OKWAVE Stars Vol.982は『漂流ポスト』(全国順次公開中)清水健斗監督と実在する漂流ポスト管理人の赤川勇治さんへのインタビューをお送りします。
Q 3.11当時のことをお聞かせください。
A赤川勇治10年前の3.11当日はまさに陸前高田市内のこの漂流ポストが設置されているところにいました。水沢(現・奥州市)に27歳の時に移り住みましたが、理想の田舎暮らしとは違ったので、改めていい場所を探そうと思って見つけたのがこの場所でした。30年ほど前に山を譲っていただいて、20数年前には今の「ガーデンカフェ森の小舎」の建物は建てていました。それで老後はここで過ごそうと震災の2年前からまずは自分ひとりで通っていました。その時に震災に遭いましたが、高台だったので津波被害はありませんでした。
清水健斗僕はCM製作の仕事で4月に岩手県内で撮る予定でロケハンや現地での調整などをしていました。3月12日にも現地入りするはずだったんです。岩手で撮るはずだったCMは最終的に広島で撮影をしたので、その仕事を終えたGW明けに震災ボランティアとして現地に行きました。町の様子はTVなどで見ていましたが、現地について電線の上にいろいろなものが引っかかっているのを見て、こんなところにまで津波が押し寄せたのかと衝撃を受けました。
Q 映画を作ろうと決めた経緯をお聞かせください。
A清水健斗震災から数年経ってTVで震災を扱うことが少なくなってきて風化しているなと感じました。また、自分も震災直後には水や電気を大事にしようとしていたのが段々と元の生活に戻っていました。被災地を見て現地の皆さんといろいろ話して学んだ自分でさえもそうなっているということは、ボランティアを経験していない人にはもっと他人事なんだろうなと思いました。それで映像の作り手として映像で表現したいと思いました。2013年に長編映画『瞬間少女』を撮っていて、その映画にも3.11に関する思いを含んでいましたが、震災のことを伝える覚悟まではできていませんでした。
それで題材を探している時にTVで漂流ポストのことが紹介されているのを見て、漂流ポストを題材にすれば、風化の問題を伝えることや被災者目線のストーリーであることなど、僕がやりたい物語を作ることができると思って、赤川さんに電話をして説明しに行きました。
赤川勇治そういった提案は皆さんが思っているよりもあるんです。けれども100%お応えできるわけではありません。やはり一番大切なのは人柄です。清水さんから電話をいただいて「近いうちに説明しに伺います」と言われて、実際に会った時の第一印象が何よりでした。清水さんは夜行バスで駆けつけてきてくれたんです。そう言われた時に普通の人とは違うなと感じましたし、誠意や意気込みも伝わってきました。陸前高田市役所に着く夜行バスの到着に合わせてお迎えに行ったら、思っていた以上にお若い方で、彼の誠意に任せてみようとすぐに決めました。
Q 実在の漂流ポストの、今のかたちになった成り立ちについてお聞かせください。
A赤川勇治漂流ポストが始まったのは震災から4年目の3月です。「ガーデンカフェ森の小舎」は、震災前からお越しになった方たちが一休みできる場所として提供していました。お越しになった方たちが私にいろんな話をしてくれるんです。その話を聞く中で、まだ見つかっていないご家族のことを誰にも話せないと打ち明けられました。被災者の皆さん同士では「あなただけではない」と頭ごなしに言われてしまうから言えない、ということが私の頭の中に強く叩き込まれました。それでみんな心にしまい込んで毎日苦しんで過ごされていたから、私が話を聞いて差し上げていました。ただ、被災地は広範囲におよぶので、ここに来て話せる人だけではないし、皆さん大丈夫だろうかという疑問を持ち始めました。どうすれば皆さんが話す機会を持てるだろうかと考えた結果がこの手紙という手段です。ペンを手にとって手紙を書き始める時には相手の顔が浮かんでくるものです。実はその瞬間が必要なのではないかと思いました。それで、手紙を書いてもらったら漂流ポストで受け取りますよと。それが震災から4年目の3月でした。
Q 映画としてどんなところを大切にしようと思いましたか。
A清水健斗震災ボランティアの経験がありますので、被災された方が観ることのできる映画でなければならないと思いました。震災を描いた作品は「被災者が物語を進める駒のような存在になっている」と被災者の方々から聞くことがありました。ボランティアとして関わった自分がそう思われてしまう作品を作るわけにはいきません。被災者の心に寄り添った作りにしなければならないし、漂流ポストという実際にある場所のものを描くので、そこに来た人の心情を描かなければなりません。赤川さんからお聞きしたリアリティと心情を大事にすることをベースラインとしました。そして震災の前と後を描く上で、震災前はキラキラしたノスタルジーのような日常の美しさを描きました。震災後は色味も暗く、全く変わってしまった日常を映像で表現しました。海の描き方などもそうです。それと主人公をどう描くかに重きを置きました。
Q 実際の漂流ポストを前にした現地での撮影についてお聞かせください。
A清水健斗一泊二日の撮影日程で、1日目は取材日として役者2名が初めて現地に入るのでまずは見てイメージを掴んでもらおうと思いました。ただ、1日では撮りきれないのでワンカットは撮るというつもりで主演の雪中梨世さんには衣装を着てきてもらいました。それで雪中さんに本物の実際に届いた手紙を読みながら役作りをしておいてと伝えて、その間に僕らは撮影の段取りをして、雪中さんが気づかないまま手紙を読んでいるシーンとしての撮影をしました。
赤川勇治別の方が自分役で出てくるのは初めてです。完成した映画を観て妻が「似ている」と感心していました(笑)。とくに「小屋からペンキと捌けを持って出てくるところが似ている」と言っていました。
完成した映画を観てイメージ以上の仕上がりだと感じました。手紙を書かれた方から後に「ここだから手紙を書く気になった」とよく言われます。町中でも浜辺でもない山の中の一軒家ですし、グリーン一色の山の中に赤いポストが映る映像は素晴らしいなと思いました。
清水健斗やはり特殊な場所だと思います。町中から遠く離れて、ポストがポツンと立っていて、一人になれる小屋が併設されているので、雑音が入ってこないんです。手紙は自分と向き合う時間だと思いますので、そういう環境づくりは大切だし素敵な場所だと感じました。
Q 2021年現在の被災地の様子はいかがでしょう。
A赤川勇治ハード面の復旧は終盤に差し掛かっています。ただ、陸前高田では高台造成が予定よりも遅れてしまったため、町中にも空き地が目立っています。待ちきれなくて内陸に移られてしまった方の土地は空き地のままで寂しい感じもします。ソフト面は10年では終われないと思っています。元気になった方からも「赤川さん、まだまだだよ」とこの漂流ポストの活動について背中を押されますし、まさにその言葉通りだと思います。終点が見えない道路を自分自身で歩いている気持ちでいますが、寄り添って差し上げるのが漂流ポストの役目なのだと思っています。
ただ、被災者の方とお話する時には「人を頼ったら立ち上がれませんよ、自ら一歩踏み出すことを考えてくださいね」ともよく言っています。そのきっかけのひとつとしてお手紙を書いてみたらどうですか、と勧めているんです。
清水健斗震災による大きな被害がありましたが、その直後は、誰かのために寄り添ったり、何かをしようという機運が高まって、人間のサイクルとしてはいい時代だったと思うんです。この漂流ポストも、手段としてはアナログな方法である手紙を通じて自分の心と向き合う機会になっています。震災が起きた時に芽生えた心の動きを思い出すことが大事だと最近改めて感じます。
Q 清水健斗監督、赤川勇治さんからOKWAVEユーザーにメッセージ!
A清水健斗いちばん大事なのは被災しなかった方が忘れないことだと思います。それが風化防止につながります。震災という事実もそうですし、震災が起きた時の心の動きの面についてもです。3.11の前後だけでもいいので、その時のことを思い出していただければ、風化防止につながると思います。ぜひ感じとっていただき、この作品がその手助けになればと思います。
赤川勇治この映画の一番は映像の美しさです。そして漂流ポストというものを通じて、被災者の心の悩みについて考えるきっかけになればと思います。
Q清水健斗監督、赤川勇治さんからOKWAVEユーザーに質問!
清水健斗自分の中でいちばん大切な人として浮かんだのは誰ですか。
赤川勇治被災地で大切な人を失ってしまった人のことに思いを馳せてみたことはありますか。時と共に忘れてしまいがちなので聞いてみたいです。
■Information
『漂流ポスト』
2021年3月5日(金)よりアップリンク渋谷ほかにてロードショー中
東日本大震災で親友の恭子を亡くした園美は、心のどこかで死を受け入れられず日々を過ごしていた。
ある日、学生時代に恭子と埋めたタイムカプセルが見つかる。
中には『将来のお互い』に宛てた手紙が入っていた…。蘇る美しい思い出と罪悪感。
過去と向き合う中、震災で亡くなった大切な人へ届けたい言葉・伝えることができなかった想いを綴った手紙が届く【漂流ポスト】の存在を知った園美は、心の復興を遂げることができるのか・・・
雪中梨世 神岡実希 中尾百合音
藤公太 永倉大輔
監督・脚本・編集・プロデュース: 清水健斗
撮影監督: 辻健司
撮影協力:赤川勇治・漂流ポスト3.11
配給:アルミード
公式サイト: https://www.hyouryupost-driftingpost.com/
公式ツイッター: hyouryupost
公式Facebook: hyouryupost.film
(c) Kento Shimizu