OKWAVE Stars Vol.966は映画『水上のフライト』(2020年11月13日公開)兼重淳監督へのインタビューをお送りします。
Q 本企画に携わる経緯をお聞かせください。
A兼重淳この映画の制作会社のC&Iエンタテインメントさんでは何本か助監督をしていて、その後の僕の監督作をプロデューサーの方々が観ていてくれました。今回、TSUTAYA発の映像クリエイターと作品企画の発掘プログラムTSUTAYA CREATORS’ PROGRAMに応募された脚本家の土橋章宏さんの作品が映像化されることになって、監督のオファーをいただきました。土橋さんの台本を読ませていただいて、「障害は個性だ」というテーマがいいなと思ってお引き受けしました。
Q パラカヌーを題材にした本作ですが、どんなところを大事にしようと思いましたか。
A兼重淳もちろんスポーツシーンもありますが、この作品はいわゆるスポ根ものとは違った切り口で、普遍的な家族の物語が扱われていますので、人間関係を大事に描きました。この作品は障害者の話かもしれませんが、そこを掘り下げすぎるのではなく、かといって綺麗事を並べているものでもなく、日常を描いたものです。一般の方々が観て「障害は個性だ」というテーマに共感してもらえるように、台本にも手を加えさせていただきました。土橋さんの脚本は力強いのですが、演出を一歩間違えると二次元的な表現になってしまいそうなところはより生身の人間の話に寄せて、題材としてもコメディ的な要素は強弱をつけさせてもらいました。
Q キャスティングについてお聞かせください。
A兼重淳監督としてこれまでにご一緒したことがあるのは杉野遥亮さんだけで、助監督時代に小澤征悦さん、大塚寧々さん、高月彩良さんとご一緒したことがあります。僕はいつもこの方がいいなと思った人にキャラクターを少し合わせて台本も書き換えています。皆さん良くてすごくハマったなと思います。
中条あやみさんに主演してもらう決め手は彼女の持つ健全性のようなものが遥役に合っていると思ったからです。事前に出演されている作品をすべて観て、見たことのない彼女の表情を撮ろうと思いました。
Q 中条さんにはどんな演出をされましたか。
A兼重淳はじめて会った時に「台本を読んで何か質問はありますか」と聞いたら、「強い女性でいいんですね」と言われました。それで僕は、「強さにもいろいろあるけれど、彼女は自分が弱いことを知っているから努力をしている強い女性です。物語の後半に向かって本当の強さになっていく女性にしましょう」という話をしました。撮影に入ってからは、表情や口調といった演出ではなく、シーンごとに遥がどんな気持ちなのかを伝えて演じてもらいました。後半に向かって気持ちをつないで、本当の強さを知って、周りの人に支えられていることに気づいている、強くなるための強さを知っている女性を演じてもらいました。
Q カヌーのシーンは順調に撮影できたのでしょうか。
A兼重淳中条さんには撮影前には1ヶ月ほど練習してもらっていました。カヌー教室の子どもたちが乗っているカヌーであれば30分ほどでコツが掴めますが、中条さんが乗る競技用カヌーは一般の方は簡単には乗りこなせないんです。それこそ体育大学の学生さんでも1ヶ月かかると言われています。ですので、中条さんの競技用カヌーのシーンは無理かなと思っていました。それを乗りこなしてくれたので、そのまま撮影できて、ワンカットも合成やCGを使っていないんです。
Q 遥を支える母親役の大塚寧々さんにはどのようなところを期待しましたか。
A兼重淳大塚さんがどのようなアプローチで演じる女優かは助監督時代から知っているので分かっていました。大塚さんの出演シーンは撮影の前半にまとめて撮っているんです。撮影の前半というものはまだまだ手探りなものですが、大塚さんは役柄のことはもちろん、中条さんとの関係性も大事にしてくれて、じっくり話し合いながら撮ることができました。食卓での遥とのギスギスした関係性の前半と、それが氷解して分かり合えるようになった後半をまとめて撮っていたりしますが、非常に良いシーンになっていて僕自身とても気に入っています。
Q カヌー教室の子どもたちやコーチ役の小澤征悦さんについてはいかがでしたか。
A兼重淳カヌー教室のシーン全般や合宿に行くシーンなど、小澤さんが子どもたちを引っ張ってくれて非常に良かったです。子どもたちはオーディションで選んでいますが、ひとりひとりの個性を大切にして、あまり指示を出さないようにしました。是枝裕和監督のもとで助監督をしていた時期に学んだ、子どもたちには口伝えでシーンの説明をして、子どもたち自身に考えさせて動いてもらうという撮り方にしました。合宿の宿舎で枕投げをしている男の子たちや女の子たちの女子トークもそうです。中条さんと小澤さんの会話にもちょうどいいところで合いの手を入れてくれましたので、それぞれがキャラクターを演じてくれて楽しかったし、頼もしかったですね。
Q この映画に携わって新しい発見などはありましたか。
A兼重淳車椅子に乗っていると目線が低くなるので、僕らが普段歩いている時とは違うんだということや、段差や坂道の大変さ、トイレなどの身の回りのことなど、バリアフリーという言葉は広まってきていますが、実態はまだまだなんだと感じました。
Q 兼重淳監督からOKWAVEユーザーにメッセージ!
A兼重淳出演している俳優が皆素晴らしいので、楽しんで観ていただきたいです。もともとは東京五輪を控えた6月に公開する予定でしたが、内容は時節に合わせたものではなく、普遍的な作品です。セリフの中にたくさん「ありがとう」という言葉を入れました。コロナ禍になった今だからこそ、「ありがとう」と感じられたり、言えたりするということも感じ取っていただけたらと思います。
Q兼重淳監督からOKWAVEユーザーに質問!
兼重淳コロナ禍が続いていますが、映画館は安全対策を取っていますので、ぜひ映画館で映画を観ていただきたいと思っています。この映画は映画館の大きなスクリーンで観て楽しめるように計算して作っています。皆さんは今スクリーンで観たい映画はどんなものでしょうか。
■Information
『水上のフライト』
自分の実力に絶対の自信を持つ遥は、走り高跳びで世界を目指し、有望スポーツ選手として活躍していた。だがある日、不慮の事故に合い、命は助かったものの二度と歩くことができなくなってしまう。将来の夢を絶たれた遥は、心を閉ざし自暴自棄になるが、周囲の人々に支えられパラカヌーという新たな夢を見つける。
きらめく水面を背景に、母の愛、淡い恋心、恩師との約束・・・そして、大切な人の想いを乗せて、どん底から道を切り開いていく。
中条あやみ 杉野遥亮 高月彩良 冨手麻妙/大塚寧々/小澤征悦
監督:兼重淳
脚本:土橋章宏・兼重淳
配給:KADOKAWA
©2020 映画「水上のフライト」製作委員会
■Profile
兼重淳
1967年生まれ。
助監督として、犬童一心監督『眉山-びざん-』(07)、『ゼロの焦点』(09)、橋口亮輔監督『ハッシュ!』(01)、『ぐるりのこと。』(08)、是枝裕和監督『歩いても歩いても』(08)、『奇跡』(11)、『そして父になる』(13)、『海街diary』(15)、『海よりもまだ深く』(16)などに参加。07年、『ちーちゃんは悠久の向こう』で映画監督デビュー。その他の監督作品は、『男たちの詩(スパゲッティーナポリタン)』(08)、『腐女子彼女。』(09)、大ヒット作『キセキ -あの日のソビト-』(17)、『461個のおべんとう』(20)がある。