OKWAVE Stars Vol.979は映画『痛くない死に方』(2021年2月20日公開)に出演の奥田瑛二さんへのインタビューをお送りします。
Q 在宅医療を題材とした本作についてどう感じましたか。
A奥田瑛二高橋伴明監督はマブダチですからオファーを断る理由はないし、台本を読む前から“伴明組”として出演を快諾して、台本が手元に来るのを待っていました。いざ台本が届いて、主役は柄本佑か、ではどんな物語だと、読み込んでいくにつれて「なるほど」が続いていきました。伴明組で主演した『赤い玉、』が熟年層の男の性と生の話だったので、それを経て今回は終活とも言える作品なので、自分自身、これからどうなっていくのだろうと浸透するように入っていきました。監督の意図していることもよく分かるし、死生観も込められていると思います。それを俯瞰で撮りながら、主人公にスポットを当てていく作品の中で、自分の演じる長野医師もまた重要な立場ですし、クランクインが近づくにつれ責任感も増していき、自分の世代の意思も踏まえながら、真摯に立ち向かいました。
Q 演じた長野医師は原作者の長尾和宏さんをモデルにした役柄とのことですね。
A奥田瑛二衣装合わせの時に、監督から「この医者はジーパンでいいからな」と言われました。その日に長尾先生が来られて「結構、二枚目じゃないか」というのが第一印象でした。「だから俺僕か」と嬉しくもなりました(笑)。
その後には柄本佑と一緒に東京の在宅医の方に医療指導もしていただいて、いろいろとお聞きしました。
ただ、実際の先生がどういう性格かといったところを追いかけるより、あくまで性格は材料とさせてもらい、この映画の長野役として演じたというところですね。
Q 死に立ち会うシーンを演じていかがでしたか。
A奥田瑛二生きることと死ぬことの間にある、“肉体と魂がさよならをする”ということがすっと入ってきました。僕は70歳を過ぎた今も元気ですが、これまでには放蕩三昧の生活を送ってきたのでいつどうなるかは分かりません。うちの妻の安藤和津さんからは「私は言わなかっただけだけど、あなたがそう感じるなら、これからは私の言うことを聞いて生活してください」と言われました(笑)。撮影から1年経った今では、妻の言うことを少しずつ素直に聞けるようになっています。酒の量も段々と減ってきて、いろいろ言われるうるささも日常になりました。そこにコロナ禍の第一波が加わった時、の落ち込んだ精神状態から回復できたのも、その日常とこの撮影を経験したおかげだと思います。年齢に関係なく強く生きるということについて、この映画からも、コロナ禍からもプレゼントしてもらったのかなと思います。
Q 撮影の現場の様子をお聞かせください。
A奥田瑛二現場は淡々とスピーディーに進んでいきました。気心が知れていますし、いい役者が揃っていますから、監督があれこれ注文を出すシーンもなかったですし、それだけみんなが真摯に立ち向かった映画だと思います。
僕のセリフで「生きることは食べること」という大事なシーンがありますが、その直前までいろいろ喋ってそのセリフに至る時に何度かNGを出してしまいました。その話を妻にすると「私は20年前からそのセリフと同じことをさんざん言っていたのよ」と。当時、妻はお義母さんの介護をしていたので、確かにそんなことを言っていたなとリンクしました。「口に入れば咀嚼できなくても生きている」とも長尾先生から伺っていましたが、管を通して栄養を摂ることとは別に、食べたいという欲求もまた、生きることですし、人としてまだまだ行くぞという意思だとも思いました。
Q 完成した映画をご覧になってどう感じましたか。
A奥田瑛二俳優というものは自分の役を追いかけてしまいがちですが、この映画ではそれがなくて、患者役の登場人物たちに引き込まれていって、それがあって僕や柄本佑の演じた医者がいると感じました。映画に携わった僕自身がそういう気持ちになれたので、ご覧になった方にはより染み込んでいく映画になるだろうなと思いました。とくに患者役の宇崎竜童さんは圧巻で羨ましい!宇崎さんというとリーゼントのイメージですが、白髪ですし、患者としてただそこにいるという芝居に驚かされもしました。
Q 奥田瑛二さんからOKWAVEユーザーにメッセージ!
A奥田瑛二この映画は、人生の最後を病院ではなく自宅で生きる患者さんと、それに向き合う医師達を描いた作品です。
この映画をご覧いただいて、宇崎竜童さん演じる終末期を前向きに生きる患者さんのように、若い世代の方には自分はこれからこう生きていきたいという考えを見つけてほしいです。
いろいろな経験を経た世代の方は、既に自分の生き方を見つけているかもしれませんが、今生きているこの瞬間、瞬間を大切に感じながら、未来に繋いでいただけたらいいなと思います。
■Information
『痛くない死に方』
2021年2月20日(土)よりシネスイッチ銀座ほか全国順次公開
在宅医療に従事する河田仁は、日々仕事に追われる毎日で、家庭崩壊の危機に陥っている。そんな時、末期の肺がん患者である大貫敏夫に出会う。敏夫の娘の智美の意向で痛みを伴いながらも延命治療を続ける入院ではなく“痛くない在宅医”を選択したとのこと。しかし、河田は電話での対応に終始してしまい、結局、敏夫は苦しみ続けてそのまま死んでしまう。「痛くない在宅医」を選んだはずなのに、結局「痛い在宅医」になってしまった。それなら病院にいさせた方が良かったのか、病院から自宅に連れ戻した自分が殺したことになるのかと、智美は河田を前に自分を責める。在宅医の先輩である長野浩平に相談すると、病院からのカルテでなく本人を見て、肺がんよりも肺気腫を疑い処置すべきだったと指摘される河田。結局、自分の最終的な診断ミスにより、敏夫は不本意にも苦しみ続け息絶えるしかなかったのかと、河田は悔恨の念に苛まれる。
長野の元で在宅医としての治療現場を見学させてもらい、在宅医としてあるべき姿を模索することにする河田。大病院の専門医と在宅医の決定的な違いは何か、長野から学んでいく。
2年後、河田は、末期の肝臓がん患者である本多彰を担当することになる。以前とは全く違う患者との向き合い方をする河田。ジョークと川柳が好きで、末期がんの患者とは思えないほど明るい本多と、同じくいつも明るい本多の妻・しぐれと共に、果たして、「痛くない死に方」は実践できるのか。
出演: 柄本佑 坂井真紀 余貴美子 大谷直子 宇崎竜童 奥田瑛二
監督・脚本: 高橋伴明
原作・医療監修: 長尾和宏
配給・宣伝: 渋谷プロダクション
公式サイト: http://itakunaishinikata.com/
(c)「痛くない死に方」製作委員会
■Profile
奥田瑛二
1950年3月18日生まれ、愛知県出身。
1979年『もっとしなやかに もっとしたたかに』(藤田敏八監督)で映画主演デビュー。
その後も、『海と毒薬』(熊井啓監督)、『千利休 本覺坊遺文』(熊井啓監督)、『棒の哀しみ』(神代辰巳監督)、『皆月』(望月六郎監督)などに出演。数々の賞を受賞する。
2001年からは映画監督としても活躍。これまでに『少女』『長い散歩』『今日子と修一の場合』など5作品を世に送り出している。
高橋伴明監督とは『赤い玉、』(15)以来三度目となる。
http://zeropictures.co.jp/profile_okuda/index.html