OKStars Vol.500は映画『シネマの天使』(2015年11月7日公開)の時川英之監督へのインタビューを送りします。また、完成披露試写会の模様もご紹介!
Q 「シネフク大黒座」の閉館が決まってから非常に短い期間で企画から撮影、完成に至っていますが、そのような中でどのように映画化を進めましたか。
A時川英之できるだけリアルなものにしたいと思いましたが、実録のようなシリアスなものにするのも違うなと思っていました。大黒座の閉館はとても寂しいことですけれど、その中に様々な人のドラマが見えて、その中には若い人もいて、希望がつながっていくような形にしたいと思いました。働いているスタッフの方たちや、福山市の誰もが行ったことのある場所なので街の皆さんに話を聞いて、実話をベースに組み立てながらファンタジー要素を入れました。ファンタジーにすることでリアルな要素がより浮き上がる形になるだろうと思いました。
脚本を書きながらも本当に実現するのだろうかとは思いました。キャスティングも通常なら1年先の話をしますので。7月に脚本を書きながら9月の撮影のキャスティングを同時にしましたが、普通ならありえない状況です。でも諦めてしまったらダメだし、大黒座以外のロケーションで大黒座のように撮ることも考えましたが、そこで嘘をついてもダメだと思いましたので、どうしても大黒座の中で撮るために無理をして、短い時間の中で製作をしました。
Q その中で広島に縁のあるキャスティングが成立しました。
A時川英之僕自身、広島の出身で、最近は広島にまた住むようになりましたが、広島の作品だし、実話に根付いているので、地元に根づいたキャスティングにもしたかったので、いろんな広島の方に参加していただきました。
Q 藤原令子さんと本郷奏多さんが演じた若い主人公ふたりについてはいかだだったでしょうか。
A時川英之本郷さんとは、岩井俊二さんプロデュースのTVドラマ「なぞの転校生」のオープニング映像を僕が作った経緯で、そのオープニングでは本郷さんは泥だらけになるだけなんですが(笑)、表現能力がすごいなと思って、また仕事したいと思っていたので今回お願いしました。ちなみにそのオープニングの撮影はドラマ本編の撮影がない日の朝からずっと泥だらけの撮影を7時間くらいやっていたのですごく大変だったと思います(笑)。
本郷さんの演じるアキラが映画館で映画を観て育ったお客さんの代表という立場なのに対し、藤原さんが演じた明日香は映画は好きだけど映画館の魅力を知らない今時の若い子が映画館の本当の魅力に気づいていくという役柄です。今の若い子はDVDやネット配信で映画を観て映画館の魅力を知らない方が多いので、映画館の良さを彼女を通して伝えたいと思いました。初々しい役だし、映画初主演の人がいいと思って、その条件にあった人を探しました。藤原さんは見た目が僕のイメージしていた明日香にピッタリだったのと、自然な演技が貴重だと思ってお願いしました。画面には初々しさが出ていて、役に正直に向かってもらえたのですごく良かったです。
Q 撮影はどのように進められたのでしょう。
A時川英之朝から夜中までずっと撮っていました。キャストもですが特にスタッフは本当に疲弊したと思います。スタッフは東京と広島から集まりましたが、撮影中は夜にみんなで飲みに行くなんてこともなくずっと仕事をしていました。撮影の最後の日には大黒座にショベルカーが入っていよいよ取り壊しになるので、最後までずっと撮っていました。
Q ミッキー・カーチスさんの演じる謎の老人の部屋の仕掛けが素晴らしかったです。
A時川英之あの部屋は大黒座でずっと使われていなかった部屋を利用しました。その部屋には映画のポスターやチラシが山積みになっていたので、それをうまく老人の設定に活かして、その部屋をずっと映画館を見守っていた老人のシンボルのようにしようと思いました。僕と同じ広島出身で、僕がお姉さんのように慕っている有名な美術監督の部谷京子さんが協力してくださって、大黒座のスタッフさんとその部屋を作ってくれました。僕が思っていた倍の規模で本当に素晴らしい場所ができました。映画のクライマックスのシーンなのでぜひ観ていただければと思います。
Q アキラは映画監督になりたい、と思っているキャラクターですが、彼の役柄に込めたのは?
A時川英之映画好きの若者の代表ということと、皆さん一度は映画監督になりたいと思ったことはあると思います。アキラはどうやったら映画監督になれるのか分からずに過ごしていたのを、大黒座の閉館ということを受けて、彼が一歩踏み出す、ということを描こうと思いました。映画を好きな人たちが大黒座が閉館することで夢を諦めてしまうのではなく、映画の力を借りて何かを未来につないでいく形にしたいと思いました。
Q 監督自身は映画館という場をどう捉えていますか。
A時川英之エンドクレジットに出てくる呉シネマという映画館は僕の叔母が働いていたところで、僕は小さい頃からよく行っていて、映画館で働くのは楽しそうだと子ども心に感じていました。子どもから大人へと成長する過程で、映画館で経験させてもらったことはたくさんあります。映画監督ということもそうですけど、人間として学ぶことがたくさんある特別な場所でした。その特別さはみんな何となく感じているだろうけど、忘れてもいる気がするので、それを今回思い出してほしいなと思いました。昔の人は映画館の外に何時間も並んだとか、1日3本観たとか、そんな話をたくさん聞きますが、そういう時代があったということもです。映画館で映画を観るインパクトの強さは、今の時代だからこそ再発見してほしいですね。映画館で例えば『ランボー』を観れば、映画を観終わった後はみんなランボーになった感覚があると思うんですよね。映画を観て人生が変わったと思うことがいろんなレベルであるとも思います。それがDVDだとランボーにならないし人生も変わらないと思うんです。その差はまさに0か1ですごく大きいと思います。映画監督を始めてから気づいたことですけど、映画館によってちょっとずつ見え方も違うんですよね。それぞれに雰囲気がありますし、個性的ですよね。
Q 時川監督からOKWAVEユーザーにメッセージをお願いします。
A時川英之映画を観る方法がいろいろある時代だからこそ映画館で観る映画の力というものを再確認してください。映画館の魅力を知ってもらいたいですし、映画館の想い出をこの映画を観て何かしらリンクしてもらえればと思います。そして大黒座という映画館があったことを覚えていてくれると嬉しいです。こういうのがあったね、というノスタルジーだけではなく、時代が変わる時にはいろいろなものが無くなっていくのは仕方がないことですが、それを見つめることで、何が本当に大事なのか、何が大切にされていたのかがよく分かると思います。そういうものをつないでいかないとただ無くなっていってしまいます。映画館もそのひとつで、映画館が無くなることは建物が一個消えるのではなく、その街の文化がひとつ消えるくらい衝撃的なことです。2016年1月には渋谷のシネマライズも閉館してしまいますが、そういうところを見つめてほしいなと思います。
■Information
『シネマの天使』
老舗映画館の大黒座が閉館することになった。
そこで働き始めたばかりの新入社員 明日香は、ある夜、館内で謎の老人に出会うが、彼は奇妙な言葉を残し、忽然と消えてしまう。
バーテンダーのアキラは、いつか自分の映画を作りたいと夢見ている。大黒座の女性支配人は、閉館への反対を押し切って気丈に振る舞っていた。泣いても笑っても、もうすぐ、大黒座はなくなってしまう…。
劇場の壁という壁が、町の人々が書いたメッセージで埋まっていく。そしてついに閉館の日。スクリーンに最後の映画が映し出されると、明日香の前に、あの謎の老人が再び現れ…。長い歳月の間、人々に愛されてきた映画館が、最後にくれたサプライズとは…。
脚本・監督:時川英之
出演:藤原令子 本郷奏多
阿藤快 岡崎二朗 安井順平 及川奈央 小林克也(声の出演)
ミッキー・カーチス 石田えり
配給:東京テアトル
公式サイト:http://cinemaangel.jp/
(C)2015 シネマの天使製作委員会
■Profile
時川英之
1972年生まれ、広島県出身。
ディスカバリーチャンネル、ディズニーで多くのTV番組制作に携わる。2002年に独立し、ドキュメンタリー、映画、TVCMなど幅広いジャンルの映像作品を手がける。
長編第1作の『ラジオの恋』は、広島の小規模な作品ながら、ミニシアターの記録を塗り替え、その後異例の全国公開を達成。本作が長編第2作となる。
今回、「シネフク大黒座」の運営担当者から、大黒座の雄姿を映像に残したいと相談を受け、オリジナルの脚本を執筆し、「映画館の映画」を完成させた。