OKWAVE Stars Vol.962はドキュメンタリー映画『相撲道~サムライを継ぐ者たち~』(2020年10月30日公開)坂田栄治監督へのインタビューをお送りします。
Q 本作を撮ったきっかけについてお聞かせください。
A坂田栄治僕はずっとバラエティ番組を作ってきて、「ズバリ言うわよ!」「マツコの知らない世界」がヒットして、映像作品を作る技術はあると自負しています。やりきったという思いもあったので、今後はこの技術を日本人として日本のために使いたいと思っていました。オリンピックが決まった時にさらにその気持ちが高まって、世界が日本に注目している時に自分には何ができるのだろうと漠然と考えていました。その時から、バラエティ番組の延長線上にはないことだろうなと思っていました。
そんな中で、相撲の朝稽古を見学する機会があり、日本人にとって相撲は当たり前のようにあるのに、土俵での取組以外の文化は何も知らないということに衝撃を受けました。同時に相撲の文化をちゃんと撮って作品にしたものもないと気づいて、自分が撮って作品にするべきだと思いました。両国国技館での本場所も見て、お祭りのような熱気や、力士が土俵で激突する音や歓声も衝撃で、テレビには収まりきらないので映画にしようと決めました。映画を撮るのは初めてでしたし、どうすれば映画を公開できるのかも知りませんでしたが、決めたからどんどん進めていきました。
時系列でいえば2018年の3月頃に朝稽古を見て、5月場所を見た後に相撲協会に申請を出して、許可をいただいたのが9月頃です。11月には取材を開始して12月から撮影を始めたのでかなりのハイペースだったと思います。
Q どんなところを大切にしましたか。
A坂田栄治僕はそこまで相撲に詳しくはなく、その価値観を大事にしました。相撲ファンの方に喜んでいただきたいのはもちろんですが、この映画を観て相撲のファンになってもらいたいと思ったので、その新鮮な気持ちで撮影に挑み、分かりやすく作りました。テレビ番組を作っている時から観ている方を飽きさせてはいけないと常に意識していましたので、次々に展開していくような構成にしました。他のドキュメンタリー作品と比べて、どうすれば伝わるかという意思を持って撮っていますので、この作品は“エンターテイメント・ドキュメンタリー”と呼んでいます。
Q 取材対象として境川部屋と髙田川部屋を選んだ経緯などお聞かせください。
A坂田栄治コーディネート・プロデューサーで映画にも出演いただいている琴剣さんに「いわゆる昔ながらの空気が漂っている部屋を撮りたい」と相談して境川部屋さんを紹介していただきました。見学しに行って、息を呑むタイミングも考えなければならないほどの張り詰めた空気感を感じましたし、マスコミ取材を受けたがらないということもなおさら撮る価値があると思って、交渉をして撮らせていただきました。ただ、僕が撮りたかったのは“相撲という文化”でしたので、ひとつの部屋だけではその部屋のドキュメンタリーになってしまいますし、違う部屋には違う雰囲気があると思って、全く違う部屋を紹介していただいたのが髙田川部屋です。親方の話は面白いし、竜電関はよく笑う好青年で僕の中の力士のイメージと違っていたのも面白いなと思いました。
Q カメラを回す中で力士の皆さんはカメラを意識されるものでしょうか。
A坂田栄治意識はしていたと思います。とはいえ、カメラを回す前までに、撮影の対象者以外にもどういう方たちが部屋にいるのか知らなければ撮影に入れないと思っていましたので、まずは取材をしました。ですので朝いきなり行ってカメラを回しているわけではなく、できるだけ素が出るように考えて撮っています。この映画を観た相撲関係者の方からよく「武隈親方(元大関豪栄道)はすごく喋られるのですね」と言われますが、僕としてはカメラを回す前からたくさん話をして、その流れで撮影しているからだと思います。
もちろん、境川部屋も髙田川部屋も本場所に向かっていくので、取組の結果は誰にも分かりません。取組がどうであれ、作り込んでいかなければなりませんが、もともと僕自身は想定外のことでも楽しんでしまうので、撮影はスムーズだったなと思います。
Q 新しい発見などはありましたか。
A坂田栄治相撲のことについては僕が知らなかったことがこの映画に盛り込まれています。日本のドキュメンタリー映画はある人物に密着することで人物像が段々と見えてくるような撮り方をされますが、僕は事前の取材を通じて魅力をある程度発見して、その魅力をどう撮るか、どう描くかを考えて撮っています。たとえば、力士たちは勝ち負けで人生が大きく変わるということを、稽古の様子を見てきてより強く感じましたので、そんな僕の感じたことを映像に取り込みました。
テレビと映画の作り方では、音の環境と大画面であるという違いがありますので、迫力を伝えるのはまさに映画だと感じました。音に関してはドルビーアトモスというサラウンド記録再生方式で録っているので、サウンドデザイナーの染谷和孝さんから仕上がった音を聴いてこんなに再現できるのかという驚きはありました。
Q 撮影後に新型コロナウイルスの感染拡大もあって、これからの相撲と、エンターテインメント業界についてコメントをお願いします。
A坂田栄治相撲に関しては、お客さんにとって本場所にいる高揚感はとても楽しいものですので、早く同じ景色が戻ってきてほしいなと願っています。エンターテイメント業界に関しては、コロナ禍によって、これまでテレビというものがいかに派手に作っていたかが明確になったと思います。スタジオのスタッフの人数、かける時間、それらが正しかったのかを考える機会になったと思います。僕は映画以外にYouTubeチャンネルもやっています。またコロナよりも前に地上波の制作から離れましたが、いい機会だと考えて次の一歩を踏み出せるかがこれから差がつくところだと思います。僕自身、映画を撮りましたし、これからはテレビディレクターという同じ職種だけという時代でもないのだと思います。
Q 坂田栄治監督からOKWAVEのユーザーにメッセージ!
A坂田栄治この映画は相撲に馴染みのない方にこそぜひ観ていただきたいです。難しくないですし、必ず豪栄道関(現・武隈親方)、竜電関どちらかに惚れると思います(笑)。出演している皆さんへのインタビューでは、観ている方を元気づけるフレーズを選んで散りばめました。自分はまだまだ頑張れるなとかやりたいことを実現するにはどうすればいいのかを再確認できる言葉がきっと見つかると思います。
■Information
『相撲道~サムライを継ぐ者たち~』
2020年10月30日(金)よりTOHOシネマズ錦糸町
2020年10月31日(土)よりポレポレ東中野ほか全国順次公開
1500年以上もの歴史の中で日本人の暮らしに深く根付き、今や国技となった「相撲」。
そこには知られざる世界があった。
約半年間、境川部屋と髙田川部屋の二つの稽古場に密着。
想像を絶する朝稽古、驚きの日常生活、親方・仲間たちとの固い絆、そして、本場所での熱き闘いの姿を追いかける中で、相撲の魅力を歴史、文化、競技、様々な角度から紐解いていく。
勝ち続けなければいけない、強くなくてはいけない、サムライの魂を宿した力士たち。極限まで自分と向き合い、不屈の精神で「相撲」と闘い続けるサムライたちの生き様を描いた唯一無二のドキュメンタリーが生まれた。
境川部屋 髙田川部屋
監督/製作総指揮:坂田栄治
配給:ライブ・ビューイング・ジャパン
https://sumodo-movie.jp/
https://twitter.com/sumodomovie
©2020「相撲道~サムライを継ぐ者たち~」製作委員会
■Profile
坂田栄治
1975年4月3日生まれ、埼玉県出身。
東京農業大学卒業後、TBSへ入社し制作部へ配属。総合演出として手掛けた「ズバリ言うわよ!」をヒット番組へ導く。その後編成部へ異動し「マツコの知らない世界」を立ち上げる。再び、制作部へ戻り、総合演出として同番組を担当。2020年現在は制作を離れ、メディアビジネス局メディア事業部勤務。