OKWAVE Stars Vol.956はこまつ座『私はだれでしょう』(2020年10月9日〜)に出演の平埜生成さんへのインタビューをお送りします。
Q 本作は2017年公演のキャスト・スタッフでの再演とのことですね。
A平埜生成僕自身、再演の経験がなかったので、再演ではどういう感じで作り上げていくのだろうという興味もありました。稽古が始まって、演出の栗山民也さんとお話しした際に「消費社会になって、演劇も同じように新しいものがどんどん作られるようになっています。その中で、こまつ座さんで井上ひさしさんの作品をずっと作っていくこともそうですし、この作品のようにキャスト、スタッフ全員が揃ってもう一回再構築する作業はとても豊かなことで、僕は好きです」と仰っていました。僕もこうして再演で再び出会って戯曲を掘り下げて、作品のテーマでもある日本のことをあらためて考えるのはとてもいいなと思いました。僕は最近、演芸に興味があって、歌舞伎や文楽、落語を観たり勉強しています。千利休の歌に「守・破・離」がありますが、師匠の教えを守って、それを破って離れて、また戻って、ということを次の世代につないでいくのが伝統芸能だと知りました。再演はどこかその感覚に近いのかなと思いました。俳優は一度役を演じたらすぐにその役を離れていきます。伝統芸能や演芸の世界のようないわゆる“型”がない中で、再演は一度作り上げたものを守って外れないようにもう一度作り上げて、その型をどう破ってどう離れていくかということだと思います。ですので僕は今すごく楽しく挑めています。
Q 再演にあたって前回培ったものは自分の中にどのくらい残っているものなのでしょう。
A平埜生成自分の中には全然残ってなかったので、僕自身びっくりしてしまいました。前回から数年経つ中で少しは変わっていてほしいと自分の中に期待するところがあったのですが、表現になって出てくるものにはそんなに大差はなかったです。ですので、今回は戯曲の中に何が描かれているのかを考えながら稽古を進めています。僕は今回、“民主主義”がテーマだと感じています。これは栗山さんも仰っていることですが、井上ひさしさんの作品はほとんどの場合が、劇中で人物同士の議論が行われます。人と人が議論を交わすのはまさに民主主義です。とくにこの作品の時代は昭和21年なので、GHQの占領下で与えられた民主主義で、かつ検閲もあるので、今の日本人が考える民主主義とは違う時代です。本当の意味での民主主義とは何だろう、というものをみんなで作り上げていきたいです。そんな3年前には考えられなかったことを考えることができるようになったのが嬉しくて、再演とはこういう風に物事を深めて、そこに前回できなかった表現へのチャレンジをすることなんだと思いました。
Q 記憶を無くした男・山田太郎?役についてはいかがでしょう。
A平埜生成井上ひさしさんは2007年の初演に向けてこの戯曲を書いた際に、起用したい役者のイメージに合わせて登場人物の当て書きをしていたそうです。それに合わせてキャスティングされて、初演では謎の男を川平慈英さんが演じました。慈英さんへの当て書きなので、歌も踊りもタップダンスもできるという男の設定は、まさに慈英さんの良さが引き出された役どころです。前回はやることが多すぎて必死でしたが、今回役のことをより掘り下げていくことで、男と慈英さんの辻褄が合うような、そんな共通点にたどり着きました。演じる“山田太郎”はそんな人物なので、慈英さん以外が演じるのは大変だと、前回以上に感じています。慈英さんの引き出しが全開になることを前提に、踊りやタップを役者ができて当たり前のように書かれているので、僕もタップの先生に習いには行きましたが、この戯曲でやるべきタップとはズレていってしまうんです。最終的には先生に来ていただいて1日で振り付けていただいたものを練習していますが、やはり大変です。
Q 共演者の方々や稽古場の様子をお聞かせください。
A平埜生成皆さん前回よりも心に余裕があるように感じられます。栗山さんの僕への要求をみんなも聞いているので、稽古後に居残りで練習していると、みんながアイディアを出してくださるし、僕も相談をしやすいので、自分一人で作り上げている感覚ではないです。前回は何を相談すればいいのかさえ分からなかったので、今回は相談できる関係性ができていますし、僕の役は他の皆さんのリアクションがないと成り立たたないので、尚さらみんなに支えられてできていますね。
Q 今回ならではの意気込みはありますか。
A平埜生成僕はそういう気持ちや欲はないんです。ただ、栗山さんが「コロナ後、一番の演劇だね」と仰ってくださったのがすごく励みになっています。コロナという大変な時代にこの作品を上演する意義も感じています。この作品は本来は東京オリンピックが開催される予定だった上で組まれた上演プログラムでしたので、僕らが本当の意味での人間関係の豊かさのようなものを演じることで、あらためて日本のことを考えるきっかけになればいいなと思っています。
Q ラジオ局が舞台となる本作ですが、ご自身とラジオとの思い出などはありますか。
A平埜生成僕はラジオをあまり聴いてこなかったので、前回の出演時にはなかなかイメージが湧きませんでした。NKKの当時の放送会館だったところが今はNHK放送博物館として公開されていて、ラジオのメディアとしての歴史が学べるので、前回に引き続き今回も訪問して、大衆にとってラジオとはどういうものだったのかをあらためて考え直しています。僕の世代だとラジオは深夜放送の「オールナイトニッポン」のようなサブカルの象徴という認識ですが、昭和21年当時はもっと娯楽メディアだっただろうし、GHQが音楽などを通じて、日本人をアメリカと交ぜていく手段だったのだろうなと思います。「ラジオの魔法」という歌詞が劇中に出てきますが、ラジオ局側がラジオの魔法をどうかけてくるのか、聴く側の僕はどう魔法にかけられるのか、そんなところを大切にしていきたいです。
Q 平埜生成さんからOKWAVEユーザーにメッセージ!
A平埜生成コロナの自粛後、知人のお店に食事をしに行った際に、支払うお金がお店の経営に直結しているんだとより強く感じるようになりました。こまつ座さんは公演のためにクラウドファンディングをして資金を集めていますし、チケット代が舞台を支えているのだと以前よりも感じています。チケット代がキャストやスタッフさんの生活費になっていて、皆さんは僕らを支えながらエンターテインメントを受け取れるのだと思っていただけたらありがたいです。僕自身、今までチケット代を払って舞台を観る時は見返りを心のどこかで求めていましたが、今はそのお金が支えになっているんだと思うようになりました。チケット代はちゃんと僕らの生活に当てられるので、「高いな〜」が「高くても、まぁいっか」と心を柔らかくしていただけたらいいなと思います。
舞台の上ではフェイスシールドもマスクもせず、昭和21年の世界を表現することに専念しています。コロナから離れた別の世界をお見せできることを確実にお約束できるので、窮屈になってしまった今の世界からリフレッシュしたい方にはぜひお越しいただきたいです。
Q平埜生成さんからOKWAVEユーザーに質問!
平埜生成僕の役柄や吉田栄作さんが演じる日系二世のフランク馬場の存在など、この作品に携わってすごく感じていることですが、皆さんは日本人ってどんな人たちだと思いますか。
■Information
『私はだれでしょう』
2020年10月9日(金)~22日(木)東京・紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYA
敗戦直後の昭和21年7月。
今よりもずっとラジオが人々の傍にあった。
日本放送協会の一室からラジオ番組「尋ね人」は始まった。
15分間の放送の中では戦争で離ればなれになった人々を探す無数の”声”が全国に届けられた。
脚本班分室長である元アナウンサー川北京子をはじめとする三人の女性分室員は占領下日本の放送を監督するCIE(民間情報教育局)の事前検閲を受けながらも番組制作にひたむきに取り組んでいる。
そこへ日系二世のフランク馬場がCIEのラジオ担当官として着任。
そんなある日、彼らの元に一人の男が現れた。
自称・山田太郎と名乗るその男は言う。
「ラジオで私を探してほしい。」
次々と騒動が巻き起こる中、自分自身がわからない男の記憶がひとつひとつ明らかになっていく。
これは戦後のラジオ番組「尋ね人」の制作現場を舞台に
「真実」にひたむきに向き合った、向き合うことから逃げなかった誇り高き人々の物語である。
「私はだれでしょう。だれであるべきでしょう」
作:井上ひさし
演出:栗山民也
出演:朝海ひかる、枝元萌、大鷹明良、尾上寛之、平埜生成、八幡みゆき、吉田栄作
ピアノ奏者:朴勝哲
こまつ座:03-3862-5941
こまつ座オンラインチケット:http://www.komatsuza.co.jp/
こまつ座Twitter:https://twitter.com/komatsuza
スペシャルトークショー:
10月11日(日)13:00公演終了後(朝海ひかる、枝元萌、大鷹明良、吉田栄作)
10月20日(火)13:00公演終了後(朝海ひかる、尾上寛之、平埜生成、八幡みゆき、吉田栄作)
※スペシャルトークショーは上記以外の公演チケットをお持ちの方も入場できます。満席になり次第、入場を締め切ります。
※出演者は都合により変更の場合があります。
■Profile
平埜生成
1993年2月17日生まれ、東京都出身。
2009年から退団するまでの8年間、「劇団プレステージ」に所属。中心メンバーとして数多くの作品に出演。舞台を中心に、ドラマや映画など幅広い役で活躍。
14年「ロミオとジュリエット」(演出:蜷川幸雄)、16年「オーファンズ」(演出:宮田慶子)、17年こまつ座「私はだれでしょう」(演出:栗山民也)では読売演劇大賞2017上半期5部門ベスト5男優賞にノミネートされる。他にも、19年こまつ座「日の浦姫物語」(演出:鵜山仁)、「常陸坊海尊」(演出:長塚圭史)など、数多くの演出家から信頼を得ている。
また映画では、17年『亜人』(監督:本広克行)、18年『劇場版コード・ブルー ードクターヘリ緊急救命ー』(監督:西浦正記)、19年『空母いぶき』(若松節朗)、20年『影裏』(監督:大友啓史)など話題作への出演が続き、ドラマでは、17年「バウンサー」(監督:熊澤尚人)にて連ドラ初主演を務める。他にも、NHK大河ドラマ「おんな城主直虎」では徳川信康役を好演。「BG〜身辺警護人〜」、「正義のセ」、「今日から俺は!!」と、人気ドラマ、映画、舞台への出演を重ねる。
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