで施設の子どもたちにフォーカスして、映画として作ろうと決めました。
Q 映画にするという選択をした、監督のこれまでの人生をお聞かせください。
Aマット・ミラー私の両親は私にアーティスティックな精神を養ってほしいと思ったのか、子どもの頃から絵画などのアートに取り組ませてくれました。また家族にとって映画はとても大切なもので、毎週家族揃って映画を観に行く時間はとても大切なものでした。そして私が14歳の時に『フープ・ドリームス』というドキュメンタリー映画を、弟を含む家族4人で観て、家族みんな泣いてしまい、心に響く映画という存在に気づきました。『フープ・ドリームス』は今でも繰り返し観ている大切な映画です。そんな経緯があったので、いつか日本に来て家族のルーツに関わるドキュメンタリーを撮るんだという気持ちがずっと自分の中にありました。そして実際に日本に来てからもドキュメンタリーを撮ることはずっと頭の中にありました。
Q 子どもたちを題材にしたドキュメンタリーを撮る上で、どのように子どもたちにアプローチしていったのでしょう。
Aマット・ミラー私は日本語をあまり話せないのですが、子どもの心を今も持ち合わせていると自覚しています。だから、子どもと接した時には、会った瞬間に子ども同士が出会ったように接することができて信頼関係も築けるんです。日本に来てからは、NPOの活動にボランティアとして関わっていました。施設の子どもたちが自然の中で行うアクティビティをサポートする活動などを5年間続けていくうちに、施設の方々との関わりが段々とできて、この映画を撮れる関係性になりました。子どもたちとのつながりはすぐに築けましたが、周りにいるケアワーカーたちとの関係性は慎重に作っていったんです。徐々に信頼してもらえるようになって、施設内での撮影も許可していただけるようになりました。これまで撮影に入った各施設とはそれぞれに契約を交わして、どのように撮影をして、どの映像を使うのかを話し合って決めるようにしています。
Q 長い時間をかけて続けてきた一番のモチベーションは何でしょう。
Aマット・ミラー私の父は76歳ですが、今でも子どもの頃に受けた心の傷が残っています。そして今、施設にいる子どもたちも痛みを抱えています。だからこそ施設での子どものメンタルヘルスのサポートは必要なんです。それを映画を通じて伝えられると思っています。それが一番のモチベーションです。
Q 映画の製作を始めた時と現在で、新しい発見あるいは再発見したことはありますか。
Aマット・ミラーこのドキュメンタリーを撮り始めた時には施設の子どもたちにどれだけアプローチできるかは全く想像できませんでした。このプロジェクトを通して日本全国をめぐりました。新しい気づきか学びかは分かりませんが、子どもたちのメンタルケアが大切だとあらためて気づきました。子どもたちは社会の宝物だということを知ってもらいたいですし、痛みを抱えた子どもたちが癒やされるようにならないとなりません。最初は外国人がなぜ日本の子どもたちのドキュメンタリーを撮るのかと疑いの目で見られることもありました。それがここ1年ほどは、この思いに賛同してくれたり、一緒に何かをやりたいという人が出てきて、私のやりたいことを理解して協力してくれる人が増えてきたんです。
Q 撮影を始めてから、日本の社会と子どもたちの置かれている立場やその変化について思うところはありますか。
Aマット・ミラー私はこのプロジェクトを通して心理学者の方や大学教授、子どもを養子に迎えた家族など、様々な方にお話を聞く機会に恵まれました。自分なりの考えもあります。ですが、私自身は日本の社会全体における子どもたちの問題についてコメントする立場にはありません。ただ、この映画は、この問題に関わるNPOや大学などにリソースとして提供できるものになると思っています。
Q この映画が完成したら、どんな人たちに観てほしいですか。
Aマット・ミラーこのドキュメンタリーは老若男女に観ていただきたいですが、とくに2つの年齢層の方々に届けたいです。1つは子どもがほしいけれどそれが叶っていない親の世代の方々です。この映画ではそのような方々がどんなアクションを取れるのかが語られています。もう1つは若い世代です。それは彼らがこれからの社会の未来を担っていて、メンタルヘルスに関する社会のシステムにも影響を与えられると思っているからです。
Qマット・ミラー監督からOKWAVEユーザーに質問!
マット・ミラー日本の格言に「子どもは国の宝」という言葉がありますが、2020年の現在、あなたはこの言葉を信じることができますか。その理由も含めお答えいただきたいです。
■Information
『ぼくのこわれないコンパス』クラウドファンディングのご案内
第二次世界大戦後、孤児として日本の児童養護施設で育った父親のルーツを辿りたいと2006年に来日したアメリカ人の映像作家マット・ミラーは、児童養護施設で暮らす子どもたちがアウトドア体験を通して自分の道を自分の力で切り拓ける「生きる力」を育むことを目的とする認定特定非営利活動法人『みらいの森』で映像を撮るようになった。現在、日本の児童養護施設に入所している子どもたちの内、約6割は虐待を経験している(※)が、この子どもたちには、カウンセリングなど、十分なメンタルヘルスのサポートが無いこと、さらに、原則18歳の高校卒業と同時に施設を退所することが定められており、まだ経済力がない中、衣食住すべての自立が求められるという現実を知り、ショックを受け、社会への発信が必要だという思いに至る。
(※)出典:厚生労働省統計
本作は、これまで直接聞く機会がほとんどなかった子どもたちの心に光を当て、児童虐待や、ネグレクト、そして子ども達のメンタルケアの欠如などの社会問題に正面から向き合い、社会に発信することで、関心をもってもらうことを目指している。
本作の完成に向け、到達しない場合は1円も受け取ることができない「All or Nothing方式」を採用した150万円を目標とするクラウドファンディングで製作費の寄付を募集しています。
〜2020年9月22日(火・祝)17:00
■Profile
マット・ミラー
アメリカ生まれ。
彼の父親はアメリカ人の父と日本人の母の間に日本で生まれ、第二次世界大戦の混乱の中、孤児として日本の児童養護施設で育ち、10歳の時に養子として渡米。児童養護施設で育った父親のルーツを辿りたいと2006年に来日したマットは、日本では現在も沢山の子どもたちが児童養護施設で暮らしている現実を知ることになる。子どもの権利を守るために、映画制作を通してより多くの人々の意識や行動に変化を促すことを目的に活動している。