『Maiko ふたたびの白鳥』来日記者会見レポートをお送りします。
>Vol.527 『Maiko ふたたびの白鳥』西野麻衣子さんインタビュー
■登壇者:西野麻衣子さん、西野衣津栄さん、リーメスタ大使(ノルウェー大使館)、スエムテルード参事官(ノルウェー大使館)
Q ノルウェー王国大使館からのご挨拶をお願いします。
Aリーメスタ大使ノルウェー国立バレエ団のプリンシパルが来日するのは初めてです。麻衣子さんは国立バレエ団にとっても大きな刺激を与えてくれました。映画公開を嬉しく思います。国立バレエ団は1957年に創設されました。劇場はオスローにあり、ノルウェーを代表するような美しい建物です。世界中からダンサーが集まっており、麻衣子さんはその中でも特別な存在です。2015年8月に東京で開催された世界バレエフェスティバルにノルウェー国立バレエ団の男性プリンシパルであるオシール・グネーオさんが招待されました。東京で徐々にノルウェーのバレエが存在感を増してきています。また、同年夏に『バレエボーイズ』という映画も公開されました。バレエ学校に学ぶ3人の少年たちの夢や希望を描いた作品ですが、麻衣子さんは出演している彼らにも実際に指導されました。
『Maiko ふたたびの白鳥』をご覧になって、ノルウェーがどのようにワーク・ライフバランスを実現しているのか、どのようなシステムがそれを可能にしているのかを、そして何よりもパートナーのサポートがどれだけ重要かを見ることができると思います。
Q 映画化について聞いた時のご感想をお聞かせください。
A西野麻衣子日本で公開されることを聞いて、嬉しさと同時に、どういう風に私のことを日本の方は感じるのだろうという不安もありました。ノルウェーのオペラハウスでのプレミア上映はエモーショナルな出来事だったので、日本での公開は両親とお世話になった方々への恩返しとして、素晴らしいギフトになると思います。
西野衣津栄最初はノルウェーのTVで放送される予定が映画化ということだったので、日本で公開されたら嬉しいなと思っていました。公開されたらご近所の方やお世話になった方々に麻衣子のことを知っていただけるのでハッピーだと思いました。それが映画には自分も映っているのでちょっと恥ずかしいです。映画は涙と大阪の笑いで包まれているので、私は大阪のおばちゃんでいいかな(笑)。私のキャラクターが麻衣子を作ってきたので、大阪に帰ってくれば、偉ぶらず、そのままの姿なので、私のDNAが麻衣子に引き継がれているんだと思います。
Q 15歳の若さで娘を海外に送り出した時の気持ちをお聞かせください。
A西野衣津栄麻衣子が小学生の時に舞台で主役を踊った時に「この子はバレエを踊るために生まれてきたんだ」と思いました。それ以来、一流のバレエ公演に連れて行ったり、中学生の時にはスイスのサマースクールに送り出したりもしました。「私は海外で踊りたい」と麻衣子は小さい時から言っていました。私もワークミセスとして働きながら、他の子どもたちもいて日々の忙しさに追われていたことと、麻衣子のことを信頼していましたし、彼女は絶対にひとりでもやっていける子だ、と思っていました。ですので、この子は世界に羽ばたくバレリーナになるという使命感で送り出しました。
Q イギリス留学からノルウェーのバレエ団を選んだきっかけは?
A西野麻衣子ロイヤル・バレエ学校にはノルウェー人の友だちがいました。彼女に北欧のバレエのことや、北欧の国の良いところを聞いていました。ノルウェー国立バレエ団のオーディションを受けた時、ここはクラシックとコンテンポラリーの両方が素晴らしくて心惹かれました。オーディションに合格した時にはただ嬉しいだけではなく、ノルウェーでの暮らしにも興味を惹かれました。
Q バレエダンサーとしてノルウェーでキャリアを築かれて良かった点と大変なところは?
A西野麻衣子クラシックとモダン両方を踊るのは身体に負担がかかります。でも、両方踊ることで、自分の持っているものをいろいろ発見できるのでダンサーとしてプラスになったと思います。バレエ以外の面ではノルウェーは男女平等なので男性がとても優しいです(笑)。それと国がすごく育児をサポートしているので、男性も育休を3ヶ月は取らないといけないのですが、主人は私のキャリアのサポートのために3ヶ月プラス2ヶ月休んでくれました。それがあったからこそ私のカムバックもできたと思います。ノルウェーで大変なのはとても寒い、ということ。とくに1月、2月の寒さは大変です。それと物価が高いです。日本に帰ってくるとしみじみと思いますね。
Q ノルウェー国立バレエ団では外国籍のダンサーの人数の制限などはありますか。
A西野麻衣子制限はないです。ダンサーは世界各国から集まっていますし、オペラハウスには様々な国のオペラ歌手が集まっています。いろんな言葉がオペラハウスでは聴けますし、様々なことをシェアできるので毎日勉強できることがたくさんあります。
Q 出産を経てから復帰をするのは勇気がいる決断だったと思いますが、その時のお気持ちはいかがでしたか。
A西野麻衣子子どもが生まれた後もバレエダンサーとしてもっと成長したいと思っていました。息子ができてから、正直、すごく忙しいです。バレリーナとしての自分のメンテナンスも大変ですが、以前よりももっと充実しています。昔から踊り続けてきた作品も、母としてバレリーナとしてまた違ったように舞台に立てることがとても幸せですし、楽しいです。
Q ノルウェーの女性から麻衣子さんはどう見られている?
Aスエムテルード参事官麻衣子さんはご家族やご主人のサポートもあってキャリアを続けてこられましたが、それはノルウェー人以上にノルウェーらしい家庭像だと思います。夫と妻が家庭の責任を重荷としてではなく恵みとして受け取っていることが一番大きいことかと思います。麻衣子さんがなさった経験から、子どもを産んで、そこから復帰するということはみんなできるということを伝えたいです。これから子どもをどうしようかと思っている若い女性に多くのインスピレーションを与えると思います。とくに麻衣子さんがバレエの世界に通用するトップキャリアとして復帰できたということを伝えたいです。
Q ノルウェーの制度について。2010年に男性の育児休暇が14週から10週に減った理由と、取らない場合のペナルティはありますか?
Aスエムテルード参事官法律の改正は家族の状況に合わせて育児休暇を取ることができるようにした方がいいとの考えです。大事なことは、男性が10週間の育児休暇を取らないと母親に分けることができないということです。そして、もっと大事なことですが、麻衣子さんのご主人のように10週間以上取ることもできるのです。夫婦二人の間で育児休暇を分け合うことができますので、麻衣子さんの夫は5ヶ月の休暇を取ることができました。この父親の育休制度は1990年代に整備されました。なぜ法律を作って導入したかというと男性が父親としての責任をもつことと、いろいろな調査からも分かっていますが、できるだけ早い時期に父親と子どもが一緒にいることでより緊密な父子関係が築けるためです。雇用主がペナルティを負うことはありませんが、9割の男性が育児休暇をとっています。つまり、ノルウェー社会には父親の育児休暇が浸透しているということです。もしノルウェーで育休を取らない父親がいたら、その人に対してネガティブな印象を持たれるくらいになってきています。法律ができて30年の間に父親の育休は取らなければならないものではなく、取りたいものに変化してきていると思います。父親の育休が父親にとってポジティブな影響を与えています。家庭の稼ぎ頭である以上に、父親という役割そのものが大事なものとして考えられているからです。
>Vol.527 『Maiko ふたたびの白鳥』西野麻衣子さんインタビュー
■Information
『Maiko ふたたびの白鳥』
2016年2月20日(土)ヒューマントラストシネマ有楽町、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開
幼い頃に大阪の親元を離れ、ノルウェー唯一のプロバレエ団であるノルウェー国立バレエ団のプリンシパルとなった西野麻衣子さんが、子供を産んだ後復帰し、同バレエ団でのプリマデビュー作であった「白鳥の湖」の主役を再び踊りきるまでを追ったドキュメンタリー。ヨーロッパの一流バレエ団のトップで活躍している日本人女性の日常と美しい舞台を映像におさめただけでなく、働く女性の多くが直面するであろう、キャリアと出産・子育ての両立という普遍的なテーマを孕んでいる。また、妻を支えるノルウェー人の夫ニコライ、大阪に暮らすパワフルな母・衣津栄さんとの関係も印象的に描かれている。
監督:オセ・スベンハイム・ドリブネス
出演:西野麻衣子
配給:ハピネット/ミモザフィルムズ
公式サイトhttp://www.maiko-movie.com/