OKWAVE Stars Vol.527はノルウェー国立バレエ団のプリンシパルとして活躍する西野麻衣子さんへの、出産からの復帰までを描いた映画『Maiko ふたたびの白鳥』(2016年2月20日公開)についてのインタビューをお送りします。
また、ノルウェー大使館で行われた記者会見の模様もご紹介します。
Q 『Maiko ふたたびの白鳥』映画化のお話はどういった経緯だったのでしょう。
A西野麻衣子監督のオセが私に興味を持ってくれて、国立バレエ団のカフェで初めて会って、彼女から映画のお話をいただきました。バレエの世界は舞台で美しいものを見せるので、その裏の話をすることや、私の過去のことを映画にするということで、はじめはすごく迷いました。でも主人も両親も応援すると言ってくれたのでやることにしました。でも完成まで4年かかるとは思っていなかったです(笑)。はじめは2年の予定だったので、その2年目の時に私が妊娠して、そこからの話も含めて4年かかりました。
Q 妊娠・出産は映画としても想定外だったのですね。
A西野麻衣子そうです。私は当時30歳だったのでオセからも「将来お母さんになりたいの?」という質問はありました。その時は私のキャリアの一番いい時だったので、「今はまだ」と答えていました。それが2年間の撮影の最後になって妊娠したので、「キャリアだけの麻衣子ではなくて、母になる麻衣子も追いたい」と言われて、私もそうしてほしいと思いました。だから最初の趣旨とは違うものになりました。最初は当時の私のバレエのパートナーが引退するところで終わる予定でした。それが妊娠したことで、私と母とのつながりも描きたいと言われて、母も出演することになりました(笑)。
Q そのお母さんとはどのくらいの頻度でお話されるのでしょう。
A西野麻衣子週に1回ですね。母と性格は似ているので話をしなくてもわかりあえています。留学していた時代はインターネットがなかったし、電話代も高かったので、今はどこにいてもスカイプで家族とコンタクトできるのですごく幸せな時代だと思います。
Q 妊娠中は、バレエのトップにいるということについてはどのように感じていたのでしょう。
A西野麻衣子妊娠中もレッスンをしていたので、ソリストのダンサーたちともレッスンしていました。自分の身体がどんどん変わっていくので不安はありました。この体型が出産後に元に戻るのかとか、ママになって気持ちが変わらないかなど、心配もありました。でもアイリフが生まれて、今までよりも上になりたいという気持ちが強くなりました。それで出産から1ヶ月後にはトレーニングも再開しました。アイリフを抱いて家に帰ってきた時に、彼のために何かを残したい、という気持ちが強くなったからです。彼の自慢のママでいたいなと思いました。ダンサーとしてだけではなくママとしても輝いていたいなと。中途半端なのが大嫌いなので、決めたなら150%やろうと思って、復帰作には「白鳥の湖」を選びました。
妊娠中も体調が良かったので、出産2日前までバレエをしていました(笑)。レオタードはパンパンでしたけど、妊娠していてもずっとバレエを続けたかったし、体力も気分も良かったので続けられました。とはいえ、医師やトレーナーなどみんなに支えられたからです。監督も含め、すごくサポートがありました。国立バレエ団にはバレエ専門のドクターがいるので彼にサポートしてもらいました。産婦人科のお医者さんは「とんでもない!」と言っていました。
Q ちなみに麻衣子さん以外にも妊娠中や出産されても続けているダンサーは多いのでしょうか。
A西野麻衣子何人かいます。私と同じソリストの女性で子どもを産んだ方もいますし、コール・ド・バレエで3人産んで今も踊っている方もいます。3人も子どもがいながら毎日レッスンに通っているその方にもすごく力づけられました。
Q 通常は「白鳥の湖」のレッスンはどの程度かけるものなのでしょう。
A西野麻衣子何度も踊っているので振り付けは覚えていますが、舞台では鳥にならなければならないので、そのために身体をとにかく鍛えなければならないんです。通常は6~8週間くらいかけて完成させます。妊娠と出産を経て、お腹の大きさが変わったことでバランス感覚がおかしくなっていました。なので一番難しい「白鳥の湖」を本当にできるのか不安にはなりました。体力は大丈夫でしたが、バランス感を取り戻すため、いつもよりもスタート地点が低くなっていました。回る演技は最後まで自分の芯を掴むのに時間がかかりました。11年間一緒に踊ってきたリチャードがコーチを務めていて、彼からは「できるできないでダブルとシングルの演技を分けるのではなく、トータルでの演技を見せるんだよ」と言われました。彼は私の性格をよく分かっているので「今回は復帰作なんだからダブルをやることにこだわらずにもっと広く見た方がいい」と言ってくれました。
Q 舞台に立った時はいかがでしたか。
A西野麻衣子会場のお客様も私のことを待っていてくださった方々なので、緊張はありませんでした。映画の中にも舞台袖で衣装を着て待っている姿が映っていますが、その時に私自身は「ここは自分の家だ」と思っていました。
Q バレエ団の皆さんの接し方はいかがだったのでしょう。
A西野麻衣子妊娠5ヶ月まで舞台にも出ていましたので、サポートもすごくしてもらいました。女性のダンサーからは「麻衣子はプロのママではないんだから気をつけて」とは言われました。でも私は自分のハートで何が大丈夫で何がダメか分かっていたので、「私はバレエをするために生きているから」と答えていました。応援と心配と半々でしたけど、20代のダンサーたちからは「勇気をもらった。私にもできるかも」と言われました。オセも子どもを作るかどうか何年も迷っていたそうですけど、私を見て勇気づけられたと話していて、数カ月後に妊娠したことを打ち明けられました。
Q 夫のニコライさんも協力的だったそうですが、ノルウェーの男性についてお聞かせください。
A西野麻衣子ノルウェーは男女平等な国なので、男性が家事をすることも多いです。ニコライのお母さんがオペラ歌手なので、芸術家に育てられているし、同じオペラハウスで働いているので、何も言わなくても理解してくれます。主人に限らず、ノルウェーの男性は皆優しいですね。
Q 出産から体型を戻すどんな努力をされたのでしょう。
A西野麻衣子よく聞かれますが、何もしなかったんです(笑)。4週間で元に戻りました。出産2日前までレッスンをして、腕や脚の筋肉が落ちていなかったので、それもあるのかなとは思います。それと、ポジティブに過ごすことですね。人間が生きていく上でそれはとても大切なことなので、朝起きてシャワーを浴びたら絶対に鏡を見て笑う、ということを続けています。コーチからも「心がきれいじゃない人は踊っていてもすぐ分かるよ」と言われていますので、そういうポジティブさとアクティブさには助けられていると思います。私は食べることも大好きなので、トレーニングを朝から晩までしているということもありますけど、ダイエットしたことはないです。こういう身体に産んでもらった両親には感謝していますね(笑)。
Q 15歳の時に留学をされましたが、ご両親が自宅を売却して資金を用意されたり、その重みのようなものを当時はどう感じていたのでしょう。
A西野麻衣子お金のことだけではなく、妹や弟、祖父母も家にいたので、絶対に失敗は許されないと自分に言い聞かせていました。15歳という年齢は少女から大人になる複雑な時期だったし、そういう自分の気持ちを留学先でできた友だちに言葉の問題もあってうまく伝えられないもどかしさや悲しさがあってホームシックにもなってしまいました。
Q 西野麻衣子さんからOKWAVEユーザーにメッセージをお願いします。
A西野麻衣子バレエの映画ですけど、母との関係とか、いろいろな方に支えられた関係も描かれているので、いろんなジャンルで活動している方に観てほしいと思います。また、夢を持って生きてほしいから子どもたちにも観てほしいです。女性の方々にも観てほしいですし、ノルウェーと比較するわけではないですけど、日本の男性の方々にも観ていただきたいです(笑)。ノルウェーは朗らかな国なので、ノルウェーと日本が混ざると、すごくいい国になるんじゃないかなと思います(笑)。
■Information
『Maiko ふたたびの白鳥』
2016年2月20日(土)ヒューマントラストシネマ有楽町、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開
幼い頃に大阪の親元を離れ、ノルウェー唯一のプロバレエ団であるノルウェー国立バレエ団のプリンシパルとなった西野麻衣子さんが、子供を産んだ後復帰し、同バレエ団でのプリマデビュー作であった「白鳥の湖」の主役を再び踊りきるまでを追ったドキュメンタリー。ヨーロッパの一流バレエ団のトップで活躍している日本人女性の日常と美しい舞台を映像におさめただけでなく、働く女性の多くが直面するであろう、キャリアと出産・子育ての両立という普遍的なテーマを孕んでいる。また、妻を支えるノルウェー人の夫ニコライ、大阪に暮らすパワフルな母・衣津栄さんとの関係も印象的に描かれている。
監督:オセ・スベンハイム・ドリブネス
出演:西野麻衣子
配給:ハピネット/ミモザフィルムズ
公式サイトhttp://www.maiko-movie.com/
■Prifile
西野麻衣子
大阪生まれ。
6歳からバレエを始め、15歳の時、名門英国ロイヤルバレエスクールに留学。19歳の時、オーディションに合格してノルウェー国立バレエ団に入団。25歳で東洋人初のプリンシパルに抜擢され、同年ノルウェーで芸術活動に貢献した人に贈られる「ノルウェー評論文化賞」も受賞した。武器は172cmの長身と、長い手足を生かしたダイナミックかつエレガントな踊り。また、私生活ではノルウェー人の夫・ニコライさんと長男・アイリフ君と3人暮らし。オペラハウスで芸術監督をしているニコライさんとは劇場で出会い、結婚した。
http://operaen.no/en/About-DNOB/Norwegian-National-Ballet/Maiko-Nishino/